【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ

文字の大きさ
上 下
9 / 29

ブクリエという国

しおりを挟む
【 エスペランスの王弟 ノアムの視点 】



「ノアム。今回のナディアの誕生パーティだが、行ってくれないか」

「かまいませんが、何かあるのですか」

10年ほど前に他国に嫁いだ長女で、ナディアとは同腹の姉弟だ。4つ歳上で、良く面倒をみて気にかけてくれた優しい人だ。

姉がエルドラドへ向かう時に同行し、婚姻の儀にも参列した。姉の夫ウィリアム王太子が、姉の不妊を理由に第二妃を娶って半年後にも様子を見に行った。

「ウィリアム王太子が第三妃を娶るようだ。
ルフレーの側妃の一人娘だ。イレーヌ王女といって21歳。社交嫌いと言われていて表に出ない。
自国の学校には通わず留学した」

「ウィリアム王太子にはそのような予定はありませんでしたよね。王女もその歳まで婚約者もいなかったのでしょうか。それとも不祥事を?
しかも王女で留学ですか」

「正妃の子供たちと折り合いが悪いのが原因だろう。留学先は母親の祖国だ。母親も王女だからな」

「それなら安心して留学に預けられますね。
しかし、既に第二妃が男児を二人産んでるのに。一目惚れとか政略的なものですか?」

「国王陛下が何度も縁談を持ちかけていたようだ。王太子はルフレーに行ったことは無いし、イレーヌ王女もエルドラドに行ったことは無い。イレーヌ王女にこだわるのは血だろう」

「血ですか」

「母親はブクリエの王女だからな」

ブクリエ王国は遥か昔から独自の法律と規律で団結している国だ。外国人の移住や、外国人との婚姻にはかなり厳しい審査があるという。

そして外に嫁ぐ者は滅多にいないし、国の話は一切しない。

それはどんな愚か者でも罪人でも貴人でも口を割らない。拷問にかけても酔わせても色仕掛けでも。

ブクリエは戦争に加担しないし、起こさない。
だから侮って侵略しようと企む国はいつの時代にも現れるが、ブクリエを侵略しようとしても必ず防がれる。成功したという記録がない。

ブクリエ侵略戦争に失敗した国の記録は後世に対する警告にもなった。

ブクリエの民も兵士も容赦がない。慈悲という言葉を持ち合わせていない。
敵を躊躇うことなく殺す。捕虜などにもしない。
そう思われてきたが一つだけ違った。
運良く生きてブクリエから逃れた捕虜兵士の証言は多くの国を震撼させた。

“あまり強くなさそうな捕虜は未成年者の狩りの獲物に。死にかけたり重症の捕虜は 幼い子達に息の根の止め方を教えるために使い、健康で強そうな者は新人兵士以上の者が鍛錬に使います。必ず死ぬまで使います”

捕虜の存在があり、しかも目的は殺しの教育のためだった。それまで表に出なかったのは確実に殺されたからだ。
生き延びた男は健康であったため、新人兵士と戦うハメになったが、打ちどころが悪くて死んで死体集積所に運ばれた。深夜に意識を取り戻した。仮死状態だったのか、神の悪戯で蘇生したのかは分からない。男は懸命に走り、逃げることに成功した。

“男だけじゃないんです。女も同じ訓練を受けるのです”

そのような国の王女が小国のルフレーの側妃になっていたなんて。

そしてイレーヌ王女は留学を受け入れられている。

ブクリエの血を求めた婚姻。

「姉上の様子を見に行きます」

「頼んだぞ」




その後、やっと到着したエルドラドの王城で出迎えたのはウィリアム王太子だった。

姉上は別の宮にいるらしい。

昼食後に姉上から話を聞いた。

あの王太子はブクリエ王族の血筋にそんなことしちゃったのか!

「なかなかのお方ですね」

「そうなのよ。あんなに可愛いイレーヌに向かって愚かよね。
まあ、おかげで私が愛でることができるわ」

「姉上?」

「昨夜は彼女と一緒に寝たのよ。
見た目は可愛いし、中身もいいわ。
私を敬ってくれるし心も綺麗だし。

狩りにも行ったけど乗馬も完璧。弓の腕もいいし。少しならエスペランスの言葉を話せると言っていたわ」

そして会わせてもらった第三妃イレーヌに驚いた。

青銀の髪にブルートパーズの瞳…ずっと見つめていたくなる澄んだ青。

この姫を侮辱して白い結婚に!?

なるほど。変装ねぇ。


イレーヌ妃との会話はとても楽しかった。


これまで私の記憶では、貴族令嬢や他国の王女は私とまともな会話が出来る者がいなかった。
どうでもいい話や分かりきった話をしたり、召し上げて欲しいと猫撫で声をあげる女達。
うんざりだった。

それでも婚姻は必須。
兄上が差し出した釣書から運任せに選んだ。
絵姿を同時に池に投げ込んで、一番沈むのが遅かった女にした。

金持ちの伯爵令嬢だった。運なんか無かった。
ちゃんと会って選べば良かった。

好きな物を買い漁り、予算をオーバーすると実父に強請る。使えばいいが、買うだけ買って包装さえ解いていない物が部屋を埋め尽くしていた。
入りきらない荷物を置くために別の部屋を用意させたくらいだ。
要らぬ物に金を使うなと言っても、使うための予算だと返ってくる。
目的のある使い方をして欲しくて振り分けられる金だと言っても、買い物も世のためだと返ってくる。

公務に連れて行ってもただ微笑んでいるだけ。
慈善活動はしない。教会や孤児院の訪問もしない。
興味があるのは茶会と夜会と買い物。

ならばと孕ませることにした。
正直、この女を抱きたくもないし、この女の産んだ子など愛せる気もしない。
だが、妊娠中くらいは大人しくしているだろうと思ったのだ。

一人目は、それでも夜会に出続けて流産した。
二人目は、酷い悪阻の上で死産だった。

その後は産みたくないと騒ぎ出したが、義務だと言って、避妊薬の使用禁止を徹底させて孕ませた。

医者には間を空けろと言われたが無視した。
目的は我が子が欲しいわけでは無かったからだ。

三人目と四人目は早々に流産。

そろそろ第二妃をという声があがり、今度はマシな女を選ぼうと候補を絞って城内で交流をしていたのだが、四人とも半月以内に辞退があった。

私に不手際があったのかと悩んでいると、5回目の妊娠が確定した。

“孕んだのだから(新たに娶らなくても)いいでしょう”

そう言った妻にピンときて、本格的な後追い調査をさせた結果、妻が嫌がらせをしていたことが分かった。妻の気持ちを汲んで伯爵家が動いたようだ。

これには陛下から厳しく叱責をしてもらい、1年間の接触禁止を言い渡した。
つまり、手紙も駄目だし、伯爵家は王宮主催の茶会にも祝い事にも呼ばれない。
妻は逆に王城から出られず監視下に置かれた。



女性不信にならなかったのは姉上の存在が大きかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。 傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。 そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。 自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。 絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。 次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから

水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」 「……はい?」 子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。 だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。 「エリオット様と別れろって言っているの!」  彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。  そのせいで、私は怪我をしてしまった。  いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。  だって、彼は──。  そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...