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コーデュロウ家の契約

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【 ヘンリーの視点 】



翌早朝、ガウンを着た父上と兄上が私の客室へ来て話し合いを開始した。

私「どうですか」

父「優しい香りだ。全く邪魔にならない」

兄「肌も髪の毛もすべすべですね」

父「艶もある」

兄「欲しいですね」

父「だけどこの香りは売らないんだな?」

私「はい。少しでも香りを変えて販売して欲しいそうです」

父「何故だ」

私「さあ」

兄「自分だけの香りとしたいのですかね」

私「かもしれません」

兄「しかし、随分と可愛がられていますね」

父「17歳に見えないな」

兄「確かに。パーティでは化粧もあって相応に見えましたが、屋敷では違いますね」

父「コーデュロウ公爵家について教えてもらったようだな」

兄「着飾った庭師か…ハハッ」



眼鏡を探していたあの時、親切なシルビア嬢は声を掛けてくれた。 

探し物を伝えると頭を指差した。

過去一番 恥ずかしかった。


私のボサボサ頭にも気にせず笑顔で対応してくれる令嬢ともう少し話してみたくて庭園の散歩に誘った。
花や草の説明をつい夢中でしてしまった。
大抵の令嬢は興味がない。最初は聞くが すぐに興味がない目をする。

見合いのときも、コーデュロウ家との繋がりが欲しくて親が娘を連れてくるが、私を見た令嬢は顔が強張る。

“嫌だ”と口にする子もいた。


私は次男だから公爵にはなれない。だけど領地を預かり栽培の責任者になる。

つまり私の妻はずっと領地にいて自然と触れ合うことになる。コーデュロウ夫人とは呼ばれるが公爵夫人とは呼ばれない。

コーデュロウから抜けて、父上が持つ 子爵位を与えてもらうこともできる。

だが、田舎管理を任される子爵位は人気がない。
親達はそれでも構わないと乗り気だ。

実際に嫁に来て暮らす者が嫌々なら、嫁いで来てもらっても困ると断ってきた。

王都の生活は無いが、かなり裕福な暮らしが約束されていることは伝えなかった。


学園も卒業して研究所に進学したが、まだ決まらない。

コルト兄上が跡継ぎだから、私は妻を娶らずに領地で仕事をして一生を終えようと思うようになっていた。

そんなときにシルビア嬢に出会った。

こんな姿の私に親切に助けの手を差し伸べ、嫌がることなく花や草の話を聞いて、ダンスも踊ってくれると言った。


王宮メイドに頼んでしっかりとした身支度をしてもらった。久しぶりに眼鏡を外し髪をあげた。

黒髪は人気が無い。瞳の色もすごく薄い。
だけどシルビアは喜んでいた。

「黒髪 落ち着く~!
おめめもハスキーみたいでカッコいいですね!」

若干何言っているのか分からなかったが褒めてくれたようだ。


平凡なものか。

シルビア嬢は魅力で溢れている。

伯爵に甘えるシルビア嬢、
カイン殿に甘えるシルビア嬢、
庭園のシルビア嬢、
ダンスを踊るシルビア嬢、
契約の話に待ったをかけるシルビア嬢。




父「聞いているのか、ヘンリー」

私「あ、すみません」

父「決まりだ。返事をするぞ」



朝食をもらい、父上が伯爵達に返事を出した。

父「シャンプー、トリートメント、ボディソープ、保湿クリーム。其々に30種分の契約金を支払います。
その代わり、独占で未来永劫コーデュロウの物に。
よろしいですか」

伯爵「ありがとうございます。

ただ、昨晩お使いになったように、我が家では普段使いです。あの4品だけは引き続きペッシュナーで作り使いたいのです。勿論 販売や譲渡はしません」

父「異論はありません」

伯爵「では締結ということで」

二人が契約書の確認と署名をしている間にシルビア嬢に尋ねた。

私「教えてくれないか。他にも案があるのだろう?」

シ「洗顔料やボディソープや歯磨き粉に加えるものは香りだけではありません。
例えば炭です。汚れを綺麗にして肌を美しくしてくれます。渋柿も消臭など衛生面で良しとされます。
どのように加えるのかは分かりません」

兄「炭って黒いよね」

シ「煤だらけみたいにはなりません」

兄「使ったことがあるとか?」

シ「秘密です。

渋柿の消臭は加齢に伴う臭いにも効くのだとか。足の臭いにもいいらしいですよ。

炭でも渋柿でも歯磨き粉にすれば口内環境が改善する方が現れるでしょう」

父「シルビアちゃん。うちに遊びにおいで」

ち、父上!?

兄「そうだよシルビアちゃん。好きなものを用意するよ?」

父「ケーキかな?」

兄「お肉かな?」

伯爵「公爵?」

父「才能豊かな素敵なご令嬢ですね。伯爵にそっくりで可愛い」

伯爵「シーちゃん。行ってきてもいいんだよ」

シ「私は領地でのんびりと、」

父「うちでのんびりしていいんだからね」

兄「不自由はないよ」

シ「じゃあ、白米を炊いたもの、味噌、漬物、刺身、煮魚、豆腐が食べたいです」

父「初めて聞くな」

兄「何でしょう」

シ「多分遠い東の国の食べ物です」

父「物知りなのだな」

兄「城の外交官がご存知かもしれませんね」

シ「そんな遠くからの輸入は割りにあいませんわ」

兄「意地悪をしたのかな?」

シ「それらを食べたいと切に願っているのは本当です」

父「調査してからにしよう」

兄「そうですね」


コーデュロウ邸に戻ると父上と兄上は私からシルビア嬢の情報を聞き出そうとしていたが、答えられるほど親しくもない。
花や植物の話ばかりするのではなく、彼女のことを聞き出すべきだった反省した。






 
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