私の弟子は魔王様

玖莉李夢 心寧

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1話 弟子を拾いました

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 私は過去に、と言うよりも前世と言った方が正しいだろうか。その前世で私は人気乙女ゲーム「ラビリンス・クレードル~光の巫女」、通称「ラビクレ」という物をプレイしたことがある。

  王道物で、光の巫女に選ばれたヒロインが、王子、騎士、魔法使い、神官と共に魔王を倒すべく旅をしながら、時には戦い、時には笑ったり泣いたりして絆を深め、最終的には旅をしている仲間の一人と愛を育み、魔王を倒す物語である。

  全ルートをクリアすると、魔王ルートが解放される。魔王が持つ心の闇を開放し、癒しヒロインが寄り添う事で世界を破壊することを阻止することができるのである。闇の呪縛から解放された魔王は人に戻り、ヒロインと平和に愛を育んでいくのがベストエンドである。

  王道ながらもストーリーはしっかりとし、声優陣も豪華であったことからとても人気であったのを覚えている。


  アニメグッズのショップにはラビクレのグッズが圧倒的に多かった。ハマっていた当時の私も、ポスターやらキーホルダーやらタオルをかったり、ファンディスクが出た時もいち早く豪華版を予約してその特典と豪華版の付属に鼻息を荒くしていた。


  そんな人気な乙女ゲームだが、王道なため当然悪役というか諸悪の根源のような存在がいる。


  その存在とは、「迷いの森の魔女」あるいは「闇の魔女」と呼ばれる一人の女である。その女は、腰まである綺麗な銀の髪に、満月の様に輝かしい金色の瞳をしている絶世の美女。しかし、性格は冷酷無慈悲で残忍、人の事を虫けらのようにみており、美しいものにしか興味がない。そしてその美しいものはモノだけでなく人も当てはまり、それをぐちゃぐちゃに壊すのが好きなのだそうな。


  その魔女がまだ魔王となる前の少年を自身のペットとして飼い始めたのが、そもそもの発端なのだ。魔王がなぜ魔王になったのか、詳しい事は省くがとにかくこの魔女さえいなければ魔王は誕生しなかったのである。

  最終的には魔王になったばかりの魔王に殺されている。ルートによってはその亡霊も出るけれど。


  なぜ突然こんなことを回想しているのかと、もし私が声に出していてそれを誰かが聞いていたならばそう思うだろう。


  私自身も、何故こんなことを突然思い出してしまったのだろうと思う。思い出さなかった方がよかったような、思い出して良かったような、とても複雑な気持ちだ。


  目の前の倒れている美しい少年を見て思い出したのだから尚更だった。


  陶器の様に滑らかで白い肌は今は少し青ざめ、所々小さな傷があった。そして美しい艶やかな漆黒の射干玉のような髪。固く閉ざされている瞼の奥には、鮮やかな紅い瞳があることだろう。顔はとても整っており、将来が楽しみなくらい美しい。もし呼吸をしていなければ精巧な人形に見えたことだろう。


 「何でこんな所にアルファルドがいるの?」


  アルファルド、それは後に魔王となる者の名。この少年が倒れている所に遭遇するところといい、自身の容姿といい気付きたくもなった自分のポジションを悟ってしまう。


 「き、気の所為だよね。ゲームのスチルと風景とかキャラと同じだからってここがゲームの世界なわけないじゃない!」


  もはや確信に近いと言っても否定の言葉を出してしまう。


  でも今まで何で思い出さなかったのだろうか。前世の記憶は生まれた時から私にはあった。日本という魔獣も魔法もない、化学が発展した平和な国に、私は女子高生として暮らしていた。

  何故若くして死んだかは分からないが、多分病気か事故だろう。転生したことに気付いたときはとにかく生き残るのに必死だった。


  裕福な家の生まれではあったけれど、日本にくらし平和ボケしていた私が何もせずに生きるには厳しい世界だった。


  自分を守る術として魔術、剣術や体術を極め、ありとあらゆる知識を取り込み、いつしか私は「銀色の乙女」、「剣聖」、「賢姫けんき」と呼ばれ人々に尊敬されるような立場に立っていた。


  この時点でゲームとは全く違っていたため、名前が同じディアナ・ブラッドフォールで、髪も目も容姿すらも同じであっても、私があの諸悪の根源「迷いの森魔女」だとは思いもしなかったのだ。


  もしこのことをいち早く知っていたならば、私は今日薬草を採取することもなく一日普段の薬草づくりや冒険者ギルドの仕事なんかも休んでティータイムを楽しんでいただろう。


  幼気な美しい少年が例え倒れていると知りながら見捨てるのは、心苦しいが自身の死亡フラグ回避の為である。


  見知らぬ死亡フラグの塊を助けるほど私は優しくないのである。例え人々に頼られ尊敬される「心が美しい魔女」と呼ばれていたとしても、だ。


 「うっ……だれか……」


  続くはずだった「たすけて」という言葉は、口が動くだけで空気が零れる音しかしない。

  ピクリとだけ動いた少年だが、それ以上動くことが出来ないのか苦痛な表情を浮かべる。


 「あー! もう! こんなの見せられたら助けるしかないじゃない!」


  これ以上の放置は私の良心が許さなかった。実際目の当たりにしてしまえばこうなることは確かだったから、なおの事出逢いたくなかったと臍を噛む。


 「こうなったら死亡フラグ、折ってやろうじゃない! だから早く元気になってよ!」


  私は急いで少年を抱きかかえ移転の術で私が仮住まいにしている一軒家に向かった。
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