【完結】浮気者と婚約破棄をして幼馴染と白い結婚をしたはずなのに溺愛してくる

ユユ

文字の大きさ
上 下
23 / 30

演目

しおりを挟む
眠れない。
散々指で攻め立てて、あんなものを見せて…。
自分だけ呑気に寝息を立てて…。


翌朝、馬車の中で極力ディオンから離れた。
窓を開けて護衛達に話しかけ、ディオンに隙を与えないようにした。

「ねえ。昨夜はどこに行ったの?2部ってなぁに?」

「レ、レティシア様!?」

「劇か何かやっていたの?」

「そ、そうなんですよ」

「演目は?」

「え…え?」

「どんなお話だったの?」

別の護衛騎士が答えた。

「騎士と町娘の恋の話ですよ」

「どうなったの?」

「それはもう 燃え上がり無事成就しました」

「特に良かった場面は?」

「え?」

「燃え上がったんでしょう?」

「き、騎士が町娘を乗せて疾走したところでしょうか」

「乗馬デート?町娘は前?後?」

「っ!前も後ろも上も全部です」

「上?」

「はい。それはもう気持ちよくて」

「天気のいい日の設定だったのね。最後は?」

「最後?」

「乗馬デートの最後よ」

「気の済むまで花火を打ち上げました」

「気の済むまで花火だなんて現実は(お金が)大変ね」

「まあ、スッキリしますけど、ちょっと疲労感はありますね」

「スッキリって、全財産使っちゃったのかしら。お財布の疲労感?面白い表現ね。
私も経験してみたいわ」

「(既に経験済みでは?)」

「今  何て?」

「意識が飛ぶくらいの衝撃が走るでしょう」

「劇で乗馬や花火のシーンは難しそうね」

「プロですから」

「私も見たかったわ。次は私も連れて行って」

「駄目です!絶対に駄目です!アレクサンドル様に殺されます!!」

「何で?大袈裟ね。恋愛ものの劇を観ただけで怒らないわ」

「「……」」

「ウェス卿、前に乗せてください」

「はい?」

「馬です」

「今度 ディオン様に乗せてもらってください」

「今 ウェス卿に乗せてもらいたいの」

「なっ!駄目ですよ!」

「酷い。そんなに嫌がらなくたって」

「(何で命の危機が連続で…)」

「レティシア様、は嫉妬深くて、レティシア様を乗せると怒り狂って大変なことになるんですよ」

「? 気性の荒い馬なのね」

「そうなんです。粘着質で……じゃなかった。一途なんです」

「私専用の雄馬を調達しようかしら。小さめの白馬がいいわね」

「は、白馬なんか駄目です!レティシア様には立派な雄馬がいるじゃないですか」

「え?もう居るの?」

「い、居ます」

「じゃあ、帰ったら」

「りょ、領地に居ます」

「分かったわ」



キャロン領の屋敷に到着すると、兄様が駆け寄って抱き上げた。

「シア!」

「兄様」

「大丈夫か?」

「大丈夫です。それよりおめでとうございます。義姉様は?」

「ちょっとレイモンドが手が掛かって寝不足だから寝かせているよ。悪いね」

「大丈夫です。ゆっくり眠らせてあげてください」

「義兄上、お久しぶりです」

「積もる話があるから、シアとは部屋を離したからな」

「……」



屋敷の中に入ると、泣き声が聞こえた。

「癇癪持ちなのか、すぐ機嫌が悪くなって泣き止まないんだ。しかも人見知りが酷くて参ったよ。興味本位で作るものじゃないな」

「兄様 酷い」

「先ずは休むといい」

「レイモンドくんに会わせてください」

「煩いし、攻撃してくるぞ。髪を引っ張ったり叩いたり蹴ったりするからな」

「産まれて半年の赤ちゃんだから大丈夫ですよ」

ベビールームに案内されると、近付くにつれて泣き声が大きく響いていた。ドアを開けるとげっそりした乳母達がいた。

「兄様そっくりで危険ですね」

「良い意味だと信じているよ?シア」

「おいで~叔母のレティシアですよ~」

乳母が私にレイモンドを渡すとピタッと泣き止んだ。

「あ~っ だ~っ」

「か、可愛いっ!!」

「天使ちゃんですねぇ~。世界一可愛いですよ~」

「キャッキャッ」

「奇跡が…」

「レティシア様に聖なる光が…」

乳母達は跪き 私を崇めだした。

兄は私の側に寄ってレイモンドの頬をつついた。

「血肉だけじゃなくて魂も私に似たのだな。まるでシアと私の子みたいだ」

まあ、私と兄様は似ているから、この子は私にも似ているのよね。

「あ~」

赤ちゃんが私の胸を触り始めた。

「お腹すいたの?ごめんね。母乳は出ないの」

「…ディオン」

「っ!」

「兄様、ディオンに母乳無理ですよ?」

「ディオン。母乳じゃなかったら何が出るんだ?」

「っ!!」

「兄様、母乳は男性も出るんですか?」

「事例はあるらしい」

「兄様の母乳なら飲んでみたいです。飲めばきっと兄様みたいに身も心も美しくなれると思います」

「……出るように頑張ってみる」

「じゃあ 俺も頑張ってみる」

「あう~」

「ん?吸って出ないって分かったら諦めてくれますか?」

「駄目だ」

「俺が吸う……痛っ」

「シア。部屋で休んでいなさい。茶と菓子を運ばせるから。ディオンはついて来い」

「ディオンだけ?」

「報告をもらいたい事があるからね」

「お、俺、疲れたかもしれません」

「そうか。レティシアを置いて今すぐウィルソン邸に1人で戻るか?」

「元気です」

「ディオン、行くぞ」

「……はい」



到着以降、疲れ切った乳母達のために、ベビールームに寝泊まりしている。

マノン様はゲッソリとして、明らかに痩せていた。
だから、私がいる間くらいはと思って世話をしている。

レイモンドは頬や額にキスをすると声を上げて喜ぶ。私の指をすぐ咥えてしまうし、相変わらず私の胸から母乳が出ると思っていて催促がすごい。

「良かったらレイモンドの希望を叶えてやってくれない?」

「義姉様!?」

「出なくても吸い付けば満足するわ。嫌じゃなければ吸わせてあげて」

マノン義姉様がそう言うなら…

ソファに座り、前ボタンを外し左の乳房を露わにすると、レイモンドは手を伸ばして喜んだ。
マノン義姉様が私にレイモンドを手渡すと、直ぐに乳首に吸い付いた。

授乳をしたことはないのだけど、ちょっと違和感がある。授乳ってこんな感じなの?

そこに兄様が入室して驚愕した顔をしていた。

「シ、シア!?」

「あ、ごめんなさい」

「レイモンドのお強請りが激しくて、私がお願いしたのです。出ないと分かれば納得しますわ」

「……」

兄様がじっと見ている。妹が我が子に胸を吸わせているなんて嫌よね。

「……おかしいですね。赤ちゃんだから学習しないのかしら」

「私のシアが穢されていく…」

そっちなの!?

「兄様、赤ちゃんですよ?」

「私だって吸った事がないのに」

「そうなのですか?マノン義姉様」

「え、ええ!?」

マノン義姉様が真っ赤になった。

「あるんじゃないですか。兄様ったら」



1週間の滞在のはずがレイモンドが泣くので延長した。ディオンは予定があって帰らなくてはならなかった。最後まで連れて帰ると抵抗していたが、兄様がウィルソン家の護衛騎士に命じると、無理矢理馬車に乗せて出発した。

ウィルソン家の私兵にとって、
アレクサンドル > ディオン なのね。


「あの、お願いがあるの」

「何でしょう」

「里帰りをしたいのだけど、まだレイモンドは小さいから連れて行けないし…」

「いいですよ。面倒見ます」

「本当?ありがとう!」

「ご家族に何かあったのですか?」

「そうじゃないの。里帰りといっても実家じゃないのよ。研究していたものが出来上がったから領地で実験したくて」

「此処では出来ないのですか?」

「向こうに自生する植物に関することだから。ごめんね」

「いえ、お任せください」

2日後、マノン義姉様は里帰りのため出発した。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...