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押しかけ謝罪
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私達はブラージェル領に戻って来た。
セイラはそのまま王都に残りアルミュア邸から学園に通うことになった。
もしかしたら寮暮らしの方が気が楽なのではないかと思ったけど、お父様が“セイラをアルミュア邸から通わせるのは利点があるからだ”とクリス様に説明をした。
『今のセイラは下からも上からも興味を引いてしまう。興味というものはどちらにも転がるものだ。
羨望と嫉妬。嫉妬はトラブルを呼ぶだろう。羨望も空回りすれば毒になる。
うちから通わせることで害をもたらそうとする者は格段に減るだろう。急に湧く魅力の無い縁談もこちらで処理できる。
寮に入れば手紙頼りだ。うちから通えばメイド達が異変をキャッチできる可能性がでてくる。特に身体的なことはな』
確かに今のセイラは中途半端だ。
ゆとりのない子爵家の令嬢で、アルミュア家が関わらなければ立場は弱い。
ひとまず、成人の儀で教育されたレディに装うことはできたけどメッキと言ってもいい。短期間なのだから当然だ。教えていないことが山のようにある。
成人の儀だから歩く 挨拶をする 踊るだけで済んだ。ダンスもまだまだ未熟でドレスという魔法で誤魔化しただけ。普通のパーティや茶会、晩餐会となっては簡単にメッキは剥がれてしまう。
その状態の羨望も嫉妬も厄介だ。セイラ独りでは防御ができない。それが知られたら受ける攻撃は増えてしまう。
それにアルミュア邸から通わせるということは、一時的にアルミュア公爵がセイラの後見人となることを意味している。つまり、縁談を申し込みたいときは後見人に許可を得ないとならない。後見人と実父という二つのハードルができたことになる。
元妻が嘘を認めブラージェル家は噂から解放された。
そしてアルミュア公爵家と縁戚ということの他に、夫人となった私が鉱山を4つも所有していることは大きい。女系が受け継ぐもので、お祖母様が所有していたものは4つ。うち3つは国外で私が相続した。残るは国内の1つはお母様が相続していたが、ブラージェルに嫁ぐ際にお母様から相続した。
大抵の人は、私が1つだけ鉱山を受け継いだと思っている。既に婚姻したから言い寄らないけど、私が誰に継がせるのか興味津々だろう。今までは王子の婚約者だったから興味を持たなかったが、お金をかけて調査させれば国外に3つ持っていることがバレる。
援助が欲しい家門や、アルミュアと繋がりたかったが叶うことがなかった家門はセイラに目を付けるだろう。
国外の鉱山はご先祖様が融資をした後に担保にした鉱山を回収したものだ。
伝え聞いた話によると、廃鉱としようとしていた鉱山や未開に近い土地を担保にさせていた。当時の王家も価値はないと判断して、その契約を承認してしまった。転売は出来ないが相続はさせられる。
廃鉱と思われたダイアモンド鉱山からは隠れた鉱脈が見つかり、より価値のある原石が大量に保有されていた。
未開に近い土地からは鉄鉱石が採れることが分かった。
無価値と思われた別の鉱山は重要なものが眠っていた。それは磁石だ。権利書をもらった時に手記を読んだ。王家の検閲も受けたが誰も読めなかったらしい。当然だ。日本語だから。
馬車の事故で重体になった高祖父の身体に 日本人の魂が入ってしまったと書いてあった。魂の主は鈴木優という鉱山学者で、子供の頃から石や化石が大好きで地質学を学び、そこから鉱山の魅力に取り憑かれたと書いてある。
この世界の裕福な家門だったことと次男だったことで、国中を巡りお宝に目を付け、自分のものにした。当主が能力を認めると国外への旅も許可をした。合わせて10を超えたところで高祖父を警戒し、増えることが無かった。彼が融資などの話を持ちかけるということは そこに価値がある証明になってしまったから。
半分を家に納め、半分は自分のものとした。
彼はこの世界で女性が弱い立場だということに心を痛めていた。自分が死んだら妻はどうなるのか、嫁いだ後 娘はどうなるのか。だから女系相続を条件とした相続が守られてきた。
途中で完全廃鉱になったものもあって、無事にエリーズが相続できたのは4つ。
国外のものはクリス様は知らないだろう。
めちゃくちゃ大金持ちだって?
もちろんエリーズもお金持ちだし、アルミュア公爵家もお金持ちだ。
鉱山で得た利益から国に税金を納めた後の純利益の3分の1は貯金をして、残りの3分の2で慈善活動と個人消費をしている。
鉱山で働く鉱夫達の給料は他所に比べると高給だ。
環境を良くして人も増やし、無理のない労働環境にさせている。
一軒家を建てて、希望する既婚鉱夫を家族で住まわせている。
独身寮も建てて、希望する独身鉱夫を住まわせている。独身寮には使用人がいて、掃除洗濯をしてくれるし、寮食もある。
鉱夫の医療費は無料。退職金制度も整えた。
所有する鉱山のある領地で平民専用の学校を建てたのは惠莉がエリーズになってから。
いずれ基本教育が終わると職業訓練校に進学できるように準備をしている。特に力を入れたいのは医者の育成だ。薬学に頼っている世界では軽度の外傷しか対応できない。
高祖父の手記にも腸閉塞や虫歯や癌などを患ったら大変だ、骨折も命取りだ、苦しまないでポックリ召されたいと書いてあった。私も同意見だ。
3つの鉱山はセントノア王国にある。
鉱山事業は代々ノーマ伯爵家に委託していて、そこの次男エドワードが私の意向を実現させている。学校も診療所も鉱夫の待遇改善も、私がエリーズになってわずかな期間で叶えてきた。
もう1つの鉱山は国内なのでアルミュア家が管理している。
この世界に来るまで貴族は高潔なのかと思ったけどそうではない貴族が多い。金の匂いに群がるハイエナから小蝿までいる。
セイラを利用したい貴族は少なくないだろう。
だから詳しくは言わなかったけど、不純な動機で近付く人が少なくないと伝えると、“でしょうね”と笑っていた。
お父様はブラージェルに送ってくれた淑女教育の先生を継続して雇い、アルミュア邸で習わせてくれようとしていた。素晴らしい贈り物と言える。
両者が納得してセイラを預けて領地へ戻ってきたが、私は自分の屋敷に帰った。
2人の悲しそうな顔がまだチラつくけど、私だってこの屋敷の主人なのだ。
「ただいま~」
「お疲れ様でした」
「変わりない?」
「ございません」
「お食事はどうなさいますか」
「いらないわ。お風呂に入って休みたいの」
「かしこまりました」
長旅を終えてゆっくり休んだ。
2日後、隣領のノクタル子爵夫人が先触れ無しに訪ねてきた。
サリオンが急いでブラージェル邸に早馬を送った。
無視しようとしたけど、門の前に座り込まれて仕方なく屋敷の中に入れた。
サリオンの助言通り、クリス様が到着するまで夫人を応接間で待たせた。
クリス様は馬を走らせて来たらしく、早く到着した。
「エリーズ、大丈夫か!」
「はい、おしかけられただけです」
「ノクタル夫人は?」
「応接間で待たせています」
クリス様と応接間に入るとノクタル夫人はソファから立ち上がり床に平伏した。
「申し訳ございません!どうかお怒りを鎮めてくださいませ!」
「夫人、座ってください」
「お許しいただけるまで座れません!」
「私、そういうの嫌いなの」
え?という顔をして私を見上げた。
「だってそうでしょう?心から悔いていますってパフォーマンスをしながら、許さないなら続けますって脅迫をするのだから」
「脅迫だなんて、私はただ…」
「強引に押しかけて門の前で座り込んで、次はこれ?
謝罪って許される前提でするものではないのよ。謝罪する機会を与えるかどうかも許すか許さないかも相手が決めることじゃない。
私を愛人という名の性奴隷にでもできるかのようなことを口にしたノクタル子爵でもなく、侮辱してワインをかけたノクタル令嬢でもないから、少し同情して屋敷に入れたのにガッカリだわ」
「当事者が話し合って解決すればいいだけの話なのに、アルミュア公爵家が出てくるから、」
「だって私はアルミュア公爵の娘だもの。
父も母も兄も私のことが大好きなの。なのに私が侮辱されたりワインをかけられたり愛人にしてお友達だか親戚だかに抱かせてやるなんて言われていたら怒るに決まっているじゃない。
あんな夫の元へ嫁いだことは気の毒だと思うけど、我儘でだいぶズレた思考の娘を育てたことは貴女にも責任はあるでしょう?
結局はノクタル家ごと制裁を受けても仕方ないじゃない」
「そんな…」
「令嬢は父のアルミュア公爵にワインをかけたり、子爵は母のアルミュア公爵夫人を愛人にするといった発言はしないの?」
「まさか」
「では、何故 私にはするの?
ブラージェル子爵夫人になったから?嫁いだ娘ならいいの?」
「そういうわけでは…」
「こうして私のところに押しかけるのは甘く見ているからなのよね?あなたはアルミュア邸に押しかけた?」
「……いいえ」
「ブラージェル邸には?」
「夫は行きました」
「あなたは?」
「いいえ」
「で、何故ウチに?」
「……」
「あなたもまた私を下に見ているのよ」
「違いますわ!」
「クリス様はどう思いますか?」
「いつかは和解をと思っていたが、エリーズの所に押しかけるようでは難しいな」
「子爵!」
「エリーズを妻にした私には妻を守る義務がある。政略結婚だったが、好きになって改めて求婚して受け入れてもらった。だから今は義務ではなく愛する妻を守りたい。アルミュア公爵からも頼まれているしな。
ノクタル子爵の発言は許されていいものではない。令嬢に関しても悪意がありすぎた。許されると思う方がどうかしている。
領民のことを考えて、1日でも早く退いて縁戚に任せるべきではないのか?」
「ブラージェル子爵ならそうするとでもいうのですか!」
「私は 妻がいる身で愛人を作ろうだなんて考えないし、ノクタル子爵のように婚姻している女性について10年後に離縁させて自分の愛人にして従兄弟や甥っ子にも抱かせるなどと下衆な考えは出来ない。そんな考えをする人間に父は爵位を譲らない。貴族でいる資格無しと廃嫡されただろう。裕福ではなかったが教育はされた。
きっとノクタル子爵も娘も教育は受けたのだろう。それでも2人は下賤な人間であることを望んだ。
その結果を受け入れるべきではないのか?」
「っ!」
「お引き取りください。私の屋敷に二度と現れないでください」
「お願いです…お願いです」
「自らの足で出ていくか、引き摺り出されるかの二択ですが どうなさいますか?30秒で決めてください」
結局 粘るので兵士を呼んだら夫人はサッと立ち上がり退邸した。
セイラはそのまま王都に残りアルミュア邸から学園に通うことになった。
もしかしたら寮暮らしの方が気が楽なのではないかと思ったけど、お父様が“セイラをアルミュア邸から通わせるのは利点があるからだ”とクリス様に説明をした。
『今のセイラは下からも上からも興味を引いてしまう。興味というものはどちらにも転がるものだ。
羨望と嫉妬。嫉妬はトラブルを呼ぶだろう。羨望も空回りすれば毒になる。
うちから通わせることで害をもたらそうとする者は格段に減るだろう。急に湧く魅力の無い縁談もこちらで処理できる。
寮に入れば手紙頼りだ。うちから通えばメイド達が異変をキャッチできる可能性がでてくる。特に身体的なことはな』
確かに今のセイラは中途半端だ。
ゆとりのない子爵家の令嬢で、アルミュア家が関わらなければ立場は弱い。
ひとまず、成人の儀で教育されたレディに装うことはできたけどメッキと言ってもいい。短期間なのだから当然だ。教えていないことが山のようにある。
成人の儀だから歩く 挨拶をする 踊るだけで済んだ。ダンスもまだまだ未熟でドレスという魔法で誤魔化しただけ。普通のパーティや茶会、晩餐会となっては簡単にメッキは剥がれてしまう。
その状態の羨望も嫉妬も厄介だ。セイラ独りでは防御ができない。それが知られたら受ける攻撃は増えてしまう。
それにアルミュア邸から通わせるということは、一時的にアルミュア公爵がセイラの後見人となることを意味している。つまり、縁談を申し込みたいときは後見人に許可を得ないとならない。後見人と実父という二つのハードルができたことになる。
元妻が嘘を認めブラージェル家は噂から解放された。
そしてアルミュア公爵家と縁戚ということの他に、夫人となった私が鉱山を4つも所有していることは大きい。女系が受け継ぐもので、お祖母様が所有していたものは4つ。うち3つは国外で私が相続した。残るは国内の1つはお母様が相続していたが、ブラージェルに嫁ぐ際にお母様から相続した。
大抵の人は、私が1つだけ鉱山を受け継いだと思っている。既に婚姻したから言い寄らないけど、私が誰に継がせるのか興味津々だろう。今までは王子の婚約者だったから興味を持たなかったが、お金をかけて調査させれば国外に3つ持っていることがバレる。
援助が欲しい家門や、アルミュアと繋がりたかったが叶うことがなかった家門はセイラに目を付けるだろう。
国外の鉱山はご先祖様が融資をした後に担保にした鉱山を回収したものだ。
伝え聞いた話によると、廃鉱としようとしていた鉱山や未開に近い土地を担保にさせていた。当時の王家も価値はないと判断して、その契約を承認してしまった。転売は出来ないが相続はさせられる。
廃鉱と思われたダイアモンド鉱山からは隠れた鉱脈が見つかり、より価値のある原石が大量に保有されていた。
未開に近い土地からは鉄鉱石が採れることが分かった。
無価値と思われた別の鉱山は重要なものが眠っていた。それは磁石だ。権利書をもらった時に手記を読んだ。王家の検閲も受けたが誰も読めなかったらしい。当然だ。日本語だから。
馬車の事故で重体になった高祖父の身体に 日本人の魂が入ってしまったと書いてあった。魂の主は鈴木優という鉱山学者で、子供の頃から石や化石が大好きで地質学を学び、そこから鉱山の魅力に取り憑かれたと書いてある。
この世界の裕福な家門だったことと次男だったことで、国中を巡りお宝に目を付け、自分のものにした。当主が能力を認めると国外への旅も許可をした。合わせて10を超えたところで高祖父を警戒し、増えることが無かった。彼が融資などの話を持ちかけるということは そこに価値がある証明になってしまったから。
半分を家に納め、半分は自分のものとした。
彼はこの世界で女性が弱い立場だということに心を痛めていた。自分が死んだら妻はどうなるのか、嫁いだ後 娘はどうなるのか。だから女系相続を条件とした相続が守られてきた。
途中で完全廃鉱になったものもあって、無事にエリーズが相続できたのは4つ。
国外のものはクリス様は知らないだろう。
めちゃくちゃ大金持ちだって?
もちろんエリーズもお金持ちだし、アルミュア公爵家もお金持ちだ。
鉱山で得た利益から国に税金を納めた後の純利益の3分の1は貯金をして、残りの3分の2で慈善活動と個人消費をしている。
鉱山で働く鉱夫達の給料は他所に比べると高給だ。
環境を良くして人も増やし、無理のない労働環境にさせている。
一軒家を建てて、希望する既婚鉱夫を家族で住まわせている。
独身寮も建てて、希望する独身鉱夫を住まわせている。独身寮には使用人がいて、掃除洗濯をしてくれるし、寮食もある。
鉱夫の医療費は無料。退職金制度も整えた。
所有する鉱山のある領地で平民専用の学校を建てたのは惠莉がエリーズになってから。
いずれ基本教育が終わると職業訓練校に進学できるように準備をしている。特に力を入れたいのは医者の育成だ。薬学に頼っている世界では軽度の外傷しか対応できない。
高祖父の手記にも腸閉塞や虫歯や癌などを患ったら大変だ、骨折も命取りだ、苦しまないでポックリ召されたいと書いてあった。私も同意見だ。
3つの鉱山はセントノア王国にある。
鉱山事業は代々ノーマ伯爵家に委託していて、そこの次男エドワードが私の意向を実現させている。学校も診療所も鉱夫の待遇改善も、私がエリーズになってわずかな期間で叶えてきた。
もう1つの鉱山は国内なのでアルミュア家が管理している。
この世界に来るまで貴族は高潔なのかと思ったけどそうではない貴族が多い。金の匂いに群がるハイエナから小蝿までいる。
セイラを利用したい貴族は少なくないだろう。
だから詳しくは言わなかったけど、不純な動機で近付く人が少なくないと伝えると、“でしょうね”と笑っていた。
お父様はブラージェルに送ってくれた淑女教育の先生を継続して雇い、アルミュア邸で習わせてくれようとしていた。素晴らしい贈り物と言える。
両者が納得してセイラを預けて領地へ戻ってきたが、私は自分の屋敷に帰った。
2人の悲しそうな顔がまだチラつくけど、私だってこの屋敷の主人なのだ。
「ただいま~」
「お疲れ様でした」
「変わりない?」
「ございません」
「お食事はどうなさいますか」
「いらないわ。お風呂に入って休みたいの」
「かしこまりました」
長旅を終えてゆっくり休んだ。
2日後、隣領のノクタル子爵夫人が先触れ無しに訪ねてきた。
サリオンが急いでブラージェル邸に早馬を送った。
無視しようとしたけど、門の前に座り込まれて仕方なく屋敷の中に入れた。
サリオンの助言通り、クリス様が到着するまで夫人を応接間で待たせた。
クリス様は馬を走らせて来たらしく、早く到着した。
「エリーズ、大丈夫か!」
「はい、おしかけられただけです」
「ノクタル夫人は?」
「応接間で待たせています」
クリス様と応接間に入るとノクタル夫人はソファから立ち上がり床に平伏した。
「申し訳ございません!どうかお怒りを鎮めてくださいませ!」
「夫人、座ってください」
「お許しいただけるまで座れません!」
「私、そういうの嫌いなの」
え?という顔をして私を見上げた。
「だってそうでしょう?心から悔いていますってパフォーマンスをしながら、許さないなら続けますって脅迫をするのだから」
「脅迫だなんて、私はただ…」
「強引に押しかけて門の前で座り込んで、次はこれ?
謝罪って許される前提でするものではないのよ。謝罪する機会を与えるかどうかも許すか許さないかも相手が決めることじゃない。
私を愛人という名の性奴隷にでもできるかのようなことを口にしたノクタル子爵でもなく、侮辱してワインをかけたノクタル令嬢でもないから、少し同情して屋敷に入れたのにガッカリだわ」
「当事者が話し合って解決すればいいだけの話なのに、アルミュア公爵家が出てくるから、」
「だって私はアルミュア公爵の娘だもの。
父も母も兄も私のことが大好きなの。なのに私が侮辱されたりワインをかけられたり愛人にしてお友達だか親戚だかに抱かせてやるなんて言われていたら怒るに決まっているじゃない。
あんな夫の元へ嫁いだことは気の毒だと思うけど、我儘でだいぶズレた思考の娘を育てたことは貴女にも責任はあるでしょう?
結局はノクタル家ごと制裁を受けても仕方ないじゃない」
「そんな…」
「令嬢は父のアルミュア公爵にワインをかけたり、子爵は母のアルミュア公爵夫人を愛人にするといった発言はしないの?」
「まさか」
「では、何故 私にはするの?
ブラージェル子爵夫人になったから?嫁いだ娘ならいいの?」
「そういうわけでは…」
「こうして私のところに押しかけるのは甘く見ているからなのよね?あなたはアルミュア邸に押しかけた?」
「……いいえ」
「ブラージェル邸には?」
「夫は行きました」
「あなたは?」
「いいえ」
「で、何故ウチに?」
「……」
「あなたもまた私を下に見ているのよ」
「違いますわ!」
「クリス様はどう思いますか?」
「いつかは和解をと思っていたが、エリーズの所に押しかけるようでは難しいな」
「子爵!」
「エリーズを妻にした私には妻を守る義務がある。政略結婚だったが、好きになって改めて求婚して受け入れてもらった。だから今は義務ではなく愛する妻を守りたい。アルミュア公爵からも頼まれているしな。
ノクタル子爵の発言は許されていいものではない。令嬢に関しても悪意がありすぎた。許されると思う方がどうかしている。
領民のことを考えて、1日でも早く退いて縁戚に任せるべきではないのか?」
「ブラージェル子爵ならそうするとでもいうのですか!」
「私は 妻がいる身で愛人を作ろうだなんて考えないし、ノクタル子爵のように婚姻している女性について10年後に離縁させて自分の愛人にして従兄弟や甥っ子にも抱かせるなどと下衆な考えは出来ない。そんな考えをする人間に父は爵位を譲らない。貴族でいる資格無しと廃嫡されただろう。裕福ではなかったが教育はされた。
きっとノクタル子爵も娘も教育は受けたのだろう。それでも2人は下賤な人間であることを望んだ。
その結果を受け入れるべきではないのか?」
「っ!」
「お引き取りください。私の屋敷に二度と現れないでください」
「お願いです…お願いです」
「自らの足で出ていくか、引き摺り出されるかの二択ですが どうなさいますか?30秒で決めてください」
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