3 / 13
回顧(出会いと成長)
しおりを挟む
私が2年生になるとき、ウィリアム様は卒業し、翌春に成人した。
貴族は学園を卒業した翌春に成人として認められる。平民は17歳の誕生日と早めだ。
2年後には卒業して成人して、夜の社交に出られるし、婚約もできると思い、頑張って勉強をした。
その間にも、様々な噂を聞く。同級生の兄姉が社交に出たときの話を昼食で聞かせてくれるのだ。
「男爵令嬢を巡って、3人の令息が殴り合いの喧嘩を始めてしまったそうよ」
「殴りあい?」
「恋人にはなっていなかったんだけど、男爵令嬢は3人の令息それぞれと親密にしていたらしいの。
それぞれと2人きりで会ってデートしたりしていたんですって」
「それって恋人じゃないのか?」
「交際を申し込むと、大切な友情を崩したくないとか、男爵に叱られるとか言って断るのに、デートはして貢物ももらうらしいの」
「買ってと男爵令嬢が言ったかどうかだな」
「それがね、店の前を通って、“可愛いな”とか“綺麗”とか言いながら足を止めて、お強請りはしないの。“あ、このネックレスは○○様の瞳の色で綺麗だわ”とか言うけど買ってとは言っていないらしいの。だけど令息達は買って令嬢に貢いでしまうのよ」
「そりゃ勘違いもするわ。自分の瞳と同じ色の宝石を綺麗と言って、その宝石のついた品を受け取っていたら、好かれていると思わない方がおかしいからな」
「逆に令嬢をはべらせている令息がいて、ハーレムみたいになっているらしいのよ」
「誰だ、それ」
「バトキン子爵令息とフルノー侯爵令息とスチュワルグ公爵令息よ」
「バトキン子爵令息は中性的な容姿で人気だし、フルノー侯爵令息は柔らかい物腰と会話で射止めていくし、スチュワルグ公爵令息は逞しい身体をした色気溢れる男だからな」
「その3名に令嬢達が?」
「フルノー侯爵令息は寄ってくる令嬢の容姿次第で関係を持つらしいわ。子爵令息は…」
その後のことはよく覚えていない。
ウィリアム様が他のご令嬢達と交わっているなんて信じたくない。
だけど、お兄様は知っていた。
「本当に知りたいのか?“ウィリアム様の悪口を言わないで!”なんていって責められるのは嫌だからな」
「言いませんから」
「夜の部では、フルノー侯爵令息に令嬢だけではなく若い夫人も寄ってきていた。中盤になるとその中から1人もしくは2人選んで消えるんだ」
「……」
「彼は侯爵家の跡継ぎだから婚約したくて争奪戦になっているだけかもしれない。決まったら落ち着くかもな」
なら、私が婚約者になれば落ち着いてくれるんじゃないかと思ってしまった。
私は成人してデビューしていないから夜の部には参加できない。だから休日に会いたいと手紙を出すけど、明らかに代筆で“予定がある”“忙しい”と断りの返事が届く。
会えるのは他家の茶会で、それでも年に5回も無かった。
近寄ると微笑んではくれるけど、一言二言交わしたら他の令嬢達と話を始めてしまう。その話に加わろうとしても、大人の話といった感じで、近くて聞いているだけが精一杯だった。
やっと卒業して成人して、彼が現れやすい夜の部へ出席した。
最初は伯爵家の令嬢の誕生パーティだった。
彼とダンスを踊りたくて急いで向かう途中、男性とぶつかってしまった。
「人の集まる会場でそんなふうに小走りなんてしたら危ないじゃないか」
「申し訳ございません」
「化粧室に行った方がいいよ」
よく見ると、薄桃色のドレスにワインのシミが広がっていた。
ふと前を見ると笑顔を消したウィリアム様が見ていた。
側に行きたい、声を聞きたい、見つめてもらいたい、ダンスをしたい。でも汚れたドレスでは無理だと諦めて会場を後にした。恥ずかしくて部屋で泣いた。
また別の日の夜の部は、子爵家の夜会だった。
大人の雰囲気に緊張したが、ウィリアム様を見つけて胸が熱くなる。
今度は焦ることなく近寄ったが、既にウィリアム様の両腕には女性が絡み付いていた。
「ウィリアム様」
「やあ、イリザス嬢」
え? 何で家名呼びなの!?
「あの、お話ししたくて」
「どうぞ、聞くよ」
「え?」
「何の話?」
「こ、ここではちょっと」
「じゃあ仕方ないね。楽しんで」
「あの、2人きりでお話しを、」
「彼女達もこの場で話しているんだ。君もそうしてくれないか」
「でも、」
「ここで話すか諦めるかの二択しかないよ」
「分かりました。
私、ウィリアム様をお慕いしております。私と結婚してください!」
沈黙の後、周りの女性が笑い出した。
「可愛いわ。私もこんな時期があったわ」
「私は無かったわね。1人に絞るのは嫌だもの」
「ウィリアム、どうするの?」
「イリザス嬢、私は当面は婚姻する気はない。それに妻にするなら役立つ令嬢を迎えるつもりなんだ」
「役立つ? それはどういう」
「教えられるようでは駄目ではないか?」
「駄目?」
「私は妻に幼さを求めていない。大抵の男はそうじゃないかな。愛人ならそれもいいかもしれないけど妻だからね」
「……」
「もういいかい? 夜会を楽しみたいんだ」
「ウィリアム様とお話を、」
「君はここにいる令嬢達のような会話が出来るなら構わないが、そうではないと前回も自覚したはずだよね?」
「昔は、」
「君は妻にしてくれと言いながら、10歳前後の少女のように扱えと?もう答えは出ているんじゃないかな」
「……」
「こんなに優しく言って泣くくらいなら自邸の中で過ごした方がいい。主催者にも迷惑だから帰りなさい」
「っ!」
寂しくて悲しくて恥ずかしくて、屋敷に急いで戻った。
貴族は学園を卒業した翌春に成人として認められる。平民は17歳の誕生日と早めだ。
2年後には卒業して成人して、夜の社交に出られるし、婚約もできると思い、頑張って勉強をした。
その間にも、様々な噂を聞く。同級生の兄姉が社交に出たときの話を昼食で聞かせてくれるのだ。
「男爵令嬢を巡って、3人の令息が殴り合いの喧嘩を始めてしまったそうよ」
「殴りあい?」
「恋人にはなっていなかったんだけど、男爵令嬢は3人の令息それぞれと親密にしていたらしいの。
それぞれと2人きりで会ってデートしたりしていたんですって」
「それって恋人じゃないのか?」
「交際を申し込むと、大切な友情を崩したくないとか、男爵に叱られるとか言って断るのに、デートはして貢物ももらうらしいの」
「買ってと男爵令嬢が言ったかどうかだな」
「それがね、店の前を通って、“可愛いな”とか“綺麗”とか言いながら足を止めて、お強請りはしないの。“あ、このネックレスは○○様の瞳の色で綺麗だわ”とか言うけど買ってとは言っていないらしいの。だけど令息達は買って令嬢に貢いでしまうのよ」
「そりゃ勘違いもするわ。自分の瞳と同じ色の宝石を綺麗と言って、その宝石のついた品を受け取っていたら、好かれていると思わない方がおかしいからな」
「逆に令嬢をはべらせている令息がいて、ハーレムみたいになっているらしいのよ」
「誰だ、それ」
「バトキン子爵令息とフルノー侯爵令息とスチュワルグ公爵令息よ」
「バトキン子爵令息は中性的な容姿で人気だし、フルノー侯爵令息は柔らかい物腰と会話で射止めていくし、スチュワルグ公爵令息は逞しい身体をした色気溢れる男だからな」
「その3名に令嬢達が?」
「フルノー侯爵令息は寄ってくる令嬢の容姿次第で関係を持つらしいわ。子爵令息は…」
その後のことはよく覚えていない。
ウィリアム様が他のご令嬢達と交わっているなんて信じたくない。
だけど、お兄様は知っていた。
「本当に知りたいのか?“ウィリアム様の悪口を言わないで!”なんていって責められるのは嫌だからな」
「言いませんから」
「夜の部では、フルノー侯爵令息に令嬢だけではなく若い夫人も寄ってきていた。中盤になるとその中から1人もしくは2人選んで消えるんだ」
「……」
「彼は侯爵家の跡継ぎだから婚約したくて争奪戦になっているだけかもしれない。決まったら落ち着くかもな」
なら、私が婚約者になれば落ち着いてくれるんじゃないかと思ってしまった。
私は成人してデビューしていないから夜の部には参加できない。だから休日に会いたいと手紙を出すけど、明らかに代筆で“予定がある”“忙しい”と断りの返事が届く。
会えるのは他家の茶会で、それでも年に5回も無かった。
近寄ると微笑んではくれるけど、一言二言交わしたら他の令嬢達と話を始めてしまう。その話に加わろうとしても、大人の話といった感じで、近くて聞いているだけが精一杯だった。
やっと卒業して成人して、彼が現れやすい夜の部へ出席した。
最初は伯爵家の令嬢の誕生パーティだった。
彼とダンスを踊りたくて急いで向かう途中、男性とぶつかってしまった。
「人の集まる会場でそんなふうに小走りなんてしたら危ないじゃないか」
「申し訳ございません」
「化粧室に行った方がいいよ」
よく見ると、薄桃色のドレスにワインのシミが広がっていた。
ふと前を見ると笑顔を消したウィリアム様が見ていた。
側に行きたい、声を聞きたい、見つめてもらいたい、ダンスをしたい。でも汚れたドレスでは無理だと諦めて会場を後にした。恥ずかしくて部屋で泣いた。
また別の日の夜の部は、子爵家の夜会だった。
大人の雰囲気に緊張したが、ウィリアム様を見つけて胸が熱くなる。
今度は焦ることなく近寄ったが、既にウィリアム様の両腕には女性が絡み付いていた。
「ウィリアム様」
「やあ、イリザス嬢」
え? 何で家名呼びなの!?
「あの、お話ししたくて」
「どうぞ、聞くよ」
「え?」
「何の話?」
「こ、ここではちょっと」
「じゃあ仕方ないね。楽しんで」
「あの、2人きりでお話しを、」
「彼女達もこの場で話しているんだ。君もそうしてくれないか」
「でも、」
「ここで話すか諦めるかの二択しかないよ」
「分かりました。
私、ウィリアム様をお慕いしております。私と結婚してください!」
沈黙の後、周りの女性が笑い出した。
「可愛いわ。私もこんな時期があったわ」
「私は無かったわね。1人に絞るのは嫌だもの」
「ウィリアム、どうするの?」
「イリザス嬢、私は当面は婚姻する気はない。それに妻にするなら役立つ令嬢を迎えるつもりなんだ」
「役立つ? それはどういう」
「教えられるようでは駄目ではないか?」
「駄目?」
「私は妻に幼さを求めていない。大抵の男はそうじゃないかな。愛人ならそれもいいかもしれないけど妻だからね」
「……」
「もういいかい? 夜会を楽しみたいんだ」
「ウィリアム様とお話を、」
「君はここにいる令嬢達のような会話が出来るなら構わないが、そうではないと前回も自覚したはずだよね?」
「昔は、」
「君は妻にしてくれと言いながら、10歳前後の少女のように扱えと?もう答えは出ているんじゃないかな」
「……」
「こんなに優しく言って泣くくらいなら自邸の中で過ごした方がいい。主催者にも迷惑だから帰りなさい」
「っ!」
寂しくて悲しくて恥ずかしくて、屋敷に急いで戻った。
1,296
お気に入りに追加
3,874
あなたにおすすめの小説
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。
しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。
だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。
木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。
彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。
スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。
婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。
父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる