討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)

LucifeR

文字の大きさ
上 下
93 / 139

† 十五の罪――見えない星(伍)

しおりを挟む

 ガードごとはね飛ばされた俺を、射抜くように見据える、色のない瞳。
「短期間にかなり強くはなったけど、ここまでで限界なようだね」
「……まだ剣は折れちゃいねーよ。剣があれば戦える。たとえ折れようと、手持ち無沙汰になった両の拳で殴りゃいい。腕もやられたら蹴りをくれてやる。足もダメなら噛みつくさ。どんな苦境であれ、策と根気の限り食い下がれ。そう教え込んだのは他でもねー、あんただ。その弟子である俺は――俺の心は、誰にも折れない……!」
 俺の宣誓を聞き届けると、鉛のような目つきで彼は静かに沈黙を破った。
「ならば――その剣ごと、叩き折ってみせよう」
 暴風を奔らせ、解き放たれる膨大な魔力。
「最終形態“覚醒サスキタティオ”――放射ラディウス!」
 その肢体より伸び出でる杭が鞭さながらにしなり、一斉に迫ってきた。

              † † † † † † †


「ああッ、あれは……!?」
 駆けつけた現場の衝撃に、彼らは動揺を隠せない。
「……多聞……さん――――」
 桜花が見つめる先には、狂ったように全身を変形させて襲いかかる異様な黒影と、狂ったようにそれを迎え撃つ信雄。
「ええッ!? まさかあれが…………」
「あのほとばしう闘気はたもんまるじゃ。が――おそらく、すでに死んでおる。魂だけはあの器に残っておるようじゃが」
 ベルゼブブが小さな顔をしかめて説明する。
「なんてことだ……すぐに止めないと!」
 力任せに暴れているようでいて、その狙いは正確だった。人ならざる者となってなお、生前の技術が端々に見受けられる。
「……無理だよ――――」
 桜花が見守る中、眼前を塗り潰すその嵐に、少年は抗し続けていた。
「あの二人の戦いは、だれも邪魔できない…………」
 あの二人だからこそ、互いに譲れない道。
「わかるよ。ぼくは、あの人に拾われたから」
 あの二人だからこそ、避けられない結末。

「……確かにあんたは強いよ。さすがは人をやめただけある力だ。でも中身までは急に強くなるもんじゃない、そう教えてくれたのはあんただろ。強さの源である心を失ったあんたより、今の精神は俺が上だ!」
 今なお屈することのない信雄に、彼の師は目力をさらに険しくした。
「では、試してみようか――――」
 多聞と一体化していた武装が溶けるように消えてゆく。
「いつの時代も、言ってわからない子には、痛みで教え込むしかないようだ」
 そう呟くと、彼は長剣をゆっくりと抜いた。鞘を捨て、中段に構えた佇まいは、在りし日の喜多村多聞と相違ない。
「ぐ……ぅッ!」
 あまりの迅速な踏み込みに往なしきれず、吹き飛ばされる信雄。言葉を発するいとまもなくなった今、彼らの代弁をするのは剣戟と火花だけだった。
「まだだ!」
 なおも果敢に挑むも、間合いも速さも多聞が支配している。
 まさに、完封。少年の勢いは衰える一方だが、いまだ一発の有効打も与えられていない。焦りからか、その剣技は粗くなり、完成された戦士である多聞には通用するわけもなく――――


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

うさぎの楽器やさん

銀色月
ファンタジー
森1番のオリーブの木にオープンした、うさぎの楽器やさんのお話です。 児童文学系ファンタジー✨ 大人の方にも。 <うさぎの楽器やさん>のお話 <森のオルガン>のお話 <やまねこのふえ>のお話  の、3部構成になります。 …カテゴリー迷子です。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! ※本作品は他サイトでも連載中です。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 不定期更新になります。  

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...