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ライアン達の子
愛されない令嬢
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【 パトローヌ侯爵家 ビクトリアの視点 】
お茶を飲みながら、お父様は耳打ちされた話に溜息をついた。
「没落に向かっていたマキシア伯爵邸は焼失したそうだ」
「え?」
「一家は全員死亡。僅かに残っていた使用人は外で倒れていて、私兵は居なかったようだ。
既に辞めていたのか逃げたのか」
「事故…ですか」
「事件だな。捜査はされないだろう」
「何故されないのですか」
「演習場にいたメンバーを見ただろう。
バトラーズ公爵家は敵に回してはならないということだ」
「バトラーズ公爵家の仕業という意味でしょうか」
「さあな。気持ちを汲んだ誰かかもしれない」
「バトラーズ家のお嬢さんが勝つとは」
お兄様が興味を持ったようだ。
「間違ってマキシアの私兵が勝っていたら、その場で夫妻が皆殺しにしたかもな」
「ふ~ん。長男は?」
「普通だな」
「リリアンか。婚約者は誰ですか」
「居ない。…お前は新婚だろう」
「何で候補に入らなかったのでしょう」
「悪い噂に隠れていたんだ。子供の頃に令嬢らしくないとか何とか噂が立って、その後表に出てこなかった。王宮行事にさえ出なかったから、噂は本当で、もしくはそれ以上悪くて王族さえ出て欲しくないと思うほどだと思ったが、バトラーズ家と王家の結びつきが強くて一緒に隠したのだと分かったよ」
「見たかったですね。顔はどうなんですか」
「公爵似の美人だ。子供のようなところもある。
試合が終わると“パパ”と言いながら公爵に抱きついていたし、先生と呼ばれる者にも抱きついていた。
一般兵が一人だけいたが、頭を撫でていた。
周囲が令嬢を子供扱いして閉じ込めているのだな」
「閉じ込める?」
「女にならないようにしているんだよ。
婚約者を決めないのも、夜会に姿を現さないのも、虫をつけさせないためだろうな。婚約者でさえ虫なのだろう」
「婚期が遅れますよね」
「嫁がせるつもりがないのだろう。王子妃の選定にさえ現れなかったからな」
「公爵は娘を溺愛しているのですね」
「溺愛する妻が産んだ自分そっくりの娘だからな」
「夫人は平凡なのに」
「生まれも顔も平凡だが、公爵は溺愛している。
夫人も帯剣していたから手練れなのかもしれない」
「リリアンを裏切って浮気でもしたら命が無さそうですね」
「かもな。
学園に通い始めたし、次の王妃殿下のパーティは来るんじゃないか?」
「それは楽しみだ」
兄のウィリアムは私の二歳上で去年婚姻した。
大人しくて従順な令嬢を選んだ。
婚約時代に、何故彼女なのか聞いたことがある。
“家では従順な方がいい”
彼女は外でも大人しく従順だ。つまり彼女のことを言っていない。兄は外で女遊びをしているか、愛人でもいるのだろう。
「ブロース公爵は夫妻が離縁。息子に爵位を渡して領地へ。娘二人は修道院と教会の収容所だ」
「収容所?」
「悪魔が憑いたことにしたのだろう。
醜聞違いではあるが、悪魔憑きの方がマシだと思わせるほど誤魔化したい何かがあるのだろう。
ボルサナード伯爵家は跡継ぎの変更があった。
伯爵の侍従と関係があった事が分かり、薄々自分に似ていないと思っていた伯爵が問い詰めたら、子息を孕んだ時期には既に関係を持っていたようだ。
今更誰かが伯爵に教えたのだろう。
次男の方は伯爵にそっくりなので疑いようがないから変更で済んだ。
お前の友人だったペリーヌ嬢は婚約は解消された。
新たな嫁ぎ先を探したようだがどこも断られ、唯一手を挙げたのは社交から身を引いている、かなり田舎に屋敷を構える男爵だ。支援を条件に受け入れると言ったらしい。確か40過ぎていて初婚だ。
貴族でも容姿も劣る貧乏な田舎男爵だと嫁が来ないらしい。平民からも断られたそうだ。
跡継ぎを早く産ませたいから、即婚姻だったようだ。つまり今は男爵夫人だな。
いつまで夫人で居られるかはわからんがな」
「え?」
「ボルサナード家は大きく傾いている。
持ち直しが出来なければ男爵家に支援など出来ないからな」
「傾いてるのですか」
「あそこは彫金で財を得ている領地だ。だが急激にベテラン達が辞めて他所に移っている。
コンチーニ子爵家は王都の屋敷を売却した。
子爵領の製品がまるで売れないそうだ。シドニー嬢も破棄された」
「ビクトリアはバトラーズ公爵家と婚約させれば良かったかもしれませんね」
「だが王子妃、王妃の称号は公爵家では得られまい」
「ならリリアンを娶れば良かったかな」
「彼女は従順ではないぞ」
「女になれば変わりますよ」
「ビクトリア。友人達のせいで印象が悪い。
ちゃんと殿下と交流を持って婚約者の座を揺るぎないものにしなさい」
「…はい、お父様」
私とゼイン殿下は政略結婚になる。
婚約者と決まったときも、変わらぬ微笑み。
彼の微笑みは皆に同じ。
つまり私もその辺の令嬢も彼には同じなのだろう。
唯一、いろいろな表情を見せるのはリリアン・バトラーズの前だけ。
ゼイン殿下はリリアン嬢のことなど気に留めていなかった。姿を現さない令嬢にああ居たなという感じ。
学園でリリアン嬢の兄と学友になってから、アンベール公子が語るリリアン嬢の日常を楽しそうに聞いていた。
嫌な予感がした。
お茶を飲みながら、お父様は耳打ちされた話に溜息をついた。
「没落に向かっていたマキシア伯爵邸は焼失したそうだ」
「え?」
「一家は全員死亡。僅かに残っていた使用人は外で倒れていて、私兵は居なかったようだ。
既に辞めていたのか逃げたのか」
「事故…ですか」
「事件だな。捜査はされないだろう」
「何故されないのですか」
「演習場にいたメンバーを見ただろう。
バトラーズ公爵家は敵に回してはならないということだ」
「バトラーズ公爵家の仕業という意味でしょうか」
「さあな。気持ちを汲んだ誰かかもしれない」
「バトラーズ家のお嬢さんが勝つとは」
お兄様が興味を持ったようだ。
「間違ってマキシアの私兵が勝っていたら、その場で夫妻が皆殺しにしたかもな」
「ふ~ん。長男は?」
「普通だな」
「リリアンか。婚約者は誰ですか」
「居ない。…お前は新婚だろう」
「何で候補に入らなかったのでしょう」
「悪い噂に隠れていたんだ。子供の頃に令嬢らしくないとか何とか噂が立って、その後表に出てこなかった。王宮行事にさえ出なかったから、噂は本当で、もしくはそれ以上悪くて王族さえ出て欲しくないと思うほどだと思ったが、バトラーズ家と王家の結びつきが強くて一緒に隠したのだと分かったよ」
「見たかったですね。顔はどうなんですか」
「公爵似の美人だ。子供のようなところもある。
試合が終わると“パパ”と言いながら公爵に抱きついていたし、先生と呼ばれる者にも抱きついていた。
一般兵が一人だけいたが、頭を撫でていた。
周囲が令嬢を子供扱いして閉じ込めているのだな」
「閉じ込める?」
「女にならないようにしているんだよ。
婚約者を決めないのも、夜会に姿を現さないのも、虫をつけさせないためだろうな。婚約者でさえ虫なのだろう」
「婚期が遅れますよね」
「嫁がせるつもりがないのだろう。王子妃の選定にさえ現れなかったからな」
「公爵は娘を溺愛しているのですね」
「溺愛する妻が産んだ自分そっくりの娘だからな」
「夫人は平凡なのに」
「生まれも顔も平凡だが、公爵は溺愛している。
夫人も帯剣していたから手練れなのかもしれない」
「リリアンを裏切って浮気でもしたら命が無さそうですね」
「かもな。
学園に通い始めたし、次の王妃殿下のパーティは来るんじゃないか?」
「それは楽しみだ」
兄のウィリアムは私の二歳上で去年婚姻した。
大人しくて従順な令嬢を選んだ。
婚約時代に、何故彼女なのか聞いたことがある。
“家では従順な方がいい”
彼女は外でも大人しく従順だ。つまり彼女のことを言っていない。兄は外で女遊びをしているか、愛人でもいるのだろう。
「ブロース公爵は夫妻が離縁。息子に爵位を渡して領地へ。娘二人は修道院と教会の収容所だ」
「収容所?」
「悪魔が憑いたことにしたのだろう。
醜聞違いではあるが、悪魔憑きの方がマシだと思わせるほど誤魔化したい何かがあるのだろう。
ボルサナード伯爵家は跡継ぎの変更があった。
伯爵の侍従と関係があった事が分かり、薄々自分に似ていないと思っていた伯爵が問い詰めたら、子息を孕んだ時期には既に関係を持っていたようだ。
今更誰かが伯爵に教えたのだろう。
次男の方は伯爵にそっくりなので疑いようがないから変更で済んだ。
お前の友人だったペリーヌ嬢は婚約は解消された。
新たな嫁ぎ先を探したようだがどこも断られ、唯一手を挙げたのは社交から身を引いている、かなり田舎に屋敷を構える男爵だ。支援を条件に受け入れると言ったらしい。確か40過ぎていて初婚だ。
貴族でも容姿も劣る貧乏な田舎男爵だと嫁が来ないらしい。平民からも断られたそうだ。
跡継ぎを早く産ませたいから、即婚姻だったようだ。つまり今は男爵夫人だな。
いつまで夫人で居られるかはわからんがな」
「え?」
「ボルサナード家は大きく傾いている。
持ち直しが出来なければ男爵家に支援など出来ないからな」
「傾いてるのですか」
「あそこは彫金で財を得ている領地だ。だが急激にベテラン達が辞めて他所に移っている。
コンチーニ子爵家は王都の屋敷を売却した。
子爵領の製品がまるで売れないそうだ。シドニー嬢も破棄された」
「ビクトリアはバトラーズ公爵家と婚約させれば良かったかもしれませんね」
「だが王子妃、王妃の称号は公爵家では得られまい」
「ならリリアンを娶れば良かったかな」
「彼女は従順ではないぞ」
「女になれば変わりますよ」
「ビクトリア。友人達のせいで印象が悪い。
ちゃんと殿下と交流を持って婚約者の座を揺るぎないものにしなさい」
「…はい、お父様」
私とゼイン殿下は政略結婚になる。
婚約者と決まったときも、変わらぬ微笑み。
彼の微笑みは皆に同じ。
つまり私もその辺の令嬢も彼には同じなのだろう。
唯一、いろいろな表情を見せるのはリリアン・バトラーズの前だけ。
ゼイン殿下はリリアン嬢のことなど気に留めていなかった。姿を現さない令嬢にああ居たなという感じ。
学園でリリアン嬢の兄と学友になってから、アンベール公子が語るリリアン嬢の日常を楽しそうに聞いていた。
嫌な予感がした。
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