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困惑

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【 クリストファーの視点 】

旦那様、王都新聞を取り寄せました。
奥様のことが載っています。  

噂を聞いたのか、家令のオレリオはわざわざ王都新聞を取り寄せたようだ。
あの日以来会っていない妻のスキャンダルなど知りたくないのだが…


“レアンドル第二王子殿下の天国と地獄”

よくこんな見出しを許したな。

“レアンドル殿下が望んだ縁談は 一度断られたものだった。だが諦めきれない殿下のために王命でアルミュア公女を婚約者にした。

アルミュア公女は非常に優秀で勤勉だった。誰もが王家の未来を照らす存在になると信じていた。

その歯車が狂い出したのは学園に入学し、殿下がマリア・ブディット男爵令嬢と出会ってからだ。令嬢は王子に対し あり得ない近さで付き纏った。
目撃した卒業生によると 男爵令嬢のその様子は、町で客をとろうと必死で媚びを売り体を擦り付ける路上娼婦のようだったと証言をした。
当然、貴族としても学園生としても婚約者のいる異性にそのようなことは許されない。公女は注意をしたが、それを虐めだと殿下に告げた。

殿下は次第に令嬢に心を寄せてしまい、2年生になる頃には婚約者との交流をすっぽかし、令嬢と逢瀬を重ねた。殿下は婚約者との関係維持のための予算を使ってドレスや宝飾品を買い与えた。パーティにもパートナーとして連れ立つようになった。

3年生のある日、公女は令嬢に、殿下の立場が悪くなるから行動を改めて欲しいと注意をした。そこに現れた殿下に令嬢が虐められていると泣き付いた。殿下は公女を突き飛ばした。
公女は頭を打ち、2日間も昏睡した。

公女は目覚めると、父親の公爵に相談した。
公女の身の危険を認識した公爵は、行動日誌をつけ、殿下の言動は日記につけ、絶対に男爵令嬢に近付くことなく、他の誰かと一緒にいるよう指示をした。さらに男爵令嬢に監視を付けた。

殿下は公女と婚約を解消した後の、公女の輿入れ先を探した。
一方で接触が無いため弾弓できず、妊娠して焦った令嬢は、公女と男達に誘拐されかけたと嘘を吐いた。

殿下は鵜呑みにして卒業パーティの公の場で虐めと誘拐未遂の罪で断罪の上、婚約破棄を言い渡した。

公女は了承し、子爵の後妻となる。

だが 誘拐されたと主張した事件日、男爵令嬢は親戚の誕生日パーティに出席していて王都にいなかったため、主張した誘拐現場にいることは不可能だった。公女も王妃と一緒にいてアリバイがあった。
虐めの事実も存在しなかった。

国王陛下は全ての責任を認め、レアンドル第二王子殿下の全面有責として謝罪をして慰謝料を支払った。

殿下と男爵令嬢を婚約させた上で、ほとんどを剥奪した。監視が必要であることから除籍はしないが実質の廃嫡扱いとなった。
何の権限も持たず予算も与えられない。殿下、王子などという呼び方を禁じ、レアンドル様と呼ばせている。王城で使用人の仕事をして生活をする。それは男爵令嬢も同じだ。
レアンドル様と、彼の血筋には永久的に王位継承権の剥奪も決まった。

その後、アルミュア公爵家は、ブディット男爵とマリア嬢を提訴した。しっかりと証拠があるため、早々に敗訴が決まり、莫大な賠償金を請求した。公女の婚約者である王子殿下を寝取り、嘘で王族と公女の婚約を壊したのだから当然といえよう。

ブディット男爵家の没落が決まった。

8年間、仕方なく厳しい王子妃教育を受けさせられ、浮気され冷たくされ、在らぬ罪を着せられて婚約を破棄された悲劇の公女はもう 子爵夫人として領地改革を行っている”

「これは…これでは完全な被害者じゃないか」

「そうなります。ですから取り寄せました」

出迎えもせず、部屋も用意せず、揉め事は困る 慎ましくなどと言ってしまった。
ろくな式もあげてやれず、支援金だけ受け取った。
子供達も彼女に失礼だった。
そして妻になった彼女はブラージェルから1コインも受け取ることなく別居している。
結婚指輪も買っていない。

最低だ。

「子供達を呼んでくれ」



ソニアとジスランに新聞を渡して読ませた。

「何これ…酷い」

「あの人は全く悪くなかったってことですか?」

「そうだ。100%被害者だ。
それに大金をブラージェルに支援してくれた人だ。
なのにエリーズはブラージェルから1コインも受け取ることなく2時間も離れた場所で暮らしている」

「どうしよう…酷いことを言ってしまいました」

「僕も…」

「これから連絡を取って、謝罪の機会を作ってもらうつもりだ。いいな?」

「「はい」」


子供達が退室した後、再度新聞を読んだ。

“子爵夫人として領地改革を行っている”

「オレリオ。エリーズが領地改革をしていると書いてあるが、アルミュア公爵領のことだよな?」

「それは今度の漁港の視察で分かると思います」

変なというか、おかしな話を聞いた。漁港が活気付いていて、外国から来た者や船乗りも観光や食事に来ていると。うちの港はそこまで大きな船はつけられない。隣の領地の港に商船や旅客船が停泊する。そこからわざわざ足を運んだというのか。

4ヶ月前に、アルミュア公爵が自ら結婚の話をしに訪れ、エリーズが住むための屋敷を探すのを手伝ったときに、漁港に寄ったきりだ。

まさかな。




だが、そのまさかだった。

「パトリック、これはどういうことだ」

「分かりません…コレ、うちの漁町ですか?間違えて他所の漁町に来てしまったのでは?」

補佐のパトリックも何が何だか分からないと、目の前の光景に唖然としていた。

建物の配置は変わっていない。
形もほぼ変わっていない。
だがどの建物も綺麗に修繕されただけでなく、清潔感漂う町になっていた。
魚介類の腐った臭いなどしない。潮風と料理のいい香りだけだ。

地面も整備され綺麗になっていて、ゴミも落ちていない。
見ていると、余所者らしき人がゴミを落としても、領民がサッと拾うのだ。

王都より綺麗だった。
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