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回顧(出会いと成長)

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私が2年生になるとき、ウィリアム様は卒業し、翌春に成人した。
貴族は学園を卒業した翌春に成人として認められる。平民は17歳の誕生日と早めだ。

2年後には卒業して成人して、夜の社交に出られるし、婚約もできると思い、頑張って勉強をした。


その間にも、様々な噂を聞く。同級生の兄姉が社交に出たときの話を昼食で聞かせてくれるのだ。

「男爵令嬢を巡って、3人の令息が殴り合いの喧嘩を始めてしまったそうよ」

「殴りあい?」

「恋人にはなっていなかったんだけど、男爵令嬢は3人の令息それぞれと親密にしていたらしいの。
それぞれと2人きりで会ってデートしたりしていたんですって」

「それって恋人じゃないのか?」

「交際を申し込むと、大切な友情を崩したくないとか、男爵に叱られるとか言って断るのに、デートはして貢物ももらうらしいの」

「買ってと男爵令嬢が言ったかどうかだな」

「それがね、店の前を通って、“可愛いな”とか“綺麗”とか言いながら足を止めて、お強請りはしないの。“あ、このネックレスは○○様の瞳の色で綺麗だわ”とか言うけど買ってとは言っていないらしいの。だけど令息達は買って令嬢に貢いでしまうのよ」

「そりゃ勘違いもするわ。自分の瞳と同じ色の宝石を綺麗と言って、その宝石のついた品を受け取っていたら、好かれていると思わない方がおかしいからな」

「逆に令嬢をはべらせている令息がいて、ハーレムみたいになっているらしいのよ」

「誰だ、それ」

「バトキン子爵令息とフルノー侯爵令息とスチュワルグ公爵令息よ」

「バトキン子爵令息は中性的な容姿で人気だし、フルノー侯爵令息は柔らかい物腰と会話で射止めていくし、スチュワルグ公爵令息は逞しい身体をした色気溢れる男だからな」

「その3名に令嬢達が?」

「フルノー侯爵令息は寄ってくる令嬢の容姿次第で関係を持つらしいわ。子爵令息は…」

その後のことはよく覚えていない。
ウィリアム様が他のご令嬢達と交わっているなんて信じたくない。

だけど、お兄様は知っていた。

「本当に知りたいのか?“ウィリアム様の悪口を言わないで!”なんていって責められるのは嫌だからな」

「言いませんから」

「夜の部では、フルノー侯爵令息に令嬢だけではなく若い夫人も寄ってきていた。中盤になるとその中から1人もしくは2人選んで消えるんだ」

「……」

「彼は侯爵家の跡継ぎだから婚約したくて争奪戦になっているだけかもしれない。決まったら落ち着くかもな」

なら、私が婚約者になれば落ち着いてくれるんじゃないかと思ってしまった。
私は成人してデビューしていないから夜の部には参加できない。だから休日に会いたいと手紙を出すけど、明らかに代筆で“予定がある”“忙しい”と断りの返事が届く。
会えるのは他家の茶会で、それでも年に5回も無かった。

近寄ると微笑んではくれるけど、一言二言交わしたら他の令嬢達と話を始めてしまう。その話に加わろうとしても、大人の話といった感じで、近くて聞いているだけが精一杯だった。



やっと卒業して成人して、彼が現れやすい夜の部へ出席した。
最初は伯爵家の令嬢の誕生パーティだった。

彼とダンスを踊りたくて急いで向かう途中、男性とぶつかってしまった。

「人の集まる会場でそんなふうに小走りなんてしたら危ないじゃないか」

「申し訳ございません」

「化粧室に行った方がいいよ」

よく見ると、薄桃色のドレスにワインのシミが広がっていた。

ふと前を見ると笑顔を消したウィリアム様が見ていた。

側に行きたい、声を聞きたい、見つめてもらいたい、ダンスをしたい。でも汚れたドレスでは無理だと諦めて会場を後にした。恥ずかしくて部屋で泣いた。


また別の日の夜の部は、子爵家の夜会だった。
大人の雰囲気に緊張したが、ウィリアム様を見つけて胸が熱くなる。
今度は焦ることなく近寄ったが、既にウィリアム様の両腕には女性が絡み付いていた。

「ウィリアム様」

「やあ、

え? 何で家名呼びなの!?

「あの、お話ししたくて」

「どうぞ、聞くよ」

「え?」

「何の話?」

「こ、ここではちょっと」

「じゃあ仕方ないね。楽しんで」

「あの、2人きりでお話しを、」

「彼女達もこの場で話しているんだ。君もそうしてくれないか」

「でも、」

「ここで話すか諦めるかの二択しかないよ」

「分かりました。
私、ウィリアム様をお慕いしております。私と結婚してください!」

沈黙の後、周りの女性が笑い出した。

「可愛いわ。私もこんな時期があったわ」

「私は無かったわね。1人に絞るのは嫌だもの」

「ウィリアム、どうするの?」

「イリザス嬢、私は当面は婚姻する気はない。それに妻にするなら令嬢を迎えるつもりなんだ」

「役立つ? それはどういう」

「教えられるようでは駄目ではないか?」

「駄目?」

「私は妻に幼さを求めていない。大抵の男はそうじゃないかな。愛人ならそれもいいかもしれないけど妻だからね」

「……」

「もういいかい? 夜会を楽しみたいんだ」

「ウィリアム様とお話を、」

「君はここにいる令嬢達のような会話が出来るなら構わないが、そうではないと前回も自覚したはずだよね?」

「昔は、」

「君は妻にしてくれと言いながら、10歳前後の少女のように扱えと?もう答えは出ているんじゃないかな」

「……」

「こんなに優しく言って泣くくらいなら自邸の中で過ごした方がいい。主催者にも迷惑だから帰りなさい」

「っ!」

寂しくて悲しくて恥ずかしくて、屋敷に急いで戻った。


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