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ブクリエという国
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【 エスペランスの王弟 ノアムの視点 】
「ノアム。今回のナディアの誕生パーティだが、行ってくれないか」
「かまいませんが、何かあるのですか」
10年ほど前に他国に嫁いだ長女で、ナディアとは同腹の姉弟だ。4つ歳上で、良く面倒をみて気にかけてくれた優しい人だ。
姉がエルドラドへ向かう時に同行し、婚姻の儀にも参列した。姉の夫ウィリアム王太子が、姉の不妊を理由に第二妃を娶って半年後にも様子を見に行った。
「ウィリアム王太子が第三妃を娶るようだ。
ルフレーの側妃の一人娘だ。イレーヌ王女といって21歳。社交嫌いと言われていて表に出ない。
自国の学校には通わず留学した」
「ウィリアム王太子にはそのような予定はありませんでしたよね。王女もその歳まで婚約者もいなかったのでしょうか。それとも不祥事を?
しかも王女で留学ですか」
「正妃の子供たちと折り合いが悪いのが原因だろう。留学先は母親の祖国だ。母親も王女だからな」
「それなら安心して留学に預けられますね。
しかし、既に第二妃が男児を二人産んでるのに。一目惚れとか政略的なものですか?」
「国王陛下が何度も縁談を持ちかけていたようだ。王太子はルフレーに行ったことは無いし、イレーヌ王女もエルドラドに行ったことは無い。イレーヌ王女にこだわるのは血だろう」
「血ですか」
「母親はブクリエの王女だからな」
ブクリエ王国は遥か昔から独自の法律と規律で団結している国だ。外国人の移住や、外国人との婚姻にはかなり厳しい審査があるという。
そして外に嫁ぐ者は滅多にいないし、国の話は一切しない。
それはどんな愚か者でも罪人でも貴人でも口を割らない。拷問にかけても酔わせても色仕掛けでも。
ブクリエは戦争に加担しないし、起こさない。
だから侮って侵略しようと企む国はいつの時代にも現れるが、ブクリエを侵略しようとしても必ず防がれる。成功したという記録がない。
ブクリエ侵略戦争に失敗した国の記録は後世に対する警告にもなった。
ブクリエの民も兵士も容赦がない。慈悲という言葉を持ち合わせていない。
敵を躊躇うことなく殺す。捕虜などにもしない。
そう思われてきたが一つだけ違った。
運良く生きてブクリエから逃れた捕虜兵士の証言は多くの国を震撼させた。
“あまり強くなさそうな捕虜は未成年者の狩りの獲物に。死にかけたり重症の捕虜は 幼い子達に息の根の止め方を教えるために使い、健康で強そうな者は新人兵士以上の者が鍛錬に使います。必ず死ぬまで使います”
捕虜の存在があり、しかも目的は殺しの教育のためだった。それまで表に出なかったのは確実に殺されたからだ。
生き延びた男は健康であったため、新人兵士と戦うハメになったが、打ちどころが悪くて死んで死体集積所に運ばれた。深夜に意識を取り戻した。仮死状態だったのか、神の悪戯で蘇生したのかは分からない。男は懸命に走り、逃げることに成功した。
“男だけじゃないんです。女も同じ訓練を受けるのです”
そのような国の王女が小国のルフレーの側妃になっていたなんて。
そしてイレーヌ王女は留学を受け入れられている。
ブクリエの血を求めた婚姻。
「姉上の様子を見に行きます」
「頼んだぞ」
その後、やっと到着したエルドラドの王城で出迎えたのはウィリアム王太子だった。
姉上は別の宮にいるらしい。
昼食後に姉上から話を聞いた。
あの王太子はブクリエ王族の血筋にそんなことしちゃったのか!
「なかなかのお方ですね」
「そうなのよ。あんなに可愛いイレーヌに向かって愚かよね。
まあ、おかげで私が愛でることができるわ」
「姉上?」
「昨夜は彼女と一緒に寝たのよ。
見た目は可愛いし、中身もいいわ。
私を敬ってくれるし心も綺麗だし。
狩りにも行ったけど乗馬も完璧。弓の腕もいいし。少しならエスペランスの言葉を話せると言っていたわ」
そして会わせてもらった第三妃イレーヌに驚いた。
青銀の髪にブルートパーズの瞳…ずっと見つめていたくなる澄んだ青。
この姫を侮辱して白い結婚に!?
なるほど。変装ねぇ。
イレーヌ妃との会話はとても楽しかった。
これまで私の記憶では、貴族令嬢や他国の王女は私とまともな会話が出来る者がいなかった。
どうでもいい話や分かりきった話をしたり、召し上げて欲しいと猫撫で声をあげる女達。
うんざりだった。
それでも婚姻は必須。
兄上が差し出した釣書から運任せに選んだ。
絵姿を同時に池に投げ込んで、一番沈むのが遅かった女にした。
金持ちの伯爵令嬢だった。運なんか無かった。
ちゃんと会って選べば良かった。
好きな物を買い漁り、予算をオーバーすると実父に強請る。使えばいいが、買うだけ買って包装さえ解いていない物が部屋を埋め尽くしていた。
入りきらない荷物を置くために別の部屋を用意させたくらいだ。
要らぬ物に金を使うなと言っても、使うための予算だと返ってくる。
目的のある使い方をして欲しくて振り分けられる金だと言っても、買い物も世のためだと返ってくる。
公務に連れて行ってもただ微笑んでいるだけ。
慈善活動はしない。教会や孤児院の訪問もしない。
興味があるのは茶会と夜会と買い物。
ならばと孕ませることにした。
正直、この女を抱きたくもないし、この女の産んだ子など愛せる気もしない。
だが、妊娠中くらいは大人しくしているだろうと思ったのだ。
一人目は、それでも夜会に出続けて流産した。
二人目は、酷い悪阻の上で死産だった。
その後は産みたくないと騒ぎ出したが、義務だと言って、避妊薬の使用禁止を徹底させて孕ませた。
医者には間を空けろと言われたが無視した。
目的は我が子が欲しいわけでは無かったからだ。
三人目と四人目は早々に流産。
そろそろ第二妃をという声があがり、今度はマシな女を選ぼうと候補を絞って城内で交流をしていたのだが、四人とも半月以内に辞退があった。
私に不手際があったのかと悩んでいると、5回目の妊娠が確定した。
“孕んだのだから(新たに娶らなくても)いいでしょう”
そう言った妻にピンときて、本格的な後追い調査をさせた結果、妻が嫌がらせをしていたことが分かった。妻の気持ちを汲んで伯爵家が動いたようだ。
これには陛下から厳しく叱責をしてもらい、1年間の接触禁止を言い渡した。
つまり、手紙も駄目だし、伯爵家は王宮主催の茶会にも祝い事にも呼ばれない。
妻は逆に王城から出られず監視下に置かれた。
女性不信にならなかったのは姉上の存在が大きかった。
「ノアム。今回のナディアの誕生パーティだが、行ってくれないか」
「かまいませんが、何かあるのですか」
10年ほど前に他国に嫁いだ長女で、ナディアとは同腹の姉弟だ。4つ歳上で、良く面倒をみて気にかけてくれた優しい人だ。
姉がエルドラドへ向かう時に同行し、婚姻の儀にも参列した。姉の夫ウィリアム王太子が、姉の不妊を理由に第二妃を娶って半年後にも様子を見に行った。
「ウィリアム王太子が第三妃を娶るようだ。
ルフレーの側妃の一人娘だ。イレーヌ王女といって21歳。社交嫌いと言われていて表に出ない。
自国の学校には通わず留学した」
「ウィリアム王太子にはそのような予定はありませんでしたよね。王女もその歳まで婚約者もいなかったのでしょうか。それとも不祥事を?
しかも王女で留学ですか」
「正妃の子供たちと折り合いが悪いのが原因だろう。留学先は母親の祖国だ。母親も王女だからな」
「それなら安心して留学に預けられますね。
しかし、既に第二妃が男児を二人産んでるのに。一目惚れとか政略的なものですか?」
「国王陛下が何度も縁談を持ちかけていたようだ。王太子はルフレーに行ったことは無いし、イレーヌ王女もエルドラドに行ったことは無い。イレーヌ王女にこだわるのは血だろう」
「血ですか」
「母親はブクリエの王女だからな」
ブクリエ王国は遥か昔から独自の法律と規律で団結している国だ。外国人の移住や、外国人との婚姻にはかなり厳しい審査があるという。
そして外に嫁ぐ者は滅多にいないし、国の話は一切しない。
それはどんな愚か者でも罪人でも貴人でも口を割らない。拷問にかけても酔わせても色仕掛けでも。
ブクリエは戦争に加担しないし、起こさない。
だから侮って侵略しようと企む国はいつの時代にも現れるが、ブクリエを侵略しようとしても必ず防がれる。成功したという記録がない。
ブクリエ侵略戦争に失敗した国の記録は後世に対する警告にもなった。
ブクリエの民も兵士も容赦がない。慈悲という言葉を持ち合わせていない。
敵を躊躇うことなく殺す。捕虜などにもしない。
そう思われてきたが一つだけ違った。
運良く生きてブクリエから逃れた捕虜兵士の証言は多くの国を震撼させた。
“あまり強くなさそうな捕虜は未成年者の狩りの獲物に。死にかけたり重症の捕虜は 幼い子達に息の根の止め方を教えるために使い、健康で強そうな者は新人兵士以上の者が鍛錬に使います。必ず死ぬまで使います”
捕虜の存在があり、しかも目的は殺しの教育のためだった。それまで表に出なかったのは確実に殺されたからだ。
生き延びた男は健康であったため、新人兵士と戦うハメになったが、打ちどころが悪くて死んで死体集積所に運ばれた。深夜に意識を取り戻した。仮死状態だったのか、神の悪戯で蘇生したのかは分からない。男は懸命に走り、逃げることに成功した。
“男だけじゃないんです。女も同じ訓練を受けるのです”
そのような国の王女が小国のルフレーの側妃になっていたなんて。
そしてイレーヌ王女は留学を受け入れられている。
ブクリエの血を求めた婚姻。
「姉上の様子を見に行きます」
「頼んだぞ」
その後、やっと到着したエルドラドの王城で出迎えたのはウィリアム王太子だった。
姉上は別の宮にいるらしい。
昼食後に姉上から話を聞いた。
あの王太子はブクリエ王族の血筋にそんなことしちゃったのか!
「なかなかのお方ですね」
「そうなのよ。あんなに可愛いイレーヌに向かって愚かよね。
まあ、おかげで私が愛でることができるわ」
「姉上?」
「昨夜は彼女と一緒に寝たのよ。
見た目は可愛いし、中身もいいわ。
私を敬ってくれるし心も綺麗だし。
狩りにも行ったけど乗馬も完璧。弓の腕もいいし。少しならエスペランスの言葉を話せると言っていたわ」
そして会わせてもらった第三妃イレーヌに驚いた。
青銀の髪にブルートパーズの瞳…ずっと見つめていたくなる澄んだ青。
この姫を侮辱して白い結婚に!?
なるほど。変装ねぇ。
イレーヌ妃との会話はとても楽しかった。
これまで私の記憶では、貴族令嬢や他国の王女は私とまともな会話が出来る者がいなかった。
どうでもいい話や分かりきった話をしたり、召し上げて欲しいと猫撫で声をあげる女達。
うんざりだった。
それでも婚姻は必須。
兄上が差し出した釣書から運任せに選んだ。
絵姿を同時に池に投げ込んで、一番沈むのが遅かった女にした。
金持ちの伯爵令嬢だった。運なんか無かった。
ちゃんと会って選べば良かった。
好きな物を買い漁り、予算をオーバーすると実父に強請る。使えばいいが、買うだけ買って包装さえ解いていない物が部屋を埋め尽くしていた。
入りきらない荷物を置くために別の部屋を用意させたくらいだ。
要らぬ物に金を使うなと言っても、使うための予算だと返ってくる。
目的のある使い方をして欲しくて振り分けられる金だと言っても、買い物も世のためだと返ってくる。
公務に連れて行ってもただ微笑んでいるだけ。
慈善活動はしない。教会や孤児院の訪問もしない。
興味があるのは茶会と夜会と買い物。
ならばと孕ませることにした。
正直、この女を抱きたくもないし、この女の産んだ子など愛せる気もしない。
だが、妊娠中くらいは大人しくしているだろうと思ったのだ。
一人目は、それでも夜会に出続けて流産した。
二人目は、酷い悪阻の上で死産だった。
その後は産みたくないと騒ぎ出したが、義務だと言って、避妊薬の使用禁止を徹底させて孕ませた。
医者には間を空けろと言われたが無視した。
目的は我が子が欲しいわけでは無かったからだ。
三人目と四人目は早々に流産。
そろそろ第二妃をという声があがり、今度はマシな女を選ぼうと候補を絞って城内で交流をしていたのだが、四人とも半月以内に辞退があった。
私に不手際があったのかと悩んでいると、5回目の妊娠が確定した。
“孕んだのだから(新たに娶らなくても)いいでしょう”
そう言った妻にピンときて、本格的な後追い調査をさせた結果、妻が嫌がらせをしていたことが分かった。妻の気持ちを汲んで伯爵家が動いたようだ。
これには陛下から厳しく叱責をしてもらい、1年間の接触禁止を言い渡した。
つまり、手紙も駄目だし、伯爵家は王宮主催の茶会にも祝い事にも呼ばれない。
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