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ライアン達の子
溶けたわだかまり
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【 アンベールの視点 】
ゼイン殿下に訪問を受け入れてもらい王城にやってきた。
昨日の今日だからなのか不安そうな顔をなさっていた。
「ゼイン殿下、心より感謝を申し上げます」
「え?」
「殿下のお陰で私は救われました。
私はバトラーズ家の中で異物でした。
父も母も妹も、剣を握り弓を引き、馬を操り、気配を察知します。それもかなり優秀です。
ですが私は興味もなければ才もない凡人でした。
父は特に自身にそっくりなリリアンが可愛くて仕方がないようで、リリアンが望むようにさせます。
私はリリアンが他の令嬢達のように振る舞えないことに腹をたてていました。
直ぐに貴族の子供達の輪から弾かれました。
バトラーズ家の娘としてそれでは駄目だと注意をしましたが、リリアンは揺らぎませんでした。
そしてあの茶会での事件で、私はリリアンから、ただの同居人として接するから関わるなと告げられました。父からも次期公爵として相応しくないと。
不出来な私を嫌う父。更には妹にまで嫌がられる存在だと、私は諦めておりました。
ですが今回、嫌がらせを受けていることを父に報告すると褒められました。思い出せないほど久しぶりに褒められたのです。
リリアンが甘えん坊の泣き虫だったことを思い出しました。
父や母に叱られた日の夜は、ぬいぐるみを抱えて私のベッドに潜り込んで寝ていました。
虫が体に付いては泣いて、怖い夢を見ては泣いて、常に父に抱っこをせがみ、父が忙しくてかまえないと拗ねてどこかに隠れて屋敷の者総動員で捜索することもありました。
二日出てこなかったんですよ?
隙をみては出てきてトイレに行ったり菓子を摘み食いしていたようです。
父が大声で謝って、やっと出てきましたから。
厨房の近くの空き部屋の物入れに隠れていたようです。
そんなリリアンが、茶会などに出るたびに貴族の子供達から仲間外れにされたり意地悪をされたり、夫人達は見て見ぬふり。そして兄の私が味方でないと知ってリリアンは殻に閉じこもってしまいました。
リリアンは徐々に泣かなくなり、甘えなくなり、笑顔も口数も少なくなりました。
昨日、泣いて甘えるリリアンを見て己の過ちを痛感しました。それでもリリアンを守らず押し付けて殻に閉じ籠らせてしまった私に、歩み寄ってくれました。
殿下のお陰です。殿下がきっかけを作ってくれたのです。なんとお礼をお伝えすればいいのか…」
「えっと…喜びたいけど何だろう。抉られるような気分だよ。
それほどの状態のリリアンが泣くほど、私の一件が辛かったということだよね?」
「違います。リリアンは殿下の心を傷付けてしまったと思って泣いていたのです」
「私を傷付けた?」
「殿下が近付くことで迷惑しているとかいろいろ言ってしまったことをです。
殿下がリリアンを好きだからと仰って、そこで自分の物言いを思い出したようです」
「優しい子だな」
「殿下、リリアンからの伝言です。
“食堂で座るときはお兄様を間に座らせてください” “私だけではなく他の二人にも話しかけてください”だそうです」
「あ~!!」
「殿下!?」
「ちょっと叫びたくなった」
「……」
「王子辞めようかなって思ったりしてた」
「駄目ですよ!」
「分かってる。
リリアンは元気になったか?」
「ええ。控え室でお菓子でも食べていると思います」
「控え室?」
「はい。一緒に来ましたから」
ガシャン
殿下はローテーブルに足をぶつけながら立ち上がり、初めて見る表情をしていた。
「おまっ…早く言えよ!」
慌てて応接間から出ると控え室のドアを開けた。
余程慌てていたのだろう。ノックも無しだった。
「あ、殿下」
「兄上」
「…なんでオルテオがリリアンと?」
リリアンと仲良く菓子を食べていたのは第二王子のオルテオ殿下だった。
「綺麗な子が歩いていたのを見かけて追ってきました。友達になったところです。ね、リリアン」
「はい、殿下」
「テオって呼んでよ」
「テオ殿下」
「テオでいいよ」
「では間をとってテオ様で」
「そのうちテオって呼んでね」
「何でそんなに仲良くなってるのかな?」
「兄上がレディをひとりぼっちで長々と待たせるからじゃないですか。私なら最短ルートを全速力でリリアンの元に駆けつけますよ。
こんなに美しいリリアンをひとりぼっちになんてさせません。
これからリリアンと乗馬をしようと話していたところです」
「え?」
「僕の一昨年の服なら何とかなるかな?
ドレスよりいいよね」
そう言うとリリアンの手を取って立たせると連れて行こうとした。
「オルテオ殿下っ、妹は私が連れてきたのです」
「そうだろうね。
さあ、行こうか」
「オルテオ、私が先に、」
「え?約束をしたのはバトラーズ公子で、リリアンはついでに着いて来たと言っています。兄上と約束があったのですか?」
「そ、それは」
「では、僕の約束が優先です。リリアン、行こう」
また一難降りかかるの早過ぎだろう。
「お兄様、先に帰っていてください」
帰れるわけないだろう!
ゼイン殿下に訪問を受け入れてもらい王城にやってきた。
昨日の今日だからなのか不安そうな顔をなさっていた。
「ゼイン殿下、心より感謝を申し上げます」
「え?」
「殿下のお陰で私は救われました。
私はバトラーズ家の中で異物でした。
父も母も妹も、剣を握り弓を引き、馬を操り、気配を察知します。それもかなり優秀です。
ですが私は興味もなければ才もない凡人でした。
父は特に自身にそっくりなリリアンが可愛くて仕方がないようで、リリアンが望むようにさせます。
私はリリアンが他の令嬢達のように振る舞えないことに腹をたてていました。
直ぐに貴族の子供達の輪から弾かれました。
バトラーズ家の娘としてそれでは駄目だと注意をしましたが、リリアンは揺らぎませんでした。
そしてあの茶会での事件で、私はリリアンから、ただの同居人として接するから関わるなと告げられました。父からも次期公爵として相応しくないと。
不出来な私を嫌う父。更には妹にまで嫌がられる存在だと、私は諦めておりました。
ですが今回、嫌がらせを受けていることを父に報告すると褒められました。思い出せないほど久しぶりに褒められたのです。
リリアンが甘えん坊の泣き虫だったことを思い出しました。
父や母に叱られた日の夜は、ぬいぐるみを抱えて私のベッドに潜り込んで寝ていました。
虫が体に付いては泣いて、怖い夢を見ては泣いて、常に父に抱っこをせがみ、父が忙しくてかまえないと拗ねてどこかに隠れて屋敷の者総動員で捜索することもありました。
二日出てこなかったんですよ?
隙をみては出てきてトイレに行ったり菓子を摘み食いしていたようです。
父が大声で謝って、やっと出てきましたから。
厨房の近くの空き部屋の物入れに隠れていたようです。
そんなリリアンが、茶会などに出るたびに貴族の子供達から仲間外れにされたり意地悪をされたり、夫人達は見て見ぬふり。そして兄の私が味方でないと知ってリリアンは殻に閉じこもってしまいました。
リリアンは徐々に泣かなくなり、甘えなくなり、笑顔も口数も少なくなりました。
昨日、泣いて甘えるリリアンを見て己の過ちを痛感しました。それでもリリアンを守らず押し付けて殻に閉じ籠らせてしまった私に、歩み寄ってくれました。
殿下のお陰です。殿下がきっかけを作ってくれたのです。なんとお礼をお伝えすればいいのか…」
「えっと…喜びたいけど何だろう。抉られるような気分だよ。
それほどの状態のリリアンが泣くほど、私の一件が辛かったということだよね?」
「違います。リリアンは殿下の心を傷付けてしまったと思って泣いていたのです」
「私を傷付けた?」
「殿下が近付くことで迷惑しているとかいろいろ言ってしまったことをです。
殿下がリリアンを好きだからと仰って、そこで自分の物言いを思い出したようです」
「優しい子だな」
「殿下、リリアンからの伝言です。
“食堂で座るときはお兄様を間に座らせてください” “私だけではなく他の二人にも話しかけてください”だそうです」
「あ~!!」
「殿下!?」
「ちょっと叫びたくなった」
「……」
「王子辞めようかなって思ったりしてた」
「駄目ですよ!」
「分かってる。
リリアンは元気になったか?」
「ええ。控え室でお菓子でも食べていると思います」
「控え室?」
「はい。一緒に来ましたから」
ガシャン
殿下はローテーブルに足をぶつけながら立ち上がり、初めて見る表情をしていた。
「おまっ…早く言えよ!」
慌てて応接間から出ると控え室のドアを開けた。
余程慌てていたのだろう。ノックも無しだった。
「あ、殿下」
「兄上」
「…なんでオルテオがリリアンと?」
リリアンと仲良く菓子を食べていたのは第二王子のオルテオ殿下だった。
「綺麗な子が歩いていたのを見かけて追ってきました。友達になったところです。ね、リリアン」
「はい、殿下」
「テオって呼んでよ」
「テオ殿下」
「テオでいいよ」
「では間をとってテオ様で」
「そのうちテオって呼んでね」
「何でそんなに仲良くなってるのかな?」
「兄上がレディをひとりぼっちで長々と待たせるからじゃないですか。私なら最短ルートを全速力でリリアンの元に駆けつけますよ。
こんなに美しいリリアンをひとりぼっちになんてさせません。
これからリリアンと乗馬をしようと話していたところです」
「え?」
「僕の一昨年の服なら何とかなるかな?
ドレスよりいいよね」
そう言うとリリアンの手を取って立たせると連れて行こうとした。
「オルテオ殿下っ、妹は私が連れてきたのです」
「そうだろうね。
さあ、行こうか」
「オルテオ、私が先に、」
「え?約束をしたのはバトラーズ公子で、リリアンはついでに着いて来たと言っています。兄上と約束があったのですか?」
「そ、それは」
「では、僕の約束が優先です。リリアン、行こう」
また一難降りかかるの早過ぎだろう。
「お兄様、先に帰っていてください」
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