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【 ディオンの視点 】
レティシアがカーラの屋敷に滞在して5日目の朝、キャロン領にいるアレク義兄上から手紙が届いた。
“今すぐ来い”
それしか書いていなかった。
怒っているということだ。
馬車ではなく馬に乗り、護衛をつけてキャロン領に向かった。
到着すると護衛は食事と休憩、俺はそのまま義兄上の元へ連れて来られた。
「アレクサンドル様、ディオン様をお連れしました」
「ありがとう。退がっていい」
「失礼します」
2人だけになった後、数分沈黙が続いた。
「座れ」
「はい」
苛立ちを感じた方がまだいい。義兄上からは冷たさしか感じない。誰にも負けない美しい顔が拍車をかける。
昔、学園に入学する前にキャロン邸に呼ばれた。先に若い令嬢が座っていた。それがカーラ・ゼノヴィアだった。ワインレッドの髪に緑色の瞳、気の強そうな子だった。
指令は“情報を共有し協力しながらレティシアを守れ”
彼女は早速レティシアと友人になり信頼を得た。
カーラの従兄は王太子殿下の側近候補の1人だったが女性への暴行で捕まったことがあった。数日後に被害女性の虚偽の訴えだったことが分かり釈放された。更に その女性に虚偽の訴えを指示した男が捕まった。別の側近候補だった。彼は女性に甘い言葉を囁いて利用していただけだが、女性は愛する男のためにと罪を犯したのだ。
何故分かったのか。
逮捕の知らせを王太子殿下が聞いていたとき、1人だけ目が嬉しそうだったのを、たまたま側にいたアレク義兄上が見逃さなかった。そこで彼に絞って最近の素行調査をしたら女性との繋がりが分かり、アレク義兄上自ら被害を訴えた女性に尋問した。
“君が恋人だと思っている男には婚約者がいるが、他にも体の繋がりがある女が2人いる。君との逢瀬は月に一度、他の2人は週に一度。
そもそも君が被害に遭ったという日時に犯行は無理なんだ。確かに退勤が18時と書いてあるが、来城した商人とぶつかって服が破けてしまった。商人の部下が採寸をして布地見本を見ながら説明をした。デザインまで決め終えた頃には20時近かった。調べてみたら複数の警備兵が目撃していた。
騙したのは1人だけだと思っているようだが、王族の側近への虚偽の訴えは、王族への攻撃と同等に扱われる。まだ候補だとしても、殿下が選び、既に仕事をさせているのだから正規雇用の側近と同じだ。
さて、まだ襲われたと主張し続けるのか?今、勘違いでしたと言えば、君は脅されて証言をしたとして無罪放免にしてやろう。頑なに主張を曲げないなら、裁判が始まるまで拘束し、偽証が証明されたら 君は広場で一般公開の中 石打ち刑にするつもりだ。希望者に投げさせるから死ぬまでに相当時間がかかるだろう。勿論君が恋人だと思っている男も連れて行き、石を握らせよう。彼は泣いて君を助けてくれと願い出るだろうか。
私が思うには、彼は君に石を投げ付けて 息の根が止まるまで見届けた後、メアリーかマリアンか どちらかのベッドで罪人の悪口を言っているだろう。
もう一度だけ聞くぞ。勘違いじゃないか?”
女は認めたため解放、首謀者は捕まった。
罪を認める代わりに家門への咎めは無し。側近になるには貴族の保証人が3人以上必要で、男は実父、実母の実家の当主、祖母の実家の当主を保証人にしていた。
以降、ゼノヴィア侯爵家と義兄上は密接だと聞いた。
義兄上が側近になればいいと誰もが思うだろうが、シアの面倒を見ることができなくなるから嫌だと、何度も断ったようだ。国王、王妃、王太子、宰相と頼まれたそうだが、即答したようだ。
そんな彼がやっと口を開いた。
「ディオン。婚姻の条件は何だった?」
「白い結婚、シアの嫌がることはしない、浮気をしない、里帰りを自由にさせる、アレク義兄上との時間を邪魔しない、いかなる時もシアの味方をする、命をかけて守る…という条件です」
「何故レティシアとの婚姻を望んだんだ?」
「愛しているからです」
「おかしいな。お前は好きな女がいて、その女とは結ばれないからレティシアと婚姻したと聞いたんだがな」
「は!?」
「以前 寝た2人のうちの1人と会ってそのような話をしていたんだろう?」
「もしかしてパーティ…」
「家族同士の交流のある隣人でも 幼馴染でも、レティシアを傷付けるなら容赦の理由にはならないことは心得ているよな。予め離縁届に署名させておいて良かったよ。離縁したら引っ越して好きに過去の女と戯れたらいい」
「誤解があるんです!俺はレティシア以外の女を好きになったことは一度もありません!」
「レティシアが自分の耳で聞いたんだ。
そもそも、過去の女なら 何故テラスに出た」
「話しかけられたんです。
レティシアが過去の女に過敏なので、見えない場所ではっきり断って二度と話しかけないよう告げたかったのです」
「でも、好きな女と結ばれないからレティシアと婚姻したと、相手の女が口にしたはずだ」
「彼女との関係はたった一度、しかもミリアナと婚約していた時です。レティシアはボイズ公子と婚約していて、俺はレティシアを諦めざるを得なかった、その状況にあった時の関係です。
だから彼女は、好きな女と結ばれない俺が仕方なく別の女と婚姻したと思っているんです」
「情報の更新が無くて勘違いしていると?」
「その通りです!」
「2人でテラスに出るから拗れるんだ」
「申し訳ございません」
「理由がなんであれ、レティシアが離縁を望んだら別れさせるからな」
「アレク義兄上」
一応 義兄上の誤解は解けたが許してはもらえていない。部屋食にされたことなど一度も無かったのに、部屋に夕食が運ばれた。
義兄上にとって真相は誤解だったとしてもレティシアを傷付けたら有罪なのだ。
翌日 王都に向かい、ゼノヴィア邸を訪ねたがレティシアは居なかった。
レティシアがカーラの屋敷に滞在して5日目の朝、キャロン領にいるアレク義兄上から手紙が届いた。
“今すぐ来い”
それしか書いていなかった。
怒っているということだ。
馬車ではなく馬に乗り、護衛をつけてキャロン領に向かった。
到着すると護衛は食事と休憩、俺はそのまま義兄上の元へ連れて来られた。
「アレクサンドル様、ディオン様をお連れしました」
「ありがとう。退がっていい」
「失礼します」
2人だけになった後、数分沈黙が続いた。
「座れ」
「はい」
苛立ちを感じた方がまだいい。義兄上からは冷たさしか感じない。誰にも負けない美しい顔が拍車をかける。
昔、学園に入学する前にキャロン邸に呼ばれた。先に若い令嬢が座っていた。それがカーラ・ゼノヴィアだった。ワインレッドの髪に緑色の瞳、気の強そうな子だった。
指令は“情報を共有し協力しながらレティシアを守れ”
彼女は早速レティシアと友人になり信頼を得た。
カーラの従兄は王太子殿下の側近候補の1人だったが女性への暴行で捕まったことがあった。数日後に被害女性の虚偽の訴えだったことが分かり釈放された。更に その女性に虚偽の訴えを指示した男が捕まった。別の側近候補だった。彼は女性に甘い言葉を囁いて利用していただけだが、女性は愛する男のためにと罪を犯したのだ。
何故分かったのか。
逮捕の知らせを王太子殿下が聞いていたとき、1人だけ目が嬉しそうだったのを、たまたま側にいたアレク義兄上が見逃さなかった。そこで彼に絞って最近の素行調査をしたら女性との繋がりが分かり、アレク義兄上自ら被害を訴えた女性に尋問した。
“君が恋人だと思っている男には婚約者がいるが、他にも体の繋がりがある女が2人いる。君との逢瀬は月に一度、他の2人は週に一度。
そもそも君が被害に遭ったという日時に犯行は無理なんだ。確かに退勤が18時と書いてあるが、来城した商人とぶつかって服が破けてしまった。商人の部下が採寸をして布地見本を見ながら説明をした。デザインまで決め終えた頃には20時近かった。調べてみたら複数の警備兵が目撃していた。
騙したのは1人だけだと思っているようだが、王族の側近への虚偽の訴えは、王族への攻撃と同等に扱われる。まだ候補だとしても、殿下が選び、既に仕事をさせているのだから正規雇用の側近と同じだ。
さて、まだ襲われたと主張し続けるのか?今、勘違いでしたと言えば、君は脅されて証言をしたとして無罪放免にしてやろう。頑なに主張を曲げないなら、裁判が始まるまで拘束し、偽証が証明されたら 君は広場で一般公開の中 石打ち刑にするつもりだ。希望者に投げさせるから死ぬまでに相当時間がかかるだろう。勿論君が恋人だと思っている男も連れて行き、石を握らせよう。彼は泣いて君を助けてくれと願い出るだろうか。
私が思うには、彼は君に石を投げ付けて 息の根が止まるまで見届けた後、メアリーかマリアンか どちらかのベッドで罪人の悪口を言っているだろう。
もう一度だけ聞くぞ。勘違いじゃないか?”
女は認めたため解放、首謀者は捕まった。
罪を認める代わりに家門への咎めは無し。側近になるには貴族の保証人が3人以上必要で、男は実父、実母の実家の当主、祖母の実家の当主を保証人にしていた。
以降、ゼノヴィア侯爵家と義兄上は密接だと聞いた。
義兄上が側近になればいいと誰もが思うだろうが、シアの面倒を見ることができなくなるから嫌だと、何度も断ったようだ。国王、王妃、王太子、宰相と頼まれたそうだが、即答したようだ。
そんな彼がやっと口を開いた。
「ディオン。婚姻の条件は何だった?」
「白い結婚、シアの嫌がることはしない、浮気をしない、里帰りを自由にさせる、アレク義兄上との時間を邪魔しない、いかなる時もシアの味方をする、命をかけて守る…という条件です」
「何故レティシアとの婚姻を望んだんだ?」
「愛しているからです」
「おかしいな。お前は好きな女がいて、その女とは結ばれないからレティシアと婚姻したと聞いたんだがな」
「は!?」
「以前 寝た2人のうちの1人と会ってそのような話をしていたんだろう?」
「もしかしてパーティ…」
「家族同士の交流のある隣人でも 幼馴染でも、レティシアを傷付けるなら容赦の理由にはならないことは心得ているよな。予め離縁届に署名させておいて良かったよ。離縁したら引っ越して好きに過去の女と戯れたらいい」
「誤解があるんです!俺はレティシア以外の女を好きになったことは一度もありません!」
「レティシアが自分の耳で聞いたんだ。
そもそも、過去の女なら 何故テラスに出た」
「話しかけられたんです。
レティシアが過去の女に過敏なので、見えない場所ではっきり断って二度と話しかけないよう告げたかったのです」
「でも、好きな女と結ばれないからレティシアと婚姻したと、相手の女が口にしたはずだ」
「彼女との関係はたった一度、しかもミリアナと婚約していた時です。レティシアはボイズ公子と婚約していて、俺はレティシアを諦めざるを得なかった、その状況にあった時の関係です。
だから彼女は、好きな女と結ばれない俺が仕方なく別の女と婚姻したと思っているんです」
「情報の更新が無くて勘違いしていると?」
「その通りです!」
「2人でテラスに出るから拗れるんだ」
「申し訳ございません」
「理由がなんであれ、レティシアが離縁を望んだら別れさせるからな」
「アレク義兄上」
一応 義兄上の誤解は解けたが許してはもらえていない。部屋食にされたことなど一度も無かったのに、部屋に夕食が運ばれた。
義兄上にとって真相は誤解だったとしてもレティシアを傷付けたら有罪なのだ。
翌日 王都に向かい、ゼノヴィア邸を訪ねたがレティシアは居なかった。
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