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4巻
4-2
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「わかってるさ。その鮭、うちで余らせてたやつだろ?」
「余らせてた、ね……」
彦之助が苦笑した。
『売れ残り』ではなく『余らせた』。言葉の選び方に、仕入れを読み間違えた弥一郎の悔しさが込められているように思える。きっと彦之助も、同じように感じたのだろう。
「そう。鮭は人気だが、ここしばらくは鰹のほうがよく売れた。思ったより鰹が安くて、客も手が出しやすかったんだろう。ま、鮭は鰹と違って持ちがいいから、鰹が余るよりはいいさ」
「とはいえ、色が変わっちまったら客には出せねえぞ?」
「そうなったら賄いに使うさ。鮭の握り飯はみんなの好物、いくらあっても足りないぐらいだからな」
「それって、俺たちが鮭の握り飯を食い損ねたって話ですか?」
そこで口を挟んだのは、空いた皿を運んできた清五郎だった。続いてきよの向こう側で黙って芋を煮ていた伊蔵も切ない声を上げる。
「あの鮭、そろそろ賄いに回ってくると踏んでたのに……」
「そりゃあ悪いことをしたな。これはそろそろ売り物になんねえから、使っちまっていいかって親父に訊いたら、いいって言われたから……」
春の鰹ほどではないにしても、鮭だってそこそこ値が張る。なにより売るつもりで仕入れたものを賄いに回しては儲けにならない。彦之助はすまなそうにしているが、清五郎も伊蔵もそれぐらいのことはわかっているはずだ。
その証に、伊蔵が慌てて言う。
「いや、売れるうちに売るってのはまっとうな話です。でも、あの鮭は塩引きでしたよね? 味噌焼きにしたらしょっぱくて食えねえんじゃ……」
「おい、伊蔵。情けねえことを言うなよ」
そこで弥一郎が呆れた声を出した。さらに、ため息をついて続ける。
「塩ぐらい抜いたに決まってるだろう。水につけて塩抜きして、甘味噌を塗って焼く。あの鮭は色が変わり始めてたが、それだってよくよく見ればわかるって程度。味噌を塗って焼けば客には気付かれねえ。おまえも料理人の端くれなんだから、それぐらいは考えろよ」
「そんな客を騙すようなことしていいんですか?」
清五郎が唇をとがらせて言う。ずいぶん客思いの言葉だが、半分は鮭の握り飯への未練だ。さすがに見過ごせない、ときよは口を開いた。
「自分が食べられなかったからって、文句を言うんじゃありません。握り飯なら、あらに付いている身だけで十分だし、新しい塩引きを仕入れたときはそうやって握り飯にしてもらってるじゃない」
「そりゃそうだけど、鮭の握り飯は何度出てきてもいいし……」
「おだまり! ほら、お客さんよ。いつまでも卑しいこと言ってないで、さっさとご案内しなさい」
「へーい……」
また恐い姉ちゃんが……とぶつくさ言いながら清五郎は戻っていく。
見送ったきよは、彦之助にぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい。弟がくだらないことを言って」
「いやいや、気持ちはわかるよ。清五郎は塩引きが好物なんだろ?」
「はい。毎日だっていい、って言うぐらい好きです」
「なら余計だな。俺は鮭より鰹が好きだが、脂がたっぷりのった鮭を飯にのっけて掻き込むのは堪えられねえ。それこそ、毎日でも食いてえ。そんな客ばかりだと楽なんだがなあ……」
そこに至ってここに来た目的を思い出したのか、彦之助は弥一郎に向き直った。
「で、兄貴……」
「明日は鯛だな……」
「鯛は煮付け? それとも焼き物かい?」
「いや、小川造りだ。今日は鰹の小川叩きを作ったから、明日は鯛の小川造り。いい海老が入りそうなら、杉板焼きも作る」
「杉板焼きっていうと、杉板で挟んで焼くやつか。それは珍しい……。あ、小川叩きに杉板を使ったからだな。材料ばかりか、道具も回して使うってことか」
「そのとおり。小川造りも杉板焼きも、ここしばらく出してなかったからうちの客は喜ぶだろうし、杉板焼きなら弁当にも使える。なんなら弁当に入れる分は鯛も杉板焼きにしちまえばいい。料理上手の女房殿もご満悦だろうさ」
「助かるよ」
「なんの。その代わり、裏の倉庫から杉板をありったけ持ってきて洗っておいてくれ」
「了解。主菜が決まったらあとはなんとかなる。ありがとよ、兄さん」
「いいってことよ。だが、献立はともかく実際に作るのは手間だ。今は何日かおきだし、数だって知れてるが、一度に作る量が増えたら手が回らなくなる。俺だって知恵は貸せても手は貸せねえ。くれぐれも、近所の分とか安請け合いするんじゃねえぞ」
「うん……」
弥一郎に釘を刺されたのを最後に、彦之助は裏の家に戻っていった。心なしか肩を落としているように見える。弁当の注文が増えるのは励みになるに違いないが、喜んでばかりもいられない。そのことに、自分でも気がついているのだろう。
「小川叩きのおかげで伊蔵も彦之助も大助かりだ。よく気付いてくれたな、おきよ。俺は、鰹は藁で炙るか、せいぜい蒸すぐらいしか思いつかなかったよ」
弥一郎が大きな鯛を捌きながら言う。
「蒸した鰹は煮付けると美味しいですよね。ほぐして生姜醤油で食べるのもいいし、和え物にも使えますし……」
「弁当にも入れられる。三人寄れば文殊の知恵、とはこのことだ。おきよ、弁当向きの料理があったらあいつに教えてやってくれ」
「考えてみます」
「賄いに回ってくるものが、あんまり減らねえ料理にしてくれよ……」
伊蔵がこっそり囁いてきた。塩引き鮭にありつけなかったのが、相当悔しかったのだろう。気持ちはわかるが、『千川』の奉公人はよその店よりずっと立派な賄いを食べさせてもらっている。それは源太郎や弥一郎がしっかり算盤をはじいているおかげだ。
売れるものを賄いに回すようでは、賄いの質が落ちるどころか店ごと傾いてしまう。贅沢を言わず、日々仕事に励むべきだろう。
続けざまに『彦之助弁当』の注文があってから十日後、神崎が『千川』に現れた。
神崎は上田がかわいがっている厩方で、昨年足を怪我してろくに動けなくなった際に、『千川』が食事の世話をした。
最初はきよと彦之助で神崎の家に行って食事を作ったのだが、きよに頻繁に板場を抜けられては困るということで、次第に彦之助の出番が増えていった。食事ばかりではなく身の回りの世話にもせっせと励んだせいか、神崎は彦之助を大いに気に入り、足がすっかり良くなったあとも『千川』に現れては、彦之助の様子を訊ねてくる。ご褒美の弁当にしても、最初はきよに持ち込まれて困っていたところを、彦之助に作らせてはどうかと言ったのが神崎だ。
ただでさえ手一杯だったきよは大助かりだし、彦之助には仕事ができた。『千川』の面々にとって神崎は、上田同様頼りになる客……いや、無理難題を持ちかけない分、神崎のほうが上客かもしれない。
神崎が店に入ってくるなり源太郎が嬉しそうに飛んでいったところを見ると、主もきよと同様に考えているのだろう。
「いらっしゃいませ、神崎様。ちょいとご無沙汰でしたね」
「そうか?」
「前にいらしたのは、花見のころでした。上野の桜を見てきた帰りだとおっしゃってたじゃないですか」
「然り……となると、かれこれ一月。いやはや時が経つのは速いのう」
神崎は苦笑しながら入ってくると、板場の奥のほうに目をやり訊ねる。
「今日は彦之助はいるのか?」
「日暮れまではおりましたが、今は家のほうに」
「そうか」
「あいつに御用ですか? それなら呼んで参りますが」
「いや。いないほうが好都合」
「と申しますと?」
「少々気になる噂を聞いてな」
「噂?」
怪訝な顔になりながらも、源太郎は神崎を席に案内する。板場に近い席を選んだところを見ると、彦之助についての話なら弥一郎にも聞かせるべきだと考えたのだろう。
とりあえず酒を、と頼まれ、源太郎自ら銚釐から徳利に酒を移す。銚釐でしっかり温めた酒を徳利に移して少し冷めたぐらいが神崎の好みだった。
「お待たせしました。お菜は……」
「魚と青物を一品ずつ。なにがある?」
「今日は上等の鰺の干物がございます。青物は小松菜の煮浸しでいかがでしょう?」
「干物は酒にも飯にもよく合う。出汁を吸った小松菜はさぞや旨かろう。それで頼む」
「かしこまりました。弥一郎、鰺の干物と小松菜の煮浸しだ!」
「合点。おきよ、小松菜を頼む」
「はーい」
返事をするなり下茹でしておいた小松菜をとりわけ、出汁をはった小鍋に入れる。弥一郎はすでに鰺の干物を焼き網にのせている。干物は生の魚と違って火の通りが早いから、小松菜を煮ているうちに焼き上がるだろう。
小松菜を箸で出汁に沈めつつ、耳をそばだてる。
わざわざ彦之助の不在を確かめて持ち出すからには、神崎が聞いたのはあまりいい噂ではなかったに違いない。どんな噂だったのか、気になってならなかった。
「それで、神崎様。噂というのは……」
「近頃、褒美の弁当のありがたみが薄れているらしい」
「ありがたみ……それは、何度ももらって飽きてきたって話ですか? 手柄を立てるのがいつも同じお方だとか……」
部下といっても、やはり優劣はあるだろう。先だっての料理自慢の妻を持つ男のように、わざと手柄を人に譲るというのでなければ、同じ男ばかり褒美にありつくことになりかねない。彦之助はそれを踏まえた上で同じ料理の繰り返しにならないようにしているが、季節が同じなら使える食材も似たり寄ったりだし、工夫にも限りがあるのだろう。
ところが神崎は、源太郎の言葉に首を横に振った。
「そういう意味ではない。弁当なんぞ年がら年中食いたいと考える向きもいる。かく言う俺もそうだ。何度食っても旨いものは旨いんだからな。だが、いくら手を替え品を替えしても、料理そのものが旨くなければ話にならない」
「彦之助の弁当が旨くない……ってことですか……」
源太郎の顔から血の気が失せている。さすがに自分の店が出している、しかも息子が作る弁当が旨くないと言われたら、平静ではいられないのだろう。
「旨くない。とはいっても、前に比べれば、という話らしい」
「やっぱりそれは、舌が慣れたってことでは? 初めて食べたときはものすごく旨いと思っても、何度も食べるうちに当たり前になっていく。ありがたみがないとはそういうことなのではないでしょうか」
「主がそう思いたくなる気持ちはわかる。だが、実際に俺は聞いたんだ。近頃、褒美の弁当が『やっつけ』みたいになってる。前は盛り付けも絵みたいにきれいだったのに、今じゃ和え物の菜が魚にのっかってたり、焼き魚そのものが裏返しになってたり。芋の煮っ転がしは出汁が薄いし、煮足りなくてがりがりだそうだ」
「そんな馬鹿な……あの弁当の料理はうちの板場で味見をして、これならってことで入れてるものばかりです。煮っ転がしの出汁が薄いとか煮足りないとか考えられやせん。盛り付けにしても、彦之助はいつも丁寧にやってます。親が言うのもなんですが、あいつには絵心があってそりゃあ見事な出来です」
「そうか……だが、実際に俺は聞いたんだ。しかもひとりだけじゃなく、二人も三人も同じことを言っていた」
「いつの話ですか?」
「俺が聞いたのは昨日。『昨日食った』と口を揃えておったから、一昨日の弁当だろう」
「それより前は?」
「気がつかなかったな。だが、俺だってしょっちゅう与力様のところに行くわけじゃない。たまたま与力様のお馬の様子を見に行ったときに部下たちが話しているのを聞いただけだから、それ以前がどうだったかまではわからん」
「そうですか……」
とにかく一昨日の『彦之助弁当』が不出来だったことに間違いはないらしい。ふと隣を見ると、弥一郎がいつも以上に厳しい顔つきになっている。きよの眼差しに気付いたのか、弥一郎が訊ねてきた。
「一昨日の弁当、どのくらいの注文があったか知っているか?」
「詳しい数はわかりません。でも、洗い場に弁当の折がたくさん出てたのは見ました。たぶん洗い場の戸棚にしまってあった分を出してきたんでしょう」
「いつも使ってる分じゃ足りなかったってことか。それにしちゃ、作ってた料理の量が少なかったようだが……」
「あとで作り足したのかもしれません。いつもどおりに煮てもしっかり冷ます間もなく詰めてしまったのでは?」
煮物はすべからく、煮上げたあといったん冷ます。そうしなければ中までしっかり味が染みない。時が足りないあまり、彦之助はそれを省いてしまったとしか思えなかった。
「運ぶときだって駆け足になっていたかも……。いくらきれいに詰めてあっても、揺すぶりまくったら台無しになりますよね」
「ありうる。だが、なんだってそんなことに……」
がっくり頭を垂れる弥一郎と源太郎……親子のため息が店の隅々まで広がっていった。
「一日だけの話で済むならいいが、明日以降も続くようなら問題だ。ただでさえ、与力様はこの弁当をきよに作らせたがっていたのだ。評判が落ちるようなら、やっぱりきよに……と言い出しかねない。これまでも気を配ってはいたに違いないが、しばらくは今まで以上に彦之助の振る舞いに気をつけてやってくれ」
神崎がこんなに渋い顔をしているのは初めて見た。しかも『千川』の中のことにまで口を出すなんて……。だがそれも、彦之助を心配するあまりのことだろう。さらに神崎は続ける。
「せっかく弁当作りという仕事を得たのだ。与力様やご同僚の注文を足がけに、もっともっと商いを広げてもらいたい。だがいたずらに数を増やして質を損なっては元も子もない。誰もが褒美にもらいたくなる弁当でなければ……」
「ごもっともです。わざわざお知らせくださってありがとうございます」
「いやなに……彦之助にはずいぶん世話になった。なんとか身が立つようにしてやりたいだけのことよ」
そこで神崎はようやく頬を緩め、はにかんだような笑みを浮かべた。
怪我をして動けなかったときに世話になったといっても、神崎は足が治ってすぐに心付けを持ってきた。源太郎がほくほく顔だったから、かなりはずんでくれたに違いない。
にもかかわらず『身が立つように』と心配し続けるなんて、神崎はよほど彦之助が気に入っているのだろう。もしかしたら身分を超えた友情が芽生えているのかもしれない。隣人や奉公仲間はいても、友だちというものを持ったことがないきよには羨ましすぎる話だった。
酒を一本、鰺の干物と小松菜の煮浸し、そのあと焼きむすびをふたつ平らげ、神崎は帰っていった。最後に、くれぐれも頼むぞ、と言われた源太郎は目を白黒させていた。おそらくこれではどちらが親かわからない、とでも思ったのだろう。
その後、弥一郎は客が一段落するのを待って、裏の洗い場に向かった。気になってきよも行ってみると、洗い場にある戸棚の中を確かめている。
「一昨日は弁当を九つ拵えたってことだな」
「わかるんですか?」
「わかるさ。この戸棚には幕の内用の弁当箱が十六入っていた。今残っているのが七つなら、持ち出してるのは九つってことになる」
戸棚の中の弁当箱は、彦之助が弁当作りを引き受けた際に、上田が届けてきたものだ。
『千川』は縁日などで客が特に多い日は、賄いを重箱に詰めて奉公人が仕事の合間につまめるようにしていた。それすら重箱をばらばらにして使っているぐらいだから、まともな弁当箱があるはずがない。『千川』はもともと仕出しをしない店だから当然のことだが、褒美の弁当なら器だってそれ相応でなければならない、と考えた上田がまとめて買い上げて届けてくれた。
届いた弁当箱は十六。さすがに多すぎるのではないか、と彦之助は戸惑っていたそうだが、評判が良ければ同僚たちも褒美に使いたがるかもしれないし、連日注文が入る可能性もある。褒美を家に持ち帰って食べる部下もいるだろうし、弁当箱をその日のうちに引き取りに行けるとは限らない。弁当箱は多めにあったほうがいい、というのが上田の言。
置き場所がないわけではないから、と受け取りはしたが、これまでの注文はおおむね日に二つ、多くても四つだった。一度に九つなんて日はなかったのである。
「九つ……それじゃあ追加で料理を作るのも当たり前ですね」
「ああ。だが、与力様やご同僚からそんなにたくさん注文があったとは思えねえ。それじゃあ『ご褒美』の価値が下がっちまう」
「確かに……じゃあいったい誰が……」
「さてはあの野郎、よその注文を受けやがったな。あれほど安請け合いはするなと言ったのに!」
「板長さん、まだそうと決まったわけじゃありません。もしかしたら、なにかの都合で与力様やご同僚からの注文が重なってしまったのかも……」
彦之助が献立に迷って相談に来たとき、弥一郎はしっかり釘を刺していた。さほど日が経たないうちにそうそう迂闊なことをするとは思えない。きっとわけがあるはず、と庇うきよに、弥一郎は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「仮に全部与力様がらみの注文だったとしたら、あらかじめ数はわかってるはずだ。あいつだって昨日今日料理の道に入ったわけじゃない。九つの弁当に詰めるのに必要な料理の量がわからないなんてことはないだろう。おきよが言うとおり、あとから慌てて作り足したってことは、前もって仕込んでおいた分では足りなかった、思いがけねえ注文が増えたってことじゃねえのか?」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
だが、なぜ彦之助はそんなことをしたのだろう。ご褒美の弁当ですら、届ける前日の朝、できれば前々日の昼までには知らせてくれと頼んである。その日になってから注文を受けるなんて、あり得ない話だった。
「しかも、よその注文を受けたのなら、与力様が揃えてくださった弁当箱を勝手に使ったことになる。使って減るもんじゃねえが、与力様にしてみれば気持ちのいいもんじゃねえだろ」
「そこまで心の狭いお方ではないと……」
「どうだか。あの御仁は気に入った者には親切にするが、そうじゃない者には案外冷てえ気がする。いずれにせよ、急な注文を受けたことは間違いねえ。まさかそっちにも杜撰な弁当を届けたわけじゃあるまいな……」
いても立ってもいられない様子で、弥一郎は勝手口から出ていく。
新たな客が入ってくる様子もないから、このまま裏の家に行って彦之助を問い詰めるつもりだろう。さすがに家にまで付いていくわけにもいかず、きよは板場に戻った。
へっついの前に座るなり、伊蔵が声をかけてくる。
「板長さんは?」
「裏の家に行ったみたいです」
「なにしに……あ、彦さんか」
「はい。一昨日は九つお弁当を作ったとわかって、与力様以外からの注文を受けたに違いないって」
「げ……彦さん、叱られるのかな?」
「叱るっていうか……まずは成り行きを確かめに行ったんでしょう。彦之助さんにもきっとわけがあるだろうし」
「だといいな……」
伊蔵は不安そうに戸口のほうを窺う。もちろん、そこから裏の家は見えないのだが、声だけでも聞こえないかと思っているのかもしれない。だが、ここまで声が届くようなら、彦之助は怒鳴りつけられていることになる。きよとしては、頼むから声なんて聞こえてこないで、あるいは、弥一郎を呼び戻さねばならないほど一気に客が来てくれ、と祈るばかりだった。
ところが宵五つ(午後八時)が近いせいか、新たな客はいっこうに現れない。おまけに雨が降り始め、それまでいた客たちも大慌てで帰っていった。これでは弥一郎を呼び戻す理由が立たない。どうしたものか……と思っていると、肩を怒らせて弥一郎が戻ってきた。
開けっ放しになっていた戸をぴしゃりと閉め、腰にぶら下げていた手ぬぐいを土間に叩きつける。なぜ手ぬぐいを……と思ったが、ほかに叩きつけても無事に済みそうなものがなかったようだ。まだ冷静さが残っている証、ときよはほっとした。
しばらく土間を見つめていたあと、手ぬぐいを拾い上げた弥一郎がへっついの前に戻ってきた。怒りはなおも収まらないらしく、消えかけていた炭を掻き立てる仕草が荒々しい。火の世話を終えたあと、こちらに目も向けずに訊ねる。
「俺がいない間に、なにかまずいことはなかったか?」
「いえ……雨のせいか客足は止まったままですし、あんまり暇だから明日の仕込みでも始めようかと思ってたぐらいです」
「そうか。店としちゃ喜ばしいことじゃねえが、あの馬鹿野郎みたいに安請け合いしててんてこ舞いになるよりはいい」
「あの馬鹿野郎って……彦之助さんのことですか?」
「ほかに誰がいる? いや、あいつは馬鹿野郎じゃねえ、大馬鹿野郎だ!」
安請け合いというからには、やはりよそからの注文を受けて手が足りなくなってしまったに違いない。どういう経緯だったのだろう、と思っていると、弥一郎の説明が始まった。
「連れに頼まれたんだとさ」
「連れ? 彦之助さんにお弁当を頼んでくるようなお連れがいたのですか?」
「あいつにだって連れぐらいいるさ。がきのころ寺子屋で一緒になって、修業に出るまではしょっちゅう会ってたそうだ。一昨日、その連れとばったり出くわした。おまえ上方から戻ってきてたのか、なんて話が弾んで近況をペラペラしゃべっちまったらしい」
弥一郎は不機嫌そうに語ったが、今の彦之助は悪さをしてるわけではない。久しぶりに会った友だちと近況を語り合うぐらい当然ではないか。
けれど、弥一郎が怒っているのはそのことではなかった。どうやら彦之助は『千川』の弁当を引き受けていることを話した挙げ句、友だちに弁当を注文されたらしい。
予定になかった弁当だから、仕込みが足りるわけがない。おまけに友だちの弁当は、上田に届けるよりも早い時刻に届けなければならなかった。上田から注文された弁当に入れるつもりだった料理を友だちの分に回した結果、ご褒美用の弁当が不出来なものになってしまったという。これでは、弥一郎が怒るのも無理はなかった。
「どうしてそんな注文を受けたんでしょう……断ればよかったのに」
「知るか! どうせいい格好したかったんだろ。あいつ、がきのころから鼻っ柱が強くて、友だち連中にも親分気取りだったからな」
どんな理由があったにしても、もともと注文されていた分の料理を横流しするなんてありえない。自分の力量をわきまえもせず、力量を超えた注文を受けた時点で大間違いだ。そもそも弁当を上田とその同僚以外に届けることなど許していない、と弥一郎は憤る。
だが、彦之助はそれをちゃんと心得ていたのだろうか。京から戻ったばかりのころよりずっと打ち解けたとはいえ、兄弟がそこまで深く語り合っているとは思えなかった。
「その話、彦之助さんにちゃんと伝えたんですか?」
「わざわざ伝えるまでもない。当たり前の話だろうが」
「そうとは限りませんよ。神崎様に言われるまでもなく、彦之助さんだって、三日や四日に一度の注文じゃ埒があかない、もっと商いを広げたいって思ってるはずです。お弁当作りにも慣れてきたことだし、ここらでよそからの注文も……って思ったとしても不思議はないでしょう」
「だからあいつは考えなしだって言うんだ! あれはご褒美弁当だ。褒美ってのは珍しければ珍しいほど価値が上がる。弁当の出来云々は言うまでもないことだが、金さえ出せば買えるってんじゃ褒美の意味をなさなくなっちまう」
「確かに……」
これにはきよも頷くしかなかった。だが、彦之助は頭の悪い男ではない。それぐらいのことはわかっていそうなものなのに、どうしてそんな注文を受けてしまったのか、という疑問は膨らむ一方だ。
弥一郎は「あいつが馬鹿だからだ」と繰り返すが、納得がいかない。ここはひとつ本人に訊いてみよう。彦之助にしても、喧嘩腰の弥一郎よりはきよのほうが話しやすいに違いない。
とりあえず弥一郎との話はそこでおしまいにして、きよは大鍋に水を汲みに行く。今朝取った出汁の鍋はもう底が見えている。今のうちに昆布を水に浸しておけば、明日の朝慌てずに済む。大鍋を抱えて奥に引っ込むきよを、弥一郎は黙って見送った。
「あんたは先に帰っててくれる?」
その日、勤めを終えたきよは前掛けを外しながら清五郎に声をかけた。
ところが清五郎は首を縦に振らない。神崎の話も裏の家から戻ってきた弥一郎の話も聞いていたのだから、きよが彦之助と話すつもりだということぐらい察しているはずだ。
ふたりがかりでする話ではない。姉弟で行けば、彦之助は身構えるだけだろうに……と困惑するきよに、清五郎が言う。
「俺は勝手口あたりで待ってる」
「え、でも……」
「ひとりで帰ったって飯にありつけるわけじゃねえし」
「なんだ、ご飯の心配? それなら先に食べちゃっていいわよ」
朝炊いたご飯も味噌汁も残っている。水屋箪笥に佃煮も糠漬けもある、ときよが言ってもやはり清五郎は動こうとしなかった。
「本当は飯なんてどうでもいいんだ。ただ、こんな遅くに姉ちゃんをひとりで歩かせたくねえ。雨も本降りになっちまったし……」
ただでさえ暗い夜に、雨まで降っている。辻斬りでも出たらどうする、と清五郎は心配そうに言う。だが、弟の目をじっと見ているうちに、きよは弟が姉だけを心配しているわけではないと気付いた。
「あんたも彦之助さんのことが気にかかってるのね」
「まあ、そんな感じ。あの人がしくじると自分のことみたいに辛い。きっとなにかわけがあるに違いないって信じたくなる。でも、俺じゃあ話してくれそうにないし、姉ちゃんだけのほうがいいってのもわかってるけど、やっぱり……」
「そっか。じゃあ待ってて――って言ってもまずは彦之助さんを呼び出さないと……」
そう言いながら勝手口を出たきよは、思わず声を上げそうになった。戸口が開いたのに気づいたのか、のっそり近づいてくる影があったからだ。
宵五つ(午後八時)の鐘はとっくに鳴った。こんな遅くにいったい誰が……と思って目を凝らすと、それは今まさに話をしようと思っていた男だった。
「彦之助さん……」
「勤めは終わったか?」
「ええ。ちょうど今、彦之助さんを呼びに行こうと思ってたところです」
「そうだったか……悪いな、たぶん弁当の話だろ?」
「はい。もしかしたら板長さんに言えないわけがあったんじゃないかと……」
「余らせてた、ね……」
彦之助が苦笑した。
『売れ残り』ではなく『余らせた』。言葉の選び方に、仕入れを読み間違えた弥一郎の悔しさが込められているように思える。きっと彦之助も、同じように感じたのだろう。
「そう。鮭は人気だが、ここしばらくは鰹のほうがよく売れた。思ったより鰹が安くて、客も手が出しやすかったんだろう。ま、鮭は鰹と違って持ちがいいから、鰹が余るよりはいいさ」
「とはいえ、色が変わっちまったら客には出せねえぞ?」
「そうなったら賄いに使うさ。鮭の握り飯はみんなの好物、いくらあっても足りないぐらいだからな」
「それって、俺たちが鮭の握り飯を食い損ねたって話ですか?」
そこで口を挟んだのは、空いた皿を運んできた清五郎だった。続いてきよの向こう側で黙って芋を煮ていた伊蔵も切ない声を上げる。
「あの鮭、そろそろ賄いに回ってくると踏んでたのに……」
「そりゃあ悪いことをしたな。これはそろそろ売り物になんねえから、使っちまっていいかって親父に訊いたら、いいって言われたから……」
春の鰹ほどではないにしても、鮭だってそこそこ値が張る。なにより売るつもりで仕入れたものを賄いに回しては儲けにならない。彦之助はすまなそうにしているが、清五郎も伊蔵もそれぐらいのことはわかっているはずだ。
その証に、伊蔵が慌てて言う。
「いや、売れるうちに売るってのはまっとうな話です。でも、あの鮭は塩引きでしたよね? 味噌焼きにしたらしょっぱくて食えねえんじゃ……」
「おい、伊蔵。情けねえことを言うなよ」
そこで弥一郎が呆れた声を出した。さらに、ため息をついて続ける。
「塩ぐらい抜いたに決まってるだろう。水につけて塩抜きして、甘味噌を塗って焼く。あの鮭は色が変わり始めてたが、それだってよくよく見ればわかるって程度。味噌を塗って焼けば客には気付かれねえ。おまえも料理人の端くれなんだから、それぐらいは考えろよ」
「そんな客を騙すようなことしていいんですか?」
清五郎が唇をとがらせて言う。ずいぶん客思いの言葉だが、半分は鮭の握り飯への未練だ。さすがに見過ごせない、ときよは口を開いた。
「自分が食べられなかったからって、文句を言うんじゃありません。握り飯なら、あらに付いている身だけで十分だし、新しい塩引きを仕入れたときはそうやって握り飯にしてもらってるじゃない」
「そりゃそうだけど、鮭の握り飯は何度出てきてもいいし……」
「おだまり! ほら、お客さんよ。いつまでも卑しいこと言ってないで、さっさとご案内しなさい」
「へーい……」
また恐い姉ちゃんが……とぶつくさ言いながら清五郎は戻っていく。
見送ったきよは、彦之助にぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい。弟がくだらないことを言って」
「いやいや、気持ちはわかるよ。清五郎は塩引きが好物なんだろ?」
「はい。毎日だっていい、って言うぐらい好きです」
「なら余計だな。俺は鮭より鰹が好きだが、脂がたっぷりのった鮭を飯にのっけて掻き込むのは堪えられねえ。それこそ、毎日でも食いてえ。そんな客ばかりだと楽なんだがなあ……」
そこに至ってここに来た目的を思い出したのか、彦之助は弥一郎に向き直った。
「で、兄貴……」
「明日は鯛だな……」
「鯛は煮付け? それとも焼き物かい?」
「いや、小川造りだ。今日は鰹の小川叩きを作ったから、明日は鯛の小川造り。いい海老が入りそうなら、杉板焼きも作る」
「杉板焼きっていうと、杉板で挟んで焼くやつか。それは珍しい……。あ、小川叩きに杉板を使ったからだな。材料ばかりか、道具も回して使うってことか」
「そのとおり。小川造りも杉板焼きも、ここしばらく出してなかったからうちの客は喜ぶだろうし、杉板焼きなら弁当にも使える。なんなら弁当に入れる分は鯛も杉板焼きにしちまえばいい。料理上手の女房殿もご満悦だろうさ」
「助かるよ」
「なんの。その代わり、裏の倉庫から杉板をありったけ持ってきて洗っておいてくれ」
「了解。主菜が決まったらあとはなんとかなる。ありがとよ、兄さん」
「いいってことよ。だが、献立はともかく実際に作るのは手間だ。今は何日かおきだし、数だって知れてるが、一度に作る量が増えたら手が回らなくなる。俺だって知恵は貸せても手は貸せねえ。くれぐれも、近所の分とか安請け合いするんじゃねえぞ」
「うん……」
弥一郎に釘を刺されたのを最後に、彦之助は裏の家に戻っていった。心なしか肩を落としているように見える。弁当の注文が増えるのは励みになるに違いないが、喜んでばかりもいられない。そのことに、自分でも気がついているのだろう。
「小川叩きのおかげで伊蔵も彦之助も大助かりだ。よく気付いてくれたな、おきよ。俺は、鰹は藁で炙るか、せいぜい蒸すぐらいしか思いつかなかったよ」
弥一郎が大きな鯛を捌きながら言う。
「蒸した鰹は煮付けると美味しいですよね。ほぐして生姜醤油で食べるのもいいし、和え物にも使えますし……」
「弁当にも入れられる。三人寄れば文殊の知恵、とはこのことだ。おきよ、弁当向きの料理があったらあいつに教えてやってくれ」
「考えてみます」
「賄いに回ってくるものが、あんまり減らねえ料理にしてくれよ……」
伊蔵がこっそり囁いてきた。塩引き鮭にありつけなかったのが、相当悔しかったのだろう。気持ちはわかるが、『千川』の奉公人はよその店よりずっと立派な賄いを食べさせてもらっている。それは源太郎や弥一郎がしっかり算盤をはじいているおかげだ。
売れるものを賄いに回すようでは、賄いの質が落ちるどころか店ごと傾いてしまう。贅沢を言わず、日々仕事に励むべきだろう。
続けざまに『彦之助弁当』の注文があってから十日後、神崎が『千川』に現れた。
神崎は上田がかわいがっている厩方で、昨年足を怪我してろくに動けなくなった際に、『千川』が食事の世話をした。
最初はきよと彦之助で神崎の家に行って食事を作ったのだが、きよに頻繁に板場を抜けられては困るということで、次第に彦之助の出番が増えていった。食事ばかりではなく身の回りの世話にもせっせと励んだせいか、神崎は彦之助を大いに気に入り、足がすっかり良くなったあとも『千川』に現れては、彦之助の様子を訊ねてくる。ご褒美の弁当にしても、最初はきよに持ち込まれて困っていたところを、彦之助に作らせてはどうかと言ったのが神崎だ。
ただでさえ手一杯だったきよは大助かりだし、彦之助には仕事ができた。『千川』の面々にとって神崎は、上田同様頼りになる客……いや、無理難題を持ちかけない分、神崎のほうが上客かもしれない。
神崎が店に入ってくるなり源太郎が嬉しそうに飛んでいったところを見ると、主もきよと同様に考えているのだろう。
「いらっしゃいませ、神崎様。ちょいとご無沙汰でしたね」
「そうか?」
「前にいらしたのは、花見のころでした。上野の桜を見てきた帰りだとおっしゃってたじゃないですか」
「然り……となると、かれこれ一月。いやはや時が経つのは速いのう」
神崎は苦笑しながら入ってくると、板場の奥のほうに目をやり訊ねる。
「今日は彦之助はいるのか?」
「日暮れまではおりましたが、今は家のほうに」
「そうか」
「あいつに御用ですか? それなら呼んで参りますが」
「いや。いないほうが好都合」
「と申しますと?」
「少々気になる噂を聞いてな」
「噂?」
怪訝な顔になりながらも、源太郎は神崎を席に案内する。板場に近い席を選んだところを見ると、彦之助についての話なら弥一郎にも聞かせるべきだと考えたのだろう。
とりあえず酒を、と頼まれ、源太郎自ら銚釐から徳利に酒を移す。銚釐でしっかり温めた酒を徳利に移して少し冷めたぐらいが神崎の好みだった。
「お待たせしました。お菜は……」
「魚と青物を一品ずつ。なにがある?」
「今日は上等の鰺の干物がございます。青物は小松菜の煮浸しでいかがでしょう?」
「干物は酒にも飯にもよく合う。出汁を吸った小松菜はさぞや旨かろう。それで頼む」
「かしこまりました。弥一郎、鰺の干物と小松菜の煮浸しだ!」
「合点。おきよ、小松菜を頼む」
「はーい」
返事をするなり下茹でしておいた小松菜をとりわけ、出汁をはった小鍋に入れる。弥一郎はすでに鰺の干物を焼き網にのせている。干物は生の魚と違って火の通りが早いから、小松菜を煮ているうちに焼き上がるだろう。
小松菜を箸で出汁に沈めつつ、耳をそばだてる。
わざわざ彦之助の不在を確かめて持ち出すからには、神崎が聞いたのはあまりいい噂ではなかったに違いない。どんな噂だったのか、気になってならなかった。
「それで、神崎様。噂というのは……」
「近頃、褒美の弁当のありがたみが薄れているらしい」
「ありがたみ……それは、何度ももらって飽きてきたって話ですか? 手柄を立てるのがいつも同じお方だとか……」
部下といっても、やはり優劣はあるだろう。先だっての料理自慢の妻を持つ男のように、わざと手柄を人に譲るというのでなければ、同じ男ばかり褒美にありつくことになりかねない。彦之助はそれを踏まえた上で同じ料理の繰り返しにならないようにしているが、季節が同じなら使える食材も似たり寄ったりだし、工夫にも限りがあるのだろう。
ところが神崎は、源太郎の言葉に首を横に振った。
「そういう意味ではない。弁当なんぞ年がら年中食いたいと考える向きもいる。かく言う俺もそうだ。何度食っても旨いものは旨いんだからな。だが、いくら手を替え品を替えしても、料理そのものが旨くなければ話にならない」
「彦之助の弁当が旨くない……ってことですか……」
源太郎の顔から血の気が失せている。さすがに自分の店が出している、しかも息子が作る弁当が旨くないと言われたら、平静ではいられないのだろう。
「旨くない。とはいっても、前に比べれば、という話らしい」
「やっぱりそれは、舌が慣れたってことでは? 初めて食べたときはものすごく旨いと思っても、何度も食べるうちに当たり前になっていく。ありがたみがないとはそういうことなのではないでしょうか」
「主がそう思いたくなる気持ちはわかる。だが、実際に俺は聞いたんだ。近頃、褒美の弁当が『やっつけ』みたいになってる。前は盛り付けも絵みたいにきれいだったのに、今じゃ和え物の菜が魚にのっかってたり、焼き魚そのものが裏返しになってたり。芋の煮っ転がしは出汁が薄いし、煮足りなくてがりがりだそうだ」
「そんな馬鹿な……あの弁当の料理はうちの板場で味見をして、これならってことで入れてるものばかりです。煮っ転がしの出汁が薄いとか煮足りないとか考えられやせん。盛り付けにしても、彦之助はいつも丁寧にやってます。親が言うのもなんですが、あいつには絵心があってそりゃあ見事な出来です」
「そうか……だが、実際に俺は聞いたんだ。しかもひとりだけじゃなく、二人も三人も同じことを言っていた」
「いつの話ですか?」
「俺が聞いたのは昨日。『昨日食った』と口を揃えておったから、一昨日の弁当だろう」
「それより前は?」
「気がつかなかったな。だが、俺だってしょっちゅう与力様のところに行くわけじゃない。たまたま与力様のお馬の様子を見に行ったときに部下たちが話しているのを聞いただけだから、それ以前がどうだったかまではわからん」
「そうですか……」
とにかく一昨日の『彦之助弁当』が不出来だったことに間違いはないらしい。ふと隣を見ると、弥一郎がいつも以上に厳しい顔つきになっている。きよの眼差しに気付いたのか、弥一郎が訊ねてきた。
「一昨日の弁当、どのくらいの注文があったか知っているか?」
「詳しい数はわかりません。でも、洗い場に弁当の折がたくさん出てたのは見ました。たぶん洗い場の戸棚にしまってあった分を出してきたんでしょう」
「いつも使ってる分じゃ足りなかったってことか。それにしちゃ、作ってた料理の量が少なかったようだが……」
「あとで作り足したのかもしれません。いつもどおりに煮てもしっかり冷ます間もなく詰めてしまったのでは?」
煮物はすべからく、煮上げたあといったん冷ます。そうしなければ中までしっかり味が染みない。時が足りないあまり、彦之助はそれを省いてしまったとしか思えなかった。
「運ぶときだって駆け足になっていたかも……。いくらきれいに詰めてあっても、揺すぶりまくったら台無しになりますよね」
「ありうる。だが、なんだってそんなことに……」
がっくり頭を垂れる弥一郎と源太郎……親子のため息が店の隅々まで広がっていった。
「一日だけの話で済むならいいが、明日以降も続くようなら問題だ。ただでさえ、与力様はこの弁当をきよに作らせたがっていたのだ。評判が落ちるようなら、やっぱりきよに……と言い出しかねない。これまでも気を配ってはいたに違いないが、しばらくは今まで以上に彦之助の振る舞いに気をつけてやってくれ」
神崎がこんなに渋い顔をしているのは初めて見た。しかも『千川』の中のことにまで口を出すなんて……。だがそれも、彦之助を心配するあまりのことだろう。さらに神崎は続ける。
「せっかく弁当作りという仕事を得たのだ。与力様やご同僚の注文を足がけに、もっともっと商いを広げてもらいたい。だがいたずらに数を増やして質を損なっては元も子もない。誰もが褒美にもらいたくなる弁当でなければ……」
「ごもっともです。わざわざお知らせくださってありがとうございます」
「いやなに……彦之助にはずいぶん世話になった。なんとか身が立つようにしてやりたいだけのことよ」
そこで神崎はようやく頬を緩め、はにかんだような笑みを浮かべた。
怪我をして動けなかったときに世話になったといっても、神崎は足が治ってすぐに心付けを持ってきた。源太郎がほくほく顔だったから、かなりはずんでくれたに違いない。
にもかかわらず『身が立つように』と心配し続けるなんて、神崎はよほど彦之助が気に入っているのだろう。もしかしたら身分を超えた友情が芽生えているのかもしれない。隣人や奉公仲間はいても、友だちというものを持ったことがないきよには羨ましすぎる話だった。
酒を一本、鰺の干物と小松菜の煮浸し、そのあと焼きむすびをふたつ平らげ、神崎は帰っていった。最後に、くれぐれも頼むぞ、と言われた源太郎は目を白黒させていた。おそらくこれではどちらが親かわからない、とでも思ったのだろう。
その後、弥一郎は客が一段落するのを待って、裏の洗い場に向かった。気になってきよも行ってみると、洗い場にある戸棚の中を確かめている。
「一昨日は弁当を九つ拵えたってことだな」
「わかるんですか?」
「わかるさ。この戸棚には幕の内用の弁当箱が十六入っていた。今残っているのが七つなら、持ち出してるのは九つってことになる」
戸棚の中の弁当箱は、彦之助が弁当作りを引き受けた際に、上田が届けてきたものだ。
『千川』は縁日などで客が特に多い日は、賄いを重箱に詰めて奉公人が仕事の合間につまめるようにしていた。それすら重箱をばらばらにして使っているぐらいだから、まともな弁当箱があるはずがない。『千川』はもともと仕出しをしない店だから当然のことだが、褒美の弁当なら器だってそれ相応でなければならない、と考えた上田がまとめて買い上げて届けてくれた。
届いた弁当箱は十六。さすがに多すぎるのではないか、と彦之助は戸惑っていたそうだが、評判が良ければ同僚たちも褒美に使いたがるかもしれないし、連日注文が入る可能性もある。褒美を家に持ち帰って食べる部下もいるだろうし、弁当箱をその日のうちに引き取りに行けるとは限らない。弁当箱は多めにあったほうがいい、というのが上田の言。
置き場所がないわけではないから、と受け取りはしたが、これまでの注文はおおむね日に二つ、多くても四つだった。一度に九つなんて日はなかったのである。
「九つ……それじゃあ追加で料理を作るのも当たり前ですね」
「ああ。だが、与力様やご同僚からそんなにたくさん注文があったとは思えねえ。それじゃあ『ご褒美』の価値が下がっちまう」
「確かに……じゃあいったい誰が……」
「さてはあの野郎、よその注文を受けやがったな。あれほど安請け合いはするなと言ったのに!」
「板長さん、まだそうと決まったわけじゃありません。もしかしたら、なにかの都合で与力様やご同僚からの注文が重なってしまったのかも……」
彦之助が献立に迷って相談に来たとき、弥一郎はしっかり釘を刺していた。さほど日が経たないうちにそうそう迂闊なことをするとは思えない。きっとわけがあるはず、と庇うきよに、弥一郎は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「仮に全部与力様がらみの注文だったとしたら、あらかじめ数はわかってるはずだ。あいつだって昨日今日料理の道に入ったわけじゃない。九つの弁当に詰めるのに必要な料理の量がわからないなんてことはないだろう。おきよが言うとおり、あとから慌てて作り足したってことは、前もって仕込んでおいた分では足りなかった、思いがけねえ注文が増えたってことじゃねえのか?」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
だが、なぜ彦之助はそんなことをしたのだろう。ご褒美の弁当ですら、届ける前日の朝、できれば前々日の昼までには知らせてくれと頼んである。その日になってから注文を受けるなんて、あり得ない話だった。
「しかも、よその注文を受けたのなら、与力様が揃えてくださった弁当箱を勝手に使ったことになる。使って減るもんじゃねえが、与力様にしてみれば気持ちのいいもんじゃねえだろ」
「そこまで心の狭いお方ではないと……」
「どうだか。あの御仁は気に入った者には親切にするが、そうじゃない者には案外冷てえ気がする。いずれにせよ、急な注文を受けたことは間違いねえ。まさかそっちにも杜撰な弁当を届けたわけじゃあるまいな……」
いても立ってもいられない様子で、弥一郎は勝手口から出ていく。
新たな客が入ってくる様子もないから、このまま裏の家に行って彦之助を問い詰めるつもりだろう。さすがに家にまで付いていくわけにもいかず、きよは板場に戻った。
へっついの前に座るなり、伊蔵が声をかけてくる。
「板長さんは?」
「裏の家に行ったみたいです」
「なにしに……あ、彦さんか」
「はい。一昨日は九つお弁当を作ったとわかって、与力様以外からの注文を受けたに違いないって」
「げ……彦さん、叱られるのかな?」
「叱るっていうか……まずは成り行きを確かめに行ったんでしょう。彦之助さんにもきっとわけがあるだろうし」
「だといいな……」
伊蔵は不安そうに戸口のほうを窺う。もちろん、そこから裏の家は見えないのだが、声だけでも聞こえないかと思っているのかもしれない。だが、ここまで声が届くようなら、彦之助は怒鳴りつけられていることになる。きよとしては、頼むから声なんて聞こえてこないで、あるいは、弥一郎を呼び戻さねばならないほど一気に客が来てくれ、と祈るばかりだった。
ところが宵五つ(午後八時)が近いせいか、新たな客はいっこうに現れない。おまけに雨が降り始め、それまでいた客たちも大慌てで帰っていった。これでは弥一郎を呼び戻す理由が立たない。どうしたものか……と思っていると、肩を怒らせて弥一郎が戻ってきた。
開けっ放しになっていた戸をぴしゃりと閉め、腰にぶら下げていた手ぬぐいを土間に叩きつける。なぜ手ぬぐいを……と思ったが、ほかに叩きつけても無事に済みそうなものがなかったようだ。まだ冷静さが残っている証、ときよはほっとした。
しばらく土間を見つめていたあと、手ぬぐいを拾い上げた弥一郎がへっついの前に戻ってきた。怒りはなおも収まらないらしく、消えかけていた炭を掻き立てる仕草が荒々しい。火の世話を終えたあと、こちらに目も向けずに訊ねる。
「俺がいない間に、なにかまずいことはなかったか?」
「いえ……雨のせいか客足は止まったままですし、あんまり暇だから明日の仕込みでも始めようかと思ってたぐらいです」
「そうか。店としちゃ喜ばしいことじゃねえが、あの馬鹿野郎みたいに安請け合いしててんてこ舞いになるよりはいい」
「あの馬鹿野郎って……彦之助さんのことですか?」
「ほかに誰がいる? いや、あいつは馬鹿野郎じゃねえ、大馬鹿野郎だ!」
安請け合いというからには、やはりよそからの注文を受けて手が足りなくなってしまったに違いない。どういう経緯だったのだろう、と思っていると、弥一郎の説明が始まった。
「連れに頼まれたんだとさ」
「連れ? 彦之助さんにお弁当を頼んでくるようなお連れがいたのですか?」
「あいつにだって連れぐらいいるさ。がきのころ寺子屋で一緒になって、修業に出るまではしょっちゅう会ってたそうだ。一昨日、その連れとばったり出くわした。おまえ上方から戻ってきてたのか、なんて話が弾んで近況をペラペラしゃべっちまったらしい」
弥一郎は不機嫌そうに語ったが、今の彦之助は悪さをしてるわけではない。久しぶりに会った友だちと近況を語り合うぐらい当然ではないか。
けれど、弥一郎が怒っているのはそのことではなかった。どうやら彦之助は『千川』の弁当を引き受けていることを話した挙げ句、友だちに弁当を注文されたらしい。
予定になかった弁当だから、仕込みが足りるわけがない。おまけに友だちの弁当は、上田に届けるよりも早い時刻に届けなければならなかった。上田から注文された弁当に入れるつもりだった料理を友だちの分に回した結果、ご褒美用の弁当が不出来なものになってしまったという。これでは、弥一郎が怒るのも無理はなかった。
「どうしてそんな注文を受けたんでしょう……断ればよかったのに」
「知るか! どうせいい格好したかったんだろ。あいつ、がきのころから鼻っ柱が強くて、友だち連中にも親分気取りだったからな」
どんな理由があったにしても、もともと注文されていた分の料理を横流しするなんてありえない。自分の力量をわきまえもせず、力量を超えた注文を受けた時点で大間違いだ。そもそも弁当を上田とその同僚以外に届けることなど許していない、と弥一郎は憤る。
だが、彦之助はそれをちゃんと心得ていたのだろうか。京から戻ったばかりのころよりずっと打ち解けたとはいえ、兄弟がそこまで深く語り合っているとは思えなかった。
「その話、彦之助さんにちゃんと伝えたんですか?」
「わざわざ伝えるまでもない。当たり前の話だろうが」
「そうとは限りませんよ。神崎様に言われるまでもなく、彦之助さんだって、三日や四日に一度の注文じゃ埒があかない、もっと商いを広げたいって思ってるはずです。お弁当作りにも慣れてきたことだし、ここらでよそからの注文も……って思ったとしても不思議はないでしょう」
「だからあいつは考えなしだって言うんだ! あれはご褒美弁当だ。褒美ってのは珍しければ珍しいほど価値が上がる。弁当の出来云々は言うまでもないことだが、金さえ出せば買えるってんじゃ褒美の意味をなさなくなっちまう」
「確かに……」
これにはきよも頷くしかなかった。だが、彦之助は頭の悪い男ではない。それぐらいのことはわかっていそうなものなのに、どうしてそんな注文を受けてしまったのか、という疑問は膨らむ一方だ。
弥一郎は「あいつが馬鹿だからだ」と繰り返すが、納得がいかない。ここはひとつ本人に訊いてみよう。彦之助にしても、喧嘩腰の弥一郎よりはきよのほうが話しやすいに違いない。
とりあえず弥一郎との話はそこでおしまいにして、きよは大鍋に水を汲みに行く。今朝取った出汁の鍋はもう底が見えている。今のうちに昆布を水に浸しておけば、明日の朝慌てずに済む。大鍋を抱えて奥に引っ込むきよを、弥一郎は黙って見送った。
「あんたは先に帰っててくれる?」
その日、勤めを終えたきよは前掛けを外しながら清五郎に声をかけた。
ところが清五郎は首を縦に振らない。神崎の話も裏の家から戻ってきた弥一郎の話も聞いていたのだから、きよが彦之助と話すつもりだということぐらい察しているはずだ。
ふたりがかりでする話ではない。姉弟で行けば、彦之助は身構えるだけだろうに……と困惑するきよに、清五郎が言う。
「俺は勝手口あたりで待ってる」
「え、でも……」
「ひとりで帰ったって飯にありつけるわけじゃねえし」
「なんだ、ご飯の心配? それなら先に食べちゃっていいわよ」
朝炊いたご飯も味噌汁も残っている。水屋箪笥に佃煮も糠漬けもある、ときよが言ってもやはり清五郎は動こうとしなかった。
「本当は飯なんてどうでもいいんだ。ただ、こんな遅くに姉ちゃんをひとりで歩かせたくねえ。雨も本降りになっちまったし……」
ただでさえ暗い夜に、雨まで降っている。辻斬りでも出たらどうする、と清五郎は心配そうに言う。だが、弟の目をじっと見ているうちに、きよは弟が姉だけを心配しているわけではないと気付いた。
「あんたも彦之助さんのことが気にかかってるのね」
「まあ、そんな感じ。あの人がしくじると自分のことみたいに辛い。きっとなにかわけがあるに違いないって信じたくなる。でも、俺じゃあ話してくれそうにないし、姉ちゃんだけのほうがいいってのもわかってるけど、やっぱり……」
「そっか。じゃあ待ってて――って言ってもまずは彦之助さんを呼び出さないと……」
そう言いながら勝手口を出たきよは、思わず声を上げそうになった。戸口が開いたのに気づいたのか、のっそり近づいてくる影があったからだ。
宵五つ(午後八時)の鐘はとっくに鳴った。こんな遅くにいったい誰が……と思って目を凝らすと、それは今まさに話をしようと思っていた男だった。
「彦之助さん……」
「勤めは終わったか?」
「ええ。ちょうど今、彦之助さんを呼びに行こうと思ってたところです」
「そうだったか……悪いな、たぶん弁当の話だろ?」
「はい。もしかしたら板長さんに言えないわけがあったんじゃないかと……」
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