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婚約

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応接間に案内してお茶を出すとアシル様が滞在中のことを報告し、縁談のことに触れた。

「サラ嬢の気持ち次第ですが、本当に私で良ければ妻にと思っております」

「まあ、本当によろしいのですか?」

「縁談を申し込んでおいてとお思いでしょうが、サラは貴族の社交にはあまり向きません」

「私は引退した身です。社交はありますが少ないですし、何かあっても私の側にいれば私が守ります」

「妹は末っ子ですので、家族や屋敷中の使用人から甘やかされて育ちました。いい子ですがメンタルは強くありません」

「今更強い妻など要りませんよ」

「サラ、どうするんだ?」

「……お願いいたします」

「分かった」

「では早速婚約を取り交わしましょう。また領地に戻らねばなりませんので」

「あの、ご家族の皆様には」

「息子達ですか?彼らには関係ありません。
サラ。契約に盛り込みたい事はないか?」

「毎日私との時間を少しでも取ってください。10分とか少ない時間は嫌です。
叱ったとしても無視はしないでください。
もし、浮気なさるなら私に気付かれないようにしてください」

「可愛い条件だな。ちゃんと記載するからな」

アシル様は紙に
・夫婦の時間を毎日一時間は持つ様に努める
・無視をしない
・浮気をしない
と記して私を見た。

「サラ。これに書くということは君も守らなくては駄目だということだ。若い男に目を向けることは許さないからな」

「あ、はいっ」

そのままお父様と話を詰めて契約書を仕上げた。

「では、このまま提出しに行きます。
イリザス家の皆様には、これからはアシルと呼んでもらいます。私も名前で呼びましょう。私から義父上 義母上 義兄上と呼ばれるのは違和感があるでしょうから」

「呼び方までは想定しておりませんでした。統一してアシル様と呼ばせていただきます」

「そうしてください、シルヴァン様」

「私は呼び捨てでお願いいたします」

お兄様の顔が少し緊張している。歳の差婚は呼び方も戸惑うのね。




30歳の歳の差婚になる私達は、噂の種になることは間違いないから覚悟しなさいと言われた。
でも、大した社交は無いはずだから適当にやり過ごそうと思っていた。

「サラ。アシル様から手紙が届いている。サルファール邸で顔合わせをしたいそうだ」

「分かりました」

ご子息3人との顔合わせは普通のことだ。
何も考えずに出席したが、ちょっと甘かった。


跡継ぎの長男ブノワ・サルファール公爵、妻のエリザベス夫人、婿入りの次男カジミールは居らず、文官で三男のドナルドとアシル様の4人、対してイリザス家も4名での出席だった。

公爵からはじっと見られて緊張した。

和やかに食事会が終わったと思ったら、違った。
食後のお茶とケーキをいただいていると、質問が私に集中して飛んできた。

公「学園ではどの様に過ごしていたのかな?」

私「? 授業を受けて、友人とおしゃべりしていました」

公「……得意な科目は何かな」

私「ありません。成績は中の下です」

母「サラ。もっと恥ずかしそうに言いなさい」

私「どうしてですか?」

エ「…特技はありますか」

私「編み物です。それしかありません」

エ「どんなものを編むのかしら。マフラー?」

私「はい。ヌイグルミからセーターやガウン、何かのカバーも編みます」

エ「まあ、それはすごいわ」

私「教会のバザー品や、孤児院の子供達の分も日頃編んで寄付しています。希望者には編み方も教えます」

エ「素敵ですわね」

ド「サラ様とフルノー家の令息の噂を聞きましたが
もうよろしいのですか?」

ア「ドナルド」

私「大丈夫ですわ、アシル様。
ドナルド様。こっぴどく振られて未練はございません。浅はかな私に出来ることはしました。
フルノー侯爵令息の気持ちも願いも全く分からずに、一方的に思いを寄せてしまいました。
私の頭では足りなかったのです。

恥ずかしい過去となってしまいましたが、お陰様でアシル様とのご縁ができました。ご迷惑だとは承知しておりますが、アシル様が受け入れてくださる限り妻となり穏やかに暮らせたらと思っております」

公「父は私に爵位を譲り渡したが、未だに公爵領の運営をしている。その父を支えられるか心配だ」

私「あの、無知故に質問があるのですが」

公「何かな?」

私「何故私が領地運営者を支えなければならないのでしょう」

そう言うと、アシル様のご家族は驚いた顔をした。






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