討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)

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† 十五の罪――見えない星(陸)

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「ぐ……ぅッ!」
 あまりの迅速な踏み込みに往なしきれず、吹き飛ばされる信雄。言葉を発するいとまもなくなった今、彼らの代弁をするのは剣戟と火花だけだった。
「まだだ!」
 なおも果敢に挑むも、間合いも速さも多聞が支配している。
 まさに、完封。少年の勢いは衰える一方だが、いまだ一発の有効打も与えられていない。焦りからか、その剣技は粗くなり、完成された戦士である多聞には通用するわけもなく――――
「うぉおおおおおァああ……ッ!」
 ひときわ大振りに撃ち込む信雄。
 すれ違いざまに、甲高い金属音が響き渡った。

「これが現実。君が埋めきれずに終わった、僕との差だよ」
 倒れ込んだ彼の横に転がる静物に、誰もが目を疑う。
「そんな――デスペルタルが、折れ……た……?」
 ただ一人、多聞を除いて。
「緑川さん…………」
 部下たちのまなざしが絶望に染められてゆく中、桜花だけは現実に抗うように拳を握る。
「実体化したデスペルタルが砕かれた――つまり、魔力を断たれた、ってこと……?」
 地に伏したままの信雄へと、にじり寄る多聞。
「緑川くん……残念だったね。でも、これで――――」
 面前に現れた乱入者に、彼は呼びかけごと遮られる。
「……桜……花……?」
 微かに双唇を震わせ、信雄が呻いた。
「なにのつもりか知らないけどさ、邪魔なんだよねー」
 行く手を阻む少女に、多聞は警告する。
「邪魔――してるんです」


 男は前のめりに倒れ、動かない。
「こ……こ……まで……か――――」
 まぶたを閉じたまま、敵勢の動向に神経を集中させる。
(……さあ、確認しに来い……! そのジャングルから出るんだ)
 民兵たちが死体を検めようと、顔を覗かせようとした刹那――――
「たもんまるっ!」
 一人の少女が飛び出したと思いきや、横たわる彼に駆け寄る。
「なっ――ばかが!」

 岩に腰かけて、溜息混じりに、紫煙を吐き出す多聞。
「……なんで隠れてなかった」
「だいじょうぶ……? 痛かったでしょ?」
 彼女は問いに構うことなく、不安気に見上げる。
「あれ? たもんまる、けがしてない……よかった――――」
「……よくねーよ」
 多聞は低く呟いて銃を置き、振り向くと――――
「――――ッ!」
 乾いた音と共に、茂みに転がる少女。
「痛いに決まってる…………」
 慌ててか細い身体を抱き起こすと、そう彼は小声で口にする。
「君を失うほうが――痛いに決まってるだろ」
 抱き締めながら、絞り出す答えは、震えていた。


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