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† 二の罪――我が背負うは、罪に染まりし十字架(陸)
しおりを挟む「……嫌いなんだよ、涙は。泣いたとこで何かが変わるわけでもねーだろ」
それだけ吐き捨てて、足早に去ろうとした俺の肩を、小さな手が掴んでいた。鍛えているだけあって、すごい力だ。いくら何でも強すぎだろ、そう思ったとき、
「待って――――」
ふと飛び込んできた言葉は、意外にもやわらかい響きに包まれていた。
「もっと、話してって……いつもみたいなくだらない話でいいから」
掠れた喉で囁く三条。
「んだよ、俺の話が安定してつまんねーみたいな言い方しやがって。つーか、寂しがるなんて三条らしくねーな。女じゃあるまいし」
「いや女だから」
前言撤回。掠れ声ではなく、いつも以上に低くドスの効いた三条桜花がそこにはいた。
「人間やめても女はやめないもん!」
向き直ると、笑いながら怒鳴る不思議な生き物が約一体。この珍妙な生物は、俺がこんなことになっても、恐れることはなく接してくるということも変わっている。
そんなことを考えているうちに、長いようで短かった運命の一日が終わっていった。
「んー、えー、本日、諸君に集まってもらったおかげで、模擬戦が開催できることになった。まずは感謝をさせていただきたい。ローマ本部と日本支部での開催が多く、他国の妖屠たちには申し訳ない限りじゃ。えー、しかし! これは諸君らのためでもある。んと……日々の努力を活かし、戦友と切磋琢磨! 勝てばランクも上がる。越えてきた死地の数を証明せよ。その……つまり! 諸君の奮闘に期待しておる」
温厚な所長・沢城是清のいつになく気合いの入った挨拶が終わり、第一試合に抜擢された俺は、ロジェストヴェンスキーとかいうウラジオストク支部の妖屠と対峙していた。
このアダマース名物・模擬戦は、火器が得物の妖屠にはペイント弾、近接戦闘派なら各自のデスペルタルに近い形状の擬似武器が支給され、対魔仕様の防護服を着せられて、お偉いさんたちの選んだ相手と戦わされるという、愉快な不定期イベントだ。
でもって、今回の相手は“閃電の兇刃”と名高い、世界十二位。俺どころか、三条より格上だ。早速もう双剣を持って、俺の周りを目にも止まらぬ速度でグルグルしていらっしゃる。
「は、はやい……!」
観戦席からは、驚嘆の声が上がっていた。
「……ああいう相手って、どうすればいいんでしょうかね」
七騎士と多聞さん以外はなんとかなる相手、と豪語していた三条も、途方に暮れているようだ。
「僕なら帰るかなー。うそうそ、飛び道具でペース崩して突きか、目が回るの待つね」
日本で唯一の世界ランク一桁代だけあって、多聞さんにとっては未知の動きではないらしい。かく言う俺も――――
「速いねー。楽しそうで何よりだわ。けどよ、自然界じゃ弱い方が周りを回るんだぜ」
ルシファーの力か、自分でも驚くほど早く、この俊足に慣れてきているようだった。そうと来れば、向こうが錯乱に勤しんでくれているうちに仕留める。
「まさか……自分から仕掛けるのか!?」
姿勢を前傾させた俺に驚きの視線が浴びせられたが、カウンター狙いではおそらく相手の思うつぼだ。こういうタイプはさらなる加速を残しているだろうから、優速にある彼がここまで様子見した上で、迎撃できるような甘い斬り込みを繰り出すとは考えられない。
「これで――どうだぁああああッ!」
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