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シリウスとエストール
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翌日、エストールの宮にフォルナード辺境伯親子が訪ねた。
国王夫妻も一緒だ。
「エストール、迷惑をかけてすまなかった」
「シリウス殿下、申し訳ありませんでした」
「どれについてだ?
私の婚約者候補を掻っ攫ったことか?
斬ったことか?
毒を飲ませたと思い込ませたことか?
私の血が庭を汚すと汚物扱いしたことか?
うるさいからと追加の薬を飲ませようとしたことか?
負けた私を生かしたことか?」
「エストール・・・いくら何でも王子殿下を汚物扱いはダメだろう。
確かに子爵家の庭師を怒らせたくないが」
「私はその時、辺境伯夫妻に文句を言わないと死に切れないと思いましたよ」
「息子の不敬をお詫びいたします」
「父上…
俺は毒だなんてひと言も言っていません。
庭の件だって、庭師が恐いのは本当ですが、手当を拒んだから仕方なく言ったのです。
しかも、土地に取り憑こうとしていたのでこれ以上呪いを吐かせないために追加を飲ませようとしただけです」
「負けたら命を取るというルールだった。斬られた後に薬瓶を渡されれば毒だと思うだろうが!」
「剣の決闘なのに毒で決着なんかつけませんよ」
「わざとだ!わざと誤解させた!」
「だいたい、擦り傷みたいなものじゃないですか。
命に関わるほど深く斬られてたら、あんなに長々とまともに会話なんてできないですよ」
「父上、聞きましたか?
エストールはこうやって私を虐めたのですよ!」
「殿下。虐めたって人聞の悪い」
「ふふっ、だいぶ打ち解けましたのね」
「王妃様、申し訳ございません。
エストール、相手は殿下だぞ!」
「宜しいではございませんか。
死の淵にいると思い込んでいたにもかかわらず、楽しそうに話をしていたんじゃない。良かったわね、シリウス」
「・・・まぁ、助けてくれてありがとう」
「『まぁ』は何で付けちゃったんですか?」
「細かい男だなぁ。
お前、次男と言ったな。兄はどんな性格なんだ?」
「兄ですか? 温和ですね」
「あ~、偏ったか」
「殿下、自己紹介は結構ですから」
「お前のことを言っているんだよ!
お前の兄に会いに行こうかな」
「来なくていいですよ!」
「なんだ、その嫌そうな顔は!
絶対行くからな!私の部屋を用意しろよ!」
「住み着きそうだから嫌ですよ。テント持ってきてください。使い方はゼローム卿が知っているはずですから、教わってください」
「嫌だ!部屋が余ってないなら、お前のベッドを譲れ!」
「はぁ?譲るわけないでしょう」
「どうせ、婿入りするんだろう?
お前は使わないじゃないか」
「だとしてもです!ダメです!」
「よし、次期辺境伯である兄上を口説き落とそう」
「貴方の兄上じゃないですから!
しかも兄の方が貴方よりひとつ下です!」
「兄上でいいだろう」
「よくないです!
もう帰りますからね」
「何でだ?私は起きたばかりだ」
「お大事に。
さぁ、父上帰りましょう」
「あ~ 斬られた胸の傷が痛い!」
「・・・」
「誰に斬られたんだっけなぁ~」
「噂で聞いたんですけど、かすり傷らしいですよ(ニヤリ)」
「(チッ)・・・グズっ グズっ」
「わかりましたよ。今日は帰りませんから」
「グズっ(簡単だな)」
エストールは嘘泣きとは分かっていても、国王夫婦の前なのでそれ以上は言わなかった。
次の日も、また次の日も、エストールを呼ぶ時には国王か王妃を呼んで同席させた。
そして嘘泣きをすること1週間。流石に領地を開けすぎたので困ったエストールは、適当な言葉を投げかけた。
「泣くなシリウス!早く元気になって辺境に遊びに来ればいいじゃないか!」
「その時はいっぱい話ができるのか?」
「いっぱい話そう。ゆっくりしていいからな!」
国王夫妻と辺境伯は2人の近さに驚いたが、剣を交えて友情が芽生え始めたのだろうとあたたかく見守った。
シリウスは収獲を得たのでエストールを解放した。
国王夫妻も一緒だ。
「エストール、迷惑をかけてすまなかった」
「シリウス殿下、申し訳ありませんでした」
「どれについてだ?
私の婚約者候補を掻っ攫ったことか?
斬ったことか?
毒を飲ませたと思い込ませたことか?
私の血が庭を汚すと汚物扱いしたことか?
うるさいからと追加の薬を飲ませようとしたことか?
負けた私を生かしたことか?」
「エストール・・・いくら何でも王子殿下を汚物扱いはダメだろう。
確かに子爵家の庭師を怒らせたくないが」
「私はその時、辺境伯夫妻に文句を言わないと死に切れないと思いましたよ」
「息子の不敬をお詫びいたします」
「父上…
俺は毒だなんてひと言も言っていません。
庭の件だって、庭師が恐いのは本当ですが、手当を拒んだから仕方なく言ったのです。
しかも、土地に取り憑こうとしていたのでこれ以上呪いを吐かせないために追加を飲ませようとしただけです」
「負けたら命を取るというルールだった。斬られた後に薬瓶を渡されれば毒だと思うだろうが!」
「剣の決闘なのに毒で決着なんかつけませんよ」
「わざとだ!わざと誤解させた!」
「だいたい、擦り傷みたいなものじゃないですか。
命に関わるほど深く斬られてたら、あんなに長々とまともに会話なんてできないですよ」
「父上、聞きましたか?
エストールはこうやって私を虐めたのですよ!」
「殿下。虐めたって人聞の悪い」
「ふふっ、だいぶ打ち解けましたのね」
「王妃様、申し訳ございません。
エストール、相手は殿下だぞ!」
「宜しいではございませんか。
死の淵にいると思い込んでいたにもかかわらず、楽しそうに話をしていたんじゃない。良かったわね、シリウス」
「・・・まぁ、助けてくれてありがとう」
「『まぁ』は何で付けちゃったんですか?」
「細かい男だなぁ。
お前、次男と言ったな。兄はどんな性格なんだ?」
「兄ですか? 温和ですね」
「あ~、偏ったか」
「殿下、自己紹介は結構ですから」
「お前のことを言っているんだよ!
お前の兄に会いに行こうかな」
「来なくていいですよ!」
「なんだ、その嫌そうな顔は!
絶対行くからな!私の部屋を用意しろよ!」
「住み着きそうだから嫌ですよ。テント持ってきてください。使い方はゼローム卿が知っているはずですから、教わってください」
「嫌だ!部屋が余ってないなら、お前のベッドを譲れ!」
「はぁ?譲るわけないでしょう」
「どうせ、婿入りするんだろう?
お前は使わないじゃないか」
「だとしてもです!ダメです!」
「よし、次期辺境伯である兄上を口説き落とそう」
「貴方の兄上じゃないですから!
しかも兄の方が貴方よりひとつ下です!」
「兄上でいいだろう」
「よくないです!
もう帰りますからね」
「何でだ?私は起きたばかりだ」
「お大事に。
さぁ、父上帰りましょう」
「あ~ 斬られた胸の傷が痛い!」
「・・・」
「誰に斬られたんだっけなぁ~」
「噂で聞いたんですけど、かすり傷らしいですよ(ニヤリ)」
「(チッ)・・・グズっ グズっ」
「わかりましたよ。今日は帰りませんから」
「グズっ(簡単だな)」
エストールは嘘泣きとは分かっていても、国王夫婦の前なのでそれ以上は言わなかった。
次の日も、また次の日も、エストールを呼ぶ時には国王か王妃を呼んで同席させた。
そして嘘泣きをすること1週間。流石に領地を開けすぎたので困ったエストールは、適当な言葉を投げかけた。
「泣くなシリウス!早く元気になって辺境に遊びに来ればいいじゃないか!」
「その時はいっぱい話ができるのか?」
「いっぱい話そう。ゆっくりしていいからな!」
国王夫妻と辺境伯は2人の近さに驚いたが、剣を交えて友情が芽生え始めたのだろうとあたたかく見守った。
シリウスは収獲を得たのでエストールを解放した。
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