討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)

LucifeR

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† 十六の罪――父の手(弌)

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「だいじょうぶ……? 痛かったでしょ?」
 彼女は問いに構うことなく、不安気に見上げる。
「あれ? たもんまる、けがしてない……よかった――――」
「……よくねーよ」
 多聞は低く呟いて銃を置き、振り向くと――――
「――――ッ!」
 乾いた音と共に、茂みに転がる少女。
「痛いに決まってる…………」
 慌ててか細い身体を抱き起こすと、そう彼は小声で口にする。
「君を失うほうが――痛いに決まってるだろ」
 抱き締めながら、絞り出す答えは、震えていた。
「ごめんな。君を守るための手なのに……ただ、あぶないところだったんだってわかってほしくて――子どもがいたことなくてさ。親心の匙加減もわかんないんだ」
 多聞が目を落とす手の平に、彼女は小さな手を重ねる。
「お父さんは今までもこれからも一人だけ。たもんまるをそうは思えない。あなたは親代わりじゃなくてヒーローだもの。あなたがどれだけ手を血に染めてきたとしても、どれだけ傷だらけになったとしても、わたしにとっては強くて優しい――ヒーローのあたたかい手なの」
 大男は照れ笑いを浮かべ、少女の頭を撫でた。
「そっか……じゃあヒーローらしく、これからも君を守らなきゃね」
 しかし、彼らの関係は、ほどなく終わりを迎える。

 その日も、寒い冬のことだった。
「本当に良いんじゃな? 多聞丸」
 玄関先の教え子を、老人はまじまじと覗き込む。
「ええ。組織ちかにいれば、来たる戦の喧噪とも無縁でいられるでしょう。沢城さん、すみませんが彼女をお願いします」
 軍人らしい礼に、ゆっくりと頷く沢城是清。
「うむ……それで後顧の憂いなく大陸に赴けるのであれば、良いじゃろう。心配はいらぬ。存分に暴れて来い、少佐」
 気配を察したのか、奥から顔を出した彼女に、顔を上げた多聞は視線を移す。目が合っても、少女は口を閉ざしたままだ。
「ごめんな。無責任だとはわかってる……でも、君を守るには、これが一番なんだ」
 困ったように半笑いで言い残し、彼は立ち去る。
「あやまらないで。多聞丸が信じる道に、ぼくの信じてきた多聞丸に、失礼なことしないで……ぼくの唯一の友だちも、あやまるのはまちがってたヤツだけでいいって言ってたもん」
 その背中へ、最後に彼女は――――


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