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ライバル(ファルーク)
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【 ファルークの視点 】
私は愛など信じてはいない。
雇用主からの強姦により産まれた子に、己に仕えよと証を刻む悪趣味な神は愛を謳う。
そんな暇があるなら性犯罪者をこの世に生み出すのを止めて欲しい。 愛のない結婚を強いる者に天罰をくだして欲しい。
親子関係が認められて慰謝料をもらった。かなりの金額で平民としてなら一生その金で生きていけるだろう。
神殿で育てられ知恵が付いてきた。不合格になれば解放される。だがここに居れば金をかけずに衣食住と教育の提供がある。それに安全だと判断して残った。
子供達を管理する育成部門のトップは私を他の子達と離した。私の容姿のせいだ。女の子の勉強の妨げになったり、私を巡って揉めるからだ。
下女でさえ近寄らせない。私が襲われるからだ。厳しい審査を通った下男が面倒をみてくれた。
ある日 王女が奉仕活動を始めると聞いて覗き見をした。まだ7歳の子だった。何度か見かけると彼女のことが分かってきた。
一生懸命で身分の差別をすることもない。貴族令嬢の上辺の奉仕活動とは違い、小さい体で洗濯や掃除を手伝う。暑い日も寒い日も。
そして私を見かけても興味を示さない。彼女にとって私は皆と一緒だった。
成人したら神殿を出て平民として生きていくつもりだった。だけどこの凛とした目の離せない少女を見ていたかった。
より良い地位に就こうと猛勉強をした。
信仰心など無いが、あるフリをして昇進を繰り返した。
彼女が成人する頃には、婚姻資格を得るあと一歩というところまできた。
いつも彼女が来る日に顔を出して労いの言葉をかけるが、当たり障りのない返事を返し、お茶に誘っても断る彼女に信頼を寄せた。他の女達とは違うと。
婚約の知らせを聞いた時には絶望感に包まれた。
間に合わなかった。
国王陛下に似たエリサ王女様に早く婚約者を作らなかったから、恋愛結婚をさせるのだと思っていた。
恋などしていなさそうだったから安心していたのに後妻のジャミラ王妃が決めてしまった。相手は美男子だという。
彼女が選ぶはずはない。神殿に通い詰めた彼女なら愛のない結婚を嫌がるかも知れない。
僅かな望みをかけて神判長になり、婚姻資格を得た。
チャンスはやってきた。
思っていた状況とは違うが、婚約は破棄された。
そして彼女に不幸をもたらした女をこの手で処罰できた。
直ぐに次の婚約は決まらないだろうと思っていたのに彼女はもう神殿に来ないと言う。
は?他の男との縁談!?
君の笑顔は他の者に向ける笑顔と同じだった。
君の態度は他の者に向ける態度と同じだった。
君がこんなに素晴らしい女性もいるのだと私に教えてくれた。
君が私との時間を断った。
そうやって他の女達と違うことをして私の心に住み着いておきながら、また私以外の男と婚姻しようとするのか!?
急いで陛下に会わせて欲しいと頼み込んで求婚した。
「其方とエリサはそのような関係だったのか?」
「いえ。一方的ですが、私はエリサ様をずっと見て参りました。彼女の素晴らしさをよく存じ上げております。親族以外でエリサ様をお慕いしているのは私です。私以上はありません。
奇跡を信じて神判長にまで上り詰めました。どうかエリサ様との婚姻をお許しください!」
「ん~
そうは言っても既に同じことを言う男が現れてな。
彼もエリサを慕ってきたそうだ。あまり知らせていないが、婚約者の募集を公表すれば、同じことを言う男はまだまだ居るはずだ。
兄の私から見てもエリサは身も心も綺麗な子だ。
本人は何故か自己評価が低いがな」
「誰ですか」
「ハイダー将軍だ」
「英雄の?」
「後妻とはなるが、彼はいい男だ。歳上ならではの経験値で傷付いたエリサを包むだろう。まだ子もいないしな」
「将軍と接点はないはずでは?」
「神殿に奉仕活動に出向いていたように、負傷兵の看護の奉仕活動もしていたんだ。
当然将軍も様子を見にいくし部下を激励しにいく。
城内で見かけることもある」
「今の時点でエリサ様がハイダー将軍を愛していないなら、私の方がいいはずです」
「だがファルーク神判長は美男子過ぎる。
エリサの前の婚約者も神判長ほどではないが美男子だった。エリサがどう感じるか。それに神判長のファンがエリサに矛先を向けないとも限らない」
「将軍だって端正な顔立ちで人気があるでしょう。
私は婚姻歴もありませんし他の女性と交わったことなどありません!」
「分かった。神判長とも交流するようエリサに言おう。だが、将軍を攻撃するようなことはしないで、あくまでも自身の魅力だけで勝負してもらいたい」
「感謝いたします」
排除はできなかったがチャンスはもらえた。
エリサ様と歌劇の観賞に行った。
見慣れた私の顔に頬を染めることはないが、無反応ではなかった。耳元で話すと動揺するし可愛い。
初回にしてはいい雰囲気だったのに、4人の愚かな女達が水を差した。
彼女の顔が曇ったが、その後 同じようなことがあれば教えて欲しいと制裁を口にすると“ご褒美だ”と言う。
こういう彼女がとても好きだ。だが男としては妬いて欲しい。
細くて美しい薬指を口に含み舐めた。
この指に指輪をはめるのは私だ。意識してもらいたい。キスもそれ以上のことも。
狼狽えて赤くなる彼女に今は満足しよう。
だが数日後、ハイダー将軍とエリサの噂を耳にした。
どうやら思っていたより女の扱いに慣れた男のようだ。改めて気を抜くことはできないと痛感した。
私は愛など信じてはいない。
雇用主からの強姦により産まれた子に、己に仕えよと証を刻む悪趣味な神は愛を謳う。
そんな暇があるなら性犯罪者をこの世に生み出すのを止めて欲しい。 愛のない結婚を強いる者に天罰をくだして欲しい。
親子関係が認められて慰謝料をもらった。かなりの金額で平民としてなら一生その金で生きていけるだろう。
神殿で育てられ知恵が付いてきた。不合格になれば解放される。だがここに居れば金をかけずに衣食住と教育の提供がある。それに安全だと判断して残った。
子供達を管理する育成部門のトップは私を他の子達と離した。私の容姿のせいだ。女の子の勉強の妨げになったり、私を巡って揉めるからだ。
下女でさえ近寄らせない。私が襲われるからだ。厳しい審査を通った下男が面倒をみてくれた。
ある日 王女が奉仕活動を始めると聞いて覗き見をした。まだ7歳の子だった。何度か見かけると彼女のことが分かってきた。
一生懸命で身分の差別をすることもない。貴族令嬢の上辺の奉仕活動とは違い、小さい体で洗濯や掃除を手伝う。暑い日も寒い日も。
そして私を見かけても興味を示さない。彼女にとって私は皆と一緒だった。
成人したら神殿を出て平民として生きていくつもりだった。だけどこの凛とした目の離せない少女を見ていたかった。
より良い地位に就こうと猛勉強をした。
信仰心など無いが、あるフリをして昇進を繰り返した。
彼女が成人する頃には、婚姻資格を得るあと一歩というところまできた。
いつも彼女が来る日に顔を出して労いの言葉をかけるが、当たり障りのない返事を返し、お茶に誘っても断る彼女に信頼を寄せた。他の女達とは違うと。
婚約の知らせを聞いた時には絶望感に包まれた。
間に合わなかった。
国王陛下に似たエリサ王女様に早く婚約者を作らなかったから、恋愛結婚をさせるのだと思っていた。
恋などしていなさそうだったから安心していたのに後妻のジャミラ王妃が決めてしまった。相手は美男子だという。
彼女が選ぶはずはない。神殿に通い詰めた彼女なら愛のない結婚を嫌がるかも知れない。
僅かな望みをかけて神判長になり、婚姻資格を得た。
チャンスはやってきた。
思っていた状況とは違うが、婚約は破棄された。
そして彼女に不幸をもたらした女をこの手で処罰できた。
直ぐに次の婚約は決まらないだろうと思っていたのに彼女はもう神殿に来ないと言う。
は?他の男との縁談!?
君の笑顔は他の者に向ける笑顔と同じだった。
君の態度は他の者に向ける態度と同じだった。
君がこんなに素晴らしい女性もいるのだと私に教えてくれた。
君が私との時間を断った。
そうやって他の女達と違うことをして私の心に住み着いておきながら、また私以外の男と婚姻しようとするのか!?
急いで陛下に会わせて欲しいと頼み込んで求婚した。
「其方とエリサはそのような関係だったのか?」
「いえ。一方的ですが、私はエリサ様をずっと見て参りました。彼女の素晴らしさをよく存じ上げております。親族以外でエリサ様をお慕いしているのは私です。私以上はありません。
奇跡を信じて神判長にまで上り詰めました。どうかエリサ様との婚姻をお許しください!」
「ん~
そうは言っても既に同じことを言う男が現れてな。
彼もエリサを慕ってきたそうだ。あまり知らせていないが、婚約者の募集を公表すれば、同じことを言う男はまだまだ居るはずだ。
兄の私から見てもエリサは身も心も綺麗な子だ。
本人は何故か自己評価が低いがな」
「誰ですか」
「ハイダー将軍だ」
「英雄の?」
「後妻とはなるが、彼はいい男だ。歳上ならではの経験値で傷付いたエリサを包むだろう。まだ子もいないしな」
「将軍と接点はないはずでは?」
「神殿に奉仕活動に出向いていたように、負傷兵の看護の奉仕活動もしていたんだ。
当然将軍も様子を見にいくし部下を激励しにいく。
城内で見かけることもある」
「今の時点でエリサ様がハイダー将軍を愛していないなら、私の方がいいはずです」
「だがファルーク神判長は美男子過ぎる。
エリサの前の婚約者も神判長ほどではないが美男子だった。エリサがどう感じるか。それに神判長のファンがエリサに矛先を向けないとも限らない」
「将軍だって端正な顔立ちで人気があるでしょう。
私は婚姻歴もありませんし他の女性と交わったことなどありません!」
「分かった。神判長とも交流するようエリサに言おう。だが、将軍を攻撃するようなことはしないで、あくまでも自身の魅力だけで勝負してもらいたい」
「感謝いたします」
排除はできなかったがチャンスはもらえた。
エリサ様と歌劇の観賞に行った。
見慣れた私の顔に頬を染めることはないが、無反応ではなかった。耳元で話すと動揺するし可愛い。
初回にしてはいい雰囲気だったのに、4人の愚かな女達が水を差した。
彼女の顔が曇ったが、その後 同じようなことがあれば教えて欲しいと制裁を口にすると“ご褒美だ”と言う。
こういう彼女がとても好きだ。だが男としては妬いて欲しい。
細くて美しい薬指を口に含み舐めた。
この指に指輪をはめるのは私だ。意識してもらいたい。キスもそれ以上のことも。
狼狽えて赤くなる彼女に今は満足しよう。
だが数日後、ハイダー将軍とエリサの噂を耳にした。
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