25 / 30
隣国からの客
しおりを挟む
「私、そんな大物の集まる席で食事なんて無理です」
「レティシア様、緊張なさないでください」
「そうですわ。ある意味レティシア様の方が珍しい方ですから」
昼食の席でジュリアン様の妻イレーヌ様と、ジュリアン様の母ベルローズ様が、私を元気づけようとしていた。
「辺境伯に王太子殿下に隣国の王子殿下もだなんて、私にはちょっと」
「ちょっと挨拶して終わりですわ」
「そうそう。隣国でお会いするならともかく、バーネット城なら安心ですよ」
「ではカーテンの影にでも隠れています」
まぁでも、相手になんかされないわね。
パーティドレスに着替えた。兄様もお揃いの衣装を身に纏うと、王太子殿下が兄様の衣装に触れた。
「その衣装と取り替えてくれよ」
「殿下とサイズが合いません。それにシアと揃いの衣装を着るのは私ですよ」
パーティーが始まりエリオット王太子殿下が兄様の肩に腕を回すも、兄様は払いのけた。
「あ、バーネット卿とジュリアン様がいらっしゃいました」
「行ってくる。レティシア、後でダンスをよろしく」
「シアは嫌と言っています。早く行ってください」
バーネット一家が入場し、代替わりをした挨拶を終えると、エリオット王太子殿下と隣国からの王子殿下の紹介をした。
隣接するガリム王国の第二王子フェリクス殿下。
彼のことは名前くらいしか知らなかった。
ローズレッド色の髪なのは分かったが瞳の色までは遠くて分からない。
「気のせいか見られていませんか?兄様。隣国の王子もお知り合いですか?」
「知り合いではないな。初対面だよ。ダンスが終わったら隠れようか」
「はい 兄様」
前泊していない招待客はバーネット一家に挨拶をし、他の者達は王族に挨拶に行った。
「挨拶に行かなきゃダメじゃないのですか?」
「いいよ 気にしなくて。
それより、シア。今日は一段と可愛いよ」
「もう。兄様ったら」
王族が2人もいるというのに、令嬢や夫人はチラチラと兄様を見る。中には陶酔したかのようにじっと見つめる者もいる。
私と兄様はよく似ているはずなのに、兄様みたいにモテない。まあ それでいいのだけれど、何か私に欠陥があるような気になる。知らずに変な表情をしているとか、実は体臭か口臭があるとか。
「ん?」
「兄様、私、知らずに変な顔をしていたりしませんか?」
「いつも可愛くて美しいよ」
「もしかして不快な体臭があったり」
「甘くていい香りだ」
「口臭とか」
「ないよ。キスして欲しいくらいだよ」
「避けたくなる要素は?」
「あるわけないだろう。こんなに愛しているのに」
「兄様」
兄様に抱きしめられている間に、エリオット王太子殿下が伯爵夫人と、隣国の王子殿下が知らない女性とダンスを始めていた。
「次はバーネット一家だろう。その後に行くよ」
「はい」
兄様と踊るのは久しぶり。婚姻前は毎日のように兄様のリードでダンスの練習をしていた。
「兄様、合わせたいので あちらで少しお願いします」
テラスに出て兄様と軽く練習をした。
「シア。ディオンはどうだ」
「どうって?」
「私の大切な天使を傷付けたり嫌なことを強いたりはしていないか?」
えっ…あの豹変を言うの?変態度合いを?
「誤解は解けました」
「“誤解は”?」
「誤解が解けてからは大丈夫です」
「目が泳いでいるな。あいつは私の天使に何をしたのだろうか。躾不足だったようだな」
「に、兄様?」
「順番が回ってきたから戻ろう」
一瞬、笑顔なのに兄様の目が怖かった。私が誤魔化したから? でもあんなこと、私の口からはとても言えない。
ダンスフロアに立つと視線を浴びている気がする。だけど大丈夫。みんな兄様のことを見ているだけ。私は足を踏んだり躓いたりせずに楽しそうに踊りきればいい。
長年のダンスパートナーの兄様とはとても踊りやすい。
「久しぶりだ。こうしているとシアを独り占めしていた頃を思い出すよ」
「兄様のお姫様でいられて幸せでした」
「今でもこれからも天使は私の姫だよ」
「ふふっ」
「笑顔も最高に可愛い」
「もう、兄様ったら」
両親が見ていたら、また“イチャイチャし過ぎ”と言われそう。
兄様とのダンスが終わるとエリオット王太子殿下が誘いに来たが、何故かフェリクス殿下まで私の前に立った。
「初めまして、レディ。挨拶が未だだったと思うが、ダンスをしながら君のことを教えてくれないか」
「あ、あの先約がありますので」
「え?」
「エリオット王太子殿下の次はジュリアン様、その次はバーネット卿。その次はもう一度兄です」
「知らないのか?俺は王子だぞ」
「ええ、お名前と身分は存じ上げております。最初に紹介がございましたので」
「じゃあ何で断るんだ」
「申し上げました通り、先約です」
フェリクス殿下は驚きと苛立ちを滲ませている。その斜め後ろに控える殿下の連れの方は無表情に見えて目が楽しそうだ。
「美しい王子と踊りたいのがレディというものだろう」
兄様の腕に絡みついて答えた。
「今まで兄様より美しい殿方を見たことがありません。それは今後も同じだと思います」
「……」
「さあ、おいで。私と踊る約束だからね」
エリオット王太子殿下の手を取りダンスを始めた。
「よく言った」
「本当のことを申し上げました」
「まあ、アレクより美形はいないだろうな。アレクを見て育ったレティシアにとって、隣国では美しいと評判のフェリクス殿下も石ころに見えるのだろうな」
「石ころは言い過ぎです」
「ハハッ」
「レティシア様、緊張なさないでください」
「そうですわ。ある意味レティシア様の方が珍しい方ですから」
昼食の席でジュリアン様の妻イレーヌ様と、ジュリアン様の母ベルローズ様が、私を元気づけようとしていた。
「辺境伯に王太子殿下に隣国の王子殿下もだなんて、私にはちょっと」
「ちょっと挨拶して終わりですわ」
「そうそう。隣国でお会いするならともかく、バーネット城なら安心ですよ」
「ではカーテンの影にでも隠れています」
まぁでも、相手になんかされないわね。
パーティドレスに着替えた。兄様もお揃いの衣装を身に纏うと、王太子殿下が兄様の衣装に触れた。
「その衣装と取り替えてくれよ」
「殿下とサイズが合いません。それにシアと揃いの衣装を着るのは私ですよ」
パーティーが始まりエリオット王太子殿下が兄様の肩に腕を回すも、兄様は払いのけた。
「あ、バーネット卿とジュリアン様がいらっしゃいました」
「行ってくる。レティシア、後でダンスをよろしく」
「シアは嫌と言っています。早く行ってください」
バーネット一家が入場し、代替わりをした挨拶を終えると、エリオット王太子殿下と隣国からの王子殿下の紹介をした。
隣接するガリム王国の第二王子フェリクス殿下。
彼のことは名前くらいしか知らなかった。
ローズレッド色の髪なのは分かったが瞳の色までは遠くて分からない。
「気のせいか見られていませんか?兄様。隣国の王子もお知り合いですか?」
「知り合いではないな。初対面だよ。ダンスが終わったら隠れようか」
「はい 兄様」
前泊していない招待客はバーネット一家に挨拶をし、他の者達は王族に挨拶に行った。
「挨拶に行かなきゃダメじゃないのですか?」
「いいよ 気にしなくて。
それより、シア。今日は一段と可愛いよ」
「もう。兄様ったら」
王族が2人もいるというのに、令嬢や夫人はチラチラと兄様を見る。中には陶酔したかのようにじっと見つめる者もいる。
私と兄様はよく似ているはずなのに、兄様みたいにモテない。まあ それでいいのだけれど、何か私に欠陥があるような気になる。知らずに変な表情をしているとか、実は体臭か口臭があるとか。
「ん?」
「兄様、私、知らずに変な顔をしていたりしませんか?」
「いつも可愛くて美しいよ」
「もしかして不快な体臭があったり」
「甘くていい香りだ」
「口臭とか」
「ないよ。キスして欲しいくらいだよ」
「避けたくなる要素は?」
「あるわけないだろう。こんなに愛しているのに」
「兄様」
兄様に抱きしめられている間に、エリオット王太子殿下が伯爵夫人と、隣国の王子殿下が知らない女性とダンスを始めていた。
「次はバーネット一家だろう。その後に行くよ」
「はい」
兄様と踊るのは久しぶり。婚姻前は毎日のように兄様のリードでダンスの練習をしていた。
「兄様、合わせたいので あちらで少しお願いします」
テラスに出て兄様と軽く練習をした。
「シア。ディオンはどうだ」
「どうって?」
「私の大切な天使を傷付けたり嫌なことを強いたりはしていないか?」
えっ…あの豹変を言うの?変態度合いを?
「誤解は解けました」
「“誤解は”?」
「誤解が解けてからは大丈夫です」
「目が泳いでいるな。あいつは私の天使に何をしたのだろうか。躾不足だったようだな」
「に、兄様?」
「順番が回ってきたから戻ろう」
一瞬、笑顔なのに兄様の目が怖かった。私が誤魔化したから? でもあんなこと、私の口からはとても言えない。
ダンスフロアに立つと視線を浴びている気がする。だけど大丈夫。みんな兄様のことを見ているだけ。私は足を踏んだり躓いたりせずに楽しそうに踊りきればいい。
長年のダンスパートナーの兄様とはとても踊りやすい。
「久しぶりだ。こうしているとシアを独り占めしていた頃を思い出すよ」
「兄様のお姫様でいられて幸せでした」
「今でもこれからも天使は私の姫だよ」
「ふふっ」
「笑顔も最高に可愛い」
「もう、兄様ったら」
両親が見ていたら、また“イチャイチャし過ぎ”と言われそう。
兄様とのダンスが終わるとエリオット王太子殿下が誘いに来たが、何故かフェリクス殿下まで私の前に立った。
「初めまして、レディ。挨拶が未だだったと思うが、ダンスをしながら君のことを教えてくれないか」
「あ、あの先約がありますので」
「え?」
「エリオット王太子殿下の次はジュリアン様、その次はバーネット卿。その次はもう一度兄です」
「知らないのか?俺は王子だぞ」
「ええ、お名前と身分は存じ上げております。最初に紹介がございましたので」
「じゃあ何で断るんだ」
「申し上げました通り、先約です」
フェリクス殿下は驚きと苛立ちを滲ませている。その斜め後ろに控える殿下の連れの方は無表情に見えて目が楽しそうだ。
「美しい王子と踊りたいのがレディというものだろう」
兄様の腕に絡みついて答えた。
「今まで兄様より美しい殿方を見たことがありません。それは今後も同じだと思います」
「……」
「さあ、おいで。私と踊る約束だからね」
エリオット王太子殿下の手を取りダンスを始めた。
「よく言った」
「本当のことを申し上げました」
「まあ、アレクより美形はいないだろうな。アレクを見て育ったレティシアにとって、隣国では美しいと評判のフェリクス殿下も石ころに見えるのだろうな」
「石ころは言い過ぎです」
「ハハッ」
1,360
お気に入りに追加
2,309
あなたにおすすめの小説
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【R18】さよなら、婚約者様
mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。
ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!?
それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…!
もう自分から会いに行くのはやめよう…!
そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった!
なんだ!私は隠れ蓑なのね!
このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。
ハッピーエンド♡
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる