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2巻
2-1
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働き者の包丁
いけない、また呑んじゃった……
美音は小さく自分に舌打ちをする。
駅前にあるホテル。その一室に設けられた広い会場では、日本全国の酒蔵が自慢の酒を並べ、さあお試しください、とばかりに待ち受けている。
蔵の数はおよそ五十。並んでいる酒の数は二百種類、いやそれ以上ではないだろうか。とにかくどちらを向いても酒、酒、酒……しかも、すべてが今年の新酒である。
『ぼったくり』という少々物騒な屋号の居酒屋を営み、酒を商うことで生計を立てている美音にしても、この状況を見ているだけで酔っ払ってしまいそうになる。
蔵が自信を持って出しているのだから、どの酒も美味しいに違いない。できれば、同じ蔵の、違う種類の酒を呑み比べてもみたい。けれどいくら美音が日本酒が大好きで酒量に自信あり、とはいっても、会場中の酒を全部試してみるわけにはいかない。
予めかき集めた資料で、呑んでみたい酒をピックアップしてきてはいたが、それにしても五十から六十の銘柄に丸印が付いてしまった。
その上、実物を目にしたらどうしても気になる酒も出てきて、試飲の数はどんどん増えていく。あとのことを考えたら、口に含んでは吐き出すという昔ながらの正しい『利き酒』の作法に従うべきだとわかっている。
けれど、口に含んだ酒が予想以上に美味しかったりすると、つい反射的に呑み下してしまう。そもそも、蔵人たちが長い時間、丹精込めて造り上げた酒を、吐き出して捨てることなんてできない、と思ってしまうのだ。
いつまでたってもだめだなあ……私。
お酒で商売をしているんだから、もっとプロに徹しなきゃ……
周囲の人々は、配られた紙コップを手にし、グラスの酒を口の中で転がしてはそこに移している。中にはためらいなく呑み込んで悦に入る人もいたが、おそらく彼らは、純粋に酒を楽しみに来ている日本酒のファンだろう。そういった人たちと、商売がらみで訪れている人とはどこか目の色が違った。
ああ、この人、プロだな……となんとなくわかってしまう。
人から見れば自分は、おそらく『ただ楽しみに来た人』の部類に入ってしまうんだろうな、と思うと、美音は不甲斐ない気持ちでいっぱいになるのだった。
†
「おや、今日は試飲会だったのかい?」
ほんの少し赤みが残る美音の頬に目敏く気付いてシンゾウが言う。水やお茶をたくさん飲んで醒ましたつもりでいたが、やはり町内のご意見番の目は欺けない。薬局を営んでいることもあって、薬や酒が人に与える影響なんてお見通しなのだろう。
「やっぱりわかっちゃいますか? これでも今年はかなり頑張ったんですけど……」
「いくら頑張ったって、あれだけの種類だ。舐めるだけにしたってけっこうな量だろう。それでも商いを休まずにすませるんだから立派なもんだ。昔に比べれば美音坊も随分成長したなあ」
「やだ、またその話ですか?」
「だって美音坊が初めて試飲会に行ったときのことは、『ぼったくり』じゃ語りぐさじゃねえか」
シンゾウの隣に座っていた植木職人、マサの台詞に、美音はますますきまりが悪くなってしまう。
学業を終えて正式に『ぼったくり』で働き始めた最初の年、美音は父に連れられて初めて試飲会に参加した。
そのときもやはり昼の部だったのだが、美音は「日のあるうちから酒を呑む」というシチュエーションと、会場中に並べられた銘酒の数々にすっかり我を忘れた。
試飲用のグラスが小さいのをいいことに、あちこちのブースを片っ端から呑み歩いた。そして、ほどほどにしろという父の助言を聞き流し、注がれた酒を全部呑み込んだ挙げ句、見事に酔っ払った。
さすがに泥酔とまではいかなかったけれど、『はい、お酒呑みました!』と言わんばかりの酒臭さに、父から自宅謹慎を言い渡されてしまったのだ。
『だからあれほど呑み込むなって言っただろうが! 酒は呑むもんじゃない。売るもんだ!』
と散々叱られ、翌年からは父の厳重な監視の下での試飲と相成った。
父が亡くなるまでの間に、徐々に『利き酒』にも慣れ、店を休むような事態に陥ることはなくなったが、そんなことから仕込まねばならなかった父は、さぞや大変だっただろう。
酔ってしまったら酒の味もわからなくなる。一方、父は、厳しい顔で口に含むだけ。その徹底したプロぶりを思い出すたびに、美音は尊敬を新たにする。
会えなくなった人のイメージは美化されやすいとはよく聞く話だが、美音の場合も同様で、記憶の中の父はどんどん高みに押し上げられていく。飾り切りひとつ取っても、父ならもっと手早く、鮮やかな造形を生み出しただろうと思ってしまう。
父はいつも、年季のなせる技だ、と笑っていたけれど、自分があの域に達するまでどれぐらいかかるのか、そもそもそんなことが可能なのだろうか、と考えると、ますます不安になってくる美音だった。
「じゃあ、今日のおすすめでもいただこうかな?」
シンゾウが品書きを眺めながら言う。
「おっ、厚揚げの肉詰めか! こいつに会うのは、久しぶりだな」
「そうでした?」
「おう。俺はこいつが好きでね。時々無性に食いたくなるんだが、滅多に見ねえよ」
「ああ、他のお客さんの中にも、気に入ってくださってる方は多いみたいですね」
「人気があるなら定番メニューに入れておけばいいじゃねえか」
「あー、それはお姉ちゃんの策略なんだよね!」
「馨!」
美音はいきなり口を挟んできた妹を、大慌てで止めようとした。だが馨はそんな美音を尻目に平然とネタばらしをする。
「野菜も魚も旬の素材はたくさんあるけど、天候次第で入ったり入らなかったりするでしょ? そんなときのためのおすすめ料理があるんだよ。一年中いつでも出せるけど出さない。ここ一番困ったときの助っ人」
馨の説明で、マサがぽんと膝を打った。
「なるほど、おすすめの品書きが空っぽにならないようにか!」
シンゾウが感心したように美音を見る。美音はため息を小さくついたあと、ばれてしまっては仕方がないと口を開いた。
「そうなんですよ。たとえ季節のものがちゃんと手に入っても、旬も終わりに近づくと、お客さんももうこれはいいや、ってなっちゃいますからね」
「考えたなあ、美音坊。じゃあ、豆腐や挽肉料理がおすすめに入ってるときは、季節ものがピンチだったってことか」
「まあ、そんな感じです。たとえばお魚なら、鰺はもうそろそろ終わりだし、鮭や秋刀魚はまだちょっと早いでしょ? そうでなくても海が荒れたら品薄で値も上がっちゃうんですよ。そんなときの穴埋めにお豆腐や挽肉の料理は便利なんです。それでも熱くしたり冷たくしたりで、季節感は出そうとしてるんですけどね」
「確かに豆腐が揚げっぱなしになったり、揚げ出しになったりするな」
「まいった! 俺たち、それできれいに騙されてたってわけだ」
「マサさん、騙されたなんて人聞きが悪い……」
「そうだよ、別に誰が損したわけでもないでしょ?」
あっけらかんと言う馨に、確かにな、とシンゾウが頷いた。
「今みたいに異常気象で旬も無茶苦茶になるような時代、それなりの対策は必要だ。いやはや、美音坊、恐れ入ったよ」
「騙された」はちょっとひどいけど、「恐れ入った」も大げさよね……
美音は厚揚げに切り目を入れながらそんなことを思う。本当なら人気があって、なおかつ原価も安い豆腐や挽肉の料理は、一品でも多く通常のメニューに入れておきたい。
安くて旨い旬の素材を使ったおすすめ料理は『ぼったくり』の自慢である。そうはいっても、旬のあれこれは一般家庭でもふんだんに使われる。だからこそ『ぼったくり』では旬の先駆けの時期に使うよう努めている。みんなが家で食べ飽きてしまう前に……
父であれば、珍しくもなくなった旬の終わり間近の素材を使ってでも、客を唸らせるような料理を作ることができた。それこそ手を替え、品を替え、日替わりでおすすめ料理に入れることができたのだ。
だが、美音はまだそこまでじゃない。だからこそ、人気があるとわかっているメニューを、急場しのぎのピンチヒッターとして温存しなくてはならなくなる。
それは料理人としてはむしろ『情けない』というべき事態だった。そんなところでも、父との差は歴然で、美音はついつい眉間に皺を作りそうになってしまう。
それでも美音は精一杯の努力で笑顔を作り、厚揚げの切り込みの中に肉味噌を詰めた。
生姜とニンニクを入れて炒め、味噌とみりんで少々濃いめの味をつけた挽肉は、厚揚げにまでしっかりとその味を回す。弱火のオーブントースターでじっくり表面を焦がした厚揚げは、かりっとした歯触りが堪らない、と客たちが唸る自慢の一品である。
いつでも手に入る厚揚げと挽肉だけど、今日もいい仕事をしてくれそう……
打率の高いピンチヒッターをオーブントースターに入れ終わったところで、引き戸がそっと開けられた。
「こんばんは……」
肩を落としながら入ってきたのはアキだった。
「ど、どしたい? なんかしおしおじゃねえか」
いつになく静かな登場に、マサが驚いて声をかける。アキはことさら深いため息をつくと、シンゾウの隣に腰を下ろした。なにか仕事で失敗でもしたのだろうか、と思って窺っていると、案の定、次の台詞は会社がらみのものだった。
「会社……辞めちゃおうかなあ……」
「おいおい、穏やかじゃねえな。何があったんだい?」
アキが仕事の不満を口にすることは珍しくない。理不尽な業務命令や、迷惑をかけられた同僚を散々腐しては「やってられるかー!」なんて、雄叫びを上げる。
それでも叫んだあとは、すっきりした顔でもりもりと料理を平らげ、元気に帰っていく。それが『ぼったくり』におけるアキの日常だった。
そのアキがこんな風に投げやりに呟いたのだから、心配にならないほうがおかしい。
「美音さん、なにか珍しいお酒もらえる? いつもと全然違う奴」
一同が心配そうに見守る中、アキはそんな注文をした。
アキは普段からいろいろな種類の酒を呑むが、知らない酒にはあまり手を出さない。ビールにしても、日本酒にしても、よく知っている銘柄を一、二杯楽しむだけだ。
アキの場合、『珍しいお酒』という注文そのものが珍しかった。
美音の驚きを悟ったのか、アキが力ない口調で言った。
「なんかねえ……新境地を開拓したくなったの。毎日毎日同じことばっかりやってるのにうんざりしちゃったのよ。会社辞めたら何か変わるかなあ、なんて思っちゃう」
「アキさん……」
「朝起きて、会社行って、掃除してお茶を入れて、伝票処理の間に電話応対。でもって誰かが会議で使う資料をまとめてコピー取って、年がら年中その繰り返しでもう飽き飽き」
「アキちゃんがあきあき……」
うっかりそう呟いた馨をじろりとひと睨みし、美音はアキに向かって大きく頷いた。なにがアキにそう思わせたかは知らないが、客が求める酒を出すのが美音の仕事である。
ちょっと考えたあと、美音は食器棚の一番奥からグラスをひとつ取り出した。マサが目を丸くして見ているのを気にも留めずに、冷蔵庫から出したばかりの酒を注ぎ、アキの前にそっと置く。
「え……なに? カクテルなの?」
アキが思わず訊いたのも無理はない。それはカクテルを入れるためのショートグラスだった。
しかも中の酒にはわずかだが白い濁りがある。もう少し濁りが強くてグラスの縁に塩でも立ててあれば、マルガリータと見まがうほどだった。
「まずはお試しくださいな」
満面の笑みですすめられ、アキはおっかなびっくり、といった感じでカクテルグラスに口を付けた。
「あ、お酒だ……」
アキのあまりにも率直な感想に、シンゾウとマサががっくりと頭を垂れる。
「アキちゃん、酒に決まってるだろう。ここは居酒屋だぜ」
「ごめん、マサさん。そうじゃなくて、これ日本酒なのよ」
「日本酒だあ!? この見てくれでか!?」
「うん。味は間違いなく日本酒。でもなんか炭酸系?」
アキは、そう言いながら目の前にカクテルグラスを翳し、じっくりと観察した。確かにグラスの底から、目に見えるか見えないか程度の細かい泡が立ち上っている。アキはしばらくその泡を目で追ったあと、またごくりと酒を呑んだ。
「面白ーい。舌の上でぴちぴちーってなる。でもってすごく爽やか!」
「ご要望どおりでした?」
「うん、こんなの呑んだことない。グラスまで含めて、確かに『珍しいお酒』ね!」
「米鶴酒造ってところのお酒です。アキさん、聞いたことあるんじゃない?」
蔵の名前を聞いて、アキの表情が一気に明るくなった。
「知ってる! 『鶴の恩返し』の会社だよね!」
米鶴酒造は山形県高畠町で元禄時代から三百年以上にわたって酒を造っている蔵で、江戸時代末期には上杉家の御用酒蔵を務めた。発祥の地である山形県東置賜郡高畠町二井宿を中心に、米鶴に関わる人々の幸せな生活に貢献することを使命としている会社である。
米鶴の名前にはアキの言うとおり、『鶴の恩返し』の民話と、頭を垂れる稲穂の姿にちなみ、『感謝の気持ちを伝える、真心のこもった酒でありたい』という思いが込められているそうだ。
以前、アキは東北出身だと聞いたので、この蔵元のことも知っているのではないかと思った美音の推察は当たっていたようだ。
「へえー、あの米鶴がこんなお酒も造ってたんだー」
「『米鶴 盗み吟醸 あらばしり発泡にごり』っていうお酒です」
「発泡日本酒か。アキちゃん、それなら、こいつといっしょにやったらどうだい?」
すかさずシンゾウが自分に出されたばかりの料理を譲った。驚くアキに片目を瞑って説明する。
「どうせ腹も減ってんだろう? 若い娘が空きっ腹で酒を呷るのは見てらんねえ。俺はあとでいいから先に食っちまいな。その酒とこの肉味噌はいい相性だと思うぞ」
皿の上には、オーブントースターから出されたばかりの厚揚げの肉詰めがのっている。しっかり焼いた厚揚げの表面は軽く焦げ目が付き、グラスの中の酒同様、表面の油がぴちぴちと躍っているようだった。切り口から覗く濃い茶色の挽肉からは、味噌と生姜、そしてニンニクの匂いが漂い、誰でもいいから早く食べろ! と誘っている。
あとから来た自分が先に食べるなんて……と最初は断ろうとしたアキだったが、匂いに誘惑されてどうにも抵抗できなくなったらしい。
「ごめん、シンゾウさん。お言葉に甘えてお先に失礼!」
そう言うなり、さっと箸で厚揚げを挟むと豪快にかじりついた。きっとよその店でなら、もう少し控えめに食べるのだろうけれど、なんといってもここは『ぼったくり』。我が家と同じぐらい馴染みの店なのだから、人目なんて気にする必要はないと思っているに違いない。
大きくかじりとった厚揚げをしっかり噛み、肉味噌の旨みが染み出したところに酒をもう一口。
シンゾウが孫でも見るような目をして訊いた。
「うめえか?」
「最高!」
さっきまで青菜に塩みたいになっていたアキは、とりあえず郷里の酒と厚揚げで元気を取り戻したらしい。美音はほっとしながらも、大急ぎでシンゾウのためにもう一度厚揚げを焼く。
じっくり焼くにはけっこう時間がかかるのだけれど、幸い余熱があるから少しは早く焼けるだろう。オーブントースターに心の中で『がんばれー』と声援を送りつつ、美音はシンゾウの前に小鉢をひとつ置いた。
「じゃあシンゾウさん、とりあえずこっちを先に……」
「お、ジャガイモのそぼろ煮か。これもいいな」
「お酒、替えますか? アキさんが呑んでるのにも合うと思いますけど」
「うーん……盗み吟醸も捨てがたいが、とりあえず今のままでいこう」
「了解でーす」
シンゾウが最後の一口をくいっと呷って空にしたグラスを受け取り、美音は、同じ酒を注ぐ。
グラスの中身は『酒一筋 山廃純米吟醸 時代おくれ』、岡山は利守酒造の醸す酒である。
利守酒造は、台風にも病害虫にも弱く絶滅の危機に瀕していた酒米の「雄町米」を復活させた蔵元で、岡山県赤磐市にある。
山田錦や五百万石といった有名どころもこの雄町米の流れを継ぐ酒米で、利守酒造は雄町の中でも最高品質と言われる軽部産「雄町米」を使用している。
幻の米と呼ばれた雄町米と備前焼の甕による昔ながらの酒造りは、まさに『酒一筋』という名のとおりである。中でも『山廃純米吟醸』は通常の倍以上の時間をかけて醸し、山廃作りならではの酸味と旨みのバランスが素晴らしい。『時代おくれ』という名に相応しく、昔ながらの味わいを持つ酒である。
おそらくシンゾウは、合い挽き肉のこってりした脂を吸ったジャガイモを、この力強い酒に合わせてみたくなったのだろう。湯気の上がるジャガイモとそぼろをそっと口に入れ、目を細めているところを見るとなかなかの相性らしい。
力強い酒は、呑み手も肴も選ぶ。それだけに、ベストマッチとなったときは普段の何倍もの旨みを引き出す。シンゾウは自分でそのマッチングができる優れた呑み手だった。
いけない、また呑んじゃった……
美音は小さく自分に舌打ちをする。
駅前にあるホテル。その一室に設けられた広い会場では、日本全国の酒蔵が自慢の酒を並べ、さあお試しください、とばかりに待ち受けている。
蔵の数はおよそ五十。並んでいる酒の数は二百種類、いやそれ以上ではないだろうか。とにかくどちらを向いても酒、酒、酒……しかも、すべてが今年の新酒である。
『ぼったくり』という少々物騒な屋号の居酒屋を営み、酒を商うことで生計を立てている美音にしても、この状況を見ているだけで酔っ払ってしまいそうになる。
蔵が自信を持って出しているのだから、どの酒も美味しいに違いない。できれば、同じ蔵の、違う種類の酒を呑み比べてもみたい。けれどいくら美音が日本酒が大好きで酒量に自信あり、とはいっても、会場中の酒を全部試してみるわけにはいかない。
予めかき集めた資料で、呑んでみたい酒をピックアップしてきてはいたが、それにしても五十から六十の銘柄に丸印が付いてしまった。
その上、実物を目にしたらどうしても気になる酒も出てきて、試飲の数はどんどん増えていく。あとのことを考えたら、口に含んでは吐き出すという昔ながらの正しい『利き酒』の作法に従うべきだとわかっている。
けれど、口に含んだ酒が予想以上に美味しかったりすると、つい反射的に呑み下してしまう。そもそも、蔵人たちが長い時間、丹精込めて造り上げた酒を、吐き出して捨てることなんてできない、と思ってしまうのだ。
いつまでたってもだめだなあ……私。
お酒で商売をしているんだから、もっとプロに徹しなきゃ……
周囲の人々は、配られた紙コップを手にし、グラスの酒を口の中で転がしてはそこに移している。中にはためらいなく呑み込んで悦に入る人もいたが、おそらく彼らは、純粋に酒を楽しみに来ている日本酒のファンだろう。そういった人たちと、商売がらみで訪れている人とはどこか目の色が違った。
ああ、この人、プロだな……となんとなくわかってしまう。
人から見れば自分は、おそらく『ただ楽しみに来た人』の部類に入ってしまうんだろうな、と思うと、美音は不甲斐ない気持ちでいっぱいになるのだった。
†
「おや、今日は試飲会だったのかい?」
ほんの少し赤みが残る美音の頬に目敏く気付いてシンゾウが言う。水やお茶をたくさん飲んで醒ましたつもりでいたが、やはり町内のご意見番の目は欺けない。薬局を営んでいることもあって、薬や酒が人に与える影響なんてお見通しなのだろう。
「やっぱりわかっちゃいますか? これでも今年はかなり頑張ったんですけど……」
「いくら頑張ったって、あれだけの種類だ。舐めるだけにしたってけっこうな量だろう。それでも商いを休まずにすませるんだから立派なもんだ。昔に比べれば美音坊も随分成長したなあ」
「やだ、またその話ですか?」
「だって美音坊が初めて試飲会に行ったときのことは、『ぼったくり』じゃ語りぐさじゃねえか」
シンゾウの隣に座っていた植木職人、マサの台詞に、美音はますますきまりが悪くなってしまう。
学業を終えて正式に『ぼったくり』で働き始めた最初の年、美音は父に連れられて初めて試飲会に参加した。
そのときもやはり昼の部だったのだが、美音は「日のあるうちから酒を呑む」というシチュエーションと、会場中に並べられた銘酒の数々にすっかり我を忘れた。
試飲用のグラスが小さいのをいいことに、あちこちのブースを片っ端から呑み歩いた。そして、ほどほどにしろという父の助言を聞き流し、注がれた酒を全部呑み込んだ挙げ句、見事に酔っ払った。
さすがに泥酔とまではいかなかったけれど、『はい、お酒呑みました!』と言わんばかりの酒臭さに、父から自宅謹慎を言い渡されてしまったのだ。
『だからあれほど呑み込むなって言っただろうが! 酒は呑むもんじゃない。売るもんだ!』
と散々叱られ、翌年からは父の厳重な監視の下での試飲と相成った。
父が亡くなるまでの間に、徐々に『利き酒』にも慣れ、店を休むような事態に陥ることはなくなったが、そんなことから仕込まねばならなかった父は、さぞや大変だっただろう。
酔ってしまったら酒の味もわからなくなる。一方、父は、厳しい顔で口に含むだけ。その徹底したプロぶりを思い出すたびに、美音は尊敬を新たにする。
会えなくなった人のイメージは美化されやすいとはよく聞く話だが、美音の場合も同様で、記憶の中の父はどんどん高みに押し上げられていく。飾り切りひとつ取っても、父ならもっと手早く、鮮やかな造形を生み出しただろうと思ってしまう。
父はいつも、年季のなせる技だ、と笑っていたけれど、自分があの域に達するまでどれぐらいかかるのか、そもそもそんなことが可能なのだろうか、と考えると、ますます不安になってくる美音だった。
「じゃあ、今日のおすすめでもいただこうかな?」
シンゾウが品書きを眺めながら言う。
「おっ、厚揚げの肉詰めか! こいつに会うのは、久しぶりだな」
「そうでした?」
「おう。俺はこいつが好きでね。時々無性に食いたくなるんだが、滅多に見ねえよ」
「ああ、他のお客さんの中にも、気に入ってくださってる方は多いみたいですね」
「人気があるなら定番メニューに入れておけばいいじゃねえか」
「あー、それはお姉ちゃんの策略なんだよね!」
「馨!」
美音はいきなり口を挟んできた妹を、大慌てで止めようとした。だが馨はそんな美音を尻目に平然とネタばらしをする。
「野菜も魚も旬の素材はたくさんあるけど、天候次第で入ったり入らなかったりするでしょ? そんなときのためのおすすめ料理があるんだよ。一年中いつでも出せるけど出さない。ここ一番困ったときの助っ人」
馨の説明で、マサがぽんと膝を打った。
「なるほど、おすすめの品書きが空っぽにならないようにか!」
シンゾウが感心したように美音を見る。美音はため息を小さくついたあと、ばれてしまっては仕方がないと口を開いた。
「そうなんですよ。たとえ季節のものがちゃんと手に入っても、旬も終わりに近づくと、お客さんももうこれはいいや、ってなっちゃいますからね」
「考えたなあ、美音坊。じゃあ、豆腐や挽肉料理がおすすめに入ってるときは、季節ものがピンチだったってことか」
「まあ、そんな感じです。たとえばお魚なら、鰺はもうそろそろ終わりだし、鮭や秋刀魚はまだちょっと早いでしょ? そうでなくても海が荒れたら品薄で値も上がっちゃうんですよ。そんなときの穴埋めにお豆腐や挽肉の料理は便利なんです。それでも熱くしたり冷たくしたりで、季節感は出そうとしてるんですけどね」
「確かに豆腐が揚げっぱなしになったり、揚げ出しになったりするな」
「まいった! 俺たち、それできれいに騙されてたってわけだ」
「マサさん、騙されたなんて人聞きが悪い……」
「そうだよ、別に誰が損したわけでもないでしょ?」
あっけらかんと言う馨に、確かにな、とシンゾウが頷いた。
「今みたいに異常気象で旬も無茶苦茶になるような時代、それなりの対策は必要だ。いやはや、美音坊、恐れ入ったよ」
「騙された」はちょっとひどいけど、「恐れ入った」も大げさよね……
美音は厚揚げに切り目を入れながらそんなことを思う。本当なら人気があって、なおかつ原価も安い豆腐や挽肉の料理は、一品でも多く通常のメニューに入れておきたい。
安くて旨い旬の素材を使ったおすすめ料理は『ぼったくり』の自慢である。そうはいっても、旬のあれこれは一般家庭でもふんだんに使われる。だからこそ『ぼったくり』では旬の先駆けの時期に使うよう努めている。みんなが家で食べ飽きてしまう前に……
父であれば、珍しくもなくなった旬の終わり間近の素材を使ってでも、客を唸らせるような料理を作ることができた。それこそ手を替え、品を替え、日替わりでおすすめ料理に入れることができたのだ。
だが、美音はまだそこまでじゃない。だからこそ、人気があるとわかっているメニューを、急場しのぎのピンチヒッターとして温存しなくてはならなくなる。
それは料理人としてはむしろ『情けない』というべき事態だった。そんなところでも、父との差は歴然で、美音はついつい眉間に皺を作りそうになってしまう。
それでも美音は精一杯の努力で笑顔を作り、厚揚げの切り込みの中に肉味噌を詰めた。
生姜とニンニクを入れて炒め、味噌とみりんで少々濃いめの味をつけた挽肉は、厚揚げにまでしっかりとその味を回す。弱火のオーブントースターでじっくり表面を焦がした厚揚げは、かりっとした歯触りが堪らない、と客たちが唸る自慢の一品である。
いつでも手に入る厚揚げと挽肉だけど、今日もいい仕事をしてくれそう……
打率の高いピンチヒッターをオーブントースターに入れ終わったところで、引き戸がそっと開けられた。
「こんばんは……」
肩を落としながら入ってきたのはアキだった。
「ど、どしたい? なんかしおしおじゃねえか」
いつになく静かな登場に、マサが驚いて声をかける。アキはことさら深いため息をつくと、シンゾウの隣に腰を下ろした。なにか仕事で失敗でもしたのだろうか、と思って窺っていると、案の定、次の台詞は会社がらみのものだった。
「会社……辞めちゃおうかなあ……」
「おいおい、穏やかじゃねえな。何があったんだい?」
アキが仕事の不満を口にすることは珍しくない。理不尽な業務命令や、迷惑をかけられた同僚を散々腐しては「やってられるかー!」なんて、雄叫びを上げる。
それでも叫んだあとは、すっきりした顔でもりもりと料理を平らげ、元気に帰っていく。それが『ぼったくり』におけるアキの日常だった。
そのアキがこんな風に投げやりに呟いたのだから、心配にならないほうがおかしい。
「美音さん、なにか珍しいお酒もらえる? いつもと全然違う奴」
一同が心配そうに見守る中、アキはそんな注文をした。
アキは普段からいろいろな種類の酒を呑むが、知らない酒にはあまり手を出さない。ビールにしても、日本酒にしても、よく知っている銘柄を一、二杯楽しむだけだ。
アキの場合、『珍しいお酒』という注文そのものが珍しかった。
美音の驚きを悟ったのか、アキが力ない口調で言った。
「なんかねえ……新境地を開拓したくなったの。毎日毎日同じことばっかりやってるのにうんざりしちゃったのよ。会社辞めたら何か変わるかなあ、なんて思っちゃう」
「アキさん……」
「朝起きて、会社行って、掃除してお茶を入れて、伝票処理の間に電話応対。でもって誰かが会議で使う資料をまとめてコピー取って、年がら年中その繰り返しでもう飽き飽き」
「アキちゃんがあきあき……」
うっかりそう呟いた馨をじろりとひと睨みし、美音はアキに向かって大きく頷いた。なにがアキにそう思わせたかは知らないが、客が求める酒を出すのが美音の仕事である。
ちょっと考えたあと、美音は食器棚の一番奥からグラスをひとつ取り出した。マサが目を丸くして見ているのを気にも留めずに、冷蔵庫から出したばかりの酒を注ぎ、アキの前にそっと置く。
「え……なに? カクテルなの?」
アキが思わず訊いたのも無理はない。それはカクテルを入れるためのショートグラスだった。
しかも中の酒にはわずかだが白い濁りがある。もう少し濁りが強くてグラスの縁に塩でも立ててあれば、マルガリータと見まがうほどだった。
「まずはお試しくださいな」
満面の笑みですすめられ、アキはおっかなびっくり、といった感じでカクテルグラスに口を付けた。
「あ、お酒だ……」
アキのあまりにも率直な感想に、シンゾウとマサががっくりと頭を垂れる。
「アキちゃん、酒に決まってるだろう。ここは居酒屋だぜ」
「ごめん、マサさん。そうじゃなくて、これ日本酒なのよ」
「日本酒だあ!? この見てくれでか!?」
「うん。味は間違いなく日本酒。でもなんか炭酸系?」
アキは、そう言いながら目の前にカクテルグラスを翳し、じっくりと観察した。確かにグラスの底から、目に見えるか見えないか程度の細かい泡が立ち上っている。アキはしばらくその泡を目で追ったあと、またごくりと酒を呑んだ。
「面白ーい。舌の上でぴちぴちーってなる。でもってすごく爽やか!」
「ご要望どおりでした?」
「うん、こんなの呑んだことない。グラスまで含めて、確かに『珍しいお酒』ね!」
「米鶴酒造ってところのお酒です。アキさん、聞いたことあるんじゃない?」
蔵の名前を聞いて、アキの表情が一気に明るくなった。
「知ってる! 『鶴の恩返し』の会社だよね!」
米鶴酒造は山形県高畠町で元禄時代から三百年以上にわたって酒を造っている蔵で、江戸時代末期には上杉家の御用酒蔵を務めた。発祥の地である山形県東置賜郡高畠町二井宿を中心に、米鶴に関わる人々の幸せな生活に貢献することを使命としている会社である。
米鶴の名前にはアキの言うとおり、『鶴の恩返し』の民話と、頭を垂れる稲穂の姿にちなみ、『感謝の気持ちを伝える、真心のこもった酒でありたい』という思いが込められているそうだ。
以前、アキは東北出身だと聞いたので、この蔵元のことも知っているのではないかと思った美音の推察は当たっていたようだ。
「へえー、あの米鶴がこんなお酒も造ってたんだー」
「『米鶴 盗み吟醸 あらばしり発泡にごり』っていうお酒です」
「発泡日本酒か。アキちゃん、それなら、こいつといっしょにやったらどうだい?」
すかさずシンゾウが自分に出されたばかりの料理を譲った。驚くアキに片目を瞑って説明する。
「どうせ腹も減ってんだろう? 若い娘が空きっ腹で酒を呷るのは見てらんねえ。俺はあとでいいから先に食っちまいな。その酒とこの肉味噌はいい相性だと思うぞ」
皿の上には、オーブントースターから出されたばかりの厚揚げの肉詰めがのっている。しっかり焼いた厚揚げの表面は軽く焦げ目が付き、グラスの中の酒同様、表面の油がぴちぴちと躍っているようだった。切り口から覗く濃い茶色の挽肉からは、味噌と生姜、そしてニンニクの匂いが漂い、誰でもいいから早く食べろ! と誘っている。
あとから来た自分が先に食べるなんて……と最初は断ろうとしたアキだったが、匂いに誘惑されてどうにも抵抗できなくなったらしい。
「ごめん、シンゾウさん。お言葉に甘えてお先に失礼!」
そう言うなり、さっと箸で厚揚げを挟むと豪快にかじりついた。きっとよその店でなら、もう少し控えめに食べるのだろうけれど、なんといってもここは『ぼったくり』。我が家と同じぐらい馴染みの店なのだから、人目なんて気にする必要はないと思っているに違いない。
大きくかじりとった厚揚げをしっかり噛み、肉味噌の旨みが染み出したところに酒をもう一口。
シンゾウが孫でも見るような目をして訊いた。
「うめえか?」
「最高!」
さっきまで青菜に塩みたいになっていたアキは、とりあえず郷里の酒と厚揚げで元気を取り戻したらしい。美音はほっとしながらも、大急ぎでシンゾウのためにもう一度厚揚げを焼く。
じっくり焼くにはけっこう時間がかかるのだけれど、幸い余熱があるから少しは早く焼けるだろう。オーブントースターに心の中で『がんばれー』と声援を送りつつ、美音はシンゾウの前に小鉢をひとつ置いた。
「じゃあシンゾウさん、とりあえずこっちを先に……」
「お、ジャガイモのそぼろ煮か。これもいいな」
「お酒、替えますか? アキさんが呑んでるのにも合うと思いますけど」
「うーん……盗み吟醸も捨てがたいが、とりあえず今のままでいこう」
「了解でーす」
シンゾウが最後の一口をくいっと呷って空にしたグラスを受け取り、美音は、同じ酒を注ぐ。
グラスの中身は『酒一筋 山廃純米吟醸 時代おくれ』、岡山は利守酒造の醸す酒である。
利守酒造は、台風にも病害虫にも弱く絶滅の危機に瀕していた酒米の「雄町米」を復活させた蔵元で、岡山県赤磐市にある。
山田錦や五百万石といった有名どころもこの雄町米の流れを継ぐ酒米で、利守酒造は雄町の中でも最高品質と言われる軽部産「雄町米」を使用している。
幻の米と呼ばれた雄町米と備前焼の甕による昔ながらの酒造りは、まさに『酒一筋』という名のとおりである。中でも『山廃純米吟醸』は通常の倍以上の時間をかけて醸し、山廃作りならではの酸味と旨みのバランスが素晴らしい。『時代おくれ』という名に相応しく、昔ながらの味わいを持つ酒である。
おそらくシンゾウは、合い挽き肉のこってりした脂を吸ったジャガイモを、この力強い酒に合わせてみたくなったのだろう。湯気の上がるジャガイモとそぼろをそっと口に入れ、目を細めているところを見るとなかなかの相性らしい。
力強い酒は、呑み手も肴も選ぶ。それだけに、ベストマッチとなったときは普段の何倍もの旨みを引き出す。シンゾウは自分でそのマッチングができる優れた呑み手だった。
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