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第8話 ダンジョン侵入
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俺は公園で仲間を増やしたその日の晩、ベッドで横になりながら色々考えていた。
結果的に彼らは現役大学生だった。
一流大学で研究者を目指していたり、ガチで何かを意欲的に学んでいる学生ではないかもしれないとはいえ完全な社会人ではない。
暇には限度があるだろうし、週3日の10時間勤務というのは無理がある話だ。
「しかし公園にいた人たちは、忙しい日々から解放されて暇を心から楽しんでたように見えたなぁ」
暇という概念は恐らく人類しか持っていないだろう。
ペットの様な愛玩動物以外は日々生きるために生涯のほとんどの時間を費やす。
衣食住の確保や子孫を残すために命がけのはず。
でも人類は、楽しむ為、楽をする為、幸せになる為に文明を発展させ進化してきた。不要な器官や臓器を退化させ、脳が巨大化し、様々な発明を生み、社会システムを構築して、その全ては有意義な暇を生み出すためなんだと思う。
明かりの消えたベッドの上で何もない天井を見上げながらつぶやく。
「人間は考える葦であるって誰だっけ、パスカルだったかな……」
この考える時間こそが最も大事な暇な時間なんだと思う。
ベーシックインカムの導入によりこの暇という時間を突然与えられて、公園というギルドで楽しい事に消費していたという訳だ。
しかし暇という時間は確かに大事だがやはり人間には寿命があるし、意欲的に働ける時間にも期限が有る。
「今公園で楽しんでいる彼らに、暇という時間も有限だということに気が付いてもらうってのは、現時点では正直難しいかもしれないな……」
物語の冒険者ギルドでは、クエストを受ける奴と併設する酒場で盛り上がってる奴両方がいることが多いけど、今日見てきた公園にいた人はどっちかっていうと後者ばかりだった。
「まぁそれも当然か。王国から急に金貰ったなら、ギルド行ってもクエスト受けずに酒盛りするのは普通の事なんだろうな」
てことはやっぱり、ダンジョンでの出会いならきっと大丈夫だろう……。
「よし、次はダンジョンに行ってみるか!」
そんな事を考えていたが暗闇の壁にぼんやり映る時計は、気が付くと3時を回っていた。考え事をしていると時間はあっという間に過ぎる。
「やべぇ! 明日はバイトだ、寝ないと!」
脳内でぐるぐると巡る思考を無理やりかき消し、ようやく眠りについた。
◆
翌日。
3時間ほど寝て7時に起き、寝坊ギリギリで送迎バスに乗り込むが、作業場ではなかなか手ごわい睡魔と格闘しながら一日の作業を終えた俺は、気だるい体を奮い立たせ、とある場所へ向かった。
そこは、新宿の繁華街の一角にある場所。
そこにあるのは、現代のダンジョンというにはふさわしい、暗くて込み入った地下の奥深くにある、様々な人の思いが交錯し、人によっては魔の巣窟や地獄とも呼べ、人によっては楽園とも呼べる場所だ。
「う、正直苦手な場所なんだけどな、頑張るか。よし、行くぞ!」
俺はダンジョンの入口へとたどり着くと、かすかに聞こえる地鳴りのような轟音に少々怯えながら、入場料を払って手にスタンプを押され、おずおずと中へ入る。入り口から聞こえていた地鳴りはやがて爆音となり、さらに奥へ進むと歩きづらいほどの人がごった返す。
ここは俗にいうクラブと呼ばれる場所だ。
奥にはステージが有り、その壇上でDJが爆音を奏でていて肺の中の空洞が振動しているのが分かる。室内は暗めの照明にレーザー光線が飛び交い、ブラックライトが人々を怪しく照らし上げている。客は50人くらいだろうか。暗くて人が多くて狭いのではっきりとはわからない。
「すげぇな、東京にはこんな場所があるんか。話には聞いてたし大学入ったばかりの頃友達に何度も誘われたことはあるけど、実際来んのは初めてだ……」
景気づけもあるので、俺はカウンターへ向かい少々度数高めのカクテルを注文し、そのカクテルを片手に室内を見回す。
「なるほど、踊る場所、休む場所、喋る場所が、だいたいなんとなく分かれてるんだな」
俺の目的は、社会人の友達を作る事だ。別にナンパが目的ではない。
しかしこういう場所で男が男に声かけるのは微妙な気がしないでもない。
てことでターゲットは友達同士の男女で遊びに来てる風のグループだ。
公園と同じ作戦で行くことにする。
が、なかなかいない。
ナンパ待ちらしき女性や、ナンパ目的らしき男性、一心不乱に踊るだけの人、既にカップルらしき人、そんな人たちばかりでなんとも声をかけづらい。
「やっぱ俺の来るような場所じゃねぇのかな、なんか場違い感が……」
そんなことをぼやいても一瞬で爆音でかき消されてしまう。
恐らくこの辺が喋る場所と思われるエリアにも関わらず、話し相手もなくキョロキョロとしてると突然、後ろからバンバンと肩を叩かれ声をかけられた。
「ユウヤ! なにしてんだよ、テーブル戻ろうぜ!」
「え!?」
俺は驚いて振り向くと見知らぬ男性がグラス片手に立っていて目が合った。
「うぉ! すみません! 人違いでした!」
唐突に話しかけられたが俺は瞬時に判断した。
これはチャーンス!
「え、何? 誰!?」
「すみません、今ドリンク取りに行ってたんだけど、知り合いだと思って間違っちゃいました」
相手は少し慌てている様子だったが、俺はまだ酔ってもいない為か意外にも落ち着いていた。
そこで、もう少しアルコールが入ってる風を装って少しオーバーに応答した。
「まーじ!? え、俺、誰と似てんの? 服とか? どこの人と間違ったの?」
ここは『いえいえ大丈夫ですよ』とだけ返事をすればいいシーンだが、知り合うチャンスだと思いすかさず色々と聞き返す。
「え? あ、あいつです、あいつ!」
恐らく同じ歳くらいだろうその兄ちゃんは、奥の方で数人で喋っているグループの方を指さした。
「え? どの人?」
俺はそう言い返すと同時に兄ちゃんの肩に手をまわして、少し強引にテーブルの方に向かいだし、爆音を奏でているスピーカーから少し離れた室内の隅の方にある、小さな丸テーブルを陣取っている、男女二人ずつ4人グループの場所へ着いた。
するとそこにいた女の子二人が俺達を見て言った。
「おかえりー!」
「えーだれそれ!」
皆それなりに出来上がっていて、全員俺と同じか少し年下かなといった印象だ。
「いや、バーから戻ってくるときユウヤと間違って声かけちゃってさ!」
「ハジメマシテー、ドウモー、ユウヤデスー」
「あはは、ウケるー」
「あーたしかにー少し似てるかもしれないー」
「ええー? にてるかー? 服の色が俺と同じだけじゃん!」
服の色が似ているというユウヤと思われる男性は、やや細身で髪型も含め似て無くはないが、明らかにユウヤの方がイケメンである。
しかし、少しはウケたようだ。よし輪に入るぞ!
「クラブ来るの久しぶりでさ、知り合い居なくて寂しかったんだけど混ぜてくんない?」
「マジ? どこから来たん?」
「あー俺は電車で20分くらいの所。ベーカムで金入ったし遊びに来たんだ!」
すみません嘘ついています。俺実はこういう所初めてでむっちゃ緊張しとります。
俺的、初体験の真っ最中ではあるが、爆音の振動のせいなのか、手が少し震えてるのを隠しながら、酒の席での多少の知ったかぶりは大丈夫だろうと判断した。
後で話せば笑い話になるし、それよりも話を合わせることが優先だろう。
それに金が入ったというところは全員同じのはずだし、共通の話題としてはタイムリーだと思ったのだ。
「おおー、同じ同じ! 俺らもこないだ仕事辞めてから通いまくり!」
会場に響く爆音に合わせて全員大声での会話になっていた。
それに室内の雰囲気やアルコールも手伝って、みんな異常なテンションで笑いながら会話が弾む。
「で、みんなはどういう友達なん?」
「全員、同じ会社の元同僚!」
「みんな一緒にやめたんだよねー! それからここ通いっぱなし! アハハハ」
マジか。どんな会社か知らんが5人一度に社員が退社とかその会社も可哀想だ。
でも、なんか少し聞き覚えのある話ではある。
そんなことを思いつつもケラケラと笑う皆を見ながら会話を合わせる。
「俺が行ってる会社も一気に人が抜けてマジ超大変よ!」
「お兄さんも辞めちゃえばいいのにー、キャハハ」
「だよなー、俺も辞めたいよー」
「ですよねー! 辞めちゃえーアハハハ」
うん、公園の時と同じ流れになった。
今は、これでいい!
とにかく最初は親しくなることを重視するんだ!
最終目的はこいつらを俺の通う会社に引き込むことだが、今日のミッションは毎日飲み歩いてるらしいこいつ等と、今後も関わって行くために連絡先を聞く事だ!
そう思い、俺は勢いに任せて音頭を取る。
「ベーシック何とかカンパーイ!!」
「カンパーイ!!」
「「「いえーい!」」」
今日は仕事終わりにここへ来たので明日は休みだ。いくら飲んでも大丈夫と思ってタガを外して飲みまくった結果、記憶が残っているのは2時過ぎまでだった。たぶんタクシーで帰ったんだろう。財布を見ると結構な金額が減っていた。
しかし、久しぶりに羽目を外して飲んだのは本当に楽しかった。
翌朝、慌ててスマホを見て全員の連絡先を交換できていた事に胸をなでおろすが、二日酔いで翌日は何も行動できなかったことは言うまでもない。
昨晩見てきたクラブの様子は、あの店が特別繁盛している訳じゃない。
ベーシックインカムのおかげで全国全てのダンジョンは毎晩のように大騒ぎになっている。
俺は二日酔いをこらえて最近見るようにしている日課のネットニュースを見ると、急性アルコール中毒や、トラブルでの搬送や警察の出動が急激に増えているという報道を見かけた。
「そりゃそうなるよな、体験した身としては、分からなくもない」
でも、俺の予感では一時のお祭り騒ぎだと思う。
例えば消費税率が変動する際に起きる駆け込み需要みたいなものだ。
こんなことがいつまでも続くわけはなくて、どこかのタイミングで皆が気付き始めるはず。それまでに、俺は、俺のミッションをこなすんだ。
そう思うと同時に、ダンジョン攻略の後遺症である二日酔いの頭痛で、ベッドに頭をうずめるのだった。
結果的に彼らは現役大学生だった。
一流大学で研究者を目指していたり、ガチで何かを意欲的に学んでいる学生ではないかもしれないとはいえ完全な社会人ではない。
暇には限度があるだろうし、週3日の10時間勤務というのは無理がある話だ。
「しかし公園にいた人たちは、忙しい日々から解放されて暇を心から楽しんでたように見えたなぁ」
暇という概念は恐らく人類しか持っていないだろう。
ペットの様な愛玩動物以外は日々生きるために生涯のほとんどの時間を費やす。
衣食住の確保や子孫を残すために命がけのはず。
でも人類は、楽しむ為、楽をする為、幸せになる為に文明を発展させ進化してきた。不要な器官や臓器を退化させ、脳が巨大化し、様々な発明を生み、社会システムを構築して、その全ては有意義な暇を生み出すためなんだと思う。
明かりの消えたベッドの上で何もない天井を見上げながらつぶやく。
「人間は考える葦であるって誰だっけ、パスカルだったかな……」
この考える時間こそが最も大事な暇な時間なんだと思う。
ベーシックインカムの導入によりこの暇という時間を突然与えられて、公園というギルドで楽しい事に消費していたという訳だ。
しかし暇という時間は確かに大事だがやはり人間には寿命があるし、意欲的に働ける時間にも期限が有る。
「今公園で楽しんでいる彼らに、暇という時間も有限だということに気が付いてもらうってのは、現時点では正直難しいかもしれないな……」
物語の冒険者ギルドでは、クエストを受ける奴と併設する酒場で盛り上がってる奴両方がいることが多いけど、今日見てきた公園にいた人はどっちかっていうと後者ばかりだった。
「まぁそれも当然か。王国から急に金貰ったなら、ギルド行ってもクエスト受けずに酒盛りするのは普通の事なんだろうな」
てことはやっぱり、ダンジョンでの出会いならきっと大丈夫だろう……。
「よし、次はダンジョンに行ってみるか!」
そんな事を考えていたが暗闇の壁にぼんやり映る時計は、気が付くと3時を回っていた。考え事をしていると時間はあっという間に過ぎる。
「やべぇ! 明日はバイトだ、寝ないと!」
脳内でぐるぐると巡る思考を無理やりかき消し、ようやく眠りについた。
◆
翌日。
3時間ほど寝て7時に起き、寝坊ギリギリで送迎バスに乗り込むが、作業場ではなかなか手ごわい睡魔と格闘しながら一日の作業を終えた俺は、気だるい体を奮い立たせ、とある場所へ向かった。
そこは、新宿の繁華街の一角にある場所。
そこにあるのは、現代のダンジョンというにはふさわしい、暗くて込み入った地下の奥深くにある、様々な人の思いが交錯し、人によっては魔の巣窟や地獄とも呼べ、人によっては楽園とも呼べる場所だ。
「う、正直苦手な場所なんだけどな、頑張るか。よし、行くぞ!」
俺はダンジョンの入口へとたどり着くと、かすかに聞こえる地鳴りのような轟音に少々怯えながら、入場料を払って手にスタンプを押され、おずおずと中へ入る。入り口から聞こえていた地鳴りはやがて爆音となり、さらに奥へ進むと歩きづらいほどの人がごった返す。
ここは俗にいうクラブと呼ばれる場所だ。
奥にはステージが有り、その壇上でDJが爆音を奏でていて肺の中の空洞が振動しているのが分かる。室内は暗めの照明にレーザー光線が飛び交い、ブラックライトが人々を怪しく照らし上げている。客は50人くらいだろうか。暗くて人が多くて狭いのではっきりとはわからない。
「すげぇな、東京にはこんな場所があるんか。話には聞いてたし大学入ったばかりの頃友達に何度も誘われたことはあるけど、実際来んのは初めてだ……」
景気づけもあるので、俺はカウンターへ向かい少々度数高めのカクテルを注文し、そのカクテルを片手に室内を見回す。
「なるほど、踊る場所、休む場所、喋る場所が、だいたいなんとなく分かれてるんだな」
俺の目的は、社会人の友達を作る事だ。別にナンパが目的ではない。
しかしこういう場所で男が男に声かけるのは微妙な気がしないでもない。
てことでターゲットは友達同士の男女で遊びに来てる風のグループだ。
公園と同じ作戦で行くことにする。
が、なかなかいない。
ナンパ待ちらしき女性や、ナンパ目的らしき男性、一心不乱に踊るだけの人、既にカップルらしき人、そんな人たちばかりでなんとも声をかけづらい。
「やっぱ俺の来るような場所じゃねぇのかな、なんか場違い感が……」
そんなことをぼやいても一瞬で爆音でかき消されてしまう。
恐らくこの辺が喋る場所と思われるエリアにも関わらず、話し相手もなくキョロキョロとしてると突然、後ろからバンバンと肩を叩かれ声をかけられた。
「ユウヤ! なにしてんだよ、テーブル戻ろうぜ!」
「え!?」
俺は驚いて振り向くと見知らぬ男性がグラス片手に立っていて目が合った。
「うぉ! すみません! 人違いでした!」
唐突に話しかけられたが俺は瞬時に判断した。
これはチャーンス!
「え、何? 誰!?」
「すみません、今ドリンク取りに行ってたんだけど、知り合いだと思って間違っちゃいました」
相手は少し慌てている様子だったが、俺はまだ酔ってもいない為か意外にも落ち着いていた。
そこで、もう少しアルコールが入ってる風を装って少しオーバーに応答した。
「まーじ!? え、俺、誰と似てんの? 服とか? どこの人と間違ったの?」
ここは『いえいえ大丈夫ですよ』とだけ返事をすればいいシーンだが、知り合うチャンスだと思いすかさず色々と聞き返す。
「え? あ、あいつです、あいつ!」
恐らく同じ歳くらいだろうその兄ちゃんは、奥の方で数人で喋っているグループの方を指さした。
「え? どの人?」
俺はそう言い返すと同時に兄ちゃんの肩に手をまわして、少し強引にテーブルの方に向かいだし、爆音を奏でているスピーカーから少し離れた室内の隅の方にある、小さな丸テーブルを陣取っている、男女二人ずつ4人グループの場所へ着いた。
するとそこにいた女の子二人が俺達を見て言った。
「おかえりー!」
「えーだれそれ!」
皆それなりに出来上がっていて、全員俺と同じか少し年下かなといった印象だ。
「いや、バーから戻ってくるときユウヤと間違って声かけちゃってさ!」
「ハジメマシテー、ドウモー、ユウヤデスー」
「あはは、ウケるー」
「あーたしかにー少し似てるかもしれないー」
「ええー? にてるかー? 服の色が俺と同じだけじゃん!」
服の色が似ているというユウヤと思われる男性は、やや細身で髪型も含め似て無くはないが、明らかにユウヤの方がイケメンである。
しかし、少しはウケたようだ。よし輪に入るぞ!
「クラブ来るの久しぶりでさ、知り合い居なくて寂しかったんだけど混ぜてくんない?」
「マジ? どこから来たん?」
「あー俺は電車で20分くらいの所。ベーカムで金入ったし遊びに来たんだ!」
すみません嘘ついています。俺実はこういう所初めてでむっちゃ緊張しとります。
俺的、初体験の真っ最中ではあるが、爆音の振動のせいなのか、手が少し震えてるのを隠しながら、酒の席での多少の知ったかぶりは大丈夫だろうと判断した。
後で話せば笑い話になるし、それよりも話を合わせることが優先だろう。
それに金が入ったというところは全員同じのはずだし、共通の話題としてはタイムリーだと思ったのだ。
「おおー、同じ同じ! 俺らもこないだ仕事辞めてから通いまくり!」
会場に響く爆音に合わせて全員大声での会話になっていた。
それに室内の雰囲気やアルコールも手伝って、みんな異常なテンションで笑いながら会話が弾む。
「で、みんなはどういう友達なん?」
「全員、同じ会社の元同僚!」
「みんな一緒にやめたんだよねー! それからここ通いっぱなし! アハハハ」
マジか。どんな会社か知らんが5人一度に社員が退社とかその会社も可哀想だ。
でも、なんか少し聞き覚えのある話ではある。
そんなことを思いつつもケラケラと笑う皆を見ながら会話を合わせる。
「俺が行ってる会社も一気に人が抜けてマジ超大変よ!」
「お兄さんも辞めちゃえばいいのにー、キャハハ」
「だよなー、俺も辞めたいよー」
「ですよねー! 辞めちゃえーアハハハ」
うん、公園の時と同じ流れになった。
今は、これでいい!
とにかく最初は親しくなることを重視するんだ!
最終目的はこいつらを俺の通う会社に引き込むことだが、今日のミッションは毎日飲み歩いてるらしいこいつ等と、今後も関わって行くために連絡先を聞く事だ!
そう思い、俺は勢いに任せて音頭を取る。
「ベーシック何とかカンパーイ!!」
「カンパーイ!!」
「「「いえーい!」」」
今日は仕事終わりにここへ来たので明日は休みだ。いくら飲んでも大丈夫と思ってタガを外して飲みまくった結果、記憶が残っているのは2時過ぎまでだった。たぶんタクシーで帰ったんだろう。財布を見ると結構な金額が減っていた。
しかし、久しぶりに羽目を外して飲んだのは本当に楽しかった。
翌朝、慌ててスマホを見て全員の連絡先を交換できていた事に胸をなでおろすが、二日酔いで翌日は何も行動できなかったことは言うまでもない。
昨晩見てきたクラブの様子は、あの店が特別繁盛している訳じゃない。
ベーシックインカムのおかげで全国全てのダンジョンは毎晩のように大騒ぎになっている。
俺は二日酔いをこらえて最近見るようにしている日課のネットニュースを見ると、急性アルコール中毒や、トラブルでの搬送や警察の出動が急激に増えているという報道を見かけた。
「そりゃそうなるよな、体験した身としては、分からなくもない」
でも、俺の予感では一時のお祭り騒ぎだと思う。
例えば消費税率が変動する際に起きる駆け込み需要みたいなものだ。
こんなことがいつまでも続くわけはなくて、どこかのタイミングで皆が気付き始めるはず。それまでに、俺は、俺のミッションをこなすんだ。
そう思うと同時に、ダンジョン攻略の後遺症である二日酔いの頭痛で、ベッドに頭をうずめるのだった。
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