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破滅

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【 ミリアナ・ボロンの視点 】


入院から17日後に産気付き、1日と半日後に産んだ。

「処置しますね」

「はい」

私は疲れ果てていて、よく分からないが返事だけした。

カーテンの向こうで何かしている。直ぐに鳴き声が聞こえた。

私の処置をしている医師が、“羊水の中にいましたからね。鳴き声が上がれば安心ですよ。今綺麗に拭いていますからね”と説明してくれた。

「ご両親をお呼びしますか?」

「はい」

処置が済んで毛布を掛けてもらい、両親が入室した。

「お疲れ様」

「赤ちゃんは?」

「体を拭いてもらっています」

「そうか」

直ぐにカーテンが開いて、赤ちゃんを私の隣に置いてくれた。

「女の子でした」

「女の子…」

それでも嬉しかった。
だけどお父様とお母様の顔色が変わった。

「どういうことだ」

「お父様?」

「誰の子なの!」

「お母様、何を言って、」

肘を付いて上半身を少し起こして顔を覗き込んだ。

「……」

髪はダークブラウンで瞳の色は赤かった。
私の髪はダークブロンドで瞳の色は緑、クリスチャンの髪はプラチナブロンドで瞳は薄い水色。

「うちの家系にこの色は無いぞ」

「うちにもいないわ」

「ミリアナ!どうしてくれるんだ!」

「そうよ!今更違いましたなんて言える訳がないじゃない!!」

「そうだ、孤児院かどこかで公子の色に似た子を探そう」

「生まれたばかりのプラチナブロンドか薄い水色の瞳の赤ちゃんなんて見つかる訳がないわ!」

そこにノックがなった。
病院の職員に案内されて入室したのはボイズ公爵夫妻だった。

公「失礼しますよ」

父「こ、公爵…なんで、」

公「陣痛が始まったと昨日連絡をもらったから、来てみたんですよ。おめでとうございます」

夫人「さあさあ、会わせてくださいな」

公爵夫妻が覗き込むと笑顔は消えた。

公「やっぱりあの時に婚姻の約束をしなくて正解でしたな」

夫人「一体誰の子をクリスチャンの子にしようとしたのかしら」

公「二度とクリスチャンとボイズ公爵家に近付かないでもらおう」

夫人「伯爵夫人も ご自身の娘が次期公爵夫人などという幻想を 社交の場で口にするのも止めてくださいね」

公「とにかく、ボロン家の孫が産まれたようでおめでとうございます。では失礼」

公爵夫妻は病室から去っていった。


病室で無言が数分続いた後、お父様とお母様は黙って去ってしまった。

翌日、メイド数人が迎えに来た。荷物と私と赤ちゃんを馬車に乗せ 屋敷に向かう。
屋敷に到着すると荷物が下ろされたが、私が降りると馬車は走り出した。

「え?赤ちゃんが、」

「旦那様がお待ちです」

「赤ちゃんを降ろさないと!」

「旦那様から説明がございます」


メイドに手を引かれて居間に入るとお父様が待っていた。

「ミリアナ」

「はい」

「子は捨て子として孤児院に預ける」

「え?」

「未婚のコブ付きで嫁ぎ先を探すつもりか!」

「……」

「子のことは忘れろ。いいな」

「はい」


自室に行き、ベッドに入り涙に暮れた。

絶対にクリスチャンと関係を持ってからは彼としか寝ていない。だから間違いなくあの子は私とクリスチャンとの子なのだ。

なのにどうしてこんなことに。

1週間もしないうちにお父様が騒いでいた。
1歳下の弟ランベールが私の部屋を訪ね今起きていることを教えてくれた。

「父上はボイズ公爵家との繋がりを仄めかして各地に土地を借り、宿を全国展開したようです。ですが高位貴族のご夫人と平民の青年の逢瀬の情報が漏れました。宿で何をしているのか どんな会話をしていたのか、かなりで詳細な内容でしたので騒動になりました。

ご夫人が宿に来て喚きながら苦情を口にして、他の利用者の耳にも入りました。
今や父上の経営する宿は、秘密を守れない宿として噂が広まり、閑古鳥が鳴いているそうです。
全国に宿を展開したばかりで大打撃です。建築中の宿もたくさんあります。
ウィルソン家に違約金を払い、式の準備にかかった費用も全てうちが持ったのですから、この先 困窮するでしょう。

それにボイズ公爵が正式に“ボロン伯爵令嬢とのご縁はございません”と声明を出したことで土地を貸した者たちが怒っているのです。

母上はもう社交に出ることは叶わないでしょう。

この調子だと、姉上が 孕ませた責任を取れと押し掛けたが、クリスチャン・ボイズに全く似ない子を産んだと知れ渡るはずです」

「ランベールは何故そう思うの?」

「姉上と公子の関係が発覚してから、ボイズ公爵家の親戚には逮捕者も出ています。
姉上が妊娠したということは、どうなるか分かっていて避妊を止めたという証拠。だから矛先がこちらに向いたのです。
絶対に怒らせては駄目だと言い伝えられている方を怒らせたのですよ」

ランベールは部屋から出ようとした。
服が他所行きだった。

「何処に行くの?」

「収拾できるか分かりませんが誠心誠意謝罪をしてきます」



数週間後、お父様は伯爵位をランベールに渡し、お母様と領地の外れの家に移り住んだ。

今、私の荷物が積まれ馬車に乗せられた。
馬車の外にはランベールが立っていた。

「今日から姉上はただのミリアナ。貴族ではなくなりました。今から行く場所は更生施設です。規律を守り、手作業で作った物を売りそのお金で入所者の食事などを賄います。期間は10年。
その後は施設に残るか、施設の斡旋する工場で働くか選べます。但し、ちゃんと働かないと路頭に迷いますよ」

「ランベール?どうして」

「ボロン伯爵家と領民を救うためです。そもそもミリアナと父上の悪巧みでこうなったのですから、当然でしょう。
さようなら、ミリアナ」

ランベールが馬車を叩いた合図で出発した。
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