3 / 30
幼馴染の見舞い
しおりを挟む
事件?から1週間が経った。
「シア、少しは回復したか?」
「うん」
「嫌な思いをさせたな」
「何言ってるの。ディオンのせいではないわ。
それに1ヶ月後には式を挙げる予定だったディオンの方が辛いはずよ。
友達なのに支えになってあげるどころか気を遣ってもらっちゃうなんて、本当にごめんね」
「…伯爵から話は聞いたけど、別の縁談を探すんだって?」
「もう、クリスチャンを受け入れられないの。思い出すだけで吐き気がするんだもの」
「分かった分かった。思い出すな。
ところで、アレク兄さんは知って…いないか。知っていたら無事では済まないからな」
「え?」
そんな話をしていると、ドアの開いた部屋の入り口から、領地にいるはずの兄様が入室した。
「天使!」
「兄様!?」
「(だよな)」
ツカツカと早歩きで私の元へやってくると 隣に座り持ち上げて膝の上に座らせた。
「シア。にいにがいるから心配しなくていい。
シアの望みを叶えてあげるからね」
「大丈夫です。お父様に婚約を破棄してくださるようお願いしましたから」
「ん? 父上は最初から破棄に動かなかったのか?」
「その…男という生き物は浮気をするものだからと」
「へえ」
「(怖っ)」
「ディオン?」
「何でもありません」
「シア。にいにはシア一筋だからね」
「お義姉様に叱られます」
「ちょっと父上のところに行ってくるから良い子にしていてね」
私を膝の上から下ろして退室した。
直ぐに戻って来ると今度はディオンを連れ出した。
同じものを見たディオンから話を聞くつもりだろうか。
「ボイズ公爵家からのいただき物を処分したいの。宝飾品は箱に入れてボイズ邸に送って。ドレスなどは寄付してちょうだい」
「お嬢様…よろしいのですか」
「もちろんよ」
「かしこまりました」
ディオンはそのまま帰ってしまい、ダイニングでは顔色の悪いお父様と苦笑いのお母様と、隣でパンを小さく千切って私の口に運ぶ兄様に囲まれて安心したのか パンとスープを完食できた。
その夜は兄様が寝かし付けに来てくれた。もうそんな歳じゃないのに本を読み聞かせながらお腹を優しくポンポンしてくれる。
「昔はよく一緒に寝ましたね」
「母上が“癖が付くから止めなさい”と言っていたが無視したな」
「でも、あの頃が一番幸せだった気がします」
「シア。領地に来るか?」
「でもこれから縁談を探すはずです」
「当然居ないとは思うけど 好きな男がいないなら嫁がなくていいんだ。にいにが一生面倒みるからね」
「でも、」
「父上の言ったことは忘れていいからね」
「兄様」
「さあ、続きを読もう」
兄様のおかげでぐっすり眠り、翌日起きたのは昼前だった。
「兄様は?」
「アレクサンドル様は登城なさいました」
王太子殿下に会いに行ったのかしら。
【 王太子エリオット 】
王太子の私の部屋にズカズカと入り 勝手にソファに座る。ベテラン侍従がメイドに指示を出し、私のではなく彼の好みの茶葉で茶を淹れる。正確には彼の妹が好きな茶葉だ。一口飲むと彼は、
「ふう。 さすがジェンソンさん。貴方がいればエリオットは安泰ですよ」
「アレクサンドル様、揶揄わないでください」
私を呼び捨てにして侍従にさん付けし褒める。私には買ってこない土産を侍従に渡す。
挙句、
「ジェンソンさん。エリオットに飽きたらキャロンで働いてください。歓迎します」
「ありがとうございます」
私の前で私の侍従を勧誘する。
「アレク。お前は本当に自由な奴だな。私に会うのに、前日の夕刻に“明日の10時に行くから調整してくれ”なんて手紙を寄越して予定をずらさせるのは父上かお前くらいだよ。勝手にここまで来て そのまま座ったら茶が出てくるんだからな」
「顔パスと言いたいところだが、きっとジェンソンさんが手を回してくれたから止められることなくここまで来れたんだよ」
「近衛はな。他は顔パスだ。近衛が顔パスを許したら大問題だからな」
「で、何で来たのか分かってるだろう?」
「ボイズ公子の件だよな。だから言っただろう。お前の天使は私の妃になった方がいいって」
「天使に妃教育なんてさせたら可哀想だろう。それに世継ぎ云々の重圧を負わせたくない。そもそもエリオットには婚約者がいただろう。正妃とのいざこざに巻き込ませたくない」
「何とかするって言ったのに」
「昨夜だって、シアのベッドで本を読んで寝かし付けたんだ。妃になったら出来ないだろう?」
「何やってるんだよ。天使は19歳だろう」
「いくつになっても最愛の天使だからいいんだ」
「で、どうなっているんだ?」
「隣に住む幼馴染のディオン・ウィルソンの婚約者ミリアナ・ボロンと シアの婚約者クリスチャン・ボイズがヤっているところをシアとディオンで目撃した」
「実際に見たのか」
「女の方がわざと見せたのだと思う」
「何故わかる」
「普通 自分の誕生日のパーティに、自分の婚約者がパートナーとして居て、シアもいるのにヤるか?
姿を消したら探されるのは当たり前だろう。
クリスチャンは馬鹿だから見つかると思っていなかったのだろう。
ボイズ公爵家は婚約の継続を望んでいて、ボロン伯爵家は破婚を望みクリスチャンと婚約したいと主張している」
「2人は」
「ウィルソン家もディオンも破婚を受け入れた。シアも破婚したいと望んだので これから話し合う」
「で、私に何をしろと?」
「サーファル辺境伯領の密輸の証拠と引き換えに、クリスチャンとボロン伯爵家に制裁を加える手助けをしてもらいたい」
「サーファル!?」
「欲しいだろう?」
「お前…それ いつから持っていたんだ」
「婚姻前からだな」
「アレクサンドル!」
「私は城勤めではないし個人的に得た情報だから、国に上げるかどうかは私の自由じゃないか?」
「どうやって」
「辺境伯の息子の嫁が私のファンらしくてね」
「お前、寝たのか!?」
「くだらないことを言うな。私に触れていいのはシアだけだ。マノンでさえ彼女からは触れない。母上は親だから仕方ない」
「はぁ。分かったよ」
「シア、少しは回復したか?」
「うん」
「嫌な思いをさせたな」
「何言ってるの。ディオンのせいではないわ。
それに1ヶ月後には式を挙げる予定だったディオンの方が辛いはずよ。
友達なのに支えになってあげるどころか気を遣ってもらっちゃうなんて、本当にごめんね」
「…伯爵から話は聞いたけど、別の縁談を探すんだって?」
「もう、クリスチャンを受け入れられないの。思い出すだけで吐き気がするんだもの」
「分かった分かった。思い出すな。
ところで、アレク兄さんは知って…いないか。知っていたら無事では済まないからな」
「え?」
そんな話をしていると、ドアの開いた部屋の入り口から、領地にいるはずの兄様が入室した。
「天使!」
「兄様!?」
「(だよな)」
ツカツカと早歩きで私の元へやってくると 隣に座り持ち上げて膝の上に座らせた。
「シア。にいにがいるから心配しなくていい。
シアの望みを叶えてあげるからね」
「大丈夫です。お父様に婚約を破棄してくださるようお願いしましたから」
「ん? 父上は最初から破棄に動かなかったのか?」
「その…男という生き物は浮気をするものだからと」
「へえ」
「(怖っ)」
「ディオン?」
「何でもありません」
「シア。にいにはシア一筋だからね」
「お義姉様に叱られます」
「ちょっと父上のところに行ってくるから良い子にしていてね」
私を膝の上から下ろして退室した。
直ぐに戻って来ると今度はディオンを連れ出した。
同じものを見たディオンから話を聞くつもりだろうか。
「ボイズ公爵家からのいただき物を処分したいの。宝飾品は箱に入れてボイズ邸に送って。ドレスなどは寄付してちょうだい」
「お嬢様…よろしいのですか」
「もちろんよ」
「かしこまりました」
ディオンはそのまま帰ってしまい、ダイニングでは顔色の悪いお父様と苦笑いのお母様と、隣でパンを小さく千切って私の口に運ぶ兄様に囲まれて安心したのか パンとスープを完食できた。
その夜は兄様が寝かし付けに来てくれた。もうそんな歳じゃないのに本を読み聞かせながらお腹を優しくポンポンしてくれる。
「昔はよく一緒に寝ましたね」
「母上が“癖が付くから止めなさい”と言っていたが無視したな」
「でも、あの頃が一番幸せだった気がします」
「シア。領地に来るか?」
「でもこれから縁談を探すはずです」
「当然居ないとは思うけど 好きな男がいないなら嫁がなくていいんだ。にいにが一生面倒みるからね」
「でも、」
「父上の言ったことは忘れていいからね」
「兄様」
「さあ、続きを読もう」
兄様のおかげでぐっすり眠り、翌日起きたのは昼前だった。
「兄様は?」
「アレクサンドル様は登城なさいました」
王太子殿下に会いに行ったのかしら。
【 王太子エリオット 】
王太子の私の部屋にズカズカと入り 勝手にソファに座る。ベテラン侍従がメイドに指示を出し、私のではなく彼の好みの茶葉で茶を淹れる。正確には彼の妹が好きな茶葉だ。一口飲むと彼は、
「ふう。 さすがジェンソンさん。貴方がいればエリオットは安泰ですよ」
「アレクサンドル様、揶揄わないでください」
私を呼び捨てにして侍従にさん付けし褒める。私には買ってこない土産を侍従に渡す。
挙句、
「ジェンソンさん。エリオットに飽きたらキャロンで働いてください。歓迎します」
「ありがとうございます」
私の前で私の侍従を勧誘する。
「アレク。お前は本当に自由な奴だな。私に会うのに、前日の夕刻に“明日の10時に行くから調整してくれ”なんて手紙を寄越して予定をずらさせるのは父上かお前くらいだよ。勝手にここまで来て そのまま座ったら茶が出てくるんだからな」
「顔パスと言いたいところだが、きっとジェンソンさんが手を回してくれたから止められることなくここまで来れたんだよ」
「近衛はな。他は顔パスだ。近衛が顔パスを許したら大問題だからな」
「で、何で来たのか分かってるだろう?」
「ボイズ公子の件だよな。だから言っただろう。お前の天使は私の妃になった方がいいって」
「天使に妃教育なんてさせたら可哀想だろう。それに世継ぎ云々の重圧を負わせたくない。そもそもエリオットには婚約者がいただろう。正妃とのいざこざに巻き込ませたくない」
「何とかするって言ったのに」
「昨夜だって、シアのベッドで本を読んで寝かし付けたんだ。妃になったら出来ないだろう?」
「何やってるんだよ。天使は19歳だろう」
「いくつになっても最愛の天使だからいいんだ」
「で、どうなっているんだ?」
「隣に住む幼馴染のディオン・ウィルソンの婚約者ミリアナ・ボロンと シアの婚約者クリスチャン・ボイズがヤっているところをシアとディオンで目撃した」
「実際に見たのか」
「女の方がわざと見せたのだと思う」
「何故わかる」
「普通 自分の誕生日のパーティに、自分の婚約者がパートナーとして居て、シアもいるのにヤるか?
姿を消したら探されるのは当たり前だろう。
クリスチャンは馬鹿だから見つかると思っていなかったのだろう。
ボイズ公爵家は婚約の継続を望んでいて、ボロン伯爵家は破婚を望みクリスチャンと婚約したいと主張している」
「2人は」
「ウィルソン家もディオンも破婚を受け入れた。シアも破婚したいと望んだので これから話し合う」
「で、私に何をしろと?」
「サーファル辺境伯領の密輸の証拠と引き換えに、クリスチャンとボロン伯爵家に制裁を加える手助けをしてもらいたい」
「サーファル!?」
「欲しいだろう?」
「お前…それ いつから持っていたんだ」
「婚姻前からだな」
「アレクサンドル!」
「私は城勤めではないし個人的に得た情報だから、国に上げるかどうかは私の自由じゃないか?」
「どうやって」
「辺境伯の息子の嫁が私のファンらしくてね」
「お前、寝たのか!?」
「くだらないことを言うな。私に触れていいのはシアだけだ。マノンでさえ彼女からは触れない。母上は親だから仕方ない」
「はぁ。分かったよ」
2,035
お気に入りに追加
2,307
あなたにおすすめの小説
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる