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† 九の罪――殺し屋殺し(陸)
しおりを挟む「終わった、の……?」
みつきの遺したデスペルタルを握り締めたまま、彼女のいた地面にじっと見入っている少年に、桜花が声をかける。
「あいつ、今までずっと人形みたいだったけど、最後は悔しがりながら逝ったよ……けど、負けたことを悔しがるだけ。死ぬ間際になるまで、そんなことも思えないぐらい心を壊しやがった組織を恨みもせず、静かに消えてった。俺らより若い女の子がそんな組織のために殉職したんだ。死ぬまで尽くしてきた組織様は、あいつのこともデータの処理ぐらいで忘れるだろう。だったら、あいつは何のために生まれてきたんだ…………」
うなだれる信雄の声もまた、沈んでいた。
「こんなにボロボロになって、それでも人のことばかり……妖屠になってこわれたのは、あの子だけじゃなくて――」
「っはー! たまげたたまげた。使いこなすにはほど遠いが、カルタグラを目にしてなお、おくさぬとはな。さすがはご主人さまの見こんだ狂人! まさに、こやつこそバカと天才は紙一重の紙じゃのう」
桜花の嘆きを遮るように、腕組みしてベルゼブブがうなる。
「紙でいい。薄っぺらでも、光の差すだけの隙間をこじ開けてやる――――北畠みつき、悪いがあんたのために泣いてる暇なんてねーんだ。殺した俺自身の罪がその程度で減るなんて思えるほど、おめでたい頭でもないんでね。何より、涙は生きてる人間のために流すもんだろ。俺を殺して生きるつもりだったあんたの代わりに生きるんだ。俺がその悔しさ、背負って勝ち続ける。連中があんたのこと忘れても、あんたの無念、俺はずっと覚えとく。忘れねーよ、北畠みつき」
自らに言い聞かせるようにして、デスペルタルをしまうと、信雄は立ち上がった。
「いくぞ。あいつみたいな子を増やさないためにも、俺たちは立ち止まるわけにはいかねーよ」
桜花は微笑んで小さく頷き、後に続く。
が、
「まったく、ほんっと無茶するんだか……ら――」
そのまま、前のめりに倒れ伏した。
「お、おい……!」
「待て! これは――――」
信雄が駆け寄るも、彼女から放射された、どす黒い渦にはね飛ばされる。言葉にならない悲鳴と共に、頭を覆って身をよじらせる桜花。掻きむしる胸には、毒々しい刻印が浮き上がっている。
叫喚響き渡る寒空の下、降り出した冷たい雨が、彼らの業を責めるかの如く、激しさを増していった。
「くく、くっくっくっ……ふはははははは!」
捕縛されたベリアルは、高らかに哄笑する。
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