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開戦

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カーン ドスッ

「もう一度」

カン カン  カン 

「っ!!もう一度」

リタに剣を弾かれ落としたり、読まれて防がれて急所に寸止めされるという状態を繰り返している。

ウィリアム様はシャツ1枚に防具という姿。
初めて薄着の彼を見たが鍛えているのが分かる。

「もしかして、手加減しているか?」

「…はい」

「無しで頼む」

「では、王太子殿下からどうぞ」

「行くぞ」

ウィリアム様の模造剣をスッと避けたリタは背後に周り首元に剣を寸止めさせた。

「っ!!」

「次は私から参ります」

「分かった」

リタが踏み込むとウィリアム様は一瞬では判断ができず、動けないまま喉元に模造剣の先を向けて寸止めされた。
リタは大振りで剣を振り被らない。間合いを詰める瞬間に剣を入れる場所を決めて急所に当てる。

相手の大振りの剣に当たれば首や腕は飛ぶだろうし胴に当てれば半分以上斬り込まれるだろう。だがそれにはリスクがある。相手の動きが早ければ振り上げている間に死を感じるほど近くに寄られてしまうのだ。リタは大きな血管を斬り付けて失血死を狙う、額付近を切って血で視界を奪う、眼球自体を刺して視力を奪う、喉を刺して呼吸の邪魔をする若しくは血で窒素させる。足の腱を斬って立てなくする、手の腱を斬って剣を握れなくする。心臓を貫く。

「参った、降参だ」

「お手合わせ、ありがとうございました」

もちろん戦況に応じて手首を斬り落としたり首を切り落としたりもする。

「リタが本気を出すと私では剣を当てることさえ許されないのだな」

「私は一応女です。まともに鍛えた男性と剣を合わせれば、力負けする可能性が高いのです。ですから1秒でも早く決着を付けないと死んでしまいます」

「確かに」

そんな2人をみていた私に後ろから話しかけたのはナディア様だった。

「さすがブクリエの戦士ね。圧巻されるわ」

「はい」

「ブクリエの女性でリタ以上の人はいるの?」

「在ると聞いております」

「ブクリエの男性の戦士はどうなのかしら」

「リタ曰く、絶対に敵にしたくないそうです。
勿論日頃は弱者や女子供に手を出しません。妻や恋人からの平手打ちにも全く動じません。ですが敵だと認識されたら どんな相手にも容赦はしません。もちろん法の遵守の元にですが。
例えば酔って攻撃してきた者がいたら反撃します。拳には拳、武器には武器で応戦します。その場合反撃で相手の命を奪ったとしても咎めはありません。それがお年寄りでも女性相手でも」

「…ブクリエ人の王子が他国へ婿入りしたって聞かないわね」

「ブクリエは法の遵守の元に強者を敬い優先します。王子達は幼い頃からブクリエの英才教育を受けます。平民も貴族も強い王子でないと受け入れません。王子兄弟間で王位争いが起きると決闘で決めます。もちろん馬鹿では次期国王は務まりませんので馬鹿は先に国の上層部が失格にします。
適性無しで失格にされた王子でも、決闘に負けた王子でも他国に渡ることなど考えません」

「他国なら国内最強と称えられるかもしれないのに?」

「小さな頃から恥だと教わるのです。戦力の弱い国へ渡って一番になり天下を取ったつもりになることは恥ずべきことだと教わります。強い者に挑み上り詰めることが本物の戦士と讃えられるのです。
ブクリエ以外の国で頂点に上り詰めても それは弱い者虐めをしただけと捉えられて、軽蔑されます。家族からも縁を切られるでしょう。
今は長男のリアム従兄様が弟達をおさえて王太子になっていると聞きました」

「他国は弱者扱いなのね。だから他国を攻めないのね」

「はい。攻撃されない限りは」

その後、リタはウィリアム様や騎士達に指導をしてくれと懇願されたが断った。

“ブクリエの掟ですので”

ブクリエ国民以外には教えてはならないという決まりがあった。
ビス卿にはブクリエ式ではなく基本を教えて底上げし、少しでも自分達を守る戦力にしようとしていたに過ぎない。

だけどイレーヌはブクリエ国民ではない。なのに何故 教育したのだろうかとリタに尋ねた。

“リアム様がお望みになり、国王陛下がお認めになりました”

それを聞いてリアム従兄様に会いたくて仕方がなかった。

「会いたい」

「どなたにですか?」

「リアム従兄様」

「かしこまりました。ノヴァを明日飛ばします」

「止めて、駄目よ。迷惑だから止めて」

「そんなことはございません。大喜びなさいます」

「でも止めてね。従兄様は王太子なのよ?」

「…善処します」



あれから1週間後、内通者が2人捕まった。

「捕まえた内通者はテオドールの妻キャスリンの侍女マルタでした。彼女はキャスリンが嫁ぐ前のエフォナ辺境伯家から連れてきた侍女です。マルタが日程を流しておりました。このところ遅刻をしたり空白の時間があったので詰問し部屋を操作した結果 証拠が出てました。
そしてもう1人はマルタの恋人で国境を警備している兵士でした。拷問の結果 ゾルディア人だと分かりました。
目的は王太子殿下の拉致。捕虜にする予定で、抵抗が激しければ殺せと聞かされているようです。
どうやらマルタは男に恋をしていますがゾルディア人のトリスタンは利用しただけのようです。彼は採用されて1年でした。
まだ他にも必ずいるはずですので引き続き調べております」

バロス辺境伯が経過報告をした。

「なら私が王城へ戻れば 襲う相手がいないから引くだろうか」

「目的の一つなのか 王太子殿下だけを標的にしているのか分かりませんので」

「王太子を狙ったら、戦争ですよね?」

バロス辺境伯とウィリアム様の話に、私はゾルディアが戦争をしたいのではないかという意味で発言した。

「完全に喧嘩を売っていますものね」

はなさった方がよろしいかと」

ナディア様とリタも続いた。

〈 フォーン  フォーン 〉

話の途中で低くて太い警笛の音が外から聞こえた。

「失礼します」

辺境伯は険しい顔をして走り去った。

「リタ、私はどうする方がいい?」

「あれはおそらく開戦の警笛だと思います。
王太子殿下は指揮官でも軍事に携わってもおりませんので、本来なら王城へ戻っていただきたいところです。ですが国境とバロス城と領地を守ることに集中するとなると、王太子殿下の護衛に辺境軍を割り当てることはできません。どこに賊に扮したゾルディア兵が潜んでいるか分かりませんので、地下に王太子妃殿下と避難をなさってください」

「私では戦力外か?」

「捕まって欲しくないだけです」

「なら見窄らしい服に着替えて焦茶色のカツラを被ろう。私だと分からないだろう。
イレーヌ、ナディアと一緒に地下へ行ってくれ」

「私は戦力です」

「分かってる。だが 好きな女を戦場へ向かわせる夫はいない」

ウィリアム様の真剣な顔に少し驚いた。
本当に私を好きなの?


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