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妻は大事に

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翌日も私の住まいにナディア様とノアム様が遊びに来ていた。

「イレーヌ様、ウィリアム王太子殿下との婚姻に意味がありますか」

「ノアム様?」

「次期王妃というわけでもありませんし、歓迎されていなかった、そうですよね?」

「異母兄妹から離れられたらそれでよかったのです。平穏に過ごせたらそれで」

「だったらエスペランスでもいいと思いませんか」

「はい?」

「ウィリアム王太子殿下と離縁してうちに来ませんか」

「移住ということですか?」

「妻に迎えたいということです」

「どなたのですか?」

「私です」

「…ノアム様は正妃様がいらっしゃって しかもご懐妊中ではありませんか」

「一夫一妻制ではありませんし、王族は普通ですよね」

「……お気持ちだけ受け取らせていただきます」

「ウィリアム王太子殿下に拘る理由がありますか?」

「私にとって大差無しというこです。
ウィリアム様がアレでも私には害になるレベルではありませんし ここにはナディア様がいらっしゃいます。
エスペランスは懐妊中の妻をあまり敬わないのですね。正直残念です。ほとんどの女性が大変な思いをしてお腹の中で胎児を育てて、いざ出産となれば激痛を長時間伴う命懸けの役割を果たすというのに…。
ノアム様とお妃様の関係がどうなっているのか存じませんが、お妃様が命をかけてノアム様のお子を産もうというのにあんまりだと思います。
戦争を回避するための政略というのなら話を聞きましょう」

「……」

「イレーヌ、気分を害したかしら。
ノアムの妻は中身に難有りでね。確かにイレーヌの言う通りだけど、時期を待っていたらイレーヌがウィリアム様に絆されないか心配なのよ。
でも、可愛い弟に良き妻をなんて思っていたけど、イレーヌを渡したら私と居られないのよね…それは嫌ね」

「姉上っ」

「イレーヌが嫁いで来る前ならいいけど、もう私の中でイレーヌの存在が大きいのだもの。ごめんなさいね、ノアム」

「あんまりですよ。私だってイレーヌ様を知ってしまったのですよ?忘れるなんてできません」

「ノアム様、私は貴方の妃にはなりません。
そもそも大した離縁理由などないのに、貴方に乗り換えろと?国王陛下がお許しになるはずもありません」

「白い結婚は十分な理由ではありませんか」

「それを理由にしたら 直ぐに初夜を迎えることになってしまいます。私は今のままでいいのです」

「残念です。ですが1年後にまたお話ししましょう。気が変わっているかもしれませからね。
ですが来月でも半年後でもその気になったり此処を離れたくなったらお手紙をください」

熱い眼差しを最後まで向けたままノアム様は2日後にエスペランスに向けて出発した。



ノアム様が去った後のウィリアム様はとても機嫌がいい。

「ナディア。イレーヌと3人で観光に行かないか」

「観光ですか?」

「イレーヌは前回のお忍びを一度経験しているが賊を相手にしてしまって観光ではなくなった。せっかく妃として嫁いできたのに嫁ぎ先の国の中を見たことが無いのは残念なことだ。一つでも二つでも見て知っておかないと」

「日帰りですか?」

「遠出にしようと思う。本来はイレーヌとの新婚期間で仕事は空けてあるんだ。イレーヌ、何処に行きたい?」

「辺境伯」

「辺境伯?観光というにはちょっと」

「妃が国を知るなら外せない場所ではありませんか」

「では、バロス辺境伯を訪ねましょう。私も行ったことがないから」

「バロス……ヘイヴィン辺境伯でもいいんじゃないか?」

「あっちは今 雨季じゃないですか…もしかして、バロス辺境伯一家にイレーヌが興味を持ちそうだと心配なのですか?」

「…そんなことはない」

「では、後はよろしくお願いしますわ」



10日後、イレーヌとウィリアムとナディアの3人は護衛騎士達を連れてバロス辺境領へ向かった。

バロス辺境領までは距離もあり野宿を強いられる旅となったのだがイレーヌとリタは道中騎馬で移動し、野宿にも慣れたものだった。騎士達の手伝いをして仲良くなり、途中でイレーヌが獲物を狩り リタが捌き、キノコや木ノ実を採り皆で食した。2人は塩や乾燥ハーブやスパイスを持参していて、川の近くならリタ手製の投網で魚を捕まえて塩焼きにした。

先日、賊を倒して貴族を助けたという話は聞いていたが誰もが半信半疑だった。ノアム殿下の護衛騎士がこっそり同行していたから、彼らの手柄がイレーヌ達の手柄と誤って伝わった話程度に思っていた。

だがイレーヌは今回、馬に乗り馬車の速度に合わせて進みながら ふと弓を構えて空や茂みに矢を放ち仕留めたウサギや鳥をリタが回収してくる。
話は本当だったのだと悟った騎士達はイレーヌ達に興味津々だった。何故なら美しく華奢な一国の王女のイメージとはかけ離れていたから。

「リタ様はやはり剣が得意ですか」

「はい」

「バロス城に着いたら手合わせをお願いできますか」

「私も任務中ですので、イレーヌ様のお側を離れるわけにはまいりません」

「私も混ざるから受けてあげて」

「かしこまりました。
ビス卿、お許しが出ました」

「ありがとうございます」

ビス卿はこの隊の中で一番若い。何かと雑用をしなくてはならない彼にとって手伝ってくれるイレーヌとリタにとても感謝をしていた。
もっと仲良くなりたいと思っての申し出だった。

「ビス卿、お菓子あるわよ。さっきの町で買っておいたの」

「いいのですか!?」

「私の一つ下なんて、弟みたいなものじゃない。遠慮なく食べてね」

「ありがとうございます、イレーヌ妃殿下」

野宿の準備を終えてビス卿と話し込んでいると ウィリアム様が近寄った。

「私の分は無いのか?」

「無いです」

「酷くないか」

「冗談です。はい、どうぞ。ナディア様と一緒に召し上がってください」

「イレーヌもおいで」

「皆様と話しながら過ごせるのは道中だけでしょうから、私は此処におります」

「ナディアが寂しがっているから」

「じゃあ、ちょっとだけ」

イレーヌは馬車の中でナディア達と菓子を食べた。


道中は問題無く順調に進み、バロス辺境領の領界の町に入ると迎えが待っていた。








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