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† 終わりの罪――夢の彼方(はて)に(肆)
しおりを挟む「二人とも、元気でね」
軍服に身を包んだ桜花が、右手を差し出す。
「ほんっとベタなことしか言わねーな。ま、でも意外と似合ってんじゃん。あんたは日本を頼むぜ」
次に信雄が彼女の手を取るのは、いつになるのだろうか。
「すぐに戦争が起きるようなことはないと思うけどね。まあ魔力は隠してるけど、特訓のかいあって、新人の中じゃ使えるほうみたいでよかった」
「日頃から戦えるようにって、いつも多聞さん言ってたもんな。俺もまだまだ強くなるぜ」
「して、お前が赴くは昏き夜明け。日輪の無い朝で、何処迄で剣を執る?」
ルシファーを不敵に見つめ返す信雄。
「さあ、どこまでかな。あいにく死ねないもんで」
「奇遇よな。余もまた、死ねぬ身だ。進み続けるが良い。其の生き様、見届けて遣ろう」
「心得た。然れど長くなるぞ」
彼の口調を真似て、少年は笑ってみせる。
「望むところよ」
「あんた、実はけっこー暇だろ?」
遠ざかってゆく二人が見えなくなるまで、少女は見送った。
緑川信雄は、どこにでもいるような普通の高校生ではない。
少なくとも、桜花はそう思っている。
この世の限り、果てのない道を歩み続ける彼は、今日も人知れず剣を振るうのだった。
「あんたが本気でこの魂を糧にしてたら、俺は何度でも死んでた。死なない程度に苦しませるのを観察とは、素敵な趣味をしてやがる。でも実際、俺の時間を止めたっつーのはウソだろ。不死身だと思って無理しすぎちゃったらどうしてくれんだか」
歩きながら信雄が口にする。
「其の為に余がいる故、案ずるな」
「どんな代償かとビビらせやがって、結局はボランティアかよ」
溜息をついた彼を、ルシファーはまじまじと眺めた。
「勘付いておったとはな」
「気づいてねーフリ、なかなか上手かったろ? ぼくは歳をとるから、きみたちの足をひっぱっちゃうよね、とか遠慮してたあいつには悪いが、真相を知ったら付いてくって言い出しそうじゃん」
「違い無い」
上機嫌そうに、相槌を打つ魔王。
「あんた、意外と笑うよな」
「なっ、何を……! 置いてゆくぞ、戯けが」
顔を背けるように、彼は足を速める。
からかうように笑い飛ばし、その意外と小さな後ろ背を信雄は追った。
討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ 完
お付き合いいただき、ありがとうございました。
続編(トランシルヴァニア編)の冒頭文を後ほど番外編として掲載しますので、最後まで何卒よろしくお願いします!
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