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番外4 ヒーロー side恵
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僕は小さい頃から兎に角不運にみまわれてきた。
窓の近くに立っていれば野球なんかのボールが飛んできて、僕にヒットしたり、窓が割れて怪我をしたり。喫茶店なんかに行けば必ずウエイトレスの人には水を掛けられ、食べたいものも僕の順番に来たら品切れ、道を歩けば水たまりを通った車に泥水を掛けられ、電車に乗れば痴漢に間違われ、小さい事なら挙げたらもう切がない。
大きい事といえば、車にはねられそうになるのはしょっちゅうだし、上から鉢が落ちてきたり溺れたりすることは何度もあった。九死に一生を得たことも少なくない。
そんな僕だが、何とかこの17年間死なずに済んでいるのは、ある意味僕の運がいいからだろう。
しかし、その不運も僕の周りにいる人たちも巻き込むものであった。その所為もあり僕は忌避され、呪われてるなどと言われ小学校時代はいじめの対象となった。
そして僕の不運の原因を知ったのは、私立蓉嘉威学園中等部に入学した13歳の時だった。
誰も僕の事を知らず、閉鎖的な環境であった蓉嘉威学園は僕にとって都合が良かった。男子校だったのは誤算だったけれど。
僕の事を誰も「呪われてる」なんて知らないのだ。ばれない様にあまり人に近づかないようにしなければいけなかったが、小学校の時と比べれば小さなことだった。
新しい生活に対して不安と嬉しさを噛みしめながら歩いていると、時折僕を見て青ざめる人や、「大丈夫か?」とこちらの方が心配になるほど顔を白くさせた生徒に声をかけられたりもした。
いや、ホント何? と首を傾げる僕は可笑しくない。もしかして呪われてる云々の話が広まってるとか? と思い至る。それにしては何故か心配されてるしで頭には疑問符しか浮かばない。
そんな時に声を掛けてきたのが、夏目翔だ。
「自分、よくそんなに背負って大丈夫なん? というか何をしたらそうなるん?」
彼の言葉が理解出来ず、どういうことかと問いかけると言いにくそうに話をしだした。
「幽霊って信じてる方か?」
「え? 幽霊?」
「そや、幽霊や。君、沢山背負ってるで、幽霊さん。今までよう生きてこれたなって思うくらい」
彼曰く、不幸体質は僕に取りついた複数の悪霊のせいだという。
半信半疑だった僕だが、彼に軽くお祓いをしてもらうと、体がすっと軽くなったのを感じて要約信じたのだ。でも次の日にはまた別の霊が取りつき、毎日翔君にお祓いしてもらうのが日課となっていた。
それから早3年、僕たちは高等部に入学した。それから少しして、翔君の雰囲気が変わった。笑顔なのにどこか刺々しく人嫌いな翔君が、穏やかな笑みを浮かべてクラスメイトと話をしているのを見て驚いたのを覚えている。
相手は五代儀 雪斗。平凡な顔立ちだと生徒会の親衛隊の人たちは言っているが、ほわほわした癒し系でどこか可愛らしい五代儀君はクラスで人気があった。
それだけでなく、彼はあの瀬那 隼人の幼馴染らしく目立っていたし、風紀委員長の土御門晴明と親しく、生徒会顧問で特進クラスの授業を受け持つ加茂雅幸のお気に入りであったがために、彼を知らない生徒は少なくなかった。そして人気も高かった。
穏やかな日々が過ぎていく中、突然嵐は訪れた。転校生がやってきたのだ。
それから学園は荒れるに荒れた。親衛隊による制裁の勃発、転校生による器物破損や暴力沙汰、学園はもはや機能を殆どなくしていた。
そして事件は起きた。五代儀雪斗が亡くなったのだ。事故だと処理されたが、誰もそうだとは思っていないだろう。転校生と転校生に惚れ込んでいる奴ら以外は。
自殺なのではないか? と噂されたが僕はどうだろうと首を傾げた。
彼は確かに儚げな雰囲気を持っているが、そんなに弱い人だっただろうかと。翔君も五代儀君の死に対して不審に思っているらしく、何かを企んでいるようにも見えた。絶望しきっていた翔君の眼が鋭くなっていたのだから確かだ。
五代儀君の事で行動を起こせる翔君を凄いと、羨ましいと思う反面、僕は思った。
なんで見ているだけしかできなかったんだろうって。五代儀君が死なずに済むことができたんじゃないかって。
僕は五代儀君の身に降りかかっている不幸が、僕に飛び火したらどうしよう、そればかり考えていたあの時の自分が恥ずかしい。
ただでさえ不幸体質でどん底にいる僕が更に不幸になる余地なんて早々ないというのに。
そう後悔することさえもなんて浅ましいんだろと思う。
それから一年、二年生に進級した僕にある転機が訪れた。
再び、転校生が来たのだ。今度の転校生はどんな奴かと、前回の転校生の件もあってか、皆警戒していた。学園も、生徒会が多少仕事をするようになったといっても、まだまだ荒れて治安が悪いのだから仕方ない。
しかしどうだろう。彼の評判は頗る良かった。名を烏丸雅斗といい、京都から転校してきた彼は、何とも雅というかはんなりとした雰囲気を持った美人だった。遠目では地味に見えるだろうが、滲み出る優雅さが常人ではないと感じさせる。
そんな彼に、僕はお昼休みに翔君から食堂に呼び出しされたことで出会う事となったのだ。
彼は翔君と親しくなったようでどこか楽しそうにしていた。翔君の優しくて幸せそうな顔、久しぶりに見た。
どうやら烏丸君いや、雅斗君は僕に憑いている霊を全てを祓ってくれるらしい。
柏、というらしいが、雅斗君が手を鳴らすと同時に体今までに無く軽くなり、すっきりとした。その場の空気もどこか清らかになったように感じる。
それだけでなく、雅斗君は自身で身に着けていた伽羅の香の匂い袋僕にくれた。これでもう霊に取りつかれることはないだろうと言われた。
今までの17年間の苦労は一体なんだったんだろうという程呆気なかったけど、僕は心底ほっとした。
しかしその安らぎは長続きせず、これまた呆気なく僕の平穏は崩れた。
僕は五代儀君と似通った状態に陥り掛けていた。というより足を半分踏み込んでいた。
転校生が僕に興味を持ち始めたのだ。いや、もともと同室ということもあってちょっかいを掛けようとしてきていたが、僕の身辺で起こる不運に巻き込まれないようにと転校生の取り巻きたちが引き離したり、接触させないようにしていたから今までは良かったのだ。
僕も周りに、特に何かあったら大変な生徒会の人たちとかかわらないようにし、僕の不運に対抗できる翔君の部屋で寝泊まりするようにしていた。
が、どこで聞きつけたのか僕の不運体質が緩和されたと聞いた転校生が僕の前に現れるようになったのだ。
なんで自分の部屋に帰らないのか、とか、友達を無視するなんて最低だ、なんて言う転校生に僕はわけがわからなくなった。
そしてすぐに僕は転校生の取り巻きが一人、武井総司に目を付けられたのである。
怖い、誰かたすけて、そう思いながらも僕はどこかで感じてた。五代儀君の事を見て見ぬふりをして、声を掛けることすらせず、ただ傍観していた最低な僕に対する罰なんだって。
でもそこに思わぬ救いが現れた。烏丸雅斗君が僕を庇ったのだ。
僕の耳に「もう大丈夫。今は取り合えず逃げて」と優しい声で囁いた。
雅斗君を置いて僕だけ逃げるのはいかがなものだろうか。雅斗君は、完全に無関係の人物だ。巻き込むわけにもわけに行かない。
しかし雅斗君は大丈夫だと言うように僕を見つめ、背中を押す。
僕は後ろ髪を引かれる思いで走り出した。廊下を真っ直ぐ走った後に直ぐに角を曲がり息をつく。
ここからでは二人の様子も見れないし聞こえないが、ここで雅斗君戻ってくるまで待機することにした。
暫くすると、武井総司は廊下の角に隠れいてた僕に気づかずに走り去っていった。何事かと出ると、そこには苦笑いをした雅斗君が歩いてきていた。
「……大丈夫だった? 雅斗君」
「ん? 大丈夫だから安心しぃ。ほっぺたも大したことないし」
「あ! 僕を庇った時の! い、今すぐ保健室に……!」
わたわたする僕に雅斗君は笑いながら頭を撫ぜてきた。
「だから大丈夫だって。落ち着いて、恵。何ともないから。それよりも恵こそ大丈夫? 怪我とかない?」
「うん、なんともないよ」
それは良かったと雅斗君は微笑む。
うわぁ、本当に美人さんだなぁ。いつも美人だけど、笑うと更に華やかで優雅だ。思わず見惚れてしまう。
「それにしても、どうし武井総司に目を付けられたのか心当たりある? っていうかいつからこんな目にあってたの?」
「うん……。多分小枝君が僕に興味を持って近づいてきてるからだと思う。もともと同室だったっていうのもあるけど。幸いといえば、今回が初めてだよ、ああいう風に絡まれたのは」
「え、あの子と同室だったんだね」
それは大変だなぁ、と流石の雅斗君もご愁傷様といったような表情だ。
「でも今までそうならなかったのが不思議だねぇ」
「あ、それは僕の体質の所為だと思う。今は雅斗君に解決してもらったけど、僕に憑りついてるっていう霊がある体質の原因だったんだ。その体質っていうのが、不幸吸引体質でね。翔君に祓ってもらってはいたけど、祓いきれない所為か完全じゃなくて、僕の身には不幸が高確率で起きてたんだ。その不幸は他の人にも飛び火するものでさ。それだけでも危険な上に、どうやら霊たちは自分で僕を害する癖に他の奴が僕を害するのが許せないのか、その相手の人は悲惨な目に合うんだ。死にかけたり大怪我したり。だから誰も手を出せなかったんだけど……」
「俺が解決したから恵にとってある意味ボディーガードがなくなっちゃったって訳やね」
ごめんと、と落ち込む雅斗君に僕は「違うよ!」と声を上げる。
「雅斗君は何も悪くないよ。むしろ僕の事を助けてくれた。多分、あのままじゃあ僕はいつ死んでも可笑しくなかったんだよ。だから、雅斗君は僕の命の恩人で、ヒーローなんだよ」
「ヒーロー?」
「だってさっき颯爽とたすけてくれたじゃない。ヒーローみたいでカッコ良かったよ!」
そういう僕に雅斗君はどこか照れくさそうだ。
「なんかくすぐったいなぁ」
「でも、ほんとに雅斗君には助けてもらいっぱなしで申し訳ないなぁ」
あ、そうだ。
「雅斗君、この間も言ったけど、何か困ったことがあったら僕に何でも相談して! 力になるから」
五代儀君の事では何もできなかった僕だけど、もう後悔したくない。本当は五代儀君ともっと話してみたかったし、仲よくしてみたかったけど、後悔しても後の祭り。
それなら、今度こそ後悔しないように行動に起こそう。
そう決意する僕に、雅斗君は「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。
窓の近くに立っていれば野球なんかのボールが飛んできて、僕にヒットしたり、窓が割れて怪我をしたり。喫茶店なんかに行けば必ずウエイトレスの人には水を掛けられ、食べたいものも僕の順番に来たら品切れ、道を歩けば水たまりを通った車に泥水を掛けられ、電車に乗れば痴漢に間違われ、小さい事なら挙げたらもう切がない。
大きい事といえば、車にはねられそうになるのはしょっちゅうだし、上から鉢が落ちてきたり溺れたりすることは何度もあった。九死に一生を得たことも少なくない。
そんな僕だが、何とかこの17年間死なずに済んでいるのは、ある意味僕の運がいいからだろう。
しかし、その不運も僕の周りにいる人たちも巻き込むものであった。その所為もあり僕は忌避され、呪われてるなどと言われ小学校時代はいじめの対象となった。
そして僕の不運の原因を知ったのは、私立蓉嘉威学園中等部に入学した13歳の時だった。
誰も僕の事を知らず、閉鎖的な環境であった蓉嘉威学園は僕にとって都合が良かった。男子校だったのは誤算だったけれど。
僕の事を誰も「呪われてる」なんて知らないのだ。ばれない様にあまり人に近づかないようにしなければいけなかったが、小学校の時と比べれば小さなことだった。
新しい生活に対して不安と嬉しさを噛みしめながら歩いていると、時折僕を見て青ざめる人や、「大丈夫か?」とこちらの方が心配になるほど顔を白くさせた生徒に声をかけられたりもした。
いや、ホント何? と首を傾げる僕は可笑しくない。もしかして呪われてる云々の話が広まってるとか? と思い至る。それにしては何故か心配されてるしで頭には疑問符しか浮かばない。
そんな時に声を掛けてきたのが、夏目翔だ。
「自分、よくそんなに背負って大丈夫なん? というか何をしたらそうなるん?」
彼の言葉が理解出来ず、どういうことかと問いかけると言いにくそうに話をしだした。
「幽霊って信じてる方か?」
「え? 幽霊?」
「そや、幽霊や。君、沢山背負ってるで、幽霊さん。今までよう生きてこれたなって思うくらい」
彼曰く、不幸体質は僕に取りついた複数の悪霊のせいだという。
半信半疑だった僕だが、彼に軽くお祓いをしてもらうと、体がすっと軽くなったのを感じて要約信じたのだ。でも次の日にはまた別の霊が取りつき、毎日翔君にお祓いしてもらうのが日課となっていた。
それから早3年、僕たちは高等部に入学した。それから少しして、翔君の雰囲気が変わった。笑顔なのにどこか刺々しく人嫌いな翔君が、穏やかな笑みを浮かべてクラスメイトと話をしているのを見て驚いたのを覚えている。
相手は五代儀 雪斗。平凡な顔立ちだと生徒会の親衛隊の人たちは言っているが、ほわほわした癒し系でどこか可愛らしい五代儀君はクラスで人気があった。
それだけでなく、彼はあの瀬那 隼人の幼馴染らしく目立っていたし、風紀委員長の土御門晴明と親しく、生徒会顧問で特進クラスの授業を受け持つ加茂雅幸のお気に入りであったがために、彼を知らない生徒は少なくなかった。そして人気も高かった。
穏やかな日々が過ぎていく中、突然嵐は訪れた。転校生がやってきたのだ。
それから学園は荒れるに荒れた。親衛隊による制裁の勃発、転校生による器物破損や暴力沙汰、学園はもはや機能を殆どなくしていた。
そして事件は起きた。五代儀雪斗が亡くなったのだ。事故だと処理されたが、誰もそうだとは思っていないだろう。転校生と転校生に惚れ込んでいる奴ら以外は。
自殺なのではないか? と噂されたが僕はどうだろうと首を傾げた。
彼は確かに儚げな雰囲気を持っているが、そんなに弱い人だっただろうかと。翔君も五代儀君の死に対して不審に思っているらしく、何かを企んでいるようにも見えた。絶望しきっていた翔君の眼が鋭くなっていたのだから確かだ。
五代儀君の事で行動を起こせる翔君を凄いと、羨ましいと思う反面、僕は思った。
なんで見ているだけしかできなかったんだろうって。五代儀君が死なずに済むことができたんじゃないかって。
僕は五代儀君の身に降りかかっている不幸が、僕に飛び火したらどうしよう、そればかり考えていたあの時の自分が恥ずかしい。
ただでさえ不幸体質でどん底にいる僕が更に不幸になる余地なんて早々ないというのに。
そう後悔することさえもなんて浅ましいんだろと思う。
それから一年、二年生に進級した僕にある転機が訪れた。
再び、転校生が来たのだ。今度の転校生はどんな奴かと、前回の転校生の件もあってか、皆警戒していた。学園も、生徒会が多少仕事をするようになったといっても、まだまだ荒れて治安が悪いのだから仕方ない。
しかしどうだろう。彼の評判は頗る良かった。名を烏丸雅斗といい、京都から転校してきた彼は、何とも雅というかはんなりとした雰囲気を持った美人だった。遠目では地味に見えるだろうが、滲み出る優雅さが常人ではないと感じさせる。
そんな彼に、僕はお昼休みに翔君から食堂に呼び出しされたことで出会う事となったのだ。
彼は翔君と親しくなったようでどこか楽しそうにしていた。翔君の優しくて幸せそうな顔、久しぶりに見た。
どうやら烏丸君いや、雅斗君は僕に憑いている霊を全てを祓ってくれるらしい。
柏、というらしいが、雅斗君が手を鳴らすと同時に体今までに無く軽くなり、すっきりとした。その場の空気もどこか清らかになったように感じる。
それだけでなく、雅斗君は自身で身に着けていた伽羅の香の匂い袋僕にくれた。これでもう霊に取りつかれることはないだろうと言われた。
今までの17年間の苦労は一体なんだったんだろうという程呆気なかったけど、僕は心底ほっとした。
しかしその安らぎは長続きせず、これまた呆気なく僕の平穏は崩れた。
僕は五代儀君と似通った状態に陥り掛けていた。というより足を半分踏み込んでいた。
転校生が僕に興味を持ち始めたのだ。いや、もともと同室ということもあってちょっかいを掛けようとしてきていたが、僕の身辺で起こる不運に巻き込まれないようにと転校生の取り巻きたちが引き離したり、接触させないようにしていたから今までは良かったのだ。
僕も周りに、特に何かあったら大変な生徒会の人たちとかかわらないようにし、僕の不運に対抗できる翔君の部屋で寝泊まりするようにしていた。
が、どこで聞きつけたのか僕の不運体質が緩和されたと聞いた転校生が僕の前に現れるようになったのだ。
なんで自分の部屋に帰らないのか、とか、友達を無視するなんて最低だ、なんて言う転校生に僕はわけがわからなくなった。
そしてすぐに僕は転校生の取り巻きが一人、武井総司に目を付けられたのである。
怖い、誰かたすけて、そう思いながらも僕はどこかで感じてた。五代儀君の事を見て見ぬふりをして、声を掛けることすらせず、ただ傍観していた最低な僕に対する罰なんだって。
でもそこに思わぬ救いが現れた。烏丸雅斗君が僕を庇ったのだ。
僕の耳に「もう大丈夫。今は取り合えず逃げて」と優しい声で囁いた。
雅斗君を置いて僕だけ逃げるのはいかがなものだろうか。雅斗君は、完全に無関係の人物だ。巻き込むわけにもわけに行かない。
しかし雅斗君は大丈夫だと言うように僕を見つめ、背中を押す。
僕は後ろ髪を引かれる思いで走り出した。廊下を真っ直ぐ走った後に直ぐに角を曲がり息をつく。
ここからでは二人の様子も見れないし聞こえないが、ここで雅斗君戻ってくるまで待機することにした。
暫くすると、武井総司は廊下の角に隠れいてた僕に気づかずに走り去っていった。何事かと出ると、そこには苦笑いをした雅斗君が歩いてきていた。
「……大丈夫だった? 雅斗君」
「ん? 大丈夫だから安心しぃ。ほっぺたも大したことないし」
「あ! 僕を庇った時の! い、今すぐ保健室に……!」
わたわたする僕に雅斗君は笑いながら頭を撫ぜてきた。
「だから大丈夫だって。落ち着いて、恵。何ともないから。それよりも恵こそ大丈夫? 怪我とかない?」
「うん、なんともないよ」
それは良かったと雅斗君は微笑む。
うわぁ、本当に美人さんだなぁ。いつも美人だけど、笑うと更に華やかで優雅だ。思わず見惚れてしまう。
「それにしても、どうし武井総司に目を付けられたのか心当たりある? っていうかいつからこんな目にあってたの?」
「うん……。多分小枝君が僕に興味を持って近づいてきてるからだと思う。もともと同室だったっていうのもあるけど。幸いといえば、今回が初めてだよ、ああいう風に絡まれたのは」
「え、あの子と同室だったんだね」
それは大変だなぁ、と流石の雅斗君もご愁傷様といったような表情だ。
「でも今までそうならなかったのが不思議だねぇ」
「あ、それは僕の体質の所為だと思う。今は雅斗君に解決してもらったけど、僕に憑りついてるっていう霊がある体質の原因だったんだ。その体質っていうのが、不幸吸引体質でね。翔君に祓ってもらってはいたけど、祓いきれない所為か完全じゃなくて、僕の身には不幸が高確率で起きてたんだ。その不幸は他の人にも飛び火するものでさ。それだけでも危険な上に、どうやら霊たちは自分で僕を害する癖に他の奴が僕を害するのが許せないのか、その相手の人は悲惨な目に合うんだ。死にかけたり大怪我したり。だから誰も手を出せなかったんだけど……」
「俺が解決したから恵にとってある意味ボディーガードがなくなっちゃったって訳やね」
ごめんと、と落ち込む雅斗君に僕は「違うよ!」と声を上げる。
「雅斗君は何も悪くないよ。むしろ僕の事を助けてくれた。多分、あのままじゃあ僕はいつ死んでも可笑しくなかったんだよ。だから、雅斗君は僕の命の恩人で、ヒーローなんだよ」
「ヒーロー?」
「だってさっき颯爽とたすけてくれたじゃない。ヒーローみたいでカッコ良かったよ!」
そういう僕に雅斗君はどこか照れくさそうだ。
「なんかくすぐったいなぁ」
「でも、ほんとに雅斗君には助けてもらいっぱなしで申し訳ないなぁ」
あ、そうだ。
「雅斗君、この間も言ったけど、何か困ったことがあったら僕に何でも相談して! 力になるから」
五代儀君の事では何もできなかった僕だけど、もう後悔したくない。本当は五代儀君ともっと話してみたかったし、仲よくしてみたかったけど、後悔しても後の祭り。
それなら、今度こそ後悔しないように行動に起こそう。
そう決意する僕に、雅斗君は「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。
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