8 / 35
困惑
しおりを挟む
【 クリストファーの視点 】
旦那様、王都新聞を取り寄せました。
奥様のことが載っています。
噂を聞いたのか、家令のオレリオはわざわざ王都新聞を取り寄せたようだ。
あの日以来会っていない妻のスキャンダルなど知りたくないのだが…
“レアンドル第二王子殿下の天国と地獄”
よくこんな見出しを許したな。
“レアンドル殿下が望んだ縁談は 一度断られたものだった。だが諦めきれない殿下のために王命でアルミュア公女を婚約者にした。
アルミュア公女は非常に優秀で勤勉だった。誰もが王家の未来を照らす存在になると信じていた。
その歯車が狂い出したのは学園に入学し、殿下がマリア・ブディット男爵令嬢と出会ってからだ。令嬢は王子に対し あり得ない近さで付き纏った。
目撃した卒業生によると 男爵令嬢のその様子は、町で客をとろうと必死で媚びを売り体を擦り付ける路上娼婦のようだったと証言をした。
当然、貴族としても学園生としても婚約者のいる異性にそのようなことは許されない。公女は注意をしたが、それを虐めだと殿下に告げた。
殿下は次第に令嬢に心を寄せてしまい、2年生になる頃には婚約者との交流をすっぽかし、令嬢と逢瀬を重ねた。殿下は婚約者との関係維持のための予算を使ってドレスや宝飾品を買い与えた。パーティにもパートナーとして連れ立つようになった。
3年生のある日、公女は令嬢に、殿下の立場が悪くなるから行動を改めて欲しいと注意をした。そこに現れた殿下に令嬢が虐められていると泣き付いた。殿下は公女を突き飛ばした。
公女は頭を打ち、2日間も昏睡した。
公女は目覚めると、父親の公爵に相談した。
公女の身の危険を認識した公爵は、行動日誌をつけ、殿下の言動は日記につけ、絶対に男爵令嬢に近付くことなく、他の誰かと一緒にいるよう指示をした。さらに男爵令嬢に監視を付けた。
殿下は公女と婚約を解消した後の、公女の輿入れ先を探した。
一方で接触が無いため弾弓できず、妊娠して焦った令嬢は、公女と男達に誘拐されかけたと嘘を吐いた。
殿下は鵜呑みにして卒業パーティの公の場で虐めと誘拐未遂の罪で断罪の上、婚約破棄を言い渡した。
公女は了承し、子爵の後妻となる。
だが 誘拐されたと主張した事件日、男爵令嬢は親戚の誕生日パーティに出席していて王都にいなかったため、主張した誘拐現場にいることは不可能だった。公女も王妃と一緒にいてアリバイがあった。
虐めの事実も存在しなかった。
国王陛下は全ての責任を認め、レアンドル第二王子殿下の全面有責として謝罪をして慰謝料を支払った。
殿下と男爵令嬢を婚約させた上で、ほとんどを剥奪した。監視が必要であることから除籍はしないが実質の廃嫡扱いとなった。
何の権限も持たず予算も与えられない。殿下、王子などという呼び方を禁じ、レアンドル様と呼ばせている。王城で使用人の仕事をして生活をする。それは男爵令嬢も同じだ。
レアンドル様と、彼の血筋には永久的に王位継承権の剥奪も決まった。
その後、アルミュア公爵家は、ブディット男爵とマリア嬢を提訴した。しっかりと証拠があるため、早々に敗訴が決まり、莫大な賠償金を請求した。公女の婚約者である王子殿下を寝取り、嘘で王族と公女の婚約を壊したのだから当然といえよう。
ブディット男爵家の没落が決まった。
8年間、仕方なく厳しい王子妃教育を受けさせられ、浮気され冷たくされ、在らぬ罪を着せられて婚約を破棄された悲劇の公女はもう 子爵夫人として領地改革を行っている”
「これは…これでは完全な被害者じゃないか」
「そうなります。ですから取り寄せました」
出迎えもせず、部屋も用意せず、揉め事は困る 慎ましくなどと言ってしまった。
ろくな式もあげてやれず、支援金だけ受け取った。
子供達も彼女に失礼だった。
そして妻になった彼女はブラージェルから1コインも受け取ることなく別居している。
結婚指輪も買っていない。
最低だ。
「子供達を呼んでくれ」
ソニアとジスランに新聞を渡して読ませた。
「何これ…酷い」
「あの人は全く悪くなかったってことですか?」
「そうだ。100%被害者だ。
それに大金をブラージェルに支援してくれた人だ。
なのにエリーズはブラージェルから1コインも受け取ることなく2時間も離れた場所で暮らしている」
「どうしよう…酷いことを言ってしまいました」
「僕も…」
「これから連絡を取って、謝罪の機会を作ってもらうつもりだ。いいな?」
「「はい」」
子供達が退室した後、再度新聞を読んだ。
“子爵夫人として領地改革を行っている”
「オレリオ。エリーズが領地改革をしていると書いてあるが、アルミュア公爵領のことだよな?」
「それは今度の漁港の視察で分かると思います」
変なというか、おかしな話を聞いた。漁港が活気付いていて、外国から来た者や船乗りも観光や食事に来ていると。うちの港はそこまで大きな船はつけられない。隣の領地の港に商船や旅客船が停泊する。そこからわざわざ足を運んだというのか。
4ヶ月前に、アルミュア公爵が自ら結婚の話をしに訪れ、エリーズが住むための屋敷を探すのを手伝ったときに、漁港に寄ったきりだ。
まさかな。
だが、そのまさかだった。
「パトリック、これはどういうことだ」
「分かりません…コレ、うちの漁町ですか?間違えて他所の漁町に来てしまったのでは?」
補佐のパトリックも何が何だか分からないと、目の前の光景に唖然としていた。
建物の配置は変わっていない。
形もほぼ変わっていない。
だがどの建物も綺麗に修繕されただけでなく、清潔感漂う町になっていた。
魚介類の腐った臭いなどしない。潮風と料理のいい香りだけだ。
地面も整備され綺麗になっていて、ゴミも落ちていない。
見ていると、余所者らしき人がゴミを落としても、領民がサッと拾うのだ。
王都より綺麗だった。
旦那様、王都新聞を取り寄せました。
奥様のことが載っています。
噂を聞いたのか、家令のオレリオはわざわざ王都新聞を取り寄せたようだ。
あの日以来会っていない妻のスキャンダルなど知りたくないのだが…
“レアンドル第二王子殿下の天国と地獄”
よくこんな見出しを許したな。
“レアンドル殿下が望んだ縁談は 一度断られたものだった。だが諦めきれない殿下のために王命でアルミュア公女を婚約者にした。
アルミュア公女は非常に優秀で勤勉だった。誰もが王家の未来を照らす存在になると信じていた。
その歯車が狂い出したのは学園に入学し、殿下がマリア・ブディット男爵令嬢と出会ってからだ。令嬢は王子に対し あり得ない近さで付き纏った。
目撃した卒業生によると 男爵令嬢のその様子は、町で客をとろうと必死で媚びを売り体を擦り付ける路上娼婦のようだったと証言をした。
当然、貴族としても学園生としても婚約者のいる異性にそのようなことは許されない。公女は注意をしたが、それを虐めだと殿下に告げた。
殿下は次第に令嬢に心を寄せてしまい、2年生になる頃には婚約者との交流をすっぽかし、令嬢と逢瀬を重ねた。殿下は婚約者との関係維持のための予算を使ってドレスや宝飾品を買い与えた。パーティにもパートナーとして連れ立つようになった。
3年生のある日、公女は令嬢に、殿下の立場が悪くなるから行動を改めて欲しいと注意をした。そこに現れた殿下に令嬢が虐められていると泣き付いた。殿下は公女を突き飛ばした。
公女は頭を打ち、2日間も昏睡した。
公女は目覚めると、父親の公爵に相談した。
公女の身の危険を認識した公爵は、行動日誌をつけ、殿下の言動は日記につけ、絶対に男爵令嬢に近付くことなく、他の誰かと一緒にいるよう指示をした。さらに男爵令嬢に監視を付けた。
殿下は公女と婚約を解消した後の、公女の輿入れ先を探した。
一方で接触が無いため弾弓できず、妊娠して焦った令嬢は、公女と男達に誘拐されかけたと嘘を吐いた。
殿下は鵜呑みにして卒業パーティの公の場で虐めと誘拐未遂の罪で断罪の上、婚約破棄を言い渡した。
公女は了承し、子爵の後妻となる。
だが 誘拐されたと主張した事件日、男爵令嬢は親戚の誕生日パーティに出席していて王都にいなかったため、主張した誘拐現場にいることは不可能だった。公女も王妃と一緒にいてアリバイがあった。
虐めの事実も存在しなかった。
国王陛下は全ての責任を認め、レアンドル第二王子殿下の全面有責として謝罪をして慰謝料を支払った。
殿下と男爵令嬢を婚約させた上で、ほとんどを剥奪した。監視が必要であることから除籍はしないが実質の廃嫡扱いとなった。
何の権限も持たず予算も与えられない。殿下、王子などという呼び方を禁じ、レアンドル様と呼ばせている。王城で使用人の仕事をして生活をする。それは男爵令嬢も同じだ。
レアンドル様と、彼の血筋には永久的に王位継承権の剥奪も決まった。
その後、アルミュア公爵家は、ブディット男爵とマリア嬢を提訴した。しっかりと証拠があるため、早々に敗訴が決まり、莫大な賠償金を請求した。公女の婚約者である王子殿下を寝取り、嘘で王族と公女の婚約を壊したのだから当然といえよう。
ブディット男爵家の没落が決まった。
8年間、仕方なく厳しい王子妃教育を受けさせられ、浮気され冷たくされ、在らぬ罪を着せられて婚約を破棄された悲劇の公女はもう 子爵夫人として領地改革を行っている”
「これは…これでは完全な被害者じゃないか」
「そうなります。ですから取り寄せました」
出迎えもせず、部屋も用意せず、揉め事は困る 慎ましくなどと言ってしまった。
ろくな式もあげてやれず、支援金だけ受け取った。
子供達も彼女に失礼だった。
そして妻になった彼女はブラージェルから1コインも受け取ることなく別居している。
結婚指輪も買っていない。
最低だ。
「子供達を呼んでくれ」
ソニアとジスランに新聞を渡して読ませた。
「何これ…酷い」
「あの人は全く悪くなかったってことですか?」
「そうだ。100%被害者だ。
それに大金をブラージェルに支援してくれた人だ。
なのにエリーズはブラージェルから1コインも受け取ることなく2時間も離れた場所で暮らしている」
「どうしよう…酷いことを言ってしまいました」
「僕も…」
「これから連絡を取って、謝罪の機会を作ってもらうつもりだ。いいな?」
「「はい」」
子供達が退室した後、再度新聞を読んだ。
“子爵夫人として領地改革を行っている”
「オレリオ。エリーズが領地改革をしていると書いてあるが、アルミュア公爵領のことだよな?」
「それは今度の漁港の視察で分かると思います」
変なというか、おかしな話を聞いた。漁港が活気付いていて、外国から来た者や船乗りも観光や食事に来ていると。うちの港はそこまで大きな船はつけられない。隣の領地の港に商船や旅客船が停泊する。そこからわざわざ足を運んだというのか。
4ヶ月前に、アルミュア公爵が自ら結婚の話をしに訪れ、エリーズが住むための屋敷を探すのを手伝ったときに、漁港に寄ったきりだ。
まさかな。
だが、そのまさかだった。
「パトリック、これはどういうことだ」
「分かりません…コレ、うちの漁町ですか?間違えて他所の漁町に来てしまったのでは?」
補佐のパトリックも何が何だか分からないと、目の前の光景に唖然としていた。
建物の配置は変わっていない。
形もほぼ変わっていない。
だがどの建物も綺麗に修繕されただけでなく、清潔感漂う町になっていた。
魚介類の腐った臭いなどしない。潮風と料理のいい香りだけだ。
地面も整備され綺麗になっていて、ゴミも落ちていない。
見ていると、余所者らしき人がゴミを落としても、領民がサッと拾うのだ。
王都より綺麗だった。
2,814
お気に入りに追加
3,783
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】妻に逃げられた辺境伯に嫁ぐことになりました
金峯蓮華
恋愛
王命で、妻に逃げられた子持ちの辺境伯の後妻になることになった侯爵令嬢のディートリント。辺境の地は他国からの脅威や魔獣が出る事もある危ない場所。辺境伯は冷たそうなゴリマッチョ。子供達は母に捨てられ捻くれている。そんな辺境の地に嫁入りしたディートリント。どうする? どうなる?
独自の緩い世界のお話です。
ご都合主義です。
誤字脱字あります。
R15は保険です。
【完結】婚約破棄された傷もの令嬢は王太子の側妃になりました
金峯蓮華
恋愛
公爵令嬢のロゼッタは王立学園の卒業パーティーで婚約者から婚約破棄を言い渡された。どうやら真実の愛を見つけたらしい。
しかし、相手の男爵令嬢を虐めたと身に覚えのない罪を着せられた。
婚約者の事は別に好きじゃないから婚約破棄はありがたいけど冤罪は嫌だわ。
結婚もなくなり、退屈していたところに王家から王太子の側妃にと打診が来た。
側妃なら気楽かも? と思い了承したが、気楽どころか、大変な毎日が待っていた。
*ご都合主義のファンタジーです。見守ってくださいませ*
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
【完結】「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」
まほりろ
恋愛
【完結済み】
若き侯爵ビリーは子爵家の財産に目をつけた。侯爵は子爵家に圧力をかけ、子爵令嬢のエミリーを強引に娶(めと)った。
侯爵家に嫁いだエミリーは、侯爵家の使用人から冷たい目で見られ、酷い仕打ちを受ける。
侯爵家には居候の少女ローザがいて、当主のビリーと居候のローザは愛し合っていた。
使用人達にお金の力で二人の愛を引き裂いた悪女だと思われたエミリーは、使用人から酷い虐めを受ける。
侯爵も侯爵の母親も居候のローザも、エミリーに嫌がれせをして楽しんでいた。
侯爵家の人間は知らなかった、腐ったスープを食べさせ、バケツの水をかけ、ドレスを切り裂き、散々嫌がらせをした少女がエミリーに化けて侯爵家に嫁いできた世界最強の魔女だと言うことを……。
魔女が正体を明かすとき侯爵家は地獄と化す。
全26話、約25,000文字、完結済み。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
他サイトにもアップしてます。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願いします。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる