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恩人は
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【 ルシアン・クラヴィノの視点 】
数時間前
バタバタバタバタバタ
バン!!
「旦那様っ!!」
冷静沈着なはずの執事・ドレイクが足音を立てて走り、ノックもなしに乱暴にドアを開けた。
「ドレイク?」
「大奥様と坊っちゃまを乗せた馬車が襲撃に遭い、お二人は無事ですが、護衛隊の多数が負傷して診療所にっ」
玄関ホールへ行くと腕に包帯を巻いた護衛騎士が跪いていた。
「申し訳ございません」
「軽傷か?」
「はい」
「馬車に乗れ!中で話を聞く」
「荷馬車でもいいので二台出していただけますか」
「そんなに酷いのか」
馬車の中で話を聞いた。
「隊長と他1名が重傷、2名が中程度、3名が軽傷です。他はかすり傷です」
今日は新人2人を加えた隊を組ませたので、いつもより人数が多かったのに
「相手の数は」
「10名程です」
「賊は捕らえたのか」
「その前に大事なご報告がございます。
実は劣勢でした。隊長は重傷者を負い、賊が馬車のドアを破ろうとしていました。
そこに矢が飛んできて、賊を次々と射抜きました。
更に手練の剣使いが斬り倒していき、更に別の2人も加勢してくださいました。
弓使いの方が鞭で拘束し 賊のリーダーを馬で引き摺り回して弱らせ、残りの倒れた賊は剣使いの方が息の根を止めました。捉えているのは引き摺り回されたリーダーだけです」
「容赦がないな。その男達は何処かの兵士か?」
「弓使いも手練の剣使いも女性です。すぐ後から加勢してくださった騎士っぽい方々は男性でした」
「女!?」
「その後も重傷者の傷の具合を見て、屋敷ではなく診療所に連れていくことを決断なさったのも弓使いの女性です。彼女が主かと」
「その4人に怪我は」
「分かりませんが、大丈夫だと思います。
剣使いの方は重傷者以外の切り傷の縫合をなさっていました」
「10人近くの賊の息の根を止めたのも剣使いの女なのだな?」
「はい」
「リーダーを見極めて、鞭を使い引き摺り回した弓使いも女なのだな?」
「はい。悔しいですが、我々よりも強く、判断も早いです。
大奥様やマリオ様が無傷なのも、我々が生き残れたのも彼女達のおかげです。
そして、屋敷に運んでから医師を呼びに行かせて 連れてきたのでは隊長は助からなかったかも知れません」
「危ないのか」
「出血が多くて。
私がいる間に一番深刻な処置は済みましたので、後は運と隊長の生命力次第かと」
剣を握る護衛騎士が8名もいたのに、助けに入ってくれた4名の方が強いというのか。
賊はうちの騎士達と戦った後だし、加勢だから賊からすれば奇襲に近い。だが、2名は女だ。
それに、賊10名程に対してうちの騎士8名だというのに、これ程劣勢になってしまうこともショックだった。
詳細を聞くと、4名が見て見ぬふりをしていたら母上もマリオも助からなかった。騎士達も全滅だったはずだ。
賊が特別強かったのか、うちの騎士達が力不足なのか。
「女2名は騎士か何かなのか?」
「分かりません。非番ということも有り得ますが、貴族と仕える者といった印象です」
「大きな借りができてしまった」
平民や何処かの騎士ならばスカウトしようと思ったのだが。
診療所に着いて馬車に括り付けられた血塗れの男がいた。
「もしかしてコレがリーダーか?」
「はい。鞭で捕らえて馬で引き摺り回したので」
「助けてくれ…、もう嫌だ…」
血塗れで皮膚は擦り切れ、肉が抉れて骨も見えている部分もあった。大柄な男は泣いていた。この怪我なら数日内に死ぬだろう。
馬車や馬から血痕が診療所まで続いている。
中に入るとほぼ手当が終わっていた。
母上もマリオも無事で良かった。
「!!」
女は兵士ではない!
薄茶色の髪に青い瞳の女性は20歳前後で、彼女が主だろう。
髪はカツラだ。睫毛の色からすると髪は青銀だ。
返り血が付いて顔を拭ったのか、一部陶器のような白い肌が見えている。
もう1名は赤毛に緑色の瞳で35前後だろう。
腰に長剣を装備させている。
男2名は騎士だな。
恩人を持て成すために屋敷に連れ帰れた。
客人達が血を洗い流している間に母上と話をした。
「どう思われますか、彼女達の素性は」
「リタと呼ばれている歳上の女性は護衛兼侍女ね。
そして守られるはずの令嬢自身も強いわね。
判断も早く的確だわ。戦い慣れているのね。
でもエルドラドの貴族ではなさそうね。
あのような令嬢を知らないもの。
平民だとしたらエルドラドの民かもしれないけど、平民ではないわね」
「マリオは?」
「念の為に身体検査をさているわ。
マリオは彼女達に興味津々よ。私もだけど」
暫く待つと彼女達が案内されてきた。
私も母上も驚き顔を見合せた。
自己紹介したが家名は教えてもらえなかった。
帰ると言い出すイレーヌ夫人にマリオが上手く引き止めた。
マリオ達が犬を見に行き、部屋は母上と2人だけになった。
「人妻だったのですね」
「そうね」
美しかった。
挨拶も茶を飲む姿もとても優雅だった。
平民ではない。高位貴族だろう。
「家名は教えてもらえないと思いますか」
「ルシアン」
「はい」
「門番と夜勤担当に高貴な方が訪ねてくるかもしれないから不敬のないように伝えておいて」
「誰だか分かったのですか」
「3人目の妻でイレーヌという名前、所作。
総合するとウィリアム王太子殿下が娶った第三妃だと思うわ」
「王太子殿下の!?」
数時間前
バタバタバタバタバタ
バン!!
「旦那様っ!!」
冷静沈着なはずの執事・ドレイクが足音を立てて走り、ノックもなしに乱暴にドアを開けた。
「ドレイク?」
「大奥様と坊っちゃまを乗せた馬車が襲撃に遭い、お二人は無事ですが、護衛隊の多数が負傷して診療所にっ」
玄関ホールへ行くと腕に包帯を巻いた護衛騎士が跪いていた。
「申し訳ございません」
「軽傷か?」
「はい」
「馬車に乗れ!中で話を聞く」
「荷馬車でもいいので二台出していただけますか」
「そんなに酷いのか」
馬車の中で話を聞いた。
「隊長と他1名が重傷、2名が中程度、3名が軽傷です。他はかすり傷です」
今日は新人2人を加えた隊を組ませたので、いつもより人数が多かったのに
「相手の数は」
「10名程です」
「賊は捕らえたのか」
「その前に大事なご報告がございます。
実は劣勢でした。隊長は重傷者を負い、賊が馬車のドアを破ろうとしていました。
そこに矢が飛んできて、賊を次々と射抜きました。
更に手練の剣使いが斬り倒していき、更に別の2人も加勢してくださいました。
弓使いの方が鞭で拘束し 賊のリーダーを馬で引き摺り回して弱らせ、残りの倒れた賊は剣使いの方が息の根を止めました。捉えているのは引き摺り回されたリーダーだけです」
「容赦がないな。その男達は何処かの兵士か?」
「弓使いも手練の剣使いも女性です。すぐ後から加勢してくださった騎士っぽい方々は男性でした」
「女!?」
「その後も重傷者の傷の具合を見て、屋敷ではなく診療所に連れていくことを決断なさったのも弓使いの女性です。彼女が主かと」
「その4人に怪我は」
「分かりませんが、大丈夫だと思います。
剣使いの方は重傷者以外の切り傷の縫合をなさっていました」
「10人近くの賊の息の根を止めたのも剣使いの女なのだな?」
「はい」
「リーダーを見極めて、鞭を使い引き摺り回した弓使いも女なのだな?」
「はい。悔しいですが、我々よりも強く、判断も早いです。
大奥様やマリオ様が無傷なのも、我々が生き残れたのも彼女達のおかげです。
そして、屋敷に運んでから医師を呼びに行かせて 連れてきたのでは隊長は助からなかったかも知れません」
「危ないのか」
「出血が多くて。
私がいる間に一番深刻な処置は済みましたので、後は運と隊長の生命力次第かと」
剣を握る護衛騎士が8名もいたのに、助けに入ってくれた4名の方が強いというのか。
賊はうちの騎士達と戦った後だし、加勢だから賊からすれば奇襲に近い。だが、2名は女だ。
それに、賊10名程に対してうちの騎士8名だというのに、これ程劣勢になってしまうこともショックだった。
詳細を聞くと、4名が見て見ぬふりをしていたら母上もマリオも助からなかった。騎士達も全滅だったはずだ。
賊が特別強かったのか、うちの騎士達が力不足なのか。
「女2名は騎士か何かなのか?」
「分かりません。非番ということも有り得ますが、貴族と仕える者といった印象です」
「大きな借りができてしまった」
平民や何処かの騎士ならばスカウトしようと思ったのだが。
診療所に着いて馬車に括り付けられた血塗れの男がいた。
「もしかしてコレがリーダーか?」
「はい。鞭で捕らえて馬で引き摺り回したので」
「助けてくれ…、もう嫌だ…」
血塗れで皮膚は擦り切れ、肉が抉れて骨も見えている部分もあった。大柄な男は泣いていた。この怪我なら数日内に死ぬだろう。
馬車や馬から血痕が診療所まで続いている。
中に入るとほぼ手当が終わっていた。
母上もマリオも無事で良かった。
「!!」
女は兵士ではない!
薄茶色の髪に青い瞳の女性は20歳前後で、彼女が主だろう。
髪はカツラだ。睫毛の色からすると髪は青銀だ。
返り血が付いて顔を拭ったのか、一部陶器のような白い肌が見えている。
もう1名は赤毛に緑色の瞳で35前後だろう。
腰に長剣を装備させている。
男2名は騎士だな。
恩人を持て成すために屋敷に連れ帰れた。
客人達が血を洗い流している間に母上と話をした。
「どう思われますか、彼女達の素性は」
「リタと呼ばれている歳上の女性は護衛兼侍女ね。
そして守られるはずの令嬢自身も強いわね。
判断も早く的確だわ。戦い慣れているのね。
でもエルドラドの貴族ではなさそうね。
あのような令嬢を知らないもの。
平民だとしたらエルドラドの民かもしれないけど、平民ではないわね」
「マリオは?」
「念の為に身体検査をさているわ。
マリオは彼女達に興味津々よ。私もだけど」
暫く待つと彼女達が案内されてきた。
私も母上も驚き顔を見合せた。
自己紹介したが家名は教えてもらえなかった。
帰ると言い出すイレーヌ夫人にマリオが上手く引き止めた。
マリオ達が犬を見に行き、部屋は母上と2人だけになった。
「人妻だったのですね」
「そうね」
美しかった。
挨拶も茶を飲む姿もとても優雅だった。
平民ではない。高位貴族だろう。
「家名は教えてもらえないと思いますか」
「ルシアン」
「はい」
「門番と夜勤担当に高貴な方が訪ねてくるかもしれないから不敬のないように伝えておいて」
「誰だか分かったのですか」
「3人目の妻でイレーヌという名前、所作。
総合するとウィリアム王太子殿下が娶った第三妃だと思うわ」
「王太子殿下の!?」
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