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ライアン(生まれ変わり)
パトリックのその後
しおりを挟む【 パトリックの視点 】
やっと令嬢モドキのグレースに別れを告げたのに、あの夜会から不運続きだった。
「パトリック!私の夜会でとんでもないことをしてくれたわね!」
叔母からは怒られ、
「使用人達や私の従姉妹とも関係を持つなんて!
不潔!最低だわ!もう二度と顔を見せないで!!」
カレンにフラれ、
「やり過ぎだよ。マニニック嬢よりもお前が非常識だと噂が立ってるぞ」
「流石に契約した相手を裏切って、あの場で辱めるのは不味いわ。信用問題よ」
友人には距離を置かれ、
「なんて事をしたんだ!しかも貴族達の前で!
居合わせた者全員がお前の非道の証人じゃないか!
マニニック家と婚約するのにどれだけ時間がかかったと思っているんだ!断られたのは一度や二度じゃないんだぞ!」
「え?断られてた!?」
「あの種が無ければ収益が7割近く無くなるというのに!」
父上からは殴られて、散々だった。
2週間後、父上に呼ばれて応接間に行った。
「パトリック様ですね?
代理人のロドナーと申します。
貴方とペンズリー伯爵家が訴えられました。
まず、使用人にお手付きをなさいましたね?
雇用側と使用人の間柄ですと強姦罪Ⅳが適用されます。11人連盟の訴状です。
そして4人の婚外子を作りましたね?
ご丁寧に貴方から、自分は面倒みないし認知しないから、堕胎するなり孤児院の前に捨てるなりするようにと手紙と端金を渡しましたね?
ペンズリー伯爵家の財力に見合った養育費の請求がきております。立て替えていた分もお支払いください。あと認知も希望なさっております。
カレン嬢の従姉妹二人と関係を持ちましたね?
お二人ともお相手から婚約破棄をされました。
お相手の令息方から慰謝料の請求がございます。
そしてマニニック嬢への慰謝料ですが、マニニック嬢と婚約してから破棄の日までの不貞に関する慰謝料9件分。
夜会のホールで他の参加者が取り囲む中での婚約破棄と罵ったことによる侮辱への慰謝料。
それに、婚約者の務めであるエスコートを拒否し、愛人をエスコートしましたね?そしてご自分で愛人がいると自白なさいました。
かなりの請求が届いております。
そして婚前契約書の中に、木ノ実の種に関する条項がありました。独占契約の反面、破棄すれば種の供給を絶たれてしまうことはご存知ですね?こちらはその通知書です」
父上が血相を変えてその通知を読んだ。
「来月から供給を断つだなんて…」
「明らかにパトリック様に非がありますから」
「全く納めてもらえないのですか」
「はい。ゼロです。
何せ破棄ですし、伝え方に問題がありましたので」
「許してはもらえないだろうか」
「そもそも、マニニック領の種をかなり安く買い占めて、美容クリームにしてものすごく高く売っていますね?
あの価格なら種の仕入れ値を10倍以上にしてもおかしくありません」
「10倍払おう」
「手遅れです。支援をして恩を押し付けて婚約まで強いたのに、肝心の種を安値で買い叩くなんて。
挙句ご子息がお嬢様に感謝しろと会うたびに仰って、浮気を繰り返し、婚外子まで作り、夜会で皆の前で破棄宣言。あり得ませんよ。
内情を知って新しい婚約者のバトラーズ公子が激怒なさっておいでです。種は絶対に卸してもらえませんよ」
「頼む!死活問題なんだ!」
「マニニック家にとってもそうでした。
それではお支払いをお待ちしております」
代理人が帰ると殴られた。
「うちの収益の7割は高級美容クリームの売り上げなんだぞ!種は絶対に必要な材料だったのにそれが無くなった挙句、慰謝料や養育費で貯えがなくなるなんて…」
「普通に仕入れたら良かったじゃないですか」
「普通に仕入れをしたら収益が減るだろう!」
適正価格で買わなかった父上のせいなのに。
「他所から仕入れたらいいじゃないですか」
「あれはマニニック家の領地の一部に群生する木ノ実の種だ。他領で生えているという報告がない。
うちに卸すからと、マニニック領で木を増やさせていたのに」
「木ですよね?すごく時間がかかるのでは?」
「木と言っても高さは私の身長程だ。もう少し待てば収益が何割も増えたのに!」
その後、私の周りの使用人は男か祖母の歳に近い女になった。
予算は激減。
頻繁に夜会にも行けず…というか招待状が回ってこない。
娼館にも通えない。
既に学園は卒業しているため、領地にある工場に送られた。
在庫の種が尽きて、本当に卸してもらえないようなら効果の薄い安価な美容クリームを作ることになる。
そこの責任者になった。
毎日同じことの繰り返し。
従業員に手を出したら除籍して追放すると言われ大人しくするしかない。
だけど年頃の体で平民達が誘いをかけてくる。
今は若い女より好き勝手できる慣れた歳上の女の方が良かった。我慢できなくて溜まりに溜まったモノをこれでもかと排出した。
すっかり楽にヤレるマーサが気に入り、人目を盗んでは突っ込んで排出する日々を送っていた。
そろそろ若い女に乗り換えようと思っていたら“妊娠した”と告げられた。
「避妊薬は」
「私は平民ですよ。貴族と違って簡単に購入できません。私の日給がいくらだと思っているのですか?
避妊薬一本で三日分の給金が消えるですよ?
パトリック様が与えてくださらなかったから、子を作るつもりなのだと思っていました」
「平民と子作りするわけがないだろう!」
「そうですか。ですが、子の認知と養育費、仕事に出ることができなくなるので生活費もお願いします」
まずい!まずい!
フードを深く被り、飲み屋で酒を奢り男達に聞いたら、闇市で堕胎薬を売っているらしい。
早速言われた場所に行って購入し、マーサにこっそり飲ませたその翌日からマーサは工場に姿を現さなかった。
何日かして父上がやってきた。
「パトリック。
マーサに堕胎薬を飲ませたな?」
「私なわけがありません」
「お前とマーサの関係は工場内で周知の事実だ。
ところ構わず盛っていたらバレるに決まっているだろう。
マーサは日記をつけていた。お前の子を孕ったことも、それをお前に告げたことも。
その翌日に堕胎薬によって死ねばお前が犯人だ」
「死んだ!? 胎の子が流れるだけじゃ」
「どこまで無知で馬鹿なんだ。
子を殺す薬が安全なわけがないだろう!
あんな危険な物を飲ませるなんて!
どれだけの痛みの中で苦しんで死んだか見せてやる!」
そう言われて連れてこられたのは町はずれのマーサの小屋だった。
玄関外には血溜まりができていた。
「助けを求めて外に出たところで事切れた」
玄関を開けると家の中はまさに血の海だった。壁にも血の手形が沢山付いていた。それは玄関の外まで続く。
「出血しながら激痛で家中のたうち回ったのが分かる。拷問の上の殺人だ。コレを見たら誰もが納得するだろう」
「マーサが悪いのです!ちゃんと避妊をしないから!」
「平民の工場勤めの給金で買えるわけがないだろう。孕ませたくなければ、お前が用意して目の前で飲ませるんだよ。
お前は言いつけを破ったので除籍した。
これから追放としたいが殺人の罪があるからな」
「殺人なんて!」
「子を殺すために飲ませたんだろう?
二人分の殺人だ。連れて行け」
「父上!父上!!」
湿った空気、血の匂い、他にも不快な臭いが混じっている。薄暗く、動物の悲鳴がけたたましい。
「さっさとしないとノルマが終わらないぞ!」
足枷、鎖、エプロン、肉切り包丁、バケツ…
「おい!新人!手を動かせ!」
「なあ、しっかりやれよ。罰を受けるのはお前だけじゃないんだからな。ノルマが終わらなければ連帯責任を負わされる」
「そんなことになってみろ!俺がぶちのめしてやる」
父上に連れてこられたのは領内の食肉加工場だった。ペットから人間向けの動物の肉を切り分けて出荷する。
殺す係、捌く係、計って分けて梱包する係。
別棟には病気で食肉にできなくなった動物を解体して処分する処分場と、革などの加工をする工房もある。
加工場で役に立たなければ処分場。それでも駄目なら石切場へまわすと言われた。
もう腕も脚も腰もパンパンに張っていて辛い。
なのにまだ労働時間は半分残ってる。
「おい!新人! 手を動かせ!」
もうやりたくない。
「うわっ!こいつ、自分の首に!!」
「工場長を呼べ!」
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