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気持ちの変化
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あれから、掟が変わりつつある。
侍女長は特例だと仰っていた。
まず、私に本格的な予算がついた。
王子の婚約者並みだとこっそり聞いた。
更にブルイヤール伯爵家から援助金が毎月送られるらしい。いや、お金だけではない。
ドレスや宝飾品などから細々とした物まで。
これは正直 遠慮したかったけど日中はドレスを着て過ごすようにと言われた。
前の方が良かった。ドレスは窮屈だし重い。
Tシャツ短パンの部屋着が一番。
まあ、そんな姿は男性の下着姿らしいからワンピースを着ていたのに…髪も結われるし。
二つ目は教師が着いた。
昔の知識と、クロネック邸にいた頃の家庭教師からの教えと自習を合わせると、問題ないようだった。
学力試験を二度した。
一度目は簡単で、何故かリベンジだと難しい問題を持ってきた。
どうやら一度目の試験は学園入学試験だったらしい。
次に持ってきたのは学園卒業試験。
数学、国語、歴史、生物学は合格。及ばなかったのが外国語だ。別途 ダンスを含む淑女教育と言われて “うげっ” と声が漏れてしまった。淑女教育の時間を多くすると言われて気落ちしていたら、カイン様が高位貴族令嬢程度でいいとストップをかけてくださった。
だけど、高位貴族令嬢程度ってどんなだか分からないのだけど。
三つ目はカイン様が同席すれば、マーク兄様やブルイヤール伯爵との面会が許された。食事も出来る。
クロネック子爵家の立て直しは叔父様が手伝ってくださっている。
四つ目はローランド王子殿下やシルビア妃殿下が時々訪ねてみえるようになった。
どちらもカイン様の話ばっかりだけど。
特にローランド王子殿下は弟ラブが強い。
五つ目は刺繍の禁止。
あまりにも指を刺すからカイン様が禁じた。
これは感謝。
六つ目は城の使用人達がすごく優しい。
逆に怖い。
そして……
「ほら、あそこに苗木を植えたんだ。
何年かして上手くいけば実がなる。これはアリサの木だよ」
何年かって……。
苗木の近くには植えた日と、“愛するアリサへ、カイン” と掘られた札が刺してあった。
この人、もしかして本気なの!?
「あそこにも別の苗木を植えた。
俺の後宮の庭園には五つ植えたよ。
収穫時期がズレているから一緒に楽しもう」
「何年ですか」
「三年程のものから10年近くかかるものもある」
見て回ると全て同じ札が地面に刺してあった。
「向こうの王子宮はいくつか場所を開けたよ。記念日になるような大きな出来事があった時に植えられるように」
聞くのが怖い。
きっとお妃様との婚姻記念に植樹する予定なのね。
馬鹿だ。この胸の痛み…私は彼を好きになってしまったんだ。海音のことを忘れてしまうのかな。
「アリサ?」
「素敵ですね」
「楽しみだよ」
嬉しそう。
その日から気持ちが乗らなくなった。授業も食事も。
カイン様と過ごす時は心の仮面を被る。
手を引かれ、腰を引き寄せられ、頬を撫でられ、唇を重ねる。
これは期間限定だと自分に言い聞かせる。
閨のときは心がズタズタだ。
こんな風にお妃様を抱くのだと。
そのための練習だと分かってはいるのだけど、優しくされるほど、丁寧に解されるほど、快楽を与えられるほど鋭い針で胸を刺される痛みを伴うようになった。
時には涙が出てしまう。
カイン様は気持ち良くて涙が出ていると思っている。もちろんそういうときもある。
“アリサ、愛してる” と囁かれても、
これが “ヴィオレット、愛してる” に変わるのだと思うと喉が詰まる。
解雇も辞職も無ければ、後二年半以上この痛みに耐えなくてはならない。
「じゃあ、外国語の試験に通れば卒業資格を貰えるのだな?」
「はい叔父様」
「健康そうだが 元気が無いな」
面会者は勘の鋭いブルイヤール伯爵だ。
この時間はカイン様が学園に通っているので、他の立ち合い人が付くのだけど、今日はローランド王子殿下が立ち会ってくださった。
「問題ございません」
「いや。あるな」
「……」
「虐めでもあるのか」
「もったいないほどに良くしてくださいます」
「アリサ、辛かったらいつでも辞して私の元へ来い」
「…はい」
侍女長は特例だと仰っていた。
まず、私に本格的な予算がついた。
王子の婚約者並みだとこっそり聞いた。
更にブルイヤール伯爵家から援助金が毎月送られるらしい。いや、お金だけではない。
ドレスや宝飾品などから細々とした物まで。
これは正直 遠慮したかったけど日中はドレスを着て過ごすようにと言われた。
前の方が良かった。ドレスは窮屈だし重い。
Tシャツ短パンの部屋着が一番。
まあ、そんな姿は男性の下着姿らしいからワンピースを着ていたのに…髪も結われるし。
二つ目は教師が着いた。
昔の知識と、クロネック邸にいた頃の家庭教師からの教えと自習を合わせると、問題ないようだった。
学力試験を二度した。
一度目は簡単で、何故かリベンジだと難しい問題を持ってきた。
どうやら一度目の試験は学園入学試験だったらしい。
次に持ってきたのは学園卒業試験。
数学、国語、歴史、生物学は合格。及ばなかったのが外国語だ。別途 ダンスを含む淑女教育と言われて “うげっ” と声が漏れてしまった。淑女教育の時間を多くすると言われて気落ちしていたら、カイン様が高位貴族令嬢程度でいいとストップをかけてくださった。
だけど、高位貴族令嬢程度ってどんなだか分からないのだけど。
三つ目はカイン様が同席すれば、マーク兄様やブルイヤール伯爵との面会が許された。食事も出来る。
クロネック子爵家の立て直しは叔父様が手伝ってくださっている。
四つ目はローランド王子殿下やシルビア妃殿下が時々訪ねてみえるようになった。
どちらもカイン様の話ばっかりだけど。
特にローランド王子殿下は弟ラブが強い。
五つ目は刺繍の禁止。
あまりにも指を刺すからカイン様が禁じた。
これは感謝。
六つ目は城の使用人達がすごく優しい。
逆に怖い。
そして……
「ほら、あそこに苗木を植えたんだ。
何年かして上手くいけば実がなる。これはアリサの木だよ」
何年かって……。
苗木の近くには植えた日と、“愛するアリサへ、カイン” と掘られた札が刺してあった。
この人、もしかして本気なの!?
「あそこにも別の苗木を植えた。
俺の後宮の庭園には五つ植えたよ。
収穫時期がズレているから一緒に楽しもう」
「何年ですか」
「三年程のものから10年近くかかるものもある」
見て回ると全て同じ札が地面に刺してあった。
「向こうの王子宮はいくつか場所を開けたよ。記念日になるような大きな出来事があった時に植えられるように」
聞くのが怖い。
きっとお妃様との婚姻記念に植樹する予定なのね。
馬鹿だ。この胸の痛み…私は彼を好きになってしまったんだ。海音のことを忘れてしまうのかな。
「アリサ?」
「素敵ですね」
「楽しみだよ」
嬉しそう。
その日から気持ちが乗らなくなった。授業も食事も。
カイン様と過ごす時は心の仮面を被る。
手を引かれ、腰を引き寄せられ、頬を撫でられ、唇を重ねる。
これは期間限定だと自分に言い聞かせる。
閨のときは心がズタズタだ。
こんな風にお妃様を抱くのだと。
そのための練習だと分かってはいるのだけど、優しくされるほど、丁寧に解されるほど、快楽を与えられるほど鋭い針で胸を刺される痛みを伴うようになった。
時には涙が出てしまう。
カイン様は気持ち良くて涙が出ていると思っている。もちろんそういうときもある。
“アリサ、愛してる” と囁かれても、
これが “ヴィオレット、愛してる” に変わるのだと思うと喉が詰まる。
解雇も辞職も無ければ、後二年半以上この痛みに耐えなくてはならない。
「じゃあ、外国語の試験に通れば卒業資格を貰えるのだな?」
「はい叔父様」
「健康そうだが 元気が無いな」
面会者は勘の鋭いブルイヤール伯爵だ。
この時間はカイン様が学園に通っているので、他の立ち合い人が付くのだけど、今日はローランド王子殿下が立ち会ってくださった。
「問題ございません」
「いや。あるな」
「……」
「虐めでもあるのか」
「もったいないほどに良くしてくださいます」
「アリサ、辛かったらいつでも辞して私の元へ来い」
「…はい」
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