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第26話 最強無感魔法
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「本番用意! 3…、2…」
「…………」
賑やかなBGMがスタジオに流れるとオープニングが始まった。
「世の中の様々な出来事をスパッと切って、その解決方法を様々な論客が床の間の皆さんへお届けする!」
「「言いたい邦題!週刊!ここだけ無礼講!」」
パチパチパチパチパチパチ。
そう、魔人と神代と俺の壮絶な戦いがあった小旅行、それから数日が経ち、いよいよ俺のテレビデビューの日を迎え、テレビ局での収録が始まっていた。
「今週も始まりました! 司会はアップダウンわたくし浜本と松田です、よろしくお願いします」
「どうもー、松田ですー」
「そして、今週のコメンテーターの皆さんはこちらです!」
そうしていつものレギュラーコメンテーターが足早に次々と紹介されていく。
ひな壇に乗った論客は、少し濃いメンバーばかり。経済学者や、弁護士、法律家、元政治家など、名だたる人物が並んでいて順次紹介されていき、ついに俺の番がやってくる。
「今週から初登場! 株式会社サイテック広報課、北村弘樹さんです!」
パチパチパチパチパチパチ。
スタッフが数人必死に拍手している。
テレビと違って拍手が全然少ない。あれは後から付けてたのか。
しかし、ここまでは台本通りだ……。
ここから俺は丸投げされている自己紹介をしないといけない。
うう、ついに紹介されてしまった。
他の論客に比べて俺の存在感、薄い薄い。正直、お前ダレやねんって感じだ。
それに、既にオープニングが始まってるここまできて、どんな内容なのか殆どわからねぇじゃねぇか!
カメラの脇に立って、ニヤニヤとこちらを眺めている魔人を心の目で睨む。
ち、ちくしょう、魔人め、覚えとけよ!
と、いうのも前日の事だった。
◆
俺は明日のテレビ出演を控え、緊張しながら検品作業をしていると、突然内藤さんが現れた。
「あ、北村いる? お、いたいた、5分だけ明日の打ち合わせしたいんだが」
「はい、お疲れ様です、ちょっと待っててください」
「北村、休憩入ります!」
俺はそういうといつもの様に周囲の作業員に、休憩を知らせて席を立ち、廊下で待っている内藤さんの元へ駆け寄る。
「お疲れ様です」
「お疲れ!」
「それより内藤さん、明日のテレビ収録俺なんも聞いてないですよ、だいじょう」
「そう! それなんだけど、渡すの忘れてたんだよ、いやー、すまんすまん!」
俺の言葉を遮りそういうと、内藤さんはまた魔力で生み出したと思われるA4サイズの一冊の薄い本をスーツの内側から取り出し、俺に渡してきた。
ていうか、それ、どこに入ってた?
「え? これ……」
「うん、台本ね。いやー1週間くらい前に受け取ってたんだけど、ほら旅行とかあったしさ、渡すの忘れてたんだよね、いやー、すまんすまん、ワハハハハ」
おい、あんたマネージャーだろ!
何でも笑ってすまそうとするな!
「え、ちょ、もう明日ですよ! 今もう4時ですよ!?」
「うん、大丈夫大丈夫、なんとかなるさ! ていうか、そもそもほとんど書いてないぞそれ、ワハハハハ」
俺は慌てて台本を見る。
「俺の紹介…、自己紹介…、俺の発言…、ご自由にご発言ください。俺にスポット。ご自由にご発言ください。ワイプ…、コーナー…。録画収録なので編集が入ります、固くならずに気軽にお願いします……、って、これ、丸投げ!?」
「だろ?」
「こ、これ番組進行表ってだけで、俺がなに言ったらいいかとか、なんも書いて無いじゃないですか!」
「だよなぁ、テレビ局もいい加減なもんだ。ワハハハハ」
「というかそもそも、俺が素人だって向こうは知ってるんですか?」
「知らんのじゃないか? お前はうちの有能社員で、会社ではプレゼンも完璧ってことになってるはずだぞ」
「え、いや、ちょっと、俺そんな事したことないっすよ!」
「あっはっは! 大丈夫、大丈夫!」
「いや、大丈夫って……」
「だって君、元総理大臣の前で立派にプレゼンしたらしいじゃないか!」
「う、うぉ! な、なんで知って……!」
くっそ、この魔人め!
「うん、だから台本なんか無くても大丈夫! 収録中は私もマネージャーとしてそばに居るから大船に乗ったつもりで出てこい」
「うっ、くっ……」
「明日はスタジオに13時入りだ、メイクだとか色々顔合わせもあるし10時には放送局な、遅刻するなよ」
「わ、わかりました」
「さぁ今日の仕事もあとちょっとだ、北村君明日は頑張ろう! じゃぁな!」
「え、あ、な、内藤さん!」
「おー、歩留まり下げんなよ!」
いう事だけ言ってほぼ意味のない台本を渡し去って行ってしまった。
前日の夕方に突然台本を渡され内容は皆無。考える時間も殆ど無い。
わ、わざとじゃないだろうな、あの魔人め。
超不安だ……くっ。
し、しかし! 俺は勇者だ、どんな強敵も乗り越えてやるんだ!
全国のゴールデンタイムに放送される大人気芸人の司会で進行する高視聴率番組。
内容はニュースや時事ネタが主で、国内の様々なニュースを取り上げる番組。
バラエティー番組にもかかわらず主役は芸人ではなく、一癖も二癖もある各界の著名人や論客がコメンテーターとしてひな壇にのって、歯に衣着せぬ意見やアイディアを論じ合うという一風変わった人気報道バラエティー番組だ。
俺はそこのひな壇に上がるレギュラーとして今後参加していくことになっていた。
しかし、台本が、前日夕方に渡されるなんてことがあるだろうか。
これは絶対、魔人の策略に違いない。
許すまじ内藤……!
そんなことが有ったのだ。
だから俺は、この番組の進行以外は何も知らないのだ。
◆
「……北村弘樹さんです!」
パチパチパチパチパチパチ。
台本によると主な進行はツッコミ役の浜本だ。
「えーと今日がテレビ初出演と聞きましたが、サイテックってこの番組のスポンサーさんですよね? どういう?」
絶妙のタイミングで松田がツッコミを入れる。
「え、ちょ、おまえ司会がそれ聞いてええんか?」
俺は台本にないのに勝手にしゃべりだす。
「ああ、はい、そうですね、でも一個人として参加させていただきますので!」
司会の浜本が、突然喋り出した俺に反応した。
「はぁ!? 北村! 貴様ちょっとイケメンだからって、俺は忖度せんからな!?」
アハハハハ。スタッフに軽くウケている。
「ええ! 私もする気ないですしガンガン来てください!」
さらに浜本が突っ込んでくると思いきや、ボケの松田が突然突っかかってきた。
「ええ度胸や! 掛かってこい!」
「スパーン! おまえ、製作費削られたらどないすんねん!」
ワハハハハハ。お、なんかちゃんとウケてる。プロすげぇ。
松田が浜本のツッコミを華麗にスルーし、浜本が綺麗にまとめる。
「はーい、そういう事で! 今日はよろしくお願いしまーす」
すると、スタジオ内のモニターに、今流れているであろう映像が表示される。
スタジオ内では司会の二人の身なりを整えたり、インカムを付けたスタッフが司会と短い打ち合わせを行う。
その間ワイプで抜かれるひな壇の論客たちは映像をニコニコと眺めている。
俺もそれをマネする。
「さぁ、みなさんには事前に回答をしてもらっています、一斉にどうぞ!」
そのテーマは、自動車のアクセルとブレーキの踏み間違え急増のニュースだった。
俺はそれに対してどう思うか、事前の控室で回答を求められていた。
そこで書いた内容が横にあるスクリーンに表示される。
他の論客は、殆どが事故を減らす方向のコメントを書いている。
間違えない装置を取り付ける、認知テストを受けさせる、免許の返納を促進する、自動ブレーキを義務化する、といった具合だ。しかし俺はこう書いた。
『老害は消えろ』
え? 俺が書いた? これ? ええ?
スタジオが少しざわつき、それを見た司会の浜本が少し笑いながら聞いてきた。
「最初のコメントはー? ん? おまえ北村! なんやねんそれ! 挑戦的やなぁカッカッカ」
「いや、高齢者を敵に回すつもりはないんです、ええ? 私こう書きましたっけ?」
「はぁ? お前が答えたんやろ? 老害は消えろって、どういうことや!」
ふと見ると、魔人が声を上げずに腹を抱えて大爆笑している。
くっそ! あいつの仕業か! うう、ど、どうするこれ!?
ええっと、このままじゃ炎上確定じゃねーか!
うおおおおお魔人め!でも、なんとかしないと!
俺の左脳がフル回転しだす!
よし、話題を……いや、全然違う話ししたんじゃだめだ。
まず、老害は消えろ、の本質部分を語って、それが実はまともな意見だって方向にするしかない。
問題提起から回答のすり替え、そしてスタジオ全員を論破するんだ、出来るかどうかわからんし、正しいかどうかも分からんが、とにかくやってやる!
「え、ええ、はい、まず、問題は高齢者が踏み間違えて事故を起こすのが問題になってるんですよね。じゃあ、高齢者は車を運転しなければいいかと」
「それじゃ生活が困る人が多いから問題になっとんねんやんか」
俺の左脳は音が出そうなほど高速回転している。
「車いっぱい走ってますよね、それで私にはなんで問題になるのかよくわからないんです。だから、近所に住む若い人や、街中でいっぱい走ってる若い人の運転する車に乗せてもらえるよう法整備すればいいんじゃないかと」
「そんなん危ないやろ? 老人やし襲われたりしたらどないすんねん!?」
「あ、はい、だから誰でもできるって訳じゃなくて、相乗送迎資格とでもいうんですかね、性格や安全運転してる人かどうかを判断するテストを設け、それを受験し合格した人の車には若葉マークの様なステッカーを張ったりとか」
「だれがそんな相乗りで爺さん送ってくめんどくさい事すんねん、メリットないやろ」
けっこう、追及が厳しい……と思ってたらツッコミが入った。
「お前今日初登場のスポンサー様になんてこというんや!」
「俺は忖度せんいうたやろ! お前もスポンサーとかいうな! スパーン!」
ハハハハハ。スタジオ内はウケている。
「アハハ、大丈夫っす! いわゆる政府公認ヒッチハイク可能車両って感じですよ」
そしてもう少し俺のアイディアを詳しく語りだす。
「えっと、その車をタクシーの様に呼び止め止まった車に送ってもらう。忙しいなら止まらなくてもいい。それを全国規模で行う。タクシーよりは圧倒的な数になるはず。どんな場所でも若い人は少なからずいるし、電車の優先席みたいなもんです、ヒッチハイクですよ」
「タクシーはどうすんねん!」
「タクシーは、そのプロ版ですよ。アマチュアとプロ両方あってもいいじゃないですか。それにタクシーは呼ぶことができます。それでその資格を持ってると車両購入時の補助金や、ガソリン税や車両税、重量税などが色々優遇される、みたいな制度を作ったらいいかなって、それって政治家の匙加減でしょ?」
そういうと、他の論客から、様々な質問を受けた。
事故った時はどう責任を取るか、保険をどうするのか、減った税収をどう補うつもりか。俺は、その都度、丁寧に答えていく。それで他の論客は、なるほど悪くないね、というスタジオの空気になり、黙ってしまった。
すると、司会の浜本が俺にこういった。
「新人のくせにやるやないか! じゃあ、ほかの人の意見見ていきましょう!」
そうして、他の論客が打ち立てたアイディアや問題を、出演者であーだこーだ言い始める。俺も頑張って色々な意見を質問したりしてみた。
そうして頑張って参加しながら、ふと、内藤さんを見ると自慢げに腕を組んでいた。そして、俺と目が合うと、俺にサムアップしてよこした。
◆
番組の収録は、一発撮りではなく一度休憩があった。
1時間番組ではあるが、3時間くらいかけて収録するとの事だった。
「お疲れ北村君、良かったよ! はい、お茶」
「そ、そうでしたか?」
俺は前半の収録が終わった時点で、既に結構ぐったりしていた。
「俺、何も考えてないのに、こんなんで大丈夫なんでしょうか」
「うん? 君は色々考えて行動するより、反射的に動いた方がいいんだ。俺の様にな! で、実際プロに任せたら大丈夫だったろ?」
「あ、はい、プロの人たちは凄いですね」
「お前もそうなって行くんだ。俺はそれが楽しみだ。でもお前は、それでも何も考えなくていい、そのままでいろ。見た目は俺が作ってやる心配すんな」
「は、はぁ……」
休憩時間にそんな話をして、後半の収録が始まる。
後半には、ベーシックインカムがテーマの話題が選択されている。
俺はどうするべきなんだろうか。何をいうべきなんだろうか。
いや、内藤さんも言ってた、考えなくていい。
元総理の大泉さんと話した時も、何も考えないで出てきたことを言っただけだ。
それがたぶん、俺の使える最大の魔法なんだろう。
俺は人々や世界を変える力が有るかもしれないと言われた。
何も準備しないからこそ放つことが出来る俺の最強の特殊魔法。
そうだな、言ってみれば無感魔法って所だろうか。
これは、学習も練習も不要、魔力も、詠唱も、魔法陣も、巻物も不要、魔法のイメージすら不要という、何も考えないからこそ俺に発動する、俺だけの最強の魔法だ。
俺はこの無感魔法を武器に、俺が出来ない事はプロに任せて、俺しかできない事をやれるだけやってきてやるんだ!
そうして収録の後半も、この無感魔法が発動し、会場を騒然とさせるのだった。
「…………」
賑やかなBGMがスタジオに流れるとオープニングが始まった。
「世の中の様々な出来事をスパッと切って、その解決方法を様々な論客が床の間の皆さんへお届けする!」
「「言いたい邦題!週刊!ここだけ無礼講!」」
パチパチパチパチパチパチ。
そう、魔人と神代と俺の壮絶な戦いがあった小旅行、それから数日が経ち、いよいよ俺のテレビデビューの日を迎え、テレビ局での収録が始まっていた。
「今週も始まりました! 司会はアップダウンわたくし浜本と松田です、よろしくお願いします」
「どうもー、松田ですー」
「そして、今週のコメンテーターの皆さんはこちらです!」
そうしていつものレギュラーコメンテーターが足早に次々と紹介されていく。
ひな壇に乗った論客は、少し濃いメンバーばかり。経済学者や、弁護士、法律家、元政治家など、名だたる人物が並んでいて順次紹介されていき、ついに俺の番がやってくる。
「今週から初登場! 株式会社サイテック広報課、北村弘樹さんです!」
パチパチパチパチパチパチ。
スタッフが数人必死に拍手している。
テレビと違って拍手が全然少ない。あれは後から付けてたのか。
しかし、ここまでは台本通りだ……。
ここから俺は丸投げされている自己紹介をしないといけない。
うう、ついに紹介されてしまった。
他の論客に比べて俺の存在感、薄い薄い。正直、お前ダレやねんって感じだ。
それに、既にオープニングが始まってるここまできて、どんな内容なのか殆どわからねぇじゃねぇか!
カメラの脇に立って、ニヤニヤとこちらを眺めている魔人を心の目で睨む。
ち、ちくしょう、魔人め、覚えとけよ!
と、いうのも前日の事だった。
◆
俺は明日のテレビ出演を控え、緊張しながら検品作業をしていると、突然内藤さんが現れた。
「あ、北村いる? お、いたいた、5分だけ明日の打ち合わせしたいんだが」
「はい、お疲れ様です、ちょっと待っててください」
「北村、休憩入ります!」
俺はそういうといつもの様に周囲の作業員に、休憩を知らせて席を立ち、廊下で待っている内藤さんの元へ駆け寄る。
「お疲れ様です」
「お疲れ!」
「それより内藤さん、明日のテレビ収録俺なんも聞いてないですよ、だいじょう」
「そう! それなんだけど、渡すの忘れてたんだよ、いやー、すまんすまん!」
俺の言葉を遮りそういうと、内藤さんはまた魔力で生み出したと思われるA4サイズの一冊の薄い本をスーツの内側から取り出し、俺に渡してきた。
ていうか、それ、どこに入ってた?
「え? これ……」
「うん、台本ね。いやー1週間くらい前に受け取ってたんだけど、ほら旅行とかあったしさ、渡すの忘れてたんだよね、いやー、すまんすまん、ワハハハハ」
おい、あんたマネージャーだろ!
何でも笑ってすまそうとするな!
「え、ちょ、もう明日ですよ! 今もう4時ですよ!?」
「うん、大丈夫大丈夫、なんとかなるさ! ていうか、そもそもほとんど書いてないぞそれ、ワハハハハ」
俺は慌てて台本を見る。
「俺の紹介…、自己紹介…、俺の発言…、ご自由にご発言ください。俺にスポット。ご自由にご発言ください。ワイプ…、コーナー…。録画収録なので編集が入ります、固くならずに気軽にお願いします……、って、これ、丸投げ!?」
「だろ?」
「こ、これ番組進行表ってだけで、俺がなに言ったらいいかとか、なんも書いて無いじゃないですか!」
「だよなぁ、テレビ局もいい加減なもんだ。ワハハハハ」
「というかそもそも、俺が素人だって向こうは知ってるんですか?」
「知らんのじゃないか? お前はうちの有能社員で、会社ではプレゼンも完璧ってことになってるはずだぞ」
「え、いや、ちょっと、俺そんな事したことないっすよ!」
「あっはっは! 大丈夫、大丈夫!」
「いや、大丈夫って……」
「だって君、元総理大臣の前で立派にプレゼンしたらしいじゃないか!」
「う、うぉ! な、なんで知って……!」
くっそ、この魔人め!
「うん、だから台本なんか無くても大丈夫! 収録中は私もマネージャーとしてそばに居るから大船に乗ったつもりで出てこい」
「うっ、くっ……」
「明日はスタジオに13時入りだ、メイクだとか色々顔合わせもあるし10時には放送局な、遅刻するなよ」
「わ、わかりました」
「さぁ今日の仕事もあとちょっとだ、北村君明日は頑張ろう! じゃぁな!」
「え、あ、な、内藤さん!」
「おー、歩留まり下げんなよ!」
いう事だけ言ってほぼ意味のない台本を渡し去って行ってしまった。
前日の夕方に突然台本を渡され内容は皆無。考える時間も殆ど無い。
わ、わざとじゃないだろうな、あの魔人め。
超不安だ……くっ。
し、しかし! 俺は勇者だ、どんな強敵も乗り越えてやるんだ!
全国のゴールデンタイムに放送される大人気芸人の司会で進行する高視聴率番組。
内容はニュースや時事ネタが主で、国内の様々なニュースを取り上げる番組。
バラエティー番組にもかかわらず主役は芸人ではなく、一癖も二癖もある各界の著名人や論客がコメンテーターとしてひな壇にのって、歯に衣着せぬ意見やアイディアを論じ合うという一風変わった人気報道バラエティー番組だ。
俺はそこのひな壇に上がるレギュラーとして今後参加していくことになっていた。
しかし、台本が、前日夕方に渡されるなんてことがあるだろうか。
これは絶対、魔人の策略に違いない。
許すまじ内藤……!
そんなことが有ったのだ。
だから俺は、この番組の進行以外は何も知らないのだ。
◆
「……北村弘樹さんです!」
パチパチパチパチパチパチ。
台本によると主な進行はツッコミ役の浜本だ。
「えーと今日がテレビ初出演と聞きましたが、サイテックってこの番組のスポンサーさんですよね? どういう?」
絶妙のタイミングで松田がツッコミを入れる。
「え、ちょ、おまえ司会がそれ聞いてええんか?」
俺は台本にないのに勝手にしゃべりだす。
「ああ、はい、そうですね、でも一個人として参加させていただきますので!」
司会の浜本が、突然喋り出した俺に反応した。
「はぁ!? 北村! 貴様ちょっとイケメンだからって、俺は忖度せんからな!?」
アハハハハ。スタッフに軽くウケている。
「ええ! 私もする気ないですしガンガン来てください!」
さらに浜本が突っ込んでくると思いきや、ボケの松田が突然突っかかってきた。
「ええ度胸や! 掛かってこい!」
「スパーン! おまえ、製作費削られたらどないすんねん!」
ワハハハハハ。お、なんかちゃんとウケてる。プロすげぇ。
松田が浜本のツッコミを華麗にスルーし、浜本が綺麗にまとめる。
「はーい、そういう事で! 今日はよろしくお願いしまーす」
すると、スタジオ内のモニターに、今流れているであろう映像が表示される。
スタジオ内では司会の二人の身なりを整えたり、インカムを付けたスタッフが司会と短い打ち合わせを行う。
その間ワイプで抜かれるひな壇の論客たちは映像をニコニコと眺めている。
俺もそれをマネする。
「さぁ、みなさんには事前に回答をしてもらっています、一斉にどうぞ!」
そのテーマは、自動車のアクセルとブレーキの踏み間違え急増のニュースだった。
俺はそれに対してどう思うか、事前の控室で回答を求められていた。
そこで書いた内容が横にあるスクリーンに表示される。
他の論客は、殆どが事故を減らす方向のコメントを書いている。
間違えない装置を取り付ける、認知テストを受けさせる、免許の返納を促進する、自動ブレーキを義務化する、といった具合だ。しかし俺はこう書いた。
『老害は消えろ』
え? 俺が書いた? これ? ええ?
スタジオが少しざわつき、それを見た司会の浜本が少し笑いながら聞いてきた。
「最初のコメントはー? ん? おまえ北村! なんやねんそれ! 挑戦的やなぁカッカッカ」
「いや、高齢者を敵に回すつもりはないんです、ええ? 私こう書きましたっけ?」
「はぁ? お前が答えたんやろ? 老害は消えろって、どういうことや!」
ふと見ると、魔人が声を上げずに腹を抱えて大爆笑している。
くっそ! あいつの仕業か! うう、ど、どうするこれ!?
ええっと、このままじゃ炎上確定じゃねーか!
うおおおおお魔人め!でも、なんとかしないと!
俺の左脳がフル回転しだす!
よし、話題を……いや、全然違う話ししたんじゃだめだ。
まず、老害は消えろ、の本質部分を語って、それが実はまともな意見だって方向にするしかない。
問題提起から回答のすり替え、そしてスタジオ全員を論破するんだ、出来るかどうかわからんし、正しいかどうかも分からんが、とにかくやってやる!
「え、ええ、はい、まず、問題は高齢者が踏み間違えて事故を起こすのが問題になってるんですよね。じゃあ、高齢者は車を運転しなければいいかと」
「それじゃ生活が困る人が多いから問題になっとんねんやんか」
俺の左脳は音が出そうなほど高速回転している。
「車いっぱい走ってますよね、それで私にはなんで問題になるのかよくわからないんです。だから、近所に住む若い人や、街中でいっぱい走ってる若い人の運転する車に乗せてもらえるよう法整備すればいいんじゃないかと」
「そんなん危ないやろ? 老人やし襲われたりしたらどないすんねん!?」
「あ、はい、だから誰でもできるって訳じゃなくて、相乗送迎資格とでもいうんですかね、性格や安全運転してる人かどうかを判断するテストを設け、それを受験し合格した人の車には若葉マークの様なステッカーを張ったりとか」
「だれがそんな相乗りで爺さん送ってくめんどくさい事すんねん、メリットないやろ」
けっこう、追及が厳しい……と思ってたらツッコミが入った。
「お前今日初登場のスポンサー様になんてこというんや!」
「俺は忖度せんいうたやろ! お前もスポンサーとかいうな! スパーン!」
ハハハハハ。スタジオ内はウケている。
「アハハ、大丈夫っす! いわゆる政府公認ヒッチハイク可能車両って感じですよ」
そしてもう少し俺のアイディアを詳しく語りだす。
「えっと、その車をタクシーの様に呼び止め止まった車に送ってもらう。忙しいなら止まらなくてもいい。それを全国規模で行う。タクシーよりは圧倒的な数になるはず。どんな場所でも若い人は少なからずいるし、電車の優先席みたいなもんです、ヒッチハイクですよ」
「タクシーはどうすんねん!」
「タクシーは、そのプロ版ですよ。アマチュアとプロ両方あってもいいじゃないですか。それにタクシーは呼ぶことができます。それでその資格を持ってると車両購入時の補助金や、ガソリン税や車両税、重量税などが色々優遇される、みたいな制度を作ったらいいかなって、それって政治家の匙加減でしょ?」
そういうと、他の論客から、様々な質問を受けた。
事故った時はどう責任を取るか、保険をどうするのか、減った税収をどう補うつもりか。俺は、その都度、丁寧に答えていく。それで他の論客は、なるほど悪くないね、というスタジオの空気になり、黙ってしまった。
すると、司会の浜本が俺にこういった。
「新人のくせにやるやないか! じゃあ、ほかの人の意見見ていきましょう!」
そうして、他の論客が打ち立てたアイディアや問題を、出演者であーだこーだ言い始める。俺も頑張って色々な意見を質問したりしてみた。
そうして頑張って参加しながら、ふと、内藤さんを見ると自慢げに腕を組んでいた。そして、俺と目が合うと、俺にサムアップしてよこした。
◆
番組の収録は、一発撮りではなく一度休憩があった。
1時間番組ではあるが、3時間くらいかけて収録するとの事だった。
「お疲れ北村君、良かったよ! はい、お茶」
「そ、そうでしたか?」
俺は前半の収録が終わった時点で、既に結構ぐったりしていた。
「俺、何も考えてないのに、こんなんで大丈夫なんでしょうか」
「うん? 君は色々考えて行動するより、反射的に動いた方がいいんだ。俺の様にな! で、実際プロに任せたら大丈夫だったろ?」
「あ、はい、プロの人たちは凄いですね」
「お前もそうなって行くんだ。俺はそれが楽しみだ。でもお前は、それでも何も考えなくていい、そのままでいろ。見た目は俺が作ってやる心配すんな」
「は、はぁ……」
休憩時間にそんな話をして、後半の収録が始まる。
後半には、ベーシックインカムがテーマの話題が選択されている。
俺はどうするべきなんだろうか。何をいうべきなんだろうか。
いや、内藤さんも言ってた、考えなくていい。
元総理の大泉さんと話した時も、何も考えないで出てきたことを言っただけだ。
それがたぶん、俺の使える最大の魔法なんだろう。
俺は人々や世界を変える力が有るかもしれないと言われた。
何も準備しないからこそ放つことが出来る俺の最強の特殊魔法。
そうだな、言ってみれば無感魔法って所だろうか。
これは、学習も練習も不要、魔力も、詠唱も、魔法陣も、巻物も不要、魔法のイメージすら不要という、何も考えないからこそ俺に発動する、俺だけの最強の魔法だ。
俺はこの無感魔法を武器に、俺が出来ない事はプロに任せて、俺しかできない事をやれるだけやってきてやるんだ!
そうして収録の後半も、この無感魔法が発動し、会場を騒然とさせるのだった。
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