ミゼラブルの雫

玖莉李夢 心寧

文字の大きさ
上 下
17 / 24

十二話 幼き狐 弐

しおりを挟む
 戦闘訓練が終わり、皆の集まっている所にいく。


  チラチラと物言いたげに翔が見てくるが、とりあえずスルーする。全く戦闘訓練をしていないけれど俺には何ら支障はない。


  そもそも人と比べて戦闘能力が高い上に1000年生きていれば嫌でも経験値が高い。そんじゃそこらの人間なんて歯もたたないだろうと俺は自負している。


  晴明ならばもしかするかもしれないが、それだって俺が手傷を負うだけで死にはしないだろう。


  とは言えそんな事態になりはしないだろうが。俺も晴明、雅幸や業平は身内に甘い。それがどんな形かはさておき、身内を甘やかすのが俺たちだ。


  当然、今俺の腕の中で大人しく抱かれているこの子狐も俺の中では身内に入り甘やかす対象になる。


 「大人しくしていられるなんて偉いぞ~、白玉しらたま


  白面金毛九尾の狐の白と玉藻の玉で白玉。ネーミングセンスがないと言わないでほしい。美味しそうだけど似合うからいいのだ。


  取りあえずくしゃくしゃと頭を撫でまくる。


 「きゅんっ!」


  あぁ、本当に可愛い。目に入れても痛くない。寧ろ可愛い。流石絶世の美女、玉藻前の子どもだ。


  1000年前はたいそう面倒臭かったが、白玉を産んだことだけは褒めたい。


  それよりも、晴明に合わせてしまって良いのだろうか。白玉にとって晴明はかたきだ。俺も多少関与したにせよ討伐自体には関わっていない。殺生石の破壊しかしていないから何とも言えないが晴明程恨まれはしないだろう。多分。


  どうか気付かないでいてほしいと願うばかりだ。


  漸く周りが落ち着いたところで、雅幸が号令をかけて一か所に集まるように言い、俺たちの前に立った。


  今回の戦闘訓練での注意箇所や良かった点を話している時だった。ふと俺に視線をとめた。正確には俺の腕に抱かれている白玉だが。


  雅幸の視線に、周りの生徒の視線が俺に集まる。中にはぎょっとしている者や面白そうな顔をしている者、白玉の可愛さにノックアウトしている者もいた。それが誰かは想像にお任せするが、最後のやつとは仲良くなりたいものだ。一緒に白玉について語りたい。


  暫しの沈黙の後、雅幸はまたやらかしたな、というような顔をした。


 「烏丸、その子狐はなんだ?」


 「白玉」


 「それは名前か? ネーミングセンスねーなぁおい。……そうじゃなくてだな、何で抱いてるんだ。それはお前の戦闘相手だろ。何じゃれあってんだ?」


  何やら思考が追い付かないならしい雅幸は眉間に皺をよせて指をあてた。


 「なりたいっていうから、式にしちゃった」


 「いや、なにちょっと手が滑っちゃったみたいに言うんだ、お前は。なりたいからってそう簡単に式に出来るものでもないだろ。訓練用の妖怪を式に下すなんて前代未聞だぞ」


  余りに真剣な顔で言われ、ふと白玉を見る。くりくりとした金の目で俺を見つめ、首を傾げる姿は悶絶ものだった。もこもこな白金の毛が柔らかくて思わず頬ずりしながら雅幸に見せびらかす。


 「だってほら、可愛いでしょ」


 「まったく説明になっていないんだが」


  呆れ顔で返され、俺は目を逸らす。


 「ほら、人間やろうと思えば何でもできるもんだよ」


  限度があるだろ、という無言の圧力を感じつつも白玉に声をかける。


 「ほら、白玉、自己紹介してみて」


  きゅっ、と白玉は可愛らしく返事をした。


 「僕は白玉でし。よろしくお願いするでし! あるじの為に頑張るでし!」


  場の空気が和やかになったのは仕方がない事だろう。白玉が可愛すぎるのが悪い。でも許す! 可愛いから。可愛いは正義だから。


  あの常に顔をしかめている不良こと武井 総司も一瞬表情を崩した。よっぽど可愛いものに弱いらしい。


  ……ん? 待てよ。これはもしかしたら、もしかして……。


  俺はあることを企みながら、ごり押しで俺の式だと白玉は認めさせた。

  普段の学校生活では隠形おんぎょうをして見鬼の才があってもかなりの力がない限りみえないようにするということで、はなしはまとまった。
しおりを挟む
小説家になろうムーンライトノベルズでのURLです。http://novel18.syosetu.com/n2321cr/よろしければブックマークお願いします!
感想 7

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...