【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ

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昔の女

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【 王太子 ウィリアムの視点 】


ゴクッ ゴクッ ゴクッ

父上とナディア。イレーヌとノアム殿下がファーストダンスを踊っていた。

ゴクッ ゴクッ ゴクッ

「殿下、お酒を止めてお水でも」

そう心配そうに話しかけてきたのはオーバンだった。

「アレは私の妻だ、そうだろう」

「イレーヌ妃のことでしょうか」

「アレではまるであいつの妻みたいだろう」

「あいつなどと仰らないでください。
イレーヌ妃は有力国の王弟殿下をおもてなししているだけです」

「機嫌を取るようにエスペランスの言葉で話し、めかしこんでいることがか」

「そうです」

「他の男に手を握らせたり腰を抱かせたり髪に口付けをさせるのが夫を持つ妻のやることか!」

「声を抑えてください!

はぁ…、妻と仰いますが書類上の妻にさせたのは殿下ご自身ではありませんか。
初夜もないのですから、離縁もできますし、その後ノアム王弟殿下と再婚も可能なのです。
他にもおりますよ。クロード殿下やこれから出会う貴族の当主や令息もイレーヌ妃の心を射止めることが出来れば、」

「オーバン!」

「何でしょう」

「イレーヌは私の妻だ」

「殿下が他国の王女を迎えたことをもっと重く受け止め礼を尽くしていれば、本当の妻となったことでしょう。全ては殿下の招いたことです」

「あの見た目では、」

「どんな容姿でも王女は王女。貶めていい理由にはなりません。
きっと今まで 見た目の美しさだけにしっぽを振る男が多かったのでしょう。だから変装していたのでは?」

「私もそうだと言うのか」

「結果が全てを語っております。
見た目だけお気に召されたのであれば 似た女を探して愛人にでもなさいませ」

「お前は私の味方ではないのか!」

「味方だから申し上げるのです。
味方でなければ勝手に落ちぶれていく姿を眺めていますよ」

「落ちぶれる?」

「殿下、私は今の貴方に嫌な予感しかしません。
陛下から縁談の話があったときからです。
貶めた挙句に素顔がわかると執着しだして、手も握ったことがないのに嫉妬なさって。
嫌われる要素しかないじゃないですか」

「……」

「ほら、ダンスが終わりますよ。
今なら申し込んでも断り難いでしょう。
謝って優しくして、しっかりとリードなさってください」

「行ってくる」



だが、次は父上とノアム殿下がパートナーを入れ替えてしまった。

次こそはと待っていたが女達が纏わりつく。

適当に挨拶をして振り切ったのに…

「ウィリアム様、お久しぶりです」

「カートラル子爵夫人、名前で呼ぶのは止めてくれ」

「あの頃は私を組み敷いて名前で呼びあっておりましたのに」

「昔の戯れだ」

「あんなに私の体で喜んでおられたのによそよそしくなさらないで」

「夫人」

「休憩室に参りましょう? また気持ちよくして差し上げますわ」

「オーバン。何故私を連れてきたの?」

振り返ると青ざめたオーバンと真顔のイレーヌがそばにいた。

「イレーヌ…」

「オーバン、お二人をお部屋にご案内してさしあげて。
王太子殿下、子爵夫人。ゆっくり続きをどうぞ」

「イレーヌ!誤解だ!」

追いかけようとしたがノアム殿下がイレーヌを他の要人や貴族たちの元へ連れて行ってしまった。
貴重なチャンスだったのに!

「カートラル子爵夫人。其方との関係は学園に通っていた時の僅かな間だ。10年以上前の若気の至りを今頃持ち出すのは些か恥ずかしくはないか?
それに学生同士ではなく今は王太子と子爵夫人だ。
現実を見て慎みを身につけないと己や子爵家が大変なことになるぞ」

「私は、」

「続けるのか?
其方が娼婦としてこの場にいるのなら追い出すだけになるが、そうでなければ不敬に問うぞ」

「も、申し訳ございません」

「もう二度と声をかけないでくれ」


その後もイレーヌと話す機会も訪れずに終わってしまった。



翌日から、朝食後から夕刻までナディアとともにノアム殿下はイレーヌの宮で過ごしている。

朝食は部屋で。夕食は皆でとるが、エスペランサの言葉が飛び交う。

クロードもこれにはついて行くことが出来ず弱音を漏らした。

「イレーヌ、会話が難しいよ」

「ごめんね。
今、ノアム殿下のお妃様について尋ねたのよ。
ご懐妊なさっていて連れて来れなかったらしいの」

「へえ。それはおめでとうございます。
愛する妃の懐妊は最高の幸せでしょう。
安心しました」

「何がかな?」

「イレーヌをお気に召したのかと心配しましたが余計でしたね」

「随分と義姉に懐いているんだね」

「僕のイレーヌですから」

「殿下の?」

「もう、クロード。誤解を生むわ」

「僕、寂しかったんだよ。昨夜は参加出来ないし。イレーヌの美しいドレス姿を見たかったしダンスもしたかったのに」

「次のパーティは参加できるでしょう」

「じゃあ、パートナーにしてよ。父上、いいでしょう」

「何言っているんだ。イレーヌは、」

「兄上はナディア様もペネロープ妃もいるじゃないですか。

ノアム殿下はナディア様と、兄上はペネロープ妃で、僕はイレーヌ様と参加すればいいと思います」

「クロード、お客様が第一よ」

「だからこそです。離れて暮らす姉との時間をより多く過ごしてもらうためにノアム殿下のパートナーはナディア様がいいのです」

「そう言われたらそうね。私ったら気が利かなくて。
陛下、クロード殿下にお願いしてもよろしいでしょうか」

「クロード、問題を起こすなよ」

「はい、父上」

またペネロープをエスコートしなくてはならないのか。


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