10 / 29
修復などさせない
しおりを挟む
【 ノアムの視点 】
歓迎パーティに現れたイレーヌに心を掴まれた。
姉上を虜にする女性はとても美しく気高い。
王太子の心を掴もうだなんてさらさら思っていない。
独自の視点で物事を捉える。
姉上に馬術と弓術を褒められるなんて相当の腕前だ。
さらに少ししか話せないというのは謙遜で難しい話題にもエスペランスの言葉で話していた。
意味を聞き返されたのは二度だけだった。
エスペランス式の王族への挨拶を知っているのも流石だと思った。これはイレーヌの母が教えたらしい。
そして今、目の前のイレーヌはエスペランスの伝統的な衣装に似せたドレスを着ていた。
こんなに素晴らしいもてなしは初めてだった。
侍女が急遽、亡きエルドラド王妃のドレスを手直ししたそうだ。その侍女はイレーヌの母君がブクリエから連れてきた使用人のうちの一人らしい。
ダンスのために組むとフワッといい香りがした。
少し甘い。
香水などのしつこいものではなく、洗髪料とかクリームなどの香りと彼女の体臭が混じったのだろう。
イレーヌのナイトドレスをずらして首筋や胸の谷間や腹に唇を寄せて匂いを嗅いだら、この香りがするのかなどと一瞬過ぎった。
〈ノアム様?〉
〈あ、失礼〉
彼女を引き寄せすぎてしまったようだ。
恥ずかしそうに目を逸らす彼女は男慣れをしていないようだった。
〈可愛いな〉
小さく呟いたが聞き取ってしまったようで、
〈揶揄ったのですね…酷いですわ〉
そう言いながら頬を染めて怒っているフリをした。
抱きしめたくてたまらない。口付けたくてたまらない。なんでこんなに胸が高鳴るのだ…。
〈あの、もう少し手の力を抜いていただけますか〉
〈すまない〉
気付かぬうちに手の力を強めて握ってしまっていたようだ。
しっかりリードしながら彼女が踊りやすいようにしたつもりだ。また踊りたいと思ってもらえただろうか。
事前情報では社交嫌いと聞いていたが違ったようだ。
エスペランスからエルドラドに嫁いだりして、こちらの国籍になった貴族達にエスペランスの言葉で声を掛けていく。
〈まあ、赤い宝石と呼ばれる林檎の産地ですね〉
〈イレーヌ妃殿下はご存知でしたか〉
〈その林檎とお肉のローストはとても美味しかったですわ〉
〈生では召し上がらなかったのですか〉
〈やはり長距離輸送中に鮮度がおちますので。
いつか生で食べてみたいですわ〉
別の貴族には、
〈素敵な編み図ですわ。あ、ここはエスペランスの国花ですわね。素晴らしいですわ〉
〈はい。小さく入れてみました。誰もお気付きにならなかったのに流石でございます。
イレーヌ妃殿下はエスペランス語も流暢で国花までご存知でいらっしゃるとは。
イレーヌ妃殿下のような素敵な方に嫁いできていただけて、エルドラドは幸運でございます〉
次々とエスペランス出身の者達の心を掴んでいく。
「失礼いたします。少しイレーヌ妃殿下をお借りいたします」
この男はウィリアム王太子の……
イレーヌはウィリアム王太子のいる方へ向かっている。たが、肝心のウィリアム王太子の体に別の女性が手を添えている。
あれは体の関係があったか、誘っている仕草だ。
イレーヌが心配ですぐ後を追った。
「あんなに私の体で喜んでおられたのによそよそしくなさらないで。
休憩室に参りましょう?また気持ちよくして差し上げますわ」
やはり昔の女だったのか。
「オーバン、お二人をお部屋にご案内してさしあげて。
王太子殿下、子爵夫人。ゆっくり続きをどうぞ」
「イレーヌ!誤解だ!」
誤解のままで結構。
「イレーヌ、あちらの紳士に紹介したい。彼の実家はエスペランスの、」
イレーヌの手を取りサッとウィリアム王太子から離した。
パーティが終わり、客間のソファに身を預けた。
「お疲れ様でした」
「ジン、どうだった」
「確かに白い結婚は続いているようです。
イレーヌ妃が徹底して二人にならないようにしていますし、基本的に会うことも避けておられます」
「忍び込めたか?」
「無理です。妃の侍女が有能で侵入したら分かるように仕込んであります。廊下側の扉は外側に仕込んでありました。多分部屋の窓は内側から全てそうなっているはずです。
妃専用の宮は使用人が非常に少なく、特に妃の部屋は専属侍女が居る時にしか入ることが許されない程の徹底ぶりです」
「王太子はどうだ」
「ペネロープ妃との関係は良いとは言えませんが、男児を産んでいますのでそなりに扱われています。
ナディア様とは変化なしのようで、お渡りもあるようです。
王太子殿下はイレーヌ妃との関係には頭を悩ませているようで、関係を修復したいと思っておられます」
「修復ねえ。
ペネロープ妃との閨は?」
「止まっているようです」
「イレーヌの貞操は守られそうか」
「あの侍女が居る限り大丈夫だと思います。
薬を盛られるか、妃が絆されなければ」
「白い結婚は守らせてもらおう。
何人か引き込んでイレーヌを守らせてくれ」
「かしこまりました」
歓迎パーティに現れたイレーヌに心を掴まれた。
姉上を虜にする女性はとても美しく気高い。
王太子の心を掴もうだなんてさらさら思っていない。
独自の視点で物事を捉える。
姉上に馬術と弓術を褒められるなんて相当の腕前だ。
さらに少ししか話せないというのは謙遜で難しい話題にもエスペランスの言葉で話していた。
意味を聞き返されたのは二度だけだった。
エスペランス式の王族への挨拶を知っているのも流石だと思った。これはイレーヌの母が教えたらしい。
そして今、目の前のイレーヌはエスペランスの伝統的な衣装に似せたドレスを着ていた。
こんなに素晴らしいもてなしは初めてだった。
侍女が急遽、亡きエルドラド王妃のドレスを手直ししたそうだ。その侍女はイレーヌの母君がブクリエから連れてきた使用人のうちの一人らしい。
ダンスのために組むとフワッといい香りがした。
少し甘い。
香水などのしつこいものではなく、洗髪料とかクリームなどの香りと彼女の体臭が混じったのだろう。
イレーヌのナイトドレスをずらして首筋や胸の谷間や腹に唇を寄せて匂いを嗅いだら、この香りがするのかなどと一瞬過ぎった。
〈ノアム様?〉
〈あ、失礼〉
彼女を引き寄せすぎてしまったようだ。
恥ずかしそうに目を逸らす彼女は男慣れをしていないようだった。
〈可愛いな〉
小さく呟いたが聞き取ってしまったようで、
〈揶揄ったのですね…酷いですわ〉
そう言いながら頬を染めて怒っているフリをした。
抱きしめたくてたまらない。口付けたくてたまらない。なんでこんなに胸が高鳴るのだ…。
〈あの、もう少し手の力を抜いていただけますか〉
〈すまない〉
気付かぬうちに手の力を強めて握ってしまっていたようだ。
しっかりリードしながら彼女が踊りやすいようにしたつもりだ。また踊りたいと思ってもらえただろうか。
事前情報では社交嫌いと聞いていたが違ったようだ。
エスペランスからエルドラドに嫁いだりして、こちらの国籍になった貴族達にエスペランスの言葉で声を掛けていく。
〈まあ、赤い宝石と呼ばれる林檎の産地ですね〉
〈イレーヌ妃殿下はご存知でしたか〉
〈その林檎とお肉のローストはとても美味しかったですわ〉
〈生では召し上がらなかったのですか〉
〈やはり長距離輸送中に鮮度がおちますので。
いつか生で食べてみたいですわ〉
別の貴族には、
〈素敵な編み図ですわ。あ、ここはエスペランスの国花ですわね。素晴らしいですわ〉
〈はい。小さく入れてみました。誰もお気付きにならなかったのに流石でございます。
イレーヌ妃殿下はエスペランス語も流暢で国花までご存知でいらっしゃるとは。
イレーヌ妃殿下のような素敵な方に嫁いできていただけて、エルドラドは幸運でございます〉
次々とエスペランス出身の者達の心を掴んでいく。
「失礼いたします。少しイレーヌ妃殿下をお借りいたします」
この男はウィリアム王太子の……
イレーヌはウィリアム王太子のいる方へ向かっている。たが、肝心のウィリアム王太子の体に別の女性が手を添えている。
あれは体の関係があったか、誘っている仕草だ。
イレーヌが心配ですぐ後を追った。
「あんなに私の体で喜んでおられたのによそよそしくなさらないで。
休憩室に参りましょう?また気持ちよくして差し上げますわ」
やはり昔の女だったのか。
「オーバン、お二人をお部屋にご案内してさしあげて。
王太子殿下、子爵夫人。ゆっくり続きをどうぞ」
「イレーヌ!誤解だ!」
誤解のままで結構。
「イレーヌ、あちらの紳士に紹介したい。彼の実家はエスペランスの、」
イレーヌの手を取りサッとウィリアム王太子から離した。
パーティが終わり、客間のソファに身を預けた。
「お疲れ様でした」
「ジン、どうだった」
「確かに白い結婚は続いているようです。
イレーヌ妃が徹底して二人にならないようにしていますし、基本的に会うことも避けておられます」
「忍び込めたか?」
「無理です。妃の侍女が有能で侵入したら分かるように仕込んであります。廊下側の扉は外側に仕込んでありました。多分部屋の窓は内側から全てそうなっているはずです。
妃専用の宮は使用人が非常に少なく、特に妃の部屋は専属侍女が居る時にしか入ることが許されない程の徹底ぶりです」
「王太子はどうだ」
「ペネロープ妃との関係は良いとは言えませんが、男児を産んでいますのでそなりに扱われています。
ナディア様とは変化なしのようで、お渡りもあるようです。
王太子殿下はイレーヌ妃との関係には頭を悩ませているようで、関係を修復したいと思っておられます」
「修復ねえ。
ペネロープ妃との閨は?」
「止まっているようです」
「イレーヌの貞操は守られそうか」
「あの侍女が居る限り大丈夫だと思います。
薬を盛られるか、妃が絆されなければ」
「白い結婚は守らせてもらおう。
何人か引き込んでイレーヌを守らせてくれ」
「かしこまりました」
2,207
お気に入りに追加
2,130
あなたにおすすめの小説

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。
傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。
そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。
自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。
絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。
次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる