【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ

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短すぎる夢

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【 ルシアン・クラヴィノの視点 】

「ウィリアム王太子殿下が娶った第三妃だと思うわ」

「王太子殿下の!?」

「ひっそり婚姻して表に出てこないルフレーの王女が、一昨夜のナディア王太子妃殿下の弟でエスペランスの王弟殿下の歓迎パーティに現れて、流暢なエスペランスの言葉でエスペランスから嫁いできた夫人方を魅了したと噂が広まっていたわ。

王弟殿下がエスコートなさって、殿下を虜にしていたとも言われているわ」

「第三妃……」

「残念だわ」

その後、早めの晩餐になった。
マリオはイレーヌ妃に懐いていて嬉しそうだった。

「姉様に、あ~んして食べさせて貰えたら、そら豆食べれそう」

「マリオ様、あ~ん」

マリオの口にそら豆が投入されると目をぎゅっと瞑って噛んで飲み込んだ。

「姉様のおかげで食べられたよ」

「頑張ったわね」

「もう一つ」

「今日は一つにしておきましょう。無理にいくつも食べなくてもいいの。
今は一つ克服したことを喜びましょうね」

「はい、姉様」


この女性が婚姻していなければ……。

こんなに魅力的な人はいない。
マリオと打ち解けて、無理をさせることもない。



マリオの産みの親で妻だったサランは神経質な女だった。
出会った頃は互いに子供で、しっかりした子だなと縁談を受けてしまった。
だが、茶会や食事会で他の子と話すと不機嫌になることが徐々に増えていった。

学園に通い出すと束縛が顕著になった。
クラスメイトや委員の女生徒と話しているだけで不機嫌になり、デビュー後は夜会で話しかけてきた令嬢に絡んでしまう。

“これも社交だ。そんな態度が続くようなら婚約は解消しなくてはならない。家門を汚しかねないことは止めてくれ。
それに今は伯爵令嬢であって侯爵家の者ではない。
自分が侯爵家の者だという態度も止めてくれ。
いつか婚姻しても侯爵夫人だからと傲慢でいてもらっては困る”

そう注意してから多少は大人しくなったが、婚姻してから悪化した。

他の夫人や令嬢に絡むので社交を最小限に抑えた。どうしてもという場合は妻を置いて一人で出席するしかなかった。
出かける時も揉めたが、帰ってきてからも浮気したのだろうと責められる。

そしてマリオが生まれると、マリオに集中した。
雇った乳母が辞めてしまうほど煩く口を出す。
3人辞めたところで妻の母に、乳母をやるか娘を引き取るかの選択を委ねた。

息子が3歳迄、伯爵夫人は侯爵家で乳母と一緒に子育てに参加し、妻の癇癪や口撃から乳母を守った。
4歳になると 妻に“乳母を尊重する”と誓わせて伯爵夫人は帰っていった。
すると次は躾や教育に傾倒するようになり、マリオがどんどん萎縮していくのが分かった。
次第に妻に怯え言葉も発しなくなってしまった。

気を逸らしてもらおうと夜会に連れて行くと、少し落ち着いたが、とんでもないことをしてくれた。

ある夜会の廊下でトイレに行くために歩いていると角で人とぶつかった。
相手の令嬢が倒れてしまい、謝りながら起こした。

「すまない」

「こちらこそ、前をよく見ておませんでした」

そこに妻がやってきて、令嬢を髪を掴み引っ張り倒してしまった。

「このアバズレ!私の夫に言い寄るだなんて!」

「止めろ!ぶつかっただけじゃないか!」

妻の手をひねり上げなんとか離すことができたが、相手の令嬢は取引先の公爵家の令嬢だった。

何度か謝罪をして許しはもらったがら令嬢が妻を怖がるから取引は契約期間が満了したら更新はしないと言われた。

妻を伯爵家に連れていき、婚約した時のことから令嬢への暴力まで伯爵夫妻に報告した。

「侯爵夫人は無理です。他所の貴族夫人も無理でしょう。
クラヴィノ侯爵としての判断は離縁です。
息子を言葉が発せなくなるほど怯えさせて、大事な取引先の公爵令嬢を暴行したのですから 続けるのは無理です。彼女は外に出さず、領地で過ごさせる方がよろしいかと」

妻は泣き叫んでいたが、裁判をしても構わないと言うと、伯爵が署名した。
本来は妻が署名しなくてはならないが、心身に支障があって出来ない場合にのみ、実家の当主が代理署名をすることが出来る。

妻は病気とされた。
そのまま置いて帰り、息子を抱きしめた。

「もう居なくなったから大丈夫だ」


それからはできる限り甘やかした。
徐々に活発さが戻りよく笑うようになった。

あれから一年半後。
貴族の女性を見ると怯えていたマリオがイレーヌ妃にベッタリ懐いている。

「チビ、可愛かったでしょ?」

「ええ……」

子犬の時はだったが、あの犬は大型の番犬だ。立ち上がると令嬢より高い。

「明日、いっぱい遊ぼう」

「マリオ様、明日は帰らないと」

「なんで!? イヤだ!ずっと居て!」

「ごめんなさいね、マリオ様」

「僕のおよめさんがダメなら、父上のおよめさんになって!」

「こら!マリオ!」

「私は他所のお嫁さんなの」

「父上のように別れたらいいんだ!父上の方が絶対いいよ!すごく優しいよ?」

「そうね。私もマリオ様のお父様の方が素敵なのは分かっているのだけど、結婚するときの約束は簡単に切れるものではないの」

「父上、すてき?」

「そうよ。マリオ様に似て素敵だわ」

「じゃあ、すてきじゃない方の人は、姉様をいじめるの?」

「そうなの。最初に酷いことを言われたから、ずっと関わらないようにしてるの」

「僕がそいつから守るから、この家に住んで!
僕は姉様にたくさんおやつあげるし、たくさん遊ぶし、たくさん大事にするよ」

「他のみんなが優しくしてくれるの。
は私に出来ないから大丈夫よ」

「姉様、一緒にいてよ」

「ごめんなさいね、マリオ様」




結局マリオはイレーヌ妃と寝ると言い出し、彼女も快諾してしまった。
6歳だからお咎めはないだろうと祈った。

「はぁ」

マリオが羨ましい。
夜だけでも寝ているマリオと入れ替わりたい。

「ルシアン?」

「 !! 」

母上の声に我に返った。
私はなんて馬鹿な妄想を…

「あの話からすると、イレーヌ妃は王太子殿下から冷遇されているということよね。
何も出来ないって、まさか白い結婚じゃないわよね」

「白い結婚」

「多分そうだわ。だから殿方を知った女性には感じなかったのよ。だとしたらイレーヌ妃は元王女だし、離縁も可能だわ」



頭の整理がつかないまま見た夢は、私とイレーヌ妃とマリオとイレーヌ妃の産んだ私との子で楽しくティータイムをしているものだった。

私との子……


幸せな夢を見たのに早朝から悪夢に変わった。
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