【完結】婚約破棄された令嬢は、嫌われ後妻を満喫する

ユユ

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同室

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お兄様が様子見と、ブディット男爵家から徴収したお金の一部を持って来てくれた。
お見送りにハグをしたら喜んでくれて“アルミュアに一緒に帰ろう”と駄々を捏ねていた。

さて、このお金で何をしようかな。
まだ王家からの慰謝料もたくさん残っているのよね。鉱山の収益があるから慰謝料は使ってしまって構わないし。

「エリーズ様、お手紙でございます」

執事のサリオンが封筒を手渡した。

「これ……誰?」

「隣の領地の子爵家です。
カトリーヌ嬢はノクタル子爵家の長女です」

「お茶会かパーティをブラージェル邸で開いて招待してくれって書いてあるわ。
頭のおかしい子なの?」

「実は、ノクタル家から旦那様に何度か縁談を持ちかけられましたが、旦那様は断りました」

私との急な婚姻はお金のためよね。

「ノクタル子爵家では支援は出来なさそうだったのかしら」

「アルミュア公爵家ほど出せたかは分かりませんが、裕福な家門と言えたと思います」

「可愛くないとか?」

「エリーズ様が存在なさらない世界だとすれば、一般的に優れているご令嬢だったと記憶しています」

「だったら結婚して支援してもらえば良かったのに」

仕方ないわね。

夫の子爵に手紙を書いて、令嬢から来た手紙も添えて送った。

“私のことは気になさらずにどうぞ。
宛名は私ですので、ご令嬢には、私が子爵夫人としてそのような催しをすることはございませんと返事を出しておきます。
ノクタル嬢と再々婚をお望みであれば離縁に応じます”

直ぐに子爵から“有り得ない”と返事が来た。

もしかしたら何か理由があって子爵は彼女が嫌いなのかもしれない。

だけど直ぐにまたカトリーヌ・ノクタル子爵令嬢から手紙が届いた。

“パーティにご招待いたします”

「サリオン。ノクタル子爵邸に行くことにしたわ」

「では、旦那様にお伝えします」

「どうして?」

「夫婦同伴で出席なさるのでは…」

「一人で行くわ」

「ですが、」

「だって、私の名前しか書いてないもの。
子爵と一緒にとか夫婦でとか書いてないし、一人で行ってはならないという決まりもないし。
子爵に来て欲しければ子爵に送るだろうし」

「……かしこまりました」

手土産とかいる?
王家からのお詫びの品の中にワインがあったわ。
箱ごと持っていけばいいかしら。
私、ワイン苦手なのよね。


出発当日、これから荷物を積もうとしているところに馬車が到着した。

「何処の馬車?」

「旦那様の馬車です」

「何しに来たのかしら」

馬車が屋敷の前で止まり、子爵が降りて来た。

「おはようございます、子爵様。
あいにく 外出するところですの」

「知っている。

荷物をこちらに乗せてくれ」

「かしこまりました」

「え?何!?」

「ノクタル子爵邸に行くのだろう?」

「はい。……子爵様もノクタル邸に?日程が分かりませんので別々の馬車で参りますわ」

「夫婦で出席するに決まっているだろう」

「…王宮行事ではありませんが」

「ノクタルとヒメールは一人で行かせられない」

「もしかして、逆隣のヒメール伯爵家のご令嬢と、ノクタル嬢から言い寄られていたからですか?」

「…そうだ」

「モテますのね」

「出発するぞ」

はぁ。往復 子爵と一緒かぁ。
貴族モードでいなきゃいけないのね。
面倒くさぁ。

差し出された子爵の手を借りて馬車に乗り込んだ。

途中の町でも自由に食事ができず息苦しい。
子爵がいなければ、護衛騎士や御者とみんなで楽しく食事をするのに、今回は子爵の連れて来た護衛騎士達がいるから、私の護衛騎士達は置いて来てしまった。あの人達の残念そうな顔。帰ったら慰めないと。

途中の食事処で、サービスでワインを出されて仕方なく飲んで、移動中に危うく子爵にリバースしかけたけど気合いで乗り切った。だけど…


「ん…」

「おはよう、エリーズ」

「……夢の中ね。子爵と一緒に寝てるなんて有り得ないもの」

「何故 有り得ないんだ?あの金持ちそうな男が良かったのか?残念だが 君は私の妻だから仕方ない」

「!!」

慌てて起き上がると口の中がスッキリしない。
そうか。歯磨きしていないのか。

鞄の中から特注の歯ブラシと歯磨き粉を取り出して洗面室へ…。

この世界で虫歯になったら、訳の分からない薬草を詰めるだけか抜くか神に祈るしかないんだから!

矯正もしていないのに歯並びもいいし虫歯も無く真っ白。全く運動もしないのにパーフェクトボディ。絶対何かの小説の世界よね。
37歳のはずの子爵が27歳と言ってもおかしくないほど若いし。

だけど、念には念を!

「ふごっ!?」

子爵も隣で歯を磨き始めた。
じっと私の口元を見ている。

ちょっと!この世界の紳士はそんなことしないんじゃないの?紳士とか淑女とか煩いじゃないの!

シャコシャコシャコシャコ ペッ
グジュグジュ ペッ

「お先に」

「…ペッ 君の歯ブラシと私の歯ブラシが違う」

「私の歯ブラシは特注品です」

「…ずるい」

は!?

「嫁ぐ前から使っています!」

そもそもブラージェル家のお金なんて使ってないじゃない!

「……」

「分かりました!新品の予備があるから差し上げます!」

鞄から歯ブラシを取り出して子爵に渡すと、それで歯を磨きなおした。

「グジュグジュ ペッ
何だこれ…全然違うじゃないか!」

「で、どうして私と子爵様が?」

「君が寝てしまったから私が運んだ。ワインが駄目だったのだろう?
夫婦だからこの部屋に通された。ここはノクタル邸の客間だ」

「ご、ご迷惑をおかけしました」

「…着替えは屋敷ここのメイドがさせたからな」

「はい」

「パーティは今夜だ。馬車に酔ったといっておいたから、夜まで煩わしいことはないだろう」

「分かりました」

またベッドに入った。ゴロゴロしていたい。

「…エリーズ、まだ具合が悪いのか?」

「大丈夫ですが、夜まで自由でいいのでしたらのんびりしています」

「何処かに行きたいとか、庭園を散歩したいとかは?」

「夜に予定があるなら、日中はゆっくりしたいので私は結構です。昨日もずっと馬車に揺られていましたし、体力を温存します。子爵様はご自由にどうぞ」

ベッドの背もたれに枕やクッションを積み重ね、寄りかかった。

歯ブラシを取るときに ついでに出したスケッチブックを開いた。

今 私が実現したいのは後ろにカゴの付いた三輪車と、洗濯機、扇風機、微塵切り器。
まあ、いずれも回転させるものだ。
三輪車にいたってはブレーキの問題があって難しそうだ。コルクでどうかと思ったけど心配で仕方ない。
切実なのは洗濯機。手で回すと疲れるから、足漕ぎ式かペダル式に…

「な、何ですか?」

「設計図?」

「秘密です」

「秘密なのに今ここで?」

「私の想像を絵に書いているだけですので、子爵様にも誰にも分からないと思います。ですから問題はありません」

「君は本当に…」

「?」

「何でもない。朝食はどうする?運ばせるか?」

「私は食欲がありませんから。子爵様はどうぞ」

「そうする」

子爵は食堂のある一階へ降りて行った。
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