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十九話 狼観察
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翌日から三日間、一匹狼こと武井総司を落とす前に俺はそいつの行動を観察した。
大体のことは翔から聞いてるが、見たのと聞いたのとではまた少し変わってくる。できれば準備は万全でいたい。
観察をしていると、武井総司の一日の行動が大体分かった。
朝は眠そうな顔をしながら転校生の小枝日向とその他不愉快な仲間達で食堂で朝食。授業は時折さぼり、お昼は翔が言っていたとおり転校生から離れ屋上だったり、家庭科しつや生物室だったり、校舎裏など兎に角人目のつかないところで昼寝をしていた。
午後も大体そんな感じだった。夕食も食堂で、お昼などの件で転校生に文句を言われながらも上手く流していた。とはいっても、転校生を存外に扱っているわけでもなかったが。
俺が雪斗の時は四六時中転校生の傍にいた記憶だが、一体何の心境の変化があったんだか。
こうして冷静に分析している俺だが、現在進行形で武井総司を観察中だ。そして結構まずい状態だったりする。
俺がまずい訳ではない。ヤバいのは田所恵だ。今武井総司に絡まれてる。
え? どうしたの? というかアイツ、また誰かに暴力振るってるのか?
雪斗が死んだから次の標的は恵ってか? ふつふつと怒りが沸く。
でもある意味俺にとってはチャンスでもある。
びくびくと震え涙ぐむ恵に拳を振り下ろそうとする武井総司を見て、俺は咄嗟に間に割り込んだ。
「!!」
「……っ!」
「いったぁ」
武井総司の拳は俺の頬を強く打った。
背後で庇っている恵の息を呑んだのを感じる。目の前にいる武井総司も目を見開いている。
妖怪の俺にとっては大したことないのは確かだが、やっぱり痛い。
俺は恵を落ち着かせるために頭を優しく撫ぜ、耳元で「もう大丈夫。今は取り合えず逃げて」と囁く。逡巡した恵だが、静かに頷き走り去った。
「お前……転校生の……」
「烏丸雅斗いいます。特進クラスの授業でみかけたかもしれませんが、仲良うお願いします。ところで、一体どうしたんです? 揉めてるようにみえたんですけど」
無言で俺を睨み付ける狼に、俺は苦笑を浮かべる。
もしかして京都弁が胡散臭いのかな? いや、翔の関西弁の方が胡散臭いでしょ。だって翔は似非関西人だもの。どっちかというと俺ははんなりだ。きっと突然介入してきた転校生を不審に思っているだけだろう、と自分に言い聞かせる。
「そう警戒しないでください。俺はただ、どうしこんな状況になったのか聞いてるだけなんですよ」
俺の言葉に眉間に皺を寄せて怪訝な顔で武井総司は見てきた。
「お前は……俺のこと責めないんだな」
「だって俺が見てたのは一部始終なんですよ? ぱっと見ただけで理由も聞かずに決めつけるんはちゃうと思うんですよ。」
まぁ、復讐云々なければ弾劾してたかもしれない。そこまで正義を語る性格でもないけど。
「それに俺の予想ですけど、武井君がいつも一緒にいる小枝日向君の為やないかって思ってるんですよ」
「なんで……分かったんだ」
「武井君達は有名ですから。いろいろ噂聞こえてるんですよ。やっぱりそうだったんですね。確かに、やり方はいけなかったですが、誰かを守ろうとするその姿勢はとても素敵だと思います」
微笑みながら言うと、武井総司は顔を赤くして照れたように顔を背けた。
「お前、恥かしげもなくよくそんなこと言えるな」
「だってそう思うんですよ」
「お前、変わってるな」
俺はそうでしょうか? と首を傾げる。
「でも、今みたいなやり方じゃあきっと小枝君は喜びませんよ」
「っ!!」
「だって小枝君って友達思いで優しい子なんでしょ?」
本当は、優しいどころか「お前のことを思って」っていう体のいい理由を取り付けて傍迷惑で自己中なことしかしない宇宙人だけどね。
「てめぇに関係ねぇだろ!」
地雷を踏まれた所為か、苛立ったようにその場を立ち去る狼に俺はため息をこぼす。
「ちょっと食いつきすぎだかな?」
でも、これで狼の印象には残ったはずだ。
そろそろ作戦を決行してもいいかもしれない。あとはじわじわだ。
思わず笑みを浮かべる俺に自嘲した。
大体のことは翔から聞いてるが、見たのと聞いたのとではまた少し変わってくる。できれば準備は万全でいたい。
観察をしていると、武井総司の一日の行動が大体分かった。
朝は眠そうな顔をしながら転校生の小枝日向とその他不愉快な仲間達で食堂で朝食。授業は時折さぼり、お昼は翔が言っていたとおり転校生から離れ屋上だったり、家庭科しつや生物室だったり、校舎裏など兎に角人目のつかないところで昼寝をしていた。
午後も大体そんな感じだった。夕食も食堂で、お昼などの件で転校生に文句を言われながらも上手く流していた。とはいっても、転校生を存外に扱っているわけでもなかったが。
俺が雪斗の時は四六時中転校生の傍にいた記憶だが、一体何の心境の変化があったんだか。
こうして冷静に分析している俺だが、現在進行形で武井総司を観察中だ。そして結構まずい状態だったりする。
俺がまずい訳ではない。ヤバいのは田所恵だ。今武井総司に絡まれてる。
え? どうしたの? というかアイツ、また誰かに暴力振るってるのか?
雪斗が死んだから次の標的は恵ってか? ふつふつと怒りが沸く。
でもある意味俺にとってはチャンスでもある。
びくびくと震え涙ぐむ恵に拳を振り下ろそうとする武井総司を見て、俺は咄嗟に間に割り込んだ。
「!!」
「……っ!」
「いったぁ」
武井総司の拳は俺の頬を強く打った。
背後で庇っている恵の息を呑んだのを感じる。目の前にいる武井総司も目を見開いている。
妖怪の俺にとっては大したことないのは確かだが、やっぱり痛い。
俺は恵を落ち着かせるために頭を優しく撫ぜ、耳元で「もう大丈夫。今は取り合えず逃げて」と囁く。逡巡した恵だが、静かに頷き走り去った。
「お前……転校生の……」
「烏丸雅斗いいます。特進クラスの授業でみかけたかもしれませんが、仲良うお願いします。ところで、一体どうしたんです? 揉めてるようにみえたんですけど」
無言で俺を睨み付ける狼に、俺は苦笑を浮かべる。
もしかして京都弁が胡散臭いのかな? いや、翔の関西弁の方が胡散臭いでしょ。だって翔は似非関西人だもの。どっちかというと俺ははんなりだ。きっと突然介入してきた転校生を不審に思っているだけだろう、と自分に言い聞かせる。
「そう警戒しないでください。俺はただ、どうしこんな状況になったのか聞いてるだけなんですよ」
俺の言葉に眉間に皺を寄せて怪訝な顔で武井総司は見てきた。
「お前は……俺のこと責めないんだな」
「だって俺が見てたのは一部始終なんですよ? ぱっと見ただけで理由も聞かずに決めつけるんはちゃうと思うんですよ。」
まぁ、復讐云々なければ弾劾してたかもしれない。そこまで正義を語る性格でもないけど。
「それに俺の予想ですけど、武井君がいつも一緒にいる小枝日向君の為やないかって思ってるんですよ」
「なんで……分かったんだ」
「武井君達は有名ですから。いろいろ噂聞こえてるんですよ。やっぱりそうだったんですね。確かに、やり方はいけなかったですが、誰かを守ろうとするその姿勢はとても素敵だと思います」
微笑みながら言うと、武井総司は顔を赤くして照れたように顔を背けた。
「お前、恥かしげもなくよくそんなこと言えるな」
「だってそう思うんですよ」
「お前、変わってるな」
俺はそうでしょうか? と首を傾げる。
「でも、今みたいなやり方じゃあきっと小枝君は喜びませんよ」
「っ!!」
「だって小枝君って友達思いで優しい子なんでしょ?」
本当は、優しいどころか「お前のことを思って」っていう体のいい理由を取り付けて傍迷惑で自己中なことしかしない宇宙人だけどね。
「てめぇに関係ねぇだろ!」
地雷を踏まれた所為か、苛立ったようにその場を立ち去る狼に俺はため息をこぼす。
「ちょっと食いつきすぎだかな?」
でも、これで狼の印象には残ったはずだ。
そろそろ作戦を決行してもいいかもしれない。あとはじわじわだ。
思わず笑みを浮かべる俺に自嘲した。
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