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アーサーの従兄弟

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【 カイザー・ローフット  】

母はペズール帝国の筆頭公爵家ローフットの出身だ。
帝国から西にあるグロワール王国に嫁ぎ王妃になった。

私が王太子になったので、帝国に母の里帰りを兼ねて挨拶に行った。
滞在中に、帝国の東にあるベネット王国がローズヒルを滅ぼしたことを知り、名目ができたからと母は寄りたがった。

母の姉がベネット国王の第二妃だからだ。

ベネットの第二妃であるレティシア叔母上は国王の寵妃と言われる人で、長男、長女、次男と出産した。

長女は嫁ぎ、次男は幼い頃に高熱による発作で亡くなった。
長男アーサーはベネットらしい男で優秀な戦士だが、成人を迎えると近隣諸国を巡り震え上がらせた。交渉が決裂するとイエスというまで武力で圧力をかける男だ。しかも慈悲がなく女子供でも容赦なく殺し 非道も厭わないと噂が巡った。

帝国とうちは友好国になっていて、一度だけうちに来て会ったことがあった。

母リアーヌとレティシア叔母上は再会すると話に花が咲いた。

そして不在だったアーサーが帰ってきて、事情を話してくれた。

「妹の第四王女が婚家で夫から少し冷遇されていて、第一夫人のローズヒルの元王女が暗殺を企てていたので、ローズヒルを滅ぼして妹を離縁させて引き取ってきたんです」

兄弟を…特に異母妹など気にする感じには見えなかったのに、未遂なのに一国を滅ぼしに行くほど気に入った妹なのだなと思っていた。
だが、アーサーは先王と叔母上の子だったという発表があった。 

アーサーの妻子にも会ったが、恋愛結婚ではないことはすぐに分かった。

母上と叔母上は内緒話も多く、気を遣って席を外し散歩に出た。

馬を貸してくれるというので乗ったら、馬が飛び出して来た野良猫に驚いて、私を振り落とした。
厩舎に戻りシャワールームを見かけたので勝手に借りた。侍従に着替えを取りに行かせて、泥を落としていた。

冷たい水に後悔した。言わなきゃお湯なんて用意してもらえないことを思い出した。
一旦止めて石鹸で頭を洗い、再び水を出すとお湯にかわっていた。

誰か入って来たので話しかけた。

女だった。

青銀髪と瞳の美少女で絶対に貴族か王女だと思ったので先に叫んでおいた。

彼女はカレン。王女だ。しかもアーサーが動いた第四王女。

話をするととても気さくで楽しい女だった。
聞けば厩舎の掃除をした後だったらしい。
暇つぶしと居場所探しだと寂しそうな顔で言う。

次の日は噴水掃除をしていた。
手伝ってみることにした。
意外と一生懸命やれば無心になれた。

美味い軽食を作り、私の外見に反応せず、ローフットにも反応せず、寧ろ覚えていないしフルネームも尋ねない。
彼女は男としての私に興味がないのが分かった。

彼女は夫がいると言う。
書類上と言っていた。
それでも王城ここに住んでいるのは、別居なのかと思っていた。

翌日も噴水掃除をした。また美味い昼食を作って来てくれた。

ふと見ると顔色が悪い。
額に手で触れると熱があった。

彼女は倒れ込んでしまった。
抱き上げるととても軽い。

どこに運ぶのか聞いたらサジテール宮だという。だが、カレンはそれを嫌がった。

医務室に連れて行き部屋に戻った。

メイドに聞いてみた。

「サジテール宮って?」

「アーサー王子殿下の宮です」

「妹も兄の宮に住むのか?」

「カレン王女殿下のことですか?
カレン王女殿下はアーサー王子殿下の第二夫人ですので、サジテール宮に住んでおられます」

「兄妹で?……従兄妹か。そうだった。
お茶を淹れてくれないか」

「かしこまりました」

王座を奪うつもりがないのに今更先王の子だと明かしたのはカレンを娶るためだと分かった。

アーサーはカレンを愛しているのだろう。
だけどカレンは嫌がっているように見えた。

初婚時代の友人であり第二夫人だったエリザベスが来てからはカレンは明るくなった。
エリザベスはローフットと聞いて丁寧なカーテシーをした。ローフット家を知っているということだ。

二人のときも良かったが、三人の今はさらに楽しい。
三人の友情もいいが二人が妻ならいいなと思ってしまった。まあ、私は二の次になりそうだが居心地が良かった。

カレンはときめいた男とは上手くいかなかったと言った。

初婚の相手ではあり得ないとすれば今の夫、アーサーのことだろう。
何かが原因でカレンの気持ちが冷めヒビが入ったのだろう。

そして二人から身の上話を聞いた。二人とも辛い思いをしたようだ。
特にカレンはこの城に良い思い出がない。親しい姉妹も友人もいない。

ベネットに拘る理由がないということだ。

だが、アーサーの妻というのは厄介だ。


夕食後、

「母上、友人ができたのですがグロワールに招待したいのですが」

「どなた?」

「第四王女とその友人の伯爵家出身の女性です」

「第四ってアーサーの妻になったっていう?」

「はい」

「従兄弟の妻に手を出すなんて、」

「友人だって言ったじゃないですか。
彼女は私に異性を感じていませんし興味もありませんよ」

「夫婦で招くなら分かるけど…遠征よね」

「カレンはこの城で嫌な思いをして友人もいない孤立した子だったと聞きました。
アーサーがいない今、グロワールに遊びに来て羽を伸ばすくらいいいんじゃないですか」

「ならカレン王女が来たいと言ってくれないと駄目ね」


翌日、母上にカレン達を合わせることにした。

「え?ローさんってグロワール王国の王太子殿下だったの!?……ですか」

「友達じゃないか。今まで通りタメ口で話してくれよ」

「でもローなんとかって」

「ローフットって言ったろう。
母上の旧姓だよ」

「何で偽ったの?」

「偽ったというか、畏ってほしくなかったからだよ」

「カイザー……ぽくないね」

「何のイメージだよ」

「エリーもいいの?」

「エリーも友達だろう」

「行きたい!

あ、王妃様、機会がいただけるのでしたら是非」

「本当にお友達なのね。正式にご招待しますわ」

「ありがとうございます。

ねえ、ローさん…じゃなくて王太子殿下」

「カイザーって呼んでくれよ」

「カイザー。エリーと同室にしてね」

「また二人でずるいぞ。部屋は分ける」

「え~」







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