20 / 37
コーデュロウ家の契約
しおりを挟む
【 ヘンリーの視点 】
翌早朝、ガウンを着た父上と兄上が私の客室へ来て話し合いを開始した。
私「どうですか」
父「優しい香りだ。全く邪魔にならない」
兄「肌も髪の毛もすべすべですね」
父「艶もある」
兄「欲しいですね」
父「だけどこの香りは売らないんだな?」
私「はい。少しでも香りを変えて販売して欲しいそうです」
父「何故だ」
私「さあ」
兄「自分だけの香りとしたいのですかね」
私「かもしれません」
兄「しかし、随分と可愛がられていますね」
父「17歳に見えないな」
兄「確かに。パーティでは化粧もあって相応に見えましたが、屋敷では違いますね」
父「コーデュロウ公爵家について教えてもらったようだな」
兄「着飾った庭師か…ハハッ」
眼鏡を探していたあの時、親切なシルビア嬢は声を掛けてくれた。
探し物を伝えると頭を指差した。
過去一番 恥ずかしかった。
私のボサボサ頭にも気にせず笑顔で対応してくれる令嬢ともう少し話してみたくて庭園の散歩に誘った。
花や草の説明をつい夢中でしてしまった。
大抵の令嬢は興味がない。最初は聞くが すぐに興味がない目をする。
見合いのときも、コーデュロウ家との繋がりが欲しくて親が娘を連れてくるが、私を見た令嬢は顔が強張る。
“嫌だ”と口にする子もいた。
私は次男だから公爵にはなれない。だけど領地を預かり栽培の責任者になる。
つまり私の妻はずっと領地にいて自然と触れ合うことになる。コーデュロウ夫人とは呼ばれるが公爵夫人とは呼ばれない。
コーデュロウから抜けて、父上が持つ 子爵位を与えてもらうこともできる。
だが、田舎管理を任される子爵位は人気がない。
親達はそれでも構わないと乗り気だ。
実際に嫁に来て暮らす者が嫌々なら、嫁いで来てもらっても困ると断ってきた。
王都の生活は無いが、かなり裕福な暮らしが約束されていることは伝えなかった。
学園も卒業して研究所に進学したが、まだ決まらない。
コルト兄上が跡継ぎだから、私は妻を娶らずに領地で仕事をして一生を終えようと思うようになっていた。
そんなときにシルビア嬢に出会った。
こんな姿の私に親切に助けの手を差し伸べ、嫌がることなく花や草の話を聞いて、ダンスも踊ってくれると言った。
王宮メイドに頼んでしっかりとした身支度をしてもらった。久しぶりに眼鏡を外し髪をあげた。
黒髪は人気が無い。瞳の色もすごく薄い。
だけどシルビアは喜んでいた。
「黒髪 落ち着く~!
おめめもハスキーみたいでカッコいいですね!」
若干何言っているのか分からなかったが褒めてくれたようだ。
平凡なものか。
シルビア嬢は魅力で溢れている。
伯爵に甘えるシルビア嬢、
カイン殿に甘えるシルビア嬢、
庭園のシルビア嬢、
ダンスを踊るシルビア嬢、
契約の話に待ったをかけるシルビア嬢。
父「聞いているのか、ヘンリー」
私「あ、すみません」
父「決まりだ。返事をするぞ」
朝食をもらい、父上が伯爵達に返事を出した。
父「シャンプー、トリートメント、ボディソープ、保湿クリーム。其々に30種分の契約金を支払います。
その代わり、独占で未来永劫コーデュロウの物に。
よろしいですか」
伯爵「ありがとうございます。
ただ、昨晩お使いになったように、我が家では普段使いです。あの4品だけは引き続きペッシュナーで作り使いたいのです。勿論 販売や譲渡はしません」
父「異論はありません」
伯爵「では締結ということで」
二人が契約書の確認と署名をしている間にシルビア嬢に尋ねた。
私「教えてくれないか。他にも案があるのだろう?」
シ「洗顔料やボディソープや歯磨き粉に加えるものは香りだけではありません。
例えば炭です。汚れを綺麗にして肌を美しくしてくれます。渋柿も消臭など衛生面で良しとされます。
どのように加えるのかは分かりません」
兄「炭って黒いよね」
シ「煤だらけみたいにはなりません」
兄「使ったことがあるとか?」
シ「秘密です。
渋柿の消臭は加齢に伴う臭いにも効くのだとか。足の臭いにもいいらしいですよ。
炭でも渋柿でも歯磨き粉にすれば口内環境が改善する方が現れるでしょう」
父「シルビアちゃん。うちに遊びにおいで」
ち、父上!?
兄「そうだよシルビアちゃん。好きなものを用意するよ?」
父「ケーキかな?」
兄「お肉かな?」
伯爵「公爵?」
父「才能豊かな素敵なご令嬢ですね。伯爵にそっくりで可愛い」
伯爵「シーちゃん。行ってきてもいいんだよ」
シ「私は領地でのんびりと、」
父「うちでのんびりしていいんだからね」
兄「不自由はないよ」
シ「じゃあ、白米を炊いたもの、味噌、漬物、刺身、煮魚、豆腐が食べたいです」
父「初めて聞くな」
兄「何でしょう」
シ「多分遠い東の国の食べ物です」
父「物知りなのだな」
兄「城の外交官がご存知かもしれませんね」
シ「そんな遠くからの輸入は割りにあいませんわ」
兄「意地悪をしたのかな?」
シ「それらを食べたいと切に願っているのは本当です」
父「調査してからにしよう」
兄「そうですね」
コーデュロウ邸に戻ると父上と兄上は私からシルビア嬢の情報を聞き出そうとしていたが、答えられるほど親しくもない。
花や植物の話ばかりするのではなく、彼女のことを聞き出すべきだった反省した。
翌早朝、ガウンを着た父上と兄上が私の客室へ来て話し合いを開始した。
私「どうですか」
父「優しい香りだ。全く邪魔にならない」
兄「肌も髪の毛もすべすべですね」
父「艶もある」
兄「欲しいですね」
父「だけどこの香りは売らないんだな?」
私「はい。少しでも香りを変えて販売して欲しいそうです」
父「何故だ」
私「さあ」
兄「自分だけの香りとしたいのですかね」
私「かもしれません」
兄「しかし、随分と可愛がられていますね」
父「17歳に見えないな」
兄「確かに。パーティでは化粧もあって相応に見えましたが、屋敷では違いますね」
父「コーデュロウ公爵家について教えてもらったようだな」
兄「着飾った庭師か…ハハッ」
眼鏡を探していたあの時、親切なシルビア嬢は声を掛けてくれた。
探し物を伝えると頭を指差した。
過去一番 恥ずかしかった。
私のボサボサ頭にも気にせず笑顔で対応してくれる令嬢ともう少し話してみたくて庭園の散歩に誘った。
花や草の説明をつい夢中でしてしまった。
大抵の令嬢は興味がない。最初は聞くが すぐに興味がない目をする。
見合いのときも、コーデュロウ家との繋がりが欲しくて親が娘を連れてくるが、私を見た令嬢は顔が強張る。
“嫌だ”と口にする子もいた。
私は次男だから公爵にはなれない。だけど領地を預かり栽培の責任者になる。
つまり私の妻はずっと領地にいて自然と触れ合うことになる。コーデュロウ夫人とは呼ばれるが公爵夫人とは呼ばれない。
コーデュロウから抜けて、父上が持つ 子爵位を与えてもらうこともできる。
だが、田舎管理を任される子爵位は人気がない。
親達はそれでも構わないと乗り気だ。
実際に嫁に来て暮らす者が嫌々なら、嫁いで来てもらっても困ると断ってきた。
王都の生活は無いが、かなり裕福な暮らしが約束されていることは伝えなかった。
学園も卒業して研究所に進学したが、まだ決まらない。
コルト兄上が跡継ぎだから、私は妻を娶らずに領地で仕事をして一生を終えようと思うようになっていた。
そんなときにシルビア嬢に出会った。
こんな姿の私に親切に助けの手を差し伸べ、嫌がることなく花や草の話を聞いて、ダンスも踊ってくれると言った。
王宮メイドに頼んでしっかりとした身支度をしてもらった。久しぶりに眼鏡を外し髪をあげた。
黒髪は人気が無い。瞳の色もすごく薄い。
だけどシルビアは喜んでいた。
「黒髪 落ち着く~!
おめめもハスキーみたいでカッコいいですね!」
若干何言っているのか分からなかったが褒めてくれたようだ。
平凡なものか。
シルビア嬢は魅力で溢れている。
伯爵に甘えるシルビア嬢、
カイン殿に甘えるシルビア嬢、
庭園のシルビア嬢、
ダンスを踊るシルビア嬢、
契約の話に待ったをかけるシルビア嬢。
父「聞いているのか、ヘンリー」
私「あ、すみません」
父「決まりだ。返事をするぞ」
朝食をもらい、父上が伯爵達に返事を出した。
父「シャンプー、トリートメント、ボディソープ、保湿クリーム。其々に30種分の契約金を支払います。
その代わり、独占で未来永劫コーデュロウの物に。
よろしいですか」
伯爵「ありがとうございます。
ただ、昨晩お使いになったように、我が家では普段使いです。あの4品だけは引き続きペッシュナーで作り使いたいのです。勿論 販売や譲渡はしません」
父「異論はありません」
伯爵「では締結ということで」
二人が契約書の確認と署名をしている間にシルビア嬢に尋ねた。
私「教えてくれないか。他にも案があるのだろう?」
シ「洗顔料やボディソープや歯磨き粉に加えるものは香りだけではありません。
例えば炭です。汚れを綺麗にして肌を美しくしてくれます。渋柿も消臭など衛生面で良しとされます。
どのように加えるのかは分かりません」
兄「炭って黒いよね」
シ「煤だらけみたいにはなりません」
兄「使ったことがあるとか?」
シ「秘密です。
渋柿の消臭は加齢に伴う臭いにも効くのだとか。足の臭いにもいいらしいですよ。
炭でも渋柿でも歯磨き粉にすれば口内環境が改善する方が現れるでしょう」
父「シルビアちゃん。うちに遊びにおいで」
ち、父上!?
兄「そうだよシルビアちゃん。好きなものを用意するよ?」
父「ケーキかな?」
兄「お肉かな?」
伯爵「公爵?」
父「才能豊かな素敵なご令嬢ですね。伯爵にそっくりで可愛い」
伯爵「シーちゃん。行ってきてもいいんだよ」
シ「私は領地でのんびりと、」
父「うちでのんびりしていいんだからね」
兄「不自由はないよ」
シ「じゃあ、白米を炊いたもの、味噌、漬物、刺身、煮魚、豆腐が食べたいです」
父「初めて聞くな」
兄「何でしょう」
シ「多分遠い東の国の食べ物です」
父「物知りなのだな」
兄「城の外交官がご存知かもしれませんね」
シ「そんな遠くからの輸入は割りにあいませんわ」
兄「意地悪をしたのかな?」
シ「それらを食べたいと切に願っているのは本当です」
父「調査してからにしよう」
兄「そうですね」
コーデュロウ邸に戻ると父上と兄上は私からシルビア嬢の情報を聞き出そうとしていたが、答えられるほど親しくもない。
花や植物の話ばかりするのではなく、彼女のことを聞き出すべきだった反省した。
273
お気に入りに追加
1,471
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。
ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」
そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。
真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。
「…………ぷっ」
姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。
当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。
だが、真実は違っていて──。
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる