【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ

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忍び寄る影

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辺境伯の子息 テオドール・バロスを 崩落した井戸に呼び出した。

「イレーヌ妃殿下、なんでしょうか」

「井戸を見ていただけますか」

ランタンに紐をつけて下ろすと井戸の中が良く見えた。

「リタ、説明して差し上げて」

「バロス様、崩落と伺いましたが崩落箇所がありません。これは井戸を潰したのです」

「……確かに」

「異物を退けた後は動物に飲ませてみることをお勧めします。井戸を潰したり毒や死骸を投げ込んだりする方法はよくある手です」

「…よくある?」

「はい。そしてバロス城へは迂回路をご提案します」

「襲われるとでも言うのか?」

「これを見た後では不安で仕方ありません」

「大幅に日程がズレてしまう。賊が出て来ても我らで対応できる」

「では 私とイレーヌ様は迂回路から向かいます」

「リタ殿にその権限が?イレーヌ妃殿下はウィリアム王太子殿下の第三妃、この国に嫁いだ以上そのような事は許されません」

「……」

「リタ、今回だけ引き下がりましょう」

「ですが、この先は渓谷なのですよ」

「お願い」

「かしこまりました」

「テオドール様、私達から伝えることは以上です。後はバロス家としてご判断ください。では失礼します。
リタ、ビス卿、行きましょう」



【 テオドール・バロスの視点 】

親友と言っても過言ではない王太子ウィリアムから手紙が届いた。
先に俺が手紙を出していたからだ。新聞にウィルが第三妃を迎えて婚姻したと書いてあったので“式に呼ばないなんて水臭い”と書いて送ったら、有り得ないほど簡素な式になってしまったからだと書いてあった。

ルフレーの側妃の娘 イレーヌ王女。
異母兄妹達と折り合いが悪く、特に下の妹とは犬猿状態だ。イレーヌ王女の母親は国王の寵愛を受けているので、嫌がらせも加減はしていたようだが執拗だった。

異母妹の夫になった公爵家の息子は最初イレーヌ王女を妻にしたがっていた。だが意地悪をするくせに嫁がせたくない異母兄とその妹が手を組んで、公子と異母妹の既成事実を作ってしまった。公子は泣く泣くイレーヌ王女を諦めた。

だが 突然、エルドラドの王太子ウィリアムの第三妃となる宣言をした。異母兄達はイレーヌ王女が何度も断って来た求婚だからまた断るだろうと油断していた。
異母兄達は大反対したが、既にイレーヌ王女が承諾の返事を送ってしまい、覆ることはなかった。

国境を守る辺境伯家として他国の情報はもらえたから知り得ていた。

そんなに嫌いならさっさと嫁がせれはいいのに 何故 異母兄達はイレーヌ王女を留めておきたかったのだろうか。
それは領境の町で判明した。

ウィル達の乗る馬車とそれを取り囲む近衞騎士中心の騎馬隊の中にかなりの美人が紛れていた。
ウィルが馬車から降り、続いてナディア王太子妃が降りたが第三妃は降りてこない。エスコートが必要なのかと馬車を覗くといない。
手紙に、ウィル自身の失態とイレーヌ妃殿下の出した条件で白い結婚となったこたが書いてあった。
だから揉めて“行きたくない!”と部屋から出てこなかったのだと思った。 

なのに…

フワリと馬から降りて外套のフードを脱いだあの女性騎士は 1つに纏めた青銀の髪を靡かせ ブルートパーズの瞳をキラキラと輝かせながら俺を見上げた。
騎士ではなく彼女がウィルの3番目の妻イレーヌ妃殿下だった。

ドクン

ルフレーの兄王子達が異母妹イレーヌ王女を虐めたのは実母の手前 仕方なかったのだろう。半分血が繋がっていながらも惹かれずにはいられず、縁談を潰し側に置きたかったのだ。
長男が王になるまで邪魔し続けて、王位を譲られたときに彼女を愛でるつもりだったのだろう。

ドクン

王都にいた頃はウィルと美女を抱いてきた。
2人で1人の女を抱いたこともあるし3人の女をウィルと2人で抱いたこともある。口説いて女が堕ちるか賭けたり、高級娼婦に咥えさせて どちらが先に搾り取られるかウィルと賭けたこともあった。
バロス領に戻れば
政略結婚をするまでのお遊びを散々してきた。

見慣れたと思っていた俺が一目で心臓を鷲掴みにされた。何者にも穢されていない彼女はスタイルも良い。ベッドに連れ込んで組み敷き快楽を教えてやりたい。妻にして俺しか見ないように躾けたい。
だが彼女は親友で王太子ウィリアムの妻。食事の様子を見るとウィルはイレーヌ妃殿下に惚れているのがわかる。解放するとは思えない。


「テオドール様、イレーヌ妃殿下が井戸でお待ちしていると言伝を預かりました」

「…直ぐに行く」

まさか 俺を所望しているのかと心躍らせて向かうも、井戸の中を見ろと言う。

井戸の状況、懸念
この2人は何者なのだ?
迂回路を使う?2日は延びてしまう。この2人は給水済みだが俺達は違う。井戸も川も駄目なら最短ルートを進むしかない。

ウィリアムの第三妃の立場なら従えと言うと、不満そうなリタを制してイレーヌ妃殿下が折れた。
だがリタは冷たい視線を送ってきた。
この俺に一介の侍女兼護衛が取る態度ではない。

翌日、イレーヌ妃殿下とリタは自身の馬に馬衣のようなものを装着させていた。それは顔や首にも。
日が高く昇る頃にはそれでは馬が暑さにやられてしまう。

注意はしたが聞き流されてしまった。
腹は立つが仕方ない。馬車の席に余裕はある。いざとなれば馬車に乗せよう。その時には大人しく言うことを聞くようになるだろう。そう思っていた。


途中、馬車を方向転換できない細い道に差し掛かり、先に部下に通らせて問題ないか調べさせた。
その間に、イレーヌ妃殿下やリタは馬に水を飲ませ、濡らした布で馬を冷やしていた。貴重な水を…。いざという時のために我々のためにも取っておいて欲しい。だからその馬衣を外して欲しいと願っても、あの時に大袈裟だと無視した我らが言えるはずもない。

細い道に侵入ししばらく進んだところで矢が飛んできた。

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