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小蠅

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カレンとエリザベスの王城散策は一週間経っても終わらなかった。何故ならやたらと引き止められるからだ。

お姫様は平民と同じ目線を持ち、気さくに話しかける。時には不意に口走ったことが使用人達の興味を引いたり、実際に実技をするからだ。

特に裁縫部門と厨房は飢えたゾンビのようにカレンに群がり離さない。

タイプの違う二人はそれぞれにファンを作っていた。

最初はカイザー狙いかと遠巻きに見ていた者も、二人に全くその気が無く、カイザーが輪の中にいたくて必死な姿を見て温かく見守るようになった。

だが中には“妬み”に囚われる者もいる。
特に中流貴族出身の侍女だ。
彼女達はカイザーや有望な貴族籍の騎士や文官、高官狙いだ。つまり婚活のために働きにきている者もいる。

彼女達は興味や視線を一身に集める2人が気に入らないのだ。
だがマックス卿やカイザーが常に側にいるし、それ以外は上級メイドが側にいる。
なかなか不満をぶつけるチャンスがない。
滞在中の専属侍女に立候補しても要らないと言われ、益々苛立ちが募っていた。

彼女達が出来ること。それは噂を立てることだけ。
だがそれが引き金でとんでもない事件が起きることになる。



滞在から10日、二人はドレスアップをしていた。
上級メイドとの賑やかな声が貴賓室から漏れ出る。
ドアの外にはソワソワと落ち着かないカイザーが徘徊していた。彼は中に入って一緒に支度をしたり話したいのだ。

今日はマックス卿とマックス卿の先輩にあたるベルモンド卿が彼女達の護衛に就く。
他にも就くが隣や背後に立ちエスコートまでするのはこの二人だ。

「(マックス。殿下はいつもこうか)」

「(はい。側にいることが出来ないとこうなります)」

しばらくするとドアが開いて2人が出てきた。
カレンは桃色に近い薄紫のスレンダーラインドレスで、胸元が深いプランジングネックになっている。

エリザベスは深緑のマーメイドラインとスレンダーラインの中間で、オフショルダーになっている。

2人のドレスはシュヴァル公爵夫人時代にカレンがデザインしたものだ。

ベネットもそうだがグロワールでも貴族女性のドレスはコルセットを失神手前まで締め付けてウエストを細くし胸を作り上げる。そしてパニエで膨らませ、レースやリボンをふんだんに使ったものだった。

対して2人は、パニエは使っていない。
エリザベスに限っては締め付けがあまりないウエストニッパーを着けてはいる。
エリザベスの曲線美が勝負のドレスと言っても過言ではない。

二人とも繊細なレースやふんだんな刺繍、パールやクリスタルなどで装飾していた。

3人は固まった。
カイザーは顔を赤くし、マックスとベルモンドは2人を一旦部屋に戻した。

「え?」

ベ「刺激が強すぎます!」

エ「脚も隠れていますし」

マ「その胸元は何ですか!」

私「小さいけど胸もちゃんと隠れていますよ」


数分後、

ベ「絶対に私の側から離れないでください」

マ「カレン妃は絶対に屈んだりしないこと」

私・エ「は~い」


今夜はカイザーの誕生日の祝いに夕方からパーティが開かれる。
元々あった予定で、独身の王太子殿下に妃を選んでもらおうと、伯爵家以上の家門には成人している未婚の令嬢がいれば同伴させるようお達しを出していた。

王族とともに彼女達も入場すると一気に騒がしくなった。

男達は鼻の下を伸ばしたり顔を赤くしながら釘付けだし、女達は批判を口にする。

だが、王女で王子妃だと分かると口を継ぐんだ。


ダンスはカレンとベルモンド、エリザベスとマックスがペアとなった。
カイザーにはダンスのパートナーは決まっていたからだ。
その日の一番高貴な独身令嬢が選ばれていた。もちろん何ヶ月も前の決め事だ。


ベルモンド卿のリードでステップを踏み始めた。

「殿下は余程気になるようですね」

「仲間外れにされたくなくて必死なのです」

「チラチラ見過ぎですよ。あれではお相手の令嬢に失礼になってしまいます」

「ベルモンド卿。心配しても仕方ないですわ。近寄って頭を引っ叩くわけにはまいりませんもの」

「まあ そうですけど」

「ベルモンド卿こそ、気を取られていますわ。
私じゃ不満ですか?」

「これは失礼いたしました。
不満ではなく不安です。
後で殿下に当たられそうで 殿下の視線が気になってしまいました」

「ベルモンド卿はマックス卿の先輩だと伺いました」

「はい。二年ほど。彼は良い男ですよ」

「おすすめですか?」

「彼の理性が保たないのでお手柔らかにお願いします」

「マックス卿が?
ふふっ。私など相手になさいませんわ。
エリーなら分かりますけど。

この後 エリーのガードを始めないと」

「エリザベス様は第二夫人だったのですよね」

「私が第三です」

「どうして仲良くなれたのでしょう」

「私と前の夫は白い結婚で夫から嫌われていたでそれが大きいかもしれません。
後は彼女が私に歩み寄ってくれたのです。初対面も感じ良くて。

エリーと仲良くなれたから あのままでも良かったのです。愛されることはないですけど、お世話をしてもらえて食事もでてきて予算もあるのですから。その上にエリーがいるなら文句はありません。

迎えになんて来なければ良かったのに」

「カレン妃?」

「ベルモンド卿は弓は得意ですか?」

「まあ名手とはいきませんがそれなりに」

「機会があったら見せてくださる?
私の腕じゃ弓を引けそうにありませんから」

「いいですよ」

「楽しみですわ」

「カレン妃に喜んでもらえるよう頑張ります」


ダンスが終わるとカイザーが競歩で私の元に来た。

「カレンっ!次!」

「カイザー。先にエリーを誘って」

「分かった」

また競歩でエリーのところに向かった。

「カレン妃。何か理由があって殿下を行かせたのですか?それとも…」

「成犬になる前の人懐っこい犬みたいですよね」

「餌をあっちに投げて気を逸らしたのですか?」

「当たり」

「殿下にその様な事をするのはカレン妃くらいですよ」

「エリーのためよ。カイザーと踊ることで少しは安易に声をかけようとする男達の抑制になるはずよ」

「なるほど」

「あの、カレン妃殿下。踊っていただけませんか」

「私もお願いします」

「ありがとう。でも飲み物を飲みたいの」


ベルモンド卿を連れて飲み物を取りに行った。

喉を潤していると小さな声で陰口が聞こえた。

〈下品ですわ。男を誘うためのドレスなど。
ベネットは奔放な国の様ですわね〉

ベルモンドは険しい顔になった。

「諌めてきます」

「放っておきなさい。愚かな小蠅など放っておけば自分の居場所が肥溜めだと分かるわ」

「なっ!」

大きな声で言い返された令嬢は顔を真っ赤にした。

「肥溜めって…」

ベルモンドは言葉の選択肢に驚いていた。

「私のどこが小蠅なのです!私は侯爵家の者ですのよ!」

「私にはあなたの身分が侯爵令嬢だろうが公爵令嬢だろうが関係ないの。意味がないもの。
私は王族で、王族の妻。そして王族の友人で国賓よ?

貴女の発言は私の友人であるカイザーと正式に招待してくださったリアーヌ王妃殿下の顔に泥を塗ったのが分からない?



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