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† 十一の罪――さくら花 散りぬる風の なごりには(弌)
しおりを挟む二人が出逢って以降、同じ時を過ごしたのは一度だけ。
「きれいだね」
それも公園で駄菓子を食べて、僅かな会話を交わした程度に過ぎない。
「ちゃんと笑えるようになったじゃん」
ジャングルジムに腰かけ、旅立つシャボン玉たちを見守って桜花は笑い、その彼女を眺めて信雄が笑った。
「……シャボン玉はすぐこわれちゃうけど、その瞬間までキラキラ綺麗。せっかく生きたくなったから、最後の最後までぼくも輝けたらなって思ったのに。思った……のに――――」
闇に染められた桜花の心身は、もはや人としてのあり方を失いつつある。
(ぼく、もっと高く飛びたかったな…………)
その想いは、シャボン玉のように儚く風に流され、声になることはなかった。
「……ったく、んなときまでシャボン玉なんてちゃちなこと言いやがって。おい、勝手に完結してんじゃねーよ」
なおも信雄は、暗黒の霧中を夢中でかき分けてゆく。幾度も跳ね返されようが、彼が怯むことはなかった。
「星には手が届かないっつーが、んなの誰が決めた? 上を見続けてきた人間はやがて空も制した。俺たちの手はつかめんだよ、星だって。手を伸ばすかどうかだろ? 絶望には終わりがある――けど希望は天井知らずだ。そこに意思がある限り、どんなに時間がかかったって、どんなに苦労したって、いつか人はたどり着く。今までも これからもな! どこまでだって行けるさ、俺たち人間は」
重いながらも、しっかりとした信雄の足どり。一歩ずつではあるが、彼は桜花へと近づきつつあった。
「……あきれた……」
浮き沈みするように不安定な意識の中で反響している大声に、彼女は消え入りそうに呟く。
「こんなときにお説教なんて……最後に見るきみがきみらしくて安心したよ。ぼくも初めて会った日と変わらず、弱いままお別れ――」
「ああ、そうだ。おまえは弱い。弱い上に、負けず嫌いとは救えねえ。しかも向こう見ずだからこういうことになったんだろが。がさつだし、他にも挙げたらキリがねーぞ。だからあとで俺がいくらでも罵倒してやるから、ここで終わるんじゃねえ。おまえは向こう見ずだけど行動力にあふれ、がさつなようでいて人を思いやれる。そのくせ、自分のことはおざなりだ。だから、この俺がおまえのいいとこ教えてやるから……戻ってこい。俺がなんとかしてやっから、すべて終わったらあらためて説教してやっから、だから――戻ってきやがれ!」
目覚めた彼の視界に広がっていたのは、見たことのない天井だった。
「お目覚めかい? あ、左目は開けないほうがいい。まあ開けたところで適合しかけている段階だろうから、今は見えにくいと思うけどね」
「……病院じゃねーな。これはなんのつもりだ?」
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