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ライアン達の子

制裁を受ける三人 2

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【 ボルサナード伯爵家 ペリーヌの視点 】


 登校時間の1時間前に学園に着き、外周の掃除を始めた。だけど敷地が広く慣れない私達は進みが悪かった。しかも馬糞が所々落ちていた。

次第に登校の馬車が到着し始めた。
ほとんどの者が私達を一瞥して行った。

授業の時間になってしまうので教室に入った。

クラスメイトから聞かれたけどボランティアと答えた。

生徒が帰って馬車乗り場の掃除になった。待機場まで含めても外周よりは範囲が狭い。だけど……

まさか馬糞の掃除だったなんて……

やっているうちに私達は怒りが込み上げてきた。

「冗談じゃないわ!伯爵令嬢なのよ!」

「ちょっと注意したくらいでこんな罰はおかしいわ!」

「抗議しましょう!」

学園長室に行き、抗議をしたが無駄だった。

“君達は偽証罪と不敬罪を言い渡されたのではないのかな?”

つまり増やした罪の分、こうなったのだと言いたいのだろう。

何とか終わらせたが、本来の掃除係の男が不十分だと言う。

「だったら貴方がやりなさいよ!」

私達は怒りに任せて帰ってしまった。




 翌日、昨日よりも早く行くと掃除が始まっていた。

そうよ。こんな罰はあってはならないのだと理解したようね。
そんなことを思いながら教室で授業が始まるのを待っていた。

そして登校時間に近付くと。

ガラッ

教室に兵士と学園長が入ってきた。

「馬車降り場へ来なさい」

三人は生徒が馬車から降りる場所に連れてこられた。

「さあ、これを三人で立て掛けなさい」

薄い板に“私達は三人で言いがかりを付けて一人の下級生を何度も虐めました” と大きく書いてあった。

「こんなの…おかしいわ!私達は昨日、」

「不十分だと言われたのに掃除を押し付けて帰ってしまったから違反だ。今朝もやらなかったじゃないか」

「今朝は既にやっている人がいたからです!」

「それでもやらなければならなかった。犯罪に対する処罰なのだから。さあ、早くしなさい。
拒否すればこちらの兵士の方々が逮捕しますよ」

屈辱的だった。

生徒達が凝視したり、汚いモノを見るかの様な蔑んだ目を向けたり、笑われたり、指を刺されたりした。

生徒会長も、ビクトリア様も、密かな憧れていた令息も私たちの顔と文字を見て行った。

ゼイン殿下は一瞥すると、

「おはよう。よく似合ってるよ」

と微笑んで通り過ぎて行った。

恥ずかしくて悔しくて涙が出て、ハンカチで顔を覆った。

「ボルサナード嬢。顔を隠してはならない。
ハンカチを使えるのは鼻血が出たか吐血したときだけだ。日数が増えるぞ」

「っ!!」



教室に戻ると、別世界が始まった。
皆が私達を無視し始めた。クラスの違うセロン様も同じだった。ヒソヒソとコチラを見ながら何か言っている。
ものすごく居心地が悪かった。

食堂へ三人で行くと針の筵だ。

人気のない席で食べ終えた時に冷たい液体がかかった。

「あら、ごめんなさい」

「ちょっと!貴女!」

「あなた方の様に下級生を複数人で虐めるような真似はしていないわ。ちょっとグラスが傾いただけじゃない。水はすぐに乾くわ」

下級生の高位貴族だった。

急いで食堂を出ようとトレイを持ち、返却口に向かうと足が引っ掛かって転んでしまった。

床には何もない。誰かが足を引っ掛けたのだ。

「誰!!」

「早く片付けろよ」

「ちゃんと後始末しろよ」

「馬糞の方がいいか?」

「お前ら鏡見てこいよ、よくあんな美人の歳下に寄ってたかって虐めなんてできるよな」

「だからだよ。美人が許せないのさ」

「あの子は冷たそうに見えるけど優しい子だぞ。
 具合が悪くて粗相をした子を助けてたからな」

「見たよ。天使かと思ったよ」

「昔怪我をさせた三年と仲良くしてるくらいだ。慈悲深いんだよ」

「一緒に食べているのを見てびっくりしたよな。
聞いたら、あれからずっと家族ぐるみで交流があるらしい」

「俺の妹、小さいんだけど馬車で迎えに来た時に外に出て近くにいたバトラーズ嬢にしがみついたんだよ。そうしたら笑顔で頭を撫でて抱きしめてくれたんだ。後光が見えた。お迎えかと思ったよ」

「俺も抱きしめて撫でて貰いたい」

「変態は近寄るな。天使が汚れるだろう」

「殿下に殺されるぞ」

「それでもいい」

「マジで止めろ」


つまり男子生徒達は悪女の味方で、足を掛けたのもこいつらの中の一人なのね!

「私は伯爵家の娘なのよ!!」

食堂が静まり返り、皆が私に注目した。声が大き過ぎたのだ。

「うわっ、聞いたか?」

「聞いた。“皆の者!伯爵令嬢に平伏しなさい!”ってやつだ」

「俺だって伯爵家の者だけど?」

「私も侯爵家の嫡男だが?」

「公爵家の三男じゃ、ゴミですか?」

「嫌だわみっともない」

「もう終わったわね」

「週末のお茶会の話題ができたわ」

「僕の婚約者はそんな子じゃないと思うけど、醜い真似はするなって言っておかないとな」

「あんなの迎えたら使用人イビリや、親戚の女の子を虐めそうで、私なら破棄するな」

「あいつの婚約者の知り合いがいたら忠告してやれよ、貴族の皮を被った悪女だから気をつけろって」

“悪女”…あの女のことなのに、私に悪女!?

「ペリーヌ様、早く行きましょう」

「ここにいてはいけませんわ」

「悪女はあの女のでしょう!!
見てごらんなさい!令息達を誑かしてるじゃない!ゼイン王子殿下まで洗脳しちゃって!
悪女はあの女よ! キャッ!」

また飲み物を顔にかけられた。

「リリアンを侮辱するならバトラーズ公爵家が全力で相手をするぞ」

怒りの眼差しを向けながら言い放つのは、大人しいはずのアンベール・バトラーズだった。

「何でそんなに頭悪いかな。お前の姉君は素晴らしいレディなのに。

君達はリリアンへのと陛下への偽証罪と不敬罪の刑を大目に見てもらって、たった一週間の奉仕活動で済ませてもらってるのにさ、何なの?

不満気な顔してるね。

不敬罪で処刑された人や爵位を剥奪された人達が不満気に君達を見ているよ」

嘲笑うのはジャノ・ブレンデル。宰相の息子であり侯爵家の次男だった。


「ボルサナード家は余程ご立派な家門なのだろう。
実子がこれだけのことをやらかしても無事でいられると思うのだからな」

「父に取り引きを考え直した方がいいって報告しなきゃ」

「あの、二ヶ月前に招待したお茶会ですが、遠慮していただいてもよろしいでしょうか」

「うちも」

「俺のところも送ってたら破り捨ててくれな」

次々と令息や令嬢達が声を上げた。


「二度とリリアンのことは口にするな」

「アンベール、終わったか」

「はい、殿下。

リリアンおいで。可哀想に。
何度も待ち伏せされては罵られ脅迫されたのに、相手は全然懲りてないから当分は教室まで送り迎えするよ」

「大丈夫ですわ、お兄様。
他のお姉様方が優しくしてくださって、勇気をいただけましたわ」

「心も綺麗な上級生の令嬢が沢山いるのだな。
名前を覚えているか?」

「はい。同じ学年のご令嬢にも慰めの言葉をいただきました。帰ったらお母様に報告しますわ」

「リリアン。私にも教えてくれ。ここにいる者で名前がわかる生徒はいるか?」

「あちらのテーブルのフォレスト伯爵令嬢とワグナワ子爵令嬢。
こちらのテーブルのマルフィノ子爵令嬢とボッティーニ男爵令嬢とロマン男爵令嬢。
そちらのププティナ侯爵令嬢とビッテル子爵令嬢です、殿下」

「7名のご令嬢方に感謝する。リリアンは妹同然の子だ。私が馴々しくするから意地悪されるんだと怒られたのを聞いていた者もいるだろう。

アンベールの妹だからというのは大きいが、リリアン自身も素直ないい子だ。人と変わった所はあるがそれは罪ではない。時に才ある者は他と浮いてしまうことがある。リリアンもソレだ。

私達は才ある者のお陰で今の生活ができている。
例えばログ子爵家はかなり昔に発見した薬草は今も広く使われている。ログ子爵家のご先祖が草をよく観察し研究熱心だったからだ。

ログ子爵令息のデニス殿。感謝を伝えてくれるか」

「はい、殿下。必ず墓石の前で報告いたします」

「ピアソン伯爵家の御祖父はその昔、王妃殿下を狙う刺客から身を挺して守り抜いた英雄だ。

ピアソン伯爵令息のニコラス殿は英雄の孫だ。

その事件以前は、警備責任者と警備の配置についてよく対立した変わり者だと言われていたが、彼の指摘は間違っていなかった。

ニコラス殿、怪我を負い引退なさった英雄に感謝を伝えてくれないか」

「直ぐ伝えます。殿下のお言葉に報われます」

「ボルサナード嬢、マキシア嬢、コンチーニ嬢。
他にも多くの才ある者がいて、我らは感謝をしなければならない。自分達が凡人で他とは違う才ある者が異物と捉えるのは愚かだ。
次にリリアンを異物のように言えば、私が陛下に直訴して、重刑に変更してもらう。分かったな?」

「っ!……分かりました」








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