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十七話 月に叢雲
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雅幸が持ち込んだ酒の酔いを醒ますために、俺は自分の部屋のベランダに出て雑魚寝をしている三人を横目に涼んでいた。
「今日は満月か……」
随分と月も遠くなったものだと、珍しく感慨深くなる。
1000年前に眺めていた月はもっと近かったように思う。昔は月に恋焦がれ馬鹿なことをしでかす人も妖も多かった。現代の人の世では月に行くどころか火星にも行けるのだから、人生何が起こるか分からない。
月に叢雲がかかり、その光が陰る。
「ちょいと夜の散歩にでもいってみようか」
妖としての本性を現し、少しだけ目線が高くなり、髪も更に長くなる。服装もジャージからいつもの狩衣と山伏装束を混ぜた様なものに変わった。
出し入れできる漆黒の翼も顕現させて飛び立った。
「やっぱり気持ちいなぁ、夜の空中散歩は」
人里から少し離れている所為か、空気は少し澄んでいる。
学園全体を見渡すと、やっぱり無駄にバカでかいと改めて実感する。
ちらほらと校舎や寮から明かりが見える。遊んでいる奴は兎も角、今の時間働いたりしているだろう人たちもいるわけで。ホントにご愁傷さまです。
暫くして休憩がてらに高い木の枝に座り、ぼんやりとしてどのくらい経っただろうか。
ふと下を見ると、寮のベランダから人が此方を見ているのに気が付いた。
「やばっ、油断しすぎたか」
どんだけ気が緩んでいるんだ俺は。三人と再会して浮かれすぎだろ。
すぐさま飛び立とうとした時だった。
「待ってくれ!」
焦ったような必死な声に思わず動きを止める。再び人に目を向けると、俺を止めようと身を乗り出しているのが目に入った。
「危ないであろうっ」
落ちそうになっているのを見て、慌てて人の元に行くとガシッ、と両腕を捕まれた。
「え? 何事?」
とっさに人用というか妖の姿としての口調で声を掛けたのに驚きすぎて素が出てしまった。
「……捕まえた」
え? 俺捕まえられちゃったの? たかだか普通の人の子に?
少しだけ冷汗が俺の額をつたった。最初は常人だと思ったけど、もしかして間違い?
そういえば霊力も感じられる。晴明ほどではないけど。
もしかして周りのレベルが高すぎて俺の標準が高くなりすぎなだけで、この人の子って結構霊力あるんでないの?
それになんか見覚えのある霊力だし。暗がりでよく顔見えないけど。
顔を引きつらせないようにしながら相手の出方を待つ。
伏せられていた顔を人が挙げたとき、雲で陰っていた月が顔を出していく。
月明かりに照らされた顔に、俺は息をのんだ。
何でコイツが此処にいるんだ? いや、コイツの部屋なんだろうけど。
何で俺のこと呼び止めたんだ? あんなに必死に。
困惑と、遥かな時から抱いている憎しみや怒りがない交ぜになる。
「何で、貴様が……」
自分の目が鋭くなるのを感じる。
「今日は満月か……」
随分と月も遠くなったものだと、珍しく感慨深くなる。
1000年前に眺めていた月はもっと近かったように思う。昔は月に恋焦がれ馬鹿なことをしでかす人も妖も多かった。現代の人の世では月に行くどころか火星にも行けるのだから、人生何が起こるか分からない。
月に叢雲がかかり、その光が陰る。
「ちょいと夜の散歩にでもいってみようか」
妖としての本性を現し、少しだけ目線が高くなり、髪も更に長くなる。服装もジャージからいつもの狩衣と山伏装束を混ぜた様なものに変わった。
出し入れできる漆黒の翼も顕現させて飛び立った。
「やっぱり気持ちいなぁ、夜の空中散歩は」
人里から少し離れている所為か、空気は少し澄んでいる。
学園全体を見渡すと、やっぱり無駄にバカでかいと改めて実感する。
ちらほらと校舎や寮から明かりが見える。遊んでいる奴は兎も角、今の時間働いたりしているだろう人たちもいるわけで。ホントにご愁傷さまです。
暫くして休憩がてらに高い木の枝に座り、ぼんやりとしてどのくらい経っただろうか。
ふと下を見ると、寮のベランダから人が此方を見ているのに気が付いた。
「やばっ、油断しすぎたか」
どんだけ気が緩んでいるんだ俺は。三人と再会して浮かれすぎだろ。
すぐさま飛び立とうとした時だった。
「待ってくれ!」
焦ったような必死な声に思わず動きを止める。再び人に目を向けると、俺を止めようと身を乗り出しているのが目に入った。
「危ないであろうっ」
落ちそうになっているのを見て、慌てて人の元に行くとガシッ、と両腕を捕まれた。
「え? 何事?」
とっさに人用というか妖の姿としての口調で声を掛けたのに驚きすぎて素が出てしまった。
「……捕まえた」
え? 俺捕まえられちゃったの? たかだか普通の人の子に?
少しだけ冷汗が俺の額をつたった。最初は常人だと思ったけど、もしかして間違い?
そういえば霊力も感じられる。晴明ほどではないけど。
もしかして周りのレベルが高すぎて俺の標準が高くなりすぎなだけで、この人の子って結構霊力あるんでないの?
それになんか見覚えのある霊力だし。暗がりでよく顔見えないけど。
顔を引きつらせないようにしながら相手の出方を待つ。
伏せられていた顔を人が挙げたとき、雲で陰っていた月が顔を出していく。
月明かりに照らされた顔に、俺は息をのんだ。
何でコイツが此処にいるんだ? いや、コイツの部屋なんだろうけど。
何で俺のこと呼び止めたんだ? あんなに必死に。
困惑と、遥かな時から抱いている憎しみや怒りがない交ぜになる。
「何で、貴様が……」
自分の目が鋭くなるのを感じる。
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