【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ

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修復などさせない

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【 ノアムの視点 】


歓迎パーティに現れたイレーヌに心を掴まれた。


姉上を虜にする女性はとても美しく気高い。
王太子の心を掴もうだなんてさらさら思っていない。
独自の視点で物事を捉える。
姉上に馬術と弓術を褒められるなんて相当の腕前だ。

さらに少ししか話せないというのは謙遜で難しい話題にもエスペランスの言葉で話していた。
意味を聞き返されたのは二度だけだった。
エスペランス式の王族への挨拶を知っているのも流石だと思った。これはイレーヌの母が教えたらしい。


そして今、目の前のイレーヌはエスペランスの伝統的な衣装に似せたドレスを着ていた。
こんなに素晴らしいもてなしは初めてだった。
侍女が急遽、亡きエルドラド王妃のドレスを手直ししたそうだ。その侍女はイレーヌの母君がブクリエから連れてきた使用人のうちの一人らしい。


ダンスのために組むとフワッといい香りがした。
少し甘い。
香水などのしつこいものではなく、洗髪料とかクリームなどの香りと彼女の体臭が混じったのだろう。
イレーヌのナイトドレスをずらして首筋や胸の谷間や腹に唇を寄せて匂いを嗅いだら、この香りがするのかなどと一瞬過ぎった。

〈ノアム様?〉

〈あ、失礼〉

彼女を引き寄せすぎてしまったようだ。
恥ずかしそうに目を逸らす彼女は男慣れをしていないようだった。

〈可愛いな〉

小さく呟いたが聞き取ってしまったようで、

〈揶揄ったのですね…酷いですわ〉

そう言いながら頬を染めて怒っているフリをした。

抱きしめたくてたまらない。口付けたくてたまらない。なんでこんなに胸が高鳴るのだ…。

〈あの、もう少し手の力を抜いていただけますか〉

〈すまない〉

気付かぬうちに手の力を強めて握ってしまっていたようだ。

しっかりリードしながら彼女が踊りやすいようにしたつもりだ。また踊りたいと思ってもらえただろうか。



事前情報では社交嫌いと聞いていたが違ったようだ。
エスペランスからエルドラドに嫁いだりして、こちらの国籍になった貴族達にエスペランスの言葉で声を掛けていく。

〈まあ、赤い宝石と呼ばれる林檎の産地ですね〉

〈イレーヌ妃殿下はご存知でしたか〉

〈その林檎とお肉のローストはとても美味しかったですわ〉

〈生では召し上がらなかったのですか〉

〈やはり長距離輸送中に鮮度がおちますので。
いつか生で食べてみたいですわ〉

別の貴族には、

〈素敵な編み図ですわ。あ、ここはエスペランスの国花ですわね。素晴らしいですわ〉

〈はい。小さく入れてみました。誰もお気付きにならなかったのに流石でございます。
イレーヌ妃殿下はエスペランス語も流暢で国花までご存知でいらっしゃるとは。
イレーヌ妃殿下のような素敵な方に嫁いできていただけて、エルドラドは幸運でございます〉

次々とエスペランス出身の者達の心を掴んでいく。

「失礼いたします。少しイレーヌ妃殿下をお借りいたします」

この男はウィリアム王太子の……

イレーヌはウィリアム王太子のいる方へ向かっている。たが、肝心のウィリアム王太子の体に別の女性が手を添えている。

あれは体の関係があったか、誘っている仕草だ。
イレーヌが心配ですぐ後を追った。

「あんなに私の体で喜んでおられたのによそよそしくなさらないで。
休憩室に参りましょう?また気持ちよくして差し上げますわ」

やはり昔の女だったのか。

「オーバン、お二人をお部屋にご案内してさしあげて。
王太子殿下、子爵夫人。ゆっくり続きをどうぞ」

「イレーヌ!誤解だ!」

誤解のままで結構。

「イレーヌ、あちらの紳士に紹介したい。彼の実家はエスペランスの、」

イレーヌの手を取りサッとウィリアム王太子から離した。



パーティが終わり、客間のソファに身を預けた。

「お疲れ様でした」

「ジン、どうだった」

「確かに白い結婚は続いているようです。
イレーヌ妃が徹底して二人にならないようにしていますし、基本的に会うことも避けておられます」

「忍び込めたか?」

「無理です。妃の侍女が有能で侵入したら分かるように仕込んであります。廊下側の扉は外側に仕込んでありました。多分部屋の窓は内側から全てそうなっているはずです。

妃専用の宮は使用人が非常に少なく、特に妃の部屋は専属侍女が居る時にしか入ることが許されない程の徹底ぶりです」

「王太子はどうだ」

「ペネロープ妃との関係は良いとは言えませんが、男児を産んでいますのでそなりに扱われています。
ナディア様とは変化なしのようで、お渡りもあるようです。
王太子殿下はイレーヌ妃との関係には頭を悩ませているようで、関係を修復したいと思っておられます」

「修復ねえ。
ペネロープ妃との閨は?」

「止まっているようです」

「イレーヌの貞操は守られそうか」

「あの侍女が居る限り大丈夫だと思います。
薬を盛られるか、妃が絆されなければ」

「白い結婚は守らせてもらおう。
何人か引き込んでイレーヌを守らせてくれ」

「かしこまりました」
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