討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)

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† 八の罪――剣戟の果てに(肆)

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「まとまって早速だが、お出迎えのようだぜ」
 布団から出て、伸びをひとつ。
「さ、ここは逃げて体勢を整えんぞ」
 ドアノブに手をかけようとした刹那、板越しに伝わってきた圧力に、本能的な悪寒が込み上げて後退りする。
「やあ。チーム多聞丸のみんな。お急ぎみたいだけど、おじさんを仲間はずれにどこへゆくんだい?」
 向こう側からドアが開くと、よく見知った、それでいて口調に反し、今までになく重々しい顔の大男が立っていた。
「君たちの動きに気づかないとでも思ったのかな?」
「く……ッ!」
 多聞さんが口を開くと同時に、俺たち二人は身構える。
「ほっ!」
 間を置かず、彼も跳び下がった矢先。
「……え?」
 突如として、耳朶を打つエンジン音。
「乗りな。急ぐんでしょ」
 恐る恐る表へと歩み出た俺たちを、高機動三輪に跨った多聞さんが迎えた。
「……止めないんすか?」
「止めても君は行くと、おじさんは思うけどなー。ほら、餞別もあるよ」
 笑顔で弾薬を見せてくる。
「腐るほどあるから安心しな。腐ってたらごめんねー」
「多聞さんは……どうするんすか?」
「おじさんは田舎に帰って農作業でもしながら両親の面倒見るかな。ここに入ってから長らく顔も見られなかったけど、もうボケてるかもねえ」
 俺たちが乗り込んだことを確認すると、彼は哀愁を帯びた面持ちでハンドルを握った。
「多聞さん…………」
 その後ろ背に、三条が複雑な顔色で見入っている。

 そして――九十九里浜沿いにある公園に差しかかった頃、
「ちゃんと生き延びるんだよー。そしたら飯でも食わせてやるからさ。うまいよ、うちの米は」
 俺たちは降ろされた。戸惑いのうちに三条を一瞥したが、彼女も踏み出せないでいる。
「……信雄――――」
 静かに、だが、しっかり通る声で呼び止められた。多聞さんが半面を向け、優しさの中に強さを秘めた瞳で、こちらを見つめている。
「お前は二度と、アダマースの一員として認めない。これからは組織の人間でなく、ひとりの男として生きろ。生き続けて、生き続けて、その先にあるお前だけの未来を掴め。お前のその手で……!」
 背後に感じるひと気が迫ってきていた。彼の背中が、早く行けと言っている。


              † † † † † † †

「ったく、つくづく呆れさせられる問題児だなあ。まあ言ってわからんバカはしゃーない。最後まで付き合ってやるかー。そんな世界一バカな弟子を育てちゃったからねえ」
 ターンを決め、道を塞ぐように横向きで停車する多聞。
「……さーて、皆さんおそろいのとこ申し訳ないんだけどさ――――」
 路面に降り立つと、押し寄せる数十人の追手に、飄々と呼びかけた。
 しかし、その瞳は氷のように冷たい。
「たった今、ここ通行止めになったんだわ」
 そして、いつになく威圧感に満ちた声色で、彼は告げたのだった。

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