ミゼラブルの雫

玖莉李夢 心寧

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序章 終わった 始まった

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 この世界は理不尽である、と何度思ったことだろう。世界と言っても過言ではない、この閉鎖的で男同士な園が広がった学園。


  かつて、と言ってもほんの3カ月ほど前までは、苦でもなく、楽でもなく、それなりに友達がいて、当たり障りのない毎日だった。


  転校生が来るまでは。


  転校生が来てから、この学園は変わった。

  もじゃもじゃのまりものようなヘアスタイルにビン底眼鏡。

  ハッキリ言ってこんなやつが現実にいるのかと目を疑ったし、顔がまったく見えなくて怖かったのが僕の第一印象。


  オタルック、根暗、そんなことが頭によぎる格好だというのに、中身はそれに釣り合わず、底抜けに明るい、わかりやすく言うならウザいやつだった。



  関わらないの一番、そう思っていたのにどうやら僕は運がかなったらしい。


  なぜなら、その転校生の席の隣が、僕だったらだ。


  そこで話しかけられ、ついに僕は、そいつに親友と認定されてしまった。


  それからだろう。僕の悲劇が始まったのは。その転校生は次々と学園の屈指のイケメンを落としていった。


  一番初めは、この学園の生徒会副会長の御子柴 古都。そして、書記の八塚 崇、会計の一宮 美澄、会長の芦屋 帝。風紀委員長の小鳥遊 辰巳。親衛隊持ちでは、不良で有名な転校生の同室者、武井 総司。


  そしてあろうことか、親友であり、爽やかスポーツ少年で有名な瀬那 隼人までもが。


  親衛隊は、すぐさま動き出した。しかし、転校生の方が上手だったようで、返り討ちにされたらしい。

  そこで次に矛先にされたのが、僕だった。何にも取り柄のない平凡、そんな僕が転校生の親友だということで生徒会の人たちに近づいているのが許せない、というのが理由だった。


  制裁による暴力が毎日続いた。それだけならば、僕は少しは耐えることもできただろう。


  けれど、僕が転校生の親友というポジションが気に食わなかった生徒会の庶務を除くメンバーによる制裁も加わった。


  武井 総司や親友であるはずの瀬那 隼人もそこにいた。


  そして転校生の制裁の主犯格にまでされた。

  何より堪えたのは、親友の裏切り。

  親友だと思っていたのにどうして僕を殴るの?

  どうして怒るの?

  どうして信じてくれないの?


  学校内での制裁の上、寮の同室者である隼人にには部屋でも暴力を振るわれた。


  どうしてお前が日向の一番なのか、と。

  どうし日向はお前しかみないのか、と。

  でもさ、どこをどう見たらそう見えるのだろう。

  転校生にとって一番?

  いや違う、これはただのあてつけだ。

  自分が優越するための存在でしかない。

  だっていつも転校生は、見えないところで口の端をあげていたのだから。


  自分の部屋でいつも僕は声を押し殺して泣いていた。


  決して、味方がいなかったわけではない。


  担任のホスト教師やクラスメイトであり風紀の副委員長はよく僕に気を使ってもらっていた。


  それでも、僕の心から絶望が消えたわけではなかった。



  いつものように泣きつかれ眠っていた僕は、ふらふらと部屋から出る。


  あぁ、憎い。

  何がって? すべてだよ。


  すべて、すべて壊れてしまえ。


  そう思ってたどり着いたのは、屋上だった。


  別に飛び降りよう、なんて思ってない。

  でも、ここで終われたなら、自由になれるだろうか。

  すがすがしい青空を仰ぎ見てそんなことを思う。

  それから深呼吸を何回かして、落ち着いた僕は屋上を出て階段を降りようとした時だった。


 「なんだ、飛び降りないのか。つまんないの」


  そんな声が聞こえて、ぼくは振り向いた時だった。


 「俺が手伝ってやるよ」


  そういって、ソイツは僕を階段へ突き落した。


 「え」


  何が起きているにか理解できない。


  すぐ体に走る衝撃と痛み。


  視界を覆うアカ。


  耳につくソイツの笑い声。


  その声でやっと声の主が転校生だとしる。

  転校生は血に濡れた僕を見て、恍惚としていた。


 「アハハ、平凡なやつだと思ったけど、死に姿すっごく綺麗だよ、雪斗。すっごく綺麗だ。アカが良く映える」


  なんだこいつ。


  着実に死に近づく僕は、そうもった。

  可笑しいだろ。

  どうして僕が死ななきゃならない?

  どうしてここで終わらなきゃいけない?

  どうしてこいつが生きてるのに僕が?

  こいつやあいつ等に一矢報いることもできていないのに、このまま僕は終わるのか?


  嫌だ。こんなところで、終われるか!!


  しかし、僕の視界は闇に染まっていく。



 『時は満ちた』


  そんな声が聞こえたのは、きっと気のせい。

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