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† 二十の罪――執剣者(漆)
しおりを挟む(だったら――こいつとの重ね技ならどうだ……!?)
目にしたのは、あれが最初で最後。我が魂を燃やしきりかねない反動だろうが、ここで迷うようなら、あんなもの易々と放つような相手なんかに心身を売ったりはしない。
「汝等の滅びを以て」
そう己に言い聞かせたときには、彼の詠唱を口にしていた。
「世界を浄化せん」
莫大な魔力が迸り、俺を内外から焼き尽くそうとする。
「死んじゃうよ!」
三条の叫びが飛び込んできたが、俺はさらに出力を集束させた。
「死ぬようならそんだけの命だったってことだろ? まだまだ終わる気はないんでね。脱落者っつーのは、運命を変えられなかった連中のことを言うんだよ。死を待つだけだった俺の運命を変えてくれたルシファーの一撃で、今度は俺が未来を照らし出す!」
そして、俺は大きく息を吸うと、
「天の――――」
カルタグラを高々と掲げる。
「雷……!」
刀身から発せられる波動に乱反射した稲妻は、象山を織り成す怪魔の集合体を隅々まで殲滅し尽くした。
「……やっと、やっとか! やっとこの醜い世界ともお別れ出来る」
明滅する世界に響き渡るのは、断末魔ではなく彼の哄笑。天の雷が殺したのは、怪魔だけ。
依り代を失った思念は、静かに風に溶けゆく。
「答えはどこかにあるかも知れない。だが、そこに辿り着く式は……人には難し過ぎる」
契約から解放された彼は、澄んだ声で自嘲った。
「でもゼロじゃねーんだろ? なら何千通り、何万通りでも試してやるよ。やってみる価値は十分ある。大人しく納得してらんねーよ。受け身の姿勢はもう、一生分やっちまったんだわ。現実に打ちのめされ、受け入れられず時間を浪費した過去は変わらねえ。でも、いや――だからこそ、ここで攻めきらなきゃ俺は死んでも死にきれねえ!」
子どもの頃、俺のわがままに呆れたときのように、兄貴が苦笑いしたのが感じ取れる。
「花は散る時に、初めて己の色を知る。その馬鹿げた旅路の果てに、もしやお前なら指先ぐらいは掴めるかもしれぬな。では、先に参ろう。俺もお前も、所詮は人間であることを捨てた罪深き咎人。地獄で待ってるぞ、夢追人よ」
風は何も語らない。ただ、言葉を届けて過ぎゆく。
「護ろう――誰よりも兄貴が愛した、この世界を」
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† † † † † † †
「……おわったのかい?」
瀕死の肢体を引きずり、屋上に辿り着いた彼が友に問いかける。
「ああ、また駄目だった。すまんな」
ようやく身を横たえた茅原に応じたのは、毒気の消えた声色。
「いい夢見れたよ」
「人の夢と書いて儚い、か。皮肉なものだな」
「そうだね。いくら人間を超えたっていっても、しょせんは人間同士での話だって、魔王との果し合いで思い知らされちゃったなあ」
「……後悔、しているのか?」
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