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† 十六の罪――父の手(弐)
しおりを挟む「ごめんな。無責任だとはわかってる……でも、君を守るには、これが一番なんだ」
困ったように半笑いで言い残し、彼は立ち去る。
「あやまらないで。多聞丸が信じる道に、ぼくの信じてきた多聞丸に、失礼なことしないで……ぼくの唯一の友だちも、あやまるのはまちがってたヤツだけでいいって言ってたもん」
その背中へ、最後に彼女は――――
「……さようなら、ヒーロー」
と、告げた。
「君にこんな思いをさせてしまうのは、僕の力が足りないからだ……僕を恨め――最後まで、こんなことしか言ってあげられないような僕を」
僅かに振り返る長身。
「そして、だれかを寂しい目にあわせたくないと感じるなら、そばで守れるだけ強くなれ」
そう自分に言い聞かせるように語る多聞の横顔は、夜の闇に霞んでいた。
「……ばかだなあ、多聞丸。いつまで子どもだと思ってるんだか」
部屋に戻る道、少女は独白する。
「ものごとは最終的な結果としてしか残らないって、多聞丸いつか言ってたけど、別れぎわにあんなこと言って憎めるほど、軽い日々だったなんて思ってるなら、いつか――いつか後悔させてやるんだから…………」
廊下を歩きながら、吐露する想いは、震えていた。
「もう――見てられないよ」
多聞は生気が感じられない双眸で、立ち塞がる桜花を見つめ返す。
超常たる破壊者を前にしても、退かない度胸。揺らぐことなき止めようとする意志。強くなった彼女が、そこにはいた。
「痛くないの……?」
悲しげな瞳で、少女は問いかける。
「痛いのは彼のほうだろう」
「そうじゃなくて、ヒーローがこんなの……似合わないよ」
桜花の物言いが無稽としか感じられないというような、彼の面持ち。
「フフ、こんな姿のヒーローがいてたまるか。どう見ても悪役じゃないか」
「ちがう。見た目は関係ない。それも、忘れちゃったの……?」
首を振り、必死に訴えかける彼女の前に、信雄が歩み出た。
「桜花――ありがとな。そしてすまねーが、どいてくれ」
その目からは、いまだ闘志が消えていない。
「ったく、君たちはそろいもそろって…………」
多聞は、無表情で見下ろす。
「その剣でまだやるつもりかい? デスペルタルを失った妖屠になにができる? 次の一撃で終わるよ」
彼の言うように、もし受けられたとしても、その得物では反撃に転じることも敵わない。
「終わるのは、どっちかな……ッ!」
腰を沈めたのは、双方ほぼ同時。
「信雄っ!」
多聞の刃と、桜花の悲鳴が宙を切り裂く。
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