私の弟子は魔王様

玖莉李夢 心寧

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5話 修羅場りました

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 私とルークが居間のソファーでテーブルを挟んで向かい合って座っている所へ、アルがルークに対して警戒心を表にしながら紅茶とクッキーをだしてくれた。


  私と二人きりの時とは違う借りてきた猫のような姿に、私は思わず笑みをこぼす。


  ルークもアルのその姿にニヤリと口の端を上げた。


 「ディアナ、君は何時からこんな警戒心の強い小さなペットを飼い出したんだ?」


 「誤解を招くような言い回しはやめてくらないかしら」


  アルもルークの発言にイライラ度が増しているから本当にやめてほしい。

  それにペット発言もシャレにならない。ディアナが美少年をペットとして飼っているなんて噂が町なんかに広がったりしたら一巻の終わりだ。


  ゲームと同じ道を辿るなんてことになったら私の死亡フラグが……!


  此処は断固否定しなくては!


 「そんな変態的な考えはやめてほしいわ。冗談は貴方の頭だけにしてほしいわね。確かにアルはとてつもない美少年だし可愛がってはいるけれどペットだなんて……。アルは私の自慢の弟子よ」


 「自分の身の回りを世話してくれる?」


 「それはっ」


  私が反論しようとするとアルが私を庇うようにして前に出た。まだ発達途中な未熟な体ではあるがこの一カ月鍛えてきたため筋肉もあり少しがっしりしていることもあってか、小さいはずのその背中が広く感じられて少し胸が疼いた。


 「僕が師匠の為に何かしたくて勝手にやっていることです。貴方が何者かは知りませんが師匠に対して失礼な物言いはやめていただけないですか」


  私の前にいるアルの表情は見えないが、ルークとの間に火花が散っている様に見えるのは気の所為だろうか。


  暫く続いた沈黙はルークによって破られた。


 「随分と威勢のいい坊主だな。良い弟子を持ったじゃなか、ディアナ」



  どうやらルークなりにアルの事を認めたようだ。先ほどまでのピリピリとした空気が和やかになる。アルには「俺はルークハルト・キングスヘイムだ。よろしくな」とまで陽気に名乗っている。


 「当たり前でしょ。私自ら弟子にしたんだから」


  私の不遜な態度にルークはクツクツと笑いを零す。

  突然雰囲気が変わったことにアルは戸惑ったあと、気を削がれたと言う風に溜息一つ零すと私の隣に座った。


 「それにしても本当にいつから弟子なんて採ったんだ? ディアナにしては珍しい。銀色の乙女は弟子を取るのを嫌がっていると巷では有名だ」


  弟子を取らないという事は知っていたアルも、弟子を取るのを嫌がっていると言う言葉を聞いて驚いたようにして私を見た。


 「一カ月程前よ。倒れている所を拾って、私の教えを享受するに相応しい才能をアルに感じたから」


  何故倒れていたかは察しなさいと言う風にルークに目線を送り、私はアルの淹れてくれた紅茶を一口飲む。


 「それにしてもディアナが弟子を取ったなんて聞いたら学園の魔導士見習いやら教授たちが坊主に嫉妬するだろうな」


 「そうかしら?」


  私が首を傾げるとアルは興味深そうな顔する。


 「師匠ってそんなに有名な方なんですか?」


  ルークは呆れたような顔をして「いいか?」と話し出した。


 「ディアナ、君は自分の事を過小評価しすぎだ。君が巷で何て言われているかしっているか?」


 「銀色の乙女と剣聖、後は賢姫だったからしら」


 「はぁ、ディアナは本当に自分の事を分かっていない……」


  ため息を着きながらルークは眉間に指を添えた。


 「ディアナ、君は巷……いや、世間では至高にして偉大な大魔導士、大賢者とも呼ばれる世界の英雄の一人だぞ。今まで自分でやってきたことを忘れたのか?」


  私がやってきたこと……というと何があっただろう?


 「確か、ドラゴンを何体か討伐したかしら。魔獣の軍勢も全滅もしたような……。後はいちいち移動するのが面倒くさいから移転の術と持ち運びとか部屋を広くしたくて空間魔法も作ったわね」


 「それだけじゃない。食べ物を腐られせたくないとか作ったときのまま食べたとか言い出して時の魔法を生み出してそれを更に応用して保存の魔法を作っただろ。おまけに最高ランクで世界に三人しかいない冒険者Sランクの更に上、SSSトリプルエスの称号を持っているだろ」


 「そういえばそんなこともあったわねぇ」


  さらりと流す私に、アルとルークはギョッとして諦めたかのように溜息を零した。どこか疲れた顔をしているのは何故だろうか。


 「坊主、自分がどれだけ凄い人物の弟子になったか理解できたか?」


 「はい。師匠は規格外なんですね」


  何でいがみ合っていた二人が仲良く意気投合しているのだろう。男は本当に不思議だ。女子ではよく分からない所で友情が生まれるのだから。


 「だから坊主は幸運だ、ディアナの弟子になれたんだからな。それに、俺の妻になるディアナの子どもとして傍に居られるんだからな」


  そう言いながら席を立ち私の隣に座り抱き寄せてきた。


  私が反応する前にベリッとルークからはがされ、自分の体を支えるように後ろから抱き留めた存在に私は驚きで目を見開く。


 「アル……?」


  アルは今までにないほど警戒心を剥き出しにしながらルークを睨みつけていた。


 「気易く師匠に触らないでもらえませんかね」


 「一丁前に騎士ナイト気取りか坊主? お前にはまだ早いんじゃないか?」


 「年齢なんて関係ないです。貴方よりはマシだとは自負できますよ」


 「ほぅ? 俺の正体を聞いてもその発言が出来るものかな?」


  怪しい笑みを浮かべるルークに私は溜息をついて、二人の頭に拳骨を一つ落とした


 「っ!」


 「いたっ!」


  何故だと言う風に見てくる二人に私は腕を組みながら半目で彼らを見る。


 「いい加減にしなさい。ルーク、いい加減その戯言やめてくれないかしら。誰かが聞いて誤解したらどうしてくれるの? それに子どもに対して大人げないわ」


 「いや、俺は戯言のつもりじゃ」


  ルークが何か言いかけているがそのまま言葉をつづける。


 「アルもこいつの戯言を信じたり挑発にのらないの。こんなのに相手しても時間の無駄よ」


 「いやでも……」


  複雑そうな顔をしたかと思うと、ルークに同情の眼差しを送るアル。


  本当に二人は一体何に対してあんなに言い合っていたのかよく分からない。まぁルークが何かアルの気に障ったことをしたのは確かだろうけど。


 「それで、結局ルークは何しに来たのよ」


 「ん? ただディアナに会いに来ただけだ」


  今までの無駄話と気付かれに私は苛立ち、思わずルークの額にデコピンを食らわしてしまったのはご愛敬である。
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