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隣国からの客
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「私、そんな大物の集まる席で食事なんて無理です」
「レティシア様、緊張なさないでください」
「そうですわ。ある意味レティシア様の方が珍しい方ですから」
昼食の席でジュリアン様の妻イレーヌ様と、ジュリアン様の母ベルローズ様が、私を元気づけようとしていた。
「辺境伯に王太子殿下に隣国の王子殿下もだなんて、私にはちょっと」
「ちょっと挨拶して終わりですわ」
「そうそう。隣国でお会いするならともかく、バーネット城なら安心ですよ」
「ではカーテンの影にでも隠れています」
まぁでも、相手になんかされないわね。
パーティドレスに着替えた。兄様もお揃いの衣装を身に纏うと、王太子殿下が兄様の衣装に触れた。
「その衣装と取り替えてくれよ」
「殿下とサイズが合いません。それにシアと揃いの衣装を着るのは私ですよ」
パーティーが始まりエリオット王太子殿下が兄様の肩に腕を回すも、兄様は払いのけた。
「あ、バーネット卿とジュリアン様がいらっしゃいました」
「行ってくる。レティシア、後でダンスをよろしく」
「シアは嫌と言っています。早く行ってください」
バーネット一家が入場し、代替わりをした挨拶を終えると、エリオット王太子殿下と隣国からの王子殿下の紹介をした。
隣接するガリム王国の第二王子フェリクス殿下。
彼のことは名前くらいしか知らなかった。
ローズレッド色の髪なのは分かったが瞳の色までは遠くて分からない。
「気のせいか見られていませんか?兄様。隣国の王子もお知り合いですか?」
「知り合いではないな。初対面だよ。ダンスが終わったら隠れようか」
「はい 兄様」
前泊していない招待客はバーネット一家に挨拶をし、他の者達は王族に挨拶に行った。
「挨拶に行かなきゃダメじゃないのですか?」
「いいよ 気にしなくて。
それより、シア。今日は一段と可愛いよ」
「もう。兄様ったら」
王族が2人もいるというのに、令嬢や夫人はチラチラと兄様を見る。中には陶酔したかのようにじっと見つめる者もいる。
私と兄様はよく似ているはずなのに、兄様みたいにモテない。まあ それでいいのだけれど、何か私に欠陥があるような気になる。知らずに変な表情をしているとか、実は体臭か口臭があるとか。
「ん?」
「兄様、私、知らずに変な顔をしていたりしませんか?」
「いつも可愛くて美しいよ」
「もしかして不快な体臭があったり」
「甘くていい香りだ」
「口臭とか」
「ないよ。キスして欲しいくらいだよ」
「避けたくなる要素は?」
「あるわけないだろう。こんなに愛しているのに」
「兄様」
兄様に抱きしめられている間に、エリオット王太子殿下が伯爵夫人と、隣国の王子殿下が知らない女性とダンスを始めていた。
「次はバーネット一家だろう。その後に行くよ」
「はい」
兄様と踊るのは久しぶり。婚姻前は毎日のように兄様のリードでダンスの練習をしていた。
「兄様、合わせたいので あちらで少しお願いします」
テラスに出て兄様と軽く練習をした。
「シア。ディオンはどうだ」
「どうって?」
「私の大切な天使を傷付けたり嫌なことを強いたりはしていないか?」
えっ…あの豹変を言うの?変態度合いを?
「誤解は解けました」
「“誤解は”?」
「誤解が解けてからは大丈夫です」
「目が泳いでいるな。あいつは私の天使に何をしたのだろうか。躾不足だったようだな」
「に、兄様?」
「順番が回ってきたから戻ろう」
一瞬、笑顔なのに兄様の目が怖かった。私が誤魔化したから? でもあんなこと、私の口からはとても言えない。
ダンスフロアに立つと視線を浴びている気がする。だけど大丈夫。みんな兄様のことを見ているだけ。私は足を踏んだり躓いたりせずに楽しそうに踊りきればいい。
長年のダンスパートナーの兄様とはとても踊りやすい。
「久しぶりだ。こうしているとシアを独り占めしていた頃を思い出すよ」
「兄様のお姫様でいられて幸せでした」
「今でもこれからも天使は私の姫だよ」
「ふふっ」
「笑顔も最高に可愛い」
「もう、兄様ったら」
両親が見ていたら、また“イチャイチャし過ぎ”と言われそう。
兄様とのダンスが終わるとエリオット王太子殿下が誘いに来たが、何故かフェリクス殿下まで私の前に立った。
「初めまして、レディ。挨拶が未だだったと思うが、ダンスをしながら君のことを教えてくれないか」
「あ、あの先約がありますので」
「え?」
「エリオット王太子殿下の次はジュリアン様、その次はバーネット卿。その次はもう一度兄です」
「知らないのか?俺は王子だぞ」
「ええ、お名前と身分は存じ上げております。最初に紹介がございましたので」
「じゃあ何で断るんだ」
「申し上げました通り、先約です」
フェリクス殿下は驚きと苛立ちを滲ませている。その斜め後ろに控える殿下の連れの方は無表情に見えて目が楽しそうだ。
「美しい王子と踊りたいのがレディというものだろう」
兄様の腕に絡みついて答えた。
「今まで兄様より美しい殿方を見たことがありません。それは今後も同じだと思います」
「……」
「さあ、おいで。私と踊る約束だからね」
エリオット王太子殿下の手を取りダンスを始めた。
「よく言った」
「本当のことを申し上げました」
「まあ、アレクより美形はいないだろうな。アレクを見て育ったレティシアにとって、隣国では美しいと評判のフェリクス殿下も石ころに見えるのだろうな」
「石ころは言い過ぎです」
「ハハッ」
「レティシア様、緊張なさないでください」
「そうですわ。ある意味レティシア様の方が珍しい方ですから」
昼食の席でジュリアン様の妻イレーヌ様と、ジュリアン様の母ベルローズ様が、私を元気づけようとしていた。
「辺境伯に王太子殿下に隣国の王子殿下もだなんて、私にはちょっと」
「ちょっと挨拶して終わりですわ」
「そうそう。隣国でお会いするならともかく、バーネット城なら安心ですよ」
「ではカーテンの影にでも隠れています」
まぁでも、相手になんかされないわね。
パーティドレスに着替えた。兄様もお揃いの衣装を身に纏うと、王太子殿下が兄様の衣装に触れた。
「その衣装と取り替えてくれよ」
「殿下とサイズが合いません。それにシアと揃いの衣装を着るのは私ですよ」
パーティーが始まりエリオット王太子殿下が兄様の肩に腕を回すも、兄様は払いのけた。
「あ、バーネット卿とジュリアン様がいらっしゃいました」
「行ってくる。レティシア、後でダンスをよろしく」
「シアは嫌と言っています。早く行ってください」
バーネット一家が入場し、代替わりをした挨拶を終えると、エリオット王太子殿下と隣国からの王子殿下の紹介をした。
隣接するガリム王国の第二王子フェリクス殿下。
彼のことは名前くらいしか知らなかった。
ローズレッド色の髪なのは分かったが瞳の色までは遠くて分からない。
「気のせいか見られていませんか?兄様。隣国の王子もお知り合いですか?」
「知り合いではないな。初対面だよ。ダンスが終わったら隠れようか」
「はい 兄様」
前泊していない招待客はバーネット一家に挨拶をし、他の者達は王族に挨拶に行った。
「挨拶に行かなきゃダメじゃないのですか?」
「いいよ 気にしなくて。
それより、シア。今日は一段と可愛いよ」
「もう。兄様ったら」
王族が2人もいるというのに、令嬢や夫人はチラチラと兄様を見る。中には陶酔したかのようにじっと見つめる者もいる。
私と兄様はよく似ているはずなのに、兄様みたいにモテない。まあ それでいいのだけれど、何か私に欠陥があるような気になる。知らずに変な表情をしているとか、実は体臭か口臭があるとか。
「ん?」
「兄様、私、知らずに変な顔をしていたりしませんか?」
「いつも可愛くて美しいよ」
「もしかして不快な体臭があったり」
「甘くていい香りだ」
「口臭とか」
「ないよ。キスして欲しいくらいだよ」
「避けたくなる要素は?」
「あるわけないだろう。こんなに愛しているのに」
「兄様」
兄様に抱きしめられている間に、エリオット王太子殿下が伯爵夫人と、隣国の王子殿下が知らない女性とダンスを始めていた。
「次はバーネット一家だろう。その後に行くよ」
「はい」
兄様と踊るのは久しぶり。婚姻前は毎日のように兄様のリードでダンスの練習をしていた。
「兄様、合わせたいので あちらで少しお願いします」
テラスに出て兄様と軽く練習をした。
「シア。ディオンはどうだ」
「どうって?」
「私の大切な天使を傷付けたり嫌なことを強いたりはしていないか?」
えっ…あの豹変を言うの?変態度合いを?
「誤解は解けました」
「“誤解は”?」
「誤解が解けてからは大丈夫です」
「目が泳いでいるな。あいつは私の天使に何をしたのだろうか。躾不足だったようだな」
「に、兄様?」
「順番が回ってきたから戻ろう」
一瞬、笑顔なのに兄様の目が怖かった。私が誤魔化したから? でもあんなこと、私の口からはとても言えない。
ダンスフロアに立つと視線を浴びている気がする。だけど大丈夫。みんな兄様のことを見ているだけ。私は足を踏んだり躓いたりせずに楽しそうに踊りきればいい。
長年のダンスパートナーの兄様とはとても踊りやすい。
「久しぶりだ。こうしているとシアを独り占めしていた頃を思い出すよ」
「兄様のお姫様でいられて幸せでした」
「今でもこれからも天使は私の姫だよ」
「ふふっ」
「笑顔も最高に可愛い」
「もう、兄様ったら」
両親が見ていたら、また“イチャイチャし過ぎ”と言われそう。
兄様とのダンスが終わるとエリオット王太子殿下が誘いに来たが、何故かフェリクス殿下まで私の前に立った。
「初めまして、レディ。挨拶が未だだったと思うが、ダンスをしながら君のことを教えてくれないか」
「あ、あの先約がありますので」
「え?」
「エリオット王太子殿下の次はジュリアン様、その次はバーネット卿。その次はもう一度兄です」
「知らないのか?俺は王子だぞ」
「ええ、お名前と身分は存じ上げております。最初に紹介がございましたので」
「じゃあ何で断るんだ」
「申し上げました通り、先約です」
フェリクス殿下は驚きと苛立ちを滲ませている。その斜め後ろに控える殿下の連れの方は無表情に見えて目が楽しそうだ。
「美しい王子と踊りたいのがレディというものだろう」
兄様の腕に絡みついて答えた。
「今まで兄様より美しい殿方を見たことがありません。それは今後も同じだと思います」
「……」
「さあ、おいで。私と踊る約束だからね」
エリオット王太子殿下の手を取りダンスを始めた。
「よく言った」
「本当のことを申し上げました」
「まあ、アレクより美形はいないだろうな。アレクを見て育ったレティシアにとって、隣国では美しいと評判のフェリクス殿下も石ころに見えるのだろうな」
「石ころは言い過ぎです」
「ハハッ」
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