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隣の女の子

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【 ディオンの視点 】


俺が産まれ、レティシアが産まれた1ヶ月後には、日中のベビーベッドにレティシアがいた…らしい。タウンハウスが隣同士で仲の良い母親達が赤ちゃんを連れて行き来しては、同じベビーベッドに寝かせていたと聞いた。
家庭教師の授業が終わったレティシアの兄アレクサンドルがレティシアを回収しに来ると俺は泣いていたらしい。

ほぼ毎日3人の時間があった。アレク兄さんは勉強がある分、2人の時間は多い。

レティシアはアレク兄さんに過保護に育てられたせいか酷い人見知りがあった。だから友達がいなかった。

家庭教師をつける歳になると、先生を共有して一緒に授業を受けた。離れる時は、俺が剣術や乗馬や紳士教育をして レティシアが刺繍や編み物や淑女教育を受ける時だった。

馬車の長旅を経験する歳になり、俺は自領で1年間生活した。親戚の子供達と交流したが思い浮かぶのはレティシアのことだけ。女の子達が寄ってきても見分けがつかない。

『レティシアちゃんは特別に綺麗で可愛いものね。彼女を基準にしたら駄目よ』

母上の言葉にハッとした。
“可愛い”なんて特別に思うことは無かったから。
アレク兄さんはレティシアが妹だから“天使”だの“可愛い”だの言っているのだと思っていた。

隣の領地のガーデンパーティに家族で招待されたとき、男の子達が主催者の娘に群がっていた。
彼女は伯爵家の長女ロクサンヌ。バターブロンドに水色の瞳の子で俺より1歳上だった。

俺は椅子に座り親達の話を聞いていた。 

『ねえ。お嫁さんになってあげようか』

側に来てそんなことを言ったのはロクサンヌだった。

『え?』

『私をお嫁さんに出来るなんて嬉しいでしょう?』

『僕はいいや』

『どうして?』

『別に嬉しくないから』

『可愛い私がお嫁さんになってあげるのに?』

『君、可愛いの? 他の子と大差ないと思うよ。見分けつかないし』

『なっ!』

彼女は顔を真っ赤にして怒り俺の髪を掴んだ。
だから掴み返すと泣き出した。


大人達に止められて、ロクサンヌの母親に非難された。

夫人『どういう教育をなさっているのですか』

母『申し訳ありません。ディオンも謝りなさい』

俺『何で?』

母『ロクサンヌ様の髪を掴んだでしょう』

俺『先に掴んだのはこの子です。先にこの子が謝れば僕も謝ります』

ロ『男と女じゃ違うわ!』

母『女の子にあんなことをしちゃ駄目なの』

俺『男にはしてもいいの?』

母『そうじゃないけど』

夫人『女の子の方が非力なのよ』

俺『弱いからってことですか?』

夫人『そうよ』

俺『なら、どうして弱い奴がケンカを売るのですか?髪を掴んだらケンカになるに決まってるじゃないですか。直ぐ手が伸びたということは、これをこちらでは許していたということですか?淑女がどうこう女の子がどうこうじゃなく、人として駄目なんじゃないですか?しかも僕より年上なのに。

レティシアは僕と歳が同じですけど、彼女は一度もそんなことをしたことがありませんよ。

“可愛い私が結婚してあげる”?
この子はその言葉を使えるほど容姿に優れていません。その上 暴力的で、自分のしたことを棚に上げて“女の子だから”だなんて都合が良過ぎではありませんか?
 
王都に来て他の貴族の子達と関われば、彼女がいかに幼くて性格に難があるのが分かりますよ。
学園に通う頃には1人で食事をするようになるんじゃないですか』

母『ディオンっ』

俺『どこか間違えていますか?教えてください』

母『……い、言い過ぎよ』

ロ『レティシアって誰よ!』

俺『天使だよ。“自分は可愛い”と口にすることを誰もが認める子だ。今度見にくれば』

ロ『行ってやるわよ!』


数ヶ月後、王都に帰るまでロクサンヌは手紙を寄越したり贈り物を寄越したり、押しかけてきたりしていた。


やっと王都に戻りレティシアに会いにいくと、レティシアは別の男の子と一緒にいた。
しかも笑ってる。

男の子は嬉しそうにレティシアの髪や頬や手に触れる。

何故触らせるんだ!!

胸が苦しくて胃がムカムカして、会わずにウィルソン邸に戻った。

『父上、レティシアをお嫁さんにしたいです』

『……レティシアは婚約しているから無理だ』

『え?』

『しかもボイズ公爵の嫡男だ。相手は格上だから諦めなさい』

レティシアが他の男の子のお嫁さんになる!?

『人見知りのレティシアちゃんに、あんなに早く決まるとは思っていなくて失敗したわ』

『アレクサンドル殿が殿下に付き添っている隙を突かれたんだ。計画的だよ。

ディオン、ロクサンヌ嬢が来るらしい』

手紙を渡され読むと、レティシアに会わせろという内容が書かれていた。


仕方なく日曜日のティータイムを指定して茶会を開き、領地から出てきた伯爵夫妻とロクサンヌとその兄ダミアンを招待した。ダミアンは俺達より4歳上でロクサンヌとよく似ていた。

ダ『まだか?そのレティシアという天使は』

俺『……』

30分経ってようやく現れた。
間際まで遅いと文句を言っていた2人は言葉を失くし凝視した。

レティシアは手を繋ぎ近寄るもアレク兄さんの後ろに隠れてしまう。

ア『遅くなって申し訳ありません。カシャード伯爵家の皆様、お初にお目にかかります。キャロン家長男アレクサンドルと申します。

ほら、天使シア。練習しただろう?』

アレク兄さんの後ろから出てきたレティシアは少し背が伸びていて 少しずつ大人に近付いているのが分かった。

レ『レティシア・キャロンと申します。
お会いできて光栄です』

安定した美しいカーテシーと愛らしい微笑みを浮かべた後、直ぐアレク兄さんの後ろに隠れた。

ア『シア』

レティシアは両腕を上げた。
アレク兄さんはレティシアを抱き上げて椅子に座り膝の上に乗せた。

ア『申し訳ありません。レティシアにあまり外部の方と交流を持たせませんので人見知りが酷くて。そこも可愛いんですけどね』

夫人『こんなに美しい兄妹がいらしたなんて』

伯爵『まさに天使だ』

俺『シアとは産まれて直ぐからの幼馴染です。アレク兄さんにも可愛がってもらっています』

ロ『ア、アレクサンドル様は婚約していますか』

ア『していませんよ』

ロ『なら私をお嫁さんにしてください』

ア『それは難しいですね』

ロ『どうしてですか』

ア『ロクサンヌ様の強みはなんですか?キャロン家に有益な何かをお持ちでしょうか』

ロ『え?』

ア『貴族同士の婚姻ならば当然です。愛があれば多少違うでしょうが、私は跡継ぎですから、利にならない婚姻はしません』

ロ『お、お父様、お母様』

今までなら“うちの可愛い娘を嫁にもらえるのは幸運だろう”くらいに言いそうなものだが、目の前にレティシアが居てはその言葉は使えない。

伯爵『両家の結びつきでは駄目ですかな』

夫人『持参金を少し多めに…』

ア『残念ですがご令嬢とのご縁は無さそうです』

ダ『あの、レティシア様は婚約は』

ア『ボイズ公爵家の跡継ぎと婚約済みです』

ダ『そ、そうですか』
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